「竜棲星-ドラゴンズプラネット」二次創作
制作--可那他様


土井眠人さんが素敵なイラストを描いて下さったので、それに再び触発されました・・・・!
本当に、妄想以上に素晴らしいイラストを描いていただけて、自分の妄想癖を初めて良かった・・!と思ってしまいました!
眠人さん、本当にありがとうございました!

眠人さんとりゅうかさんに感謝を込めて。
妄想クリスマス・バージョンを!
真人間に生まれかわったナスタとお掃除おにーさん!
その後彼らはどうやって再び巡り会ったのか!?
楽しんでいただければ幸いです・・・。


題して

『今宵、あなたに・・・』




・・・ばさばさばさ

不意に聞こえた羽音に、ナスタがその長い金色の髪と暖かそうなコートをひるがえして、目を眇めながら天を仰ぎ見る

「・・・鳥?」

仰ぎ見た空には、高く伸びた飛行雲
突き抜けるようにどこまでも青い清々しい冬の空には、一筋に伸びたその雲以外、何も存在していない
「・・・?」
小首を傾げながら再び歩き出そうとしたナスタの背後に、何かが思い切りぶつかって転がった

「な・・・っ!?」
「うわっ!ぃってーー!!」

転がったのは、真っ白な生き物
真っ白なダッフルコートに真っ白なマフラー
真っ白な毛糸のボンボンつきの帽子
真っ白なホワイトジーンズ
全身白尽くめの・・・15〜6歳に見える少年

「ちょ、大丈夫か!?」
慌ててナスタが駆け寄って、その少年を抱き起こす
「いててて、あ、すみません。ケーキにばっかり気を取られてて・・・って!?あああああああっ!」
少年がいきなり悲鳴に近い声を上げる

「な、なに?!どうした!?」
「ケ、ケーキが・・・・」

ガックリと肩を落とした少年の視線の先には、真っ赤なリボンで飾られた白い、大きなケーキ箱
それが無残にも転がった衝撃そのままに、グッチャリと横倒しに潰れていた

今日は、世界的に言う所のクリスマス・イブ
そろそろ街中に溢れたイルミネーションが、見事にその美しさを競い合う・・・そんな夕暮れ時

その二人の横を通り過ぎていく人々も、手に手にクリスマスプレゼントやケーキ箱を抱えて足早に歩いている

「ど、どうしよう・・・皆、楽しみに待ってたのに・・・」
少年の今にも泣き出しそうな呟きに、ナスタが思わず聞き返す
「みんな・・?待ってったって?」
「うん。ほら、あそこの教会・・・あそこでね、今日は孤児の子供達のクリスマスパーティーがあるんだ。その子達用のケーキだったんだ」
「教会・・・?」
少年が指差した先を、ナスタが仰ぎ見る
町を彩る街路樹の隙間から、十字架の鉄塔が覗いていた

・・・あんな所に教会なんて、あったっけ?

そう思うと同時に感じた・・・妙な既視感
十字架、真っ白な生き物、真っ赤な・・・

「・・・っ!!」

ゾ・・・ッと一瞬にして背筋を駆け抜けた、悪寒
なんともいえない、嫌な感じ
立っていられなくて座り込んだナスタの顔を、少年が心配そうに覗き込む

「おにーさん、大丈夫?」
「え?あ・・すまん。ちょっと、眩暈がして・・・」

蒼ざめて座り込んだままのナスタの背後から、通りがかりの青年が声をかけてきた
「どうかされました?大丈夫ですか?」
グレーのコートの下から覗く、黒いソムリエエプロンと黒いベスト
どうやら近くの店のウェイターか何からしい

その、黒い色に、ナスタの顔がますます蒼ざめる

「・・・っ、」
ハッと思わず後ず去ったナスタに、声をかけたウェイター風な青年が怪訝そうに更に問いかけた
「え?なに?どうしたんですか?」
「い・・や、すまん、その・・黒い色が・・どうにも昔から苦手・・・で・・っ」
「え?ああ・・・!」
自分の服装に気が付いた青年が、グレーのコートの前を合わせて黒い色味を覆い隠す

