ジャンル(ほんのりBL風味?)
原作:蒼木 紗夜
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春眠暁を覚えずそんな言葉が良く似合う、ある晴れた日の午後。
その日もSP詰め所では、カルナラとフィズの二人が仲良く机を並べて、仕事をしていました。
春の陽射しが心地よく室内に差し込む中、昨日の夜も遅くまでシザークと愛を育んでいたカルナラは、その穏やかな陽気に誘われて眠気に襲われてしまいました…。
幸いSP詰め所には仲の良いフィズだけ…。シザークとの仲も知っている彼なら、きっと、居眠りをしていた所で自分を咎めたりはしないだろうと、カルナラは高をくくって、机に突っ伏し居眠りを始めてしまいました。
どの位の時間が過ぎたことでしょう…。
ふと、人の重みと肩にかかる甘い息遣いに目を覚ましたカルナラ…。
気付くと彼は、SP詰め所の横にある仮眠室の簡易ベッドの上に横たわり、自分の上に乗っかっているフィズから、耳元にキスをされそうになっているではありませんか…。


「ちょっと待て、フィズ!!一体、何をする気だ!!」
カルナラはフィズを押しのけようと、彼の肩を掴んで自分から引き剥がそうとしたが上手くいかず、彼の上半身だけを持ち上げるような形で、辛うじてキスされるのを阻止することが出来た。
上半身を無理矢理起こされたフィズは、そのままの姿勢でカルナラを見下ろし、にっこりと笑った。
「何をって…、ナニに決まってるじゃん。」
「はぁ?一体何の冗談だ?」
自分を見下ろしてニヤニヤと笑うフィズに対し、カルナラはいつもの冗談だろうと思ったのか、やや呆れた顔をして言った。
「何の冗談って言われてもなー。んー、なんとなく成り行き?」
「……。」
カルナラの問いに対し、フィズは小首を傾げ少しの間をおいて、にやけた顔で答えた。
フィズの少し考えこむ様子を見せた割には、意外と何も考えていなかった答えを聞いて、カルナラは呆れてものが言えず、彼の両肩を押さえていた腕の力も、思わず抜けてしまった。
その瞬間を待ってましたとばかりに、フィズは再び上半身をカルナラの体に密着させて、耳元に甘いキスをした。

「はぁっ…。」
キスされた瞬間、カルナラは全身に電流が走ったような甘い痺れを感じ、思わず目を閉じ少し上ずったような吐息を漏してしまった。
そんなカルナラの様子を楽しむように、フィズは少しだけ体を起こし、カルナラの表情をニヤニヤと満足気に微笑みながら見つめていた。
「…な、何だよ…。俺にこんなことをしたって、何も面白くないし笑えない冗談にしかならないだろ?」
フィズにキスされた上に見つめられて、顔をほんのり赤く上気させたカルナラは、必死に冷静さを取り戻そうと、ややムッとしたような表情で反論を試みた。
「いやー、関心していたんだよ。この俺のキスでもカルナラは感じてくれるんだと思ってね。うん、確かにもう冗談ではすまなくなってきたかな。」
「……ッ。」
フィズの嬉しそうなにやけた顔と返答に、カルナラの顔はますます赤くなって、思わずフィズの視線から逃れるように顔を背ける…。
「あぁ…、もう冗談はお終いにしてくれないか?早く俺の上からどいて欲しいんだけど…。」
顔を背けたままカルナラが一言そう呟くと、フィズはやや不満げな声をあげた。
「えー、もうどかなきゃダメなの?カルナラは何かこの状況に、不満でもあるわけ?」
「当たり前だ!!何で俺が仕事中に、いつまでも同僚にこうして押し倒されていなくちゃいけないんだ。」
カルナラは再びフィズのほうに顔を向け、思いっきり睨みながら苦情を言った。
「だって、最初に押し倒したのはカルナラのほうじゃん。」
「はぁ?!」
フィズの意外な返答に、カルナラは驚いて間の抜けた声を出し、彼の顔をマジマジと見つめてしまった。
「あれ、覚えてないの?酷いな、この仮眠室で俺を押し倒した上、キスまでしたのに。」