ようやくホッとしたように息を付いたナスタを、青年が手を貸して起き上がらせ、その横で途方にくれた顔つきで潰れたケーキ箱を見つめている少年にも声をかけた

「そちらの方も、大丈夫ですか?」
どうやら、かなりおせっかい焼きな青年のようで、ニコニコと少年とナスタに微笑みかけてくる

「大丈夫・・じゃ、ないです。ケーキ、どうしよう・・・」

今にも泣きそうな表情で、少年がギュ・・・ッと胸に抱えた潰れたケーキ箱を握り締める

「・・・すまない、私がボゥッと突っ立っていたせいだな。どこかで代わりのケーキを・・・」
言いかけたナスタの声を遮って、青年が言った
「それでしたら、うちの店へどうぞ。ちょうどケーキ屋ですから」


***********


「おにーさん、ありがとう!おかげで間に合いそう!おまけにケーキが一つ増えちゃったし!」
「それなら、さっきのケーキ屋店員との出会いに感謝すべきだな。今時珍しくずい分と人情家な奴だ、孤児と聞いてケーキを一個おまけに付けてくれるんだから」
「でもほんと、助かっちゃったな。実は人数が多くて、一個じゃ足りそうになかったから」

ふふふ・・・と、まるで天使そのものの笑みで、少年が笑う
その笑みに、ふと、ナスタの脳裏に既視感が甦る


・・・・・どこかで、この少年に会ったことが?


「どうしたの?重い?ごめんね、ケーキ運び手伝わせちゃって」
眉間にシワを刻んでしまったナスタに、少年が気まり悪げに声を掛ける
「え?あ、いや、ぜんぜん。どうせ今夜は暇だったしな」
「え?おにーさん、かっこいいのに、恋人とか、居ないの?」
「・・・悪かったな」
「うわ、ごめん!でもさ、なんか・・・曰くあり気・・・って感じ?」

少年の外見に見合わぬ鋭い読みに、ナスタが苦笑を浮かべた

「・・・・敵わないな。実はね、夢の中の人にずっと囚われたままなんだ」
「へぇ〜〜凄い、ロマンチックだね!どんな夢なの?」
少年が、興味津々・・と言った風に瞳を輝かせて聞いてくる
「よく・・・分からないんだ。いつもそいつは真っ黒な服を着て倒れてて、抱き起こすと真っ白な自分の服が血で染まっていって・・どんどん闇に二人で呑み込まれていって・・・。だから黒い色が苦手なんだけどね」
「ふう・・ん、ね、その人どんな顔なの?」
「顔・・・は、よく覚えてないな。ぼやけてて曖昧で見えないから・・・だけど」
「だけど?」
「そいつの・・・目が、ちょっと変わってて」
「変わってる?ってどんな?」
「あ・・・うん、目の色が・・・」

ナスタが最後まで言い終らない内に、教会の大きなドアから、小さな子供達がわらわらと駆け寄ってくる

「わーーーー!シザークおにーちゃんがケーキもって来てくれたよ!」
「ほんとだー!うわっこっちのおにーさん誰?ケーキがもう一個あるよ!」

口々に歓声を上げながら、二人を子供達が取り囲む
「はいはい〜押さない押さない!ケーキが落ちたらどうするの〜?」
シザークが微笑みながら、おどけた風に言う
子供達に囲まれながら教会に入り込んだナスタが、思わず立ち止まった

荘厳なフレスコ画
溢れる蜀台のロウソクの光
十字架にかけられた・・・キリストの像
聖母マリア

甦る既視感

でも今は、さっき感じた嫌な感じは消え去っていて
むしろ
どこか・・・懐かしささえ感じる・・温かさ
何かに包まれるような・・・安堵感


・・・・・・・なんだろう?この感じ?


ふわ・・っと思わず浮かんだ笑みに、小さな子供達が歓声を上げる
「うわぁ!おにーさん、笑った顔、凄く綺麗!」
「うん!天使さんみたいー!」
無邪気で無垢な瞳で口々に誉めそやされて、ナスタが真っ赤になって困惑する

そんな風に言われたのは初めてだった
そういえば・・あまり笑った事などなかったかもしれない

「これはこれは・・・ご苦労様です」
気の抜けるような明るい声に顔を上げると、どう見ても純和風な顔立ちに、大安売りな安っぽい笑顔を満面に浮べた・・・・およそ神父らしからぬ軽い雰囲気の男がナスタの前に立っていた

「あ、フィズ神父!こちらの方がケーキ運びを手伝ってくれたんです!」
「おお!なんと!慈悲深いお方!今宵、あなたに天使の祝福と奇跡が訪れん事を・・・!」
大袈裟なモーションで十字を切リ、両手を組んで祈りをささげる神父に、ナスタが苦笑を浮かべる