********


フィズが言うには、カルナラが机に突っ伏して寝始めたことに気付いた彼が
「カルナラ、そんなトコで寝ると風邪をひくぞ。お前がひくと陛下に移って厄介なことになるから、寝るんだったら仮眠室に行ってくれ。」
と言うと、カルナラはむくっと起き上がり、寝ぼけながらふらふらとした足取りで仮眠室に向かったらしい…。
仮眠室の入り口まで辿り着いたカルナラは、ドアを開けながらそのまま前のめりに倒れそうになったので、フィズが慌てて肩を貸し、支えたのである。
「まったく危ないな…。ほらカルナラ、ベッドに着いたぞ、少しここで寝とけ。」
カルナラをベッドまで支えながら連れて行ったフィズは、ベッドに彼を座らせるとそう言って、カルナラを支えていた腕を離そうとした。
しかしカルナラは、何を思ったのかフィズの手をしっかりと掴んで離さずに
「…シザ…ク…。」と呟いて、フィズの手を引いて自分に引き寄せ、彼の体をベッドに押し倒し、無理矢理キスを奪ったのである。
「…んっ。…カルナラ…、お前。(陛下と間違っているな?)」
キスをされたフィズが我に返って何かを言おうとした時には、カルナラはフィズの上にのしかかるようにして、幸せそうな顔で眠っていた…。
人にキスをしておいて、気持ちを盛り上げておいてお前は寝てしまうのか――とフィズはカルナラに対し、少しムッとしたため彼に悪戯をすることを心に決めて、現在の状況に至ったという…。


「まぁ、そう言う訳だからもう少し付き合ってくれよ。」
フィズは悪びれた様子もなく、相変わらず体を密着させたままカルナラにそう言って微笑んで見せた。
「理由はわかった…、でも、だからと言って…。」
カルナラが納得いかないと抗議しようとすると、フィズは「カルナラ…、少し黙って。」と、真剣な表情でカルナラを見つめた。
そして、なおも抗議の声を上げようとするカルナラの口を塞ぐように、カルナラの唇に自分の唇を重ねたのだ。
「…ん、…ぁ。」
角度を変えては重ねられる唇の熱さに、最初は硬く閉ざしていたカルナラの口も次第に抗う力を失い、欲望に素直になっていく。
そんなカルナラの唇を押し開くように、フィズは少し舌先を硬く尖らせ、強引にカルナラの口内へと押し入った。
フィズの舌は獲物を狙うかのごとく素早くカルナラの舌を絡めとり、確実にカルナラの意識を遠くへと押しやっていった…。
「…はぁ…、…ん。」
いつの間にかカルナラは目を閉じて、恍惚とした表情でフィズのキスに酔っていた。すっかり力が抜けて、もう抵抗する様子も見られない。
フィズはカルナラの様子を確認し、微笑んでカルナラを見つめると、次第にキスの場所を唇から首筋、胸元へと降下させていった。
キスの嵐をカルナラに浴びせながら、彼のシャツのボタンを器用に外していくフィズ。
やがて露になったカルナラの首筋から胸元は、フィズの刻んだ朱の刻印が…。
このままカルナラはフィズの手に落ちてしまうのか…。
甘く熱い熱に浮かされるように、カルナラの意識は流されてしまうのか…。


********


「カ、カルナラー!!」
そう叫びながら何かを求めるように片手を宙に翳し、シザークはベッドから飛び起きた。
昨晩も遅くまでカルナラと愛を育みあっていたシザークは、疲れてそのまま眠ってしまっていたらしく、不吉な夢を見て目覚めたのであった。
外はすっかり明るくなり、時間的には夜勤者と日勤者の交代する時間位になっていて、いつもより遅い目覚めであったと思われる。
「はい、何でしょう?」
飛び起きたシザークの目の前にはカルナラの顔があり、彼はベッドの端に両手で頬杖をついてニコニコ笑ってシザークを見ていた。
「えぇ?…あれ?今のは…夢か…。」
カルナラの顔を見てシザークは安心したようにホッと胸を撫で下ろす。
そう、先ほどのカルナラとフィズが絡み合っているのは、全てシザークが見た夢の中での出来事であった…。
しかし妙にリアルな夢で、シザークはうなされて目を覚ましたのである。
そんなシザークの複雑な心境を知らないカルナラは、彼が夢にまで自分を登場させていたことが嬉しかったのか、さらに満面の笑みでシザークを見つめた。

「シザーク様、夢にまで私を登場させてくれたのですか?」
「え…、いや…。そ、それよりカルナラは何でここに居るんだよ!!まさか、ずっと俺の寝顔を見ていたのか?変態。」
シザークは照れて顔を真っ赤にしながら、カルナラに向かってそう言った。
「へ、変態…。」カルナラの笑顔は、シザークの言った一言で引きつった。
しかし、当のシザークは何も気にする様子もなく、ベッドから起き出すと
「あぁ、そう言えば夜勤担当のフィズは?まだ外にいるんだろ?ちょっと聞きたいことがあるから呼んでよ。」と言って真剣な表情でカルナラを見た。
カルナラは――人のことを変態呼ばわりしておいて、何事もなかったように命令する気ですか…と内心抗議の叫びを発していたが、真剣な表情のシザークを目の前にしては、逆らうことも出来ず「了解しました、国王陛下。」と嫌味の一つを言って命令に従うのであった。
国王陛下と言う言葉にシザークもムッとしてカルナラを睨んだが、カルナラはそんなシザークのことを気にすることなく、フィズを呼びに部屋の外へ出て行ってしまった。


しばらくしてドアがノックされ、「失礼します、陛下。何か御用でしょうか?」と言って、フィズが部屋のドアを開けて入ってきた。
もちろん彼を呼びに行ったカルナラも一緒に室内に入ってきたが、シザークはカルナラを見ると
「あ、悪いカルナラ。フィズ准尉と話したいことがあるから、少しの間、部屋の外で待機していてくれない?」と言った。
そのシザークの言葉に、カルナラはやや不満気な顔をして見せたが、溜め息を一つ吐いて
「了解しました。では、外で待機していますので、話が終わったら声を掛けてください。」と言い残し部屋から出て行った。
シザークはカルナラが部屋から出て行ったことを確認すると、彼を見送ってドアのほうを向いているフィズに、真剣な表情で声をかけた。
「あ、あのさ…。フィズ准尉は今、付き合っている人とかいるの?」
「はぁ…、それは彼女がいるかってことですか?」
フィズは振り返り、不思議そうな顔をして首を傾げシザークを見た。
シザークはフィズと目が合うと、なんとなく後ろめたい気分になって視線を逸らしながら
「そ、そう。彼女とかもしくは好きな女性とか…。も、もちろん居るよね?」と、尋ねた。
「陛下…、カルナラから聞いてませんか?私はずっと彼女になってくれる人を捜しているんですけど…。(あ、ひょっとして陛下が誰か女の人を紹介してくれるのかな?)」

一瞬怪訝そうな顔をしたフィズであったが、シザークの質問の意図を勝手に勘違いし、嬉しそうに顔を綻ばせながら質問に答えた。
「え、居ないの?彼女とか好きな女性…。」
そんなフィズとは対照的にシザークの表情はますます不安の色を濃くしていく。
「居ませんよ…、そんな人。あぁ、でもだからと言って、付き合ってくれるなら誰でもいいってわけじゃないですよ。」
「……じゃぁ、好きなタイプとかは?どんな子が好みなの?(男の人が好きかなんて、やっぱり聞けないよな…。)」
先程の夢のせいかシザークの心の中は、フィズはカルナラのことが好きなのではないかと言う、疑心暗鬼の気持ちでいっぱいになっていた。
そのせいもあってかフィズの好みのタイプを聞き出し、そんな思いを打ち消そうとするシザークは、再び神妙な面持ちでフィズに質問していた。
「うーん、あんまり具体的じゃないかもしれないんですが…。しいて言うなら、しっかりしているんだけどたまに可愛い所とかあって、気配りが上手でテキパキとしていて、甘えさせてくれるんだけど時には叱ってくれるような、そんな人かな…。」
「それって…(かなり具体的じゃん。しかもそれってカルナラのこと?全部当てはまっているし…。やっぱりフィズって…)」
フィズの言った好みのタイプは、シザークと接する時のカルナラそのものであった。
しかし彼がそういう態度を取るのはシザークに対してだけであって、他の誰にでも同じ態度を取るわけではないことを知らないシザークは、不安を募らせていく一方だった。

「えぇ?ひょっとして陛下、誰か心当たりがあるんですか?」
シザークが何かを言いかけて止めたため、誰か心当たりがあるのだとフィズは解釈し、シザークに詰め寄った。
「あ、あぁ…。」
「えー、なら紹介してくださいよ、ぜひ。」
シザークの煮え切らない態度にフィズは――さてはよっぽど陛下自身が気に入っている子なんだな?だから俺に紹介するのを渋っているのか?と勝手に勘違いしてやや不服そうな顔をし、シザークに再び詰め寄った。
「……、あのさ、もう一つ聞いていい?」
徐々に距離を縮めて詰め寄ってくるフィズに対し、シザークは再び視線を逸らし、床を見つめながら呟いた。
フィズはそんなシザークの様子を見ても怯むことなく
「紹介してくださるんだったら、いくらでも聞いてください。」と言って笑顔で答えた。
何かを考えるようにしばらく無言で床を見詰めていたシザークであったが、一つ大きな溜め息をついた後決心したようにフィズと向かい合い
「フィズ准尉は…、カルナラのことどう思う?…好きか嫌いかでいいんだけど。」と一番聞きたかったことを、率直に聞いてみた。