・・・・・なんつーありがたみのない神父なんだ


そんなナスタの眼差しなどどこ吹く風
神父は陽気にジングルベル♪風な調子外れの鼻歌を歌いながら、子供達と一緒にテーブルの上に、ケーキをセッティングしていく

と、そこへ

「すみませーーん、ピザの宅配なんですがー」
教会の大きなドアが開かれて、サンバイザーつきのヘルメットを被った宅配ピザの配達員が入ってくる
どうやら雪が降り始めたようで、配達員のヘルメットと服の上で、淡い雪が溶けかかっていた
「わーーーーっ!」と歓声を上げた子供達が、我先にとピザの箱を受け取りに宅配員を取り囲み、あっという間にピザを奪い去っていく

「あははは、元気のいい子達だね、あ、すみません、受け取りのサイン、お願いします」
一番近くに居たナスタに、宅配員が声を掛ける
「え?で、でも・・・」
困惑顔で神父の方に顔を向けると、
「あ、お金は支払済みなんで、サインだけお願いしますー!」
と、陽気で軽い笑顔で返される

「・・・・はいはい」
肩をすくめつつ振り返ったナスタに、配達員が伝票とペンを差し出す
「・・・どこにサインするんだ?」
「え?えーーーーと・・・」
まだ仕事には不慣れなようで、配達員が被っていたヘルメットの雪避けのサンバイザーを上げて、伝票を覗き込む
「あ、ここ、ここです!すいません、この伝票分かりづらくて・・・・」
言いながら顔を上げた配達員が、一瞬、呼吸を止めた
「・・・?」
その様子に同じく顔を上げたナスタも、同時に息を呑む

「・・・・紅い、瞳・・!」
「・・・・片方だけ、瞳の色が・・!」


「「夢の中の・・・!」」


同時に二人が叫んでいた

「え?」
「えっ!?」

甦る既視感

どこかで
たしかに

この瞳を見つめていた

フ・・・ッと先に視線を反らしたナスタが、伝票にペンを走らせる

「・・・ほら、したぞ、サイン」
「えっ!?あ・・・はい、どうも・・・っ!?」

受け取った配達員が、その伝票を食い入るように見つめ、次の瞬間、満面の笑みを浮べてナスタを見つめた

「・・・バイト、終わったら必ず!!」

そう言い捨てるやいなや、配達員が「ありがとうございましたー!」と威勢良くお辞儀を返してドアを慌しく出て行った

クスクス・・・と笑うナスタに、駆け寄った子供が不思議そうに問いかける

「ねえねえ、さっき、何を書いてたの?」
「ん?ただの11桁の数字だよ」
「すうじ・・?」
「そう、もう一度会える、魔法の数字」

そう言ってナスタが満面の笑みを浮べて、笑った




************


「それじゃ、今日は本当にありがとうございました!」
教会のドアの前で、シザークがナスタに別れを告げる
「いいえ。こちらこそ楽しいクリスマスを過ごさせていただきました」

振り出した雪は、いつの間にかあたり一面を銀世界に一変させて、降る事を止めていた

「それじゃ」

軽く礼を返したナスタが、新雪に足跡を刻んでいく




「・・・今度こそ、お幸せに!」




不意に聞こえたその声に、ナスタが振り返る


途端


ばさばさばさ・・・!


不意に聞こえた、あの、羽根音・・・!
不意に巻き上がった風が、一瞬、ナスタの視界を奪い去る


「・・・・え?」


閉じた目を開いた瞬間、ナスタが目を見開く

そこにあったはずの、教会が、跡形もない


「・・・・そうだ。ここに、教会なんて、なかったんだ」


茫然と呟いたナスタの眼前に、ふわり・・・と真っ白な物が舞い落ちてくる
再び降り始めた雪が、ふわり・・ふわり・・とさながら天使の羽のように、ナスタの広げた手の平の上で、夢のように儚く消える

と、

突然鳴り響いた、クリスマスソング
ナスタが、微笑みを浮かべながらその歌を奏でる携帯を手に取った


「・・・今宵あなたに、天使の祝福と奇跡が訪れんことを・・・か」


フ・・・ッを笑みを浮べて呟いたナスタが、携帯を開きながら再びきびすを返して足跡を刻む


やがて


降り積もる雪が、並んで刻