それまでの女性の話から一転して何故ここでカルナラの名前が出てくるのか、ちっとも理解できないフィズは、少し呆気に取られたような顔をしていた。
「はぁ、カルナラのことですか?そりゃ好きですよ。」
その言葉を聞いた瞬間、シザークはもう何も考えられなくなり、全身の力が抜けて床に座り込んでしまった。
「はぁー、やっぱり好きなんだ…。」
「そりゃもちろん、同僚から見ても彼は優秀だし、仕事で助けてもらっていること多いし。って言うか陛下、大丈夫ですか?」
力なくその場に座り込んだシザークを見て、フィズは慌ててシザークの目の前に膝まづいて手を差し伸べて彼を支えた。
そんなフィズの手を振りほどき、軽く手を振るとシザークは一言呟いた。
「お、俺は大丈夫だから…。フィズの気持ちは良く分かったし…。もう下がっていいから、外にいるカルナラと代わって。」


フィズが部屋から出て行くと、入れ替わりにカルナラが入ってきて、床に座り込んでいるシザークを見て驚いた。
「失礼します、陛下。もうお話は終わったみたいですが…。どうなさったんです、大丈夫ですか?」
「うん…。」
シザークはカルナラの顔を見て安心したのか、力なく微笑んだ。
「何かさっきより元気がないみたいですが…。フィズと何かあったのですか?」
カルナラが自分のことを心配してくれている、それだけでシザークは嬉しくなったが、彼の口からフィズの名前を聞くだけで、胸が締め付けられるような複雑な気分になり、シザークの表情は暗かった。

「んー、あのさ…。カルナラはフィズのことどう思う?好きか嫌いかでいいから、真剣に答えて…。」
「…シザーク?」
シザークの質問の意図がわからず彼の落ち込んだ様子に、カルナラは――フィズの奴…、一体何をしたんだ?後できっちり問い詰めてやると、今この場にいないフィズに対して怒りをあらわにし、シザークを気遣うように側に寄り添い座り込んだ。
「大丈夫、俺何聞いても、平気だから…。お前の本当の気持ちを教えて。」
自分の返事如何によってはフィズの立場が危うくなる――以前にシザークの言った一言が頭の片隅によぎり、カルナラはフィズに対する怒りを抑え
「フィズですか…、彼は頼りない面もありますが、信頼できるし…。やっぱり同僚として、友人として好きと言うことになりますかね。」と、正直に答えた。
シザークはカルナラの言った好きと言う言葉にショックを受け、それ以外の彼の言った言葉はまるで耳に入っていなかった。
「…カルナラも…す、好きなんだ…。(どうしよう、俺…。やっぱりダメだ…、泣きそう…)」
「シザーク?!(何だ?どうしたって言うんだ?)」
放心状態で俯いて、今にも泣き出しそうになっているシザークを見てカルナラはぎょっとした。

カルナラが心配してシザークの両肩に手を掛け、顔を覗き込もうとすると、急にシザークが抱きついてきた。
「……、やっぱりそんなのダメだー!!俺、カルナラのこと誰にも…。誰にもカルナラを取られたくない…!!」
「シ、シザーク?」
シザークに抱きつかれた勢いでそのまま床に押し倒されたカルナラは、何かを言おうとシザークの名前を呼んだが、その唇はシザークの唇のよって塞がれてしまった。
激しく唇を奪われ、カルナラのシザークに対する思いに火がついた。
そのまま2人は激しくお互いを求め合い、体力の続く限り貪りあった…。


一方その頃フィズは…。
SP詰め所で1人黙々と書類の山と格闘していた。いつもは1人では捗らない、つまらない、とぼやいていた彼であったが、
「陛下に彼女を紹介してもらえる♪やっぱりこれって口止め料の代わりなのかな?あー、何でもいいや、彼女紹介してもらえるなら。好みのタイプまで調べて探してくれるなんて、陛下って優しいな。」と、1人勘違いして浮かれているのであった。


―END―


*****
あとがき
最近私の中でフィズが人気急上昇しています(笑)
なので、思わず彼を絡めた話を書いてみたくなったのですが…。
はじめての人様のキャラを使っての作品なので、大目に見てやってください(;^_^A
その上BL初挑戦…、いや挑戦していないような気がしてきた。
BLと呼べませんね、この作品(滝汗)
オマケに夢オチって…。
しかも勝手に拍手レスの可那他様のネタを拝借してますし…。
こんなものしか作れなくって本当に申し訳ないです…m(_ _)m
精進いたします。
蒼木



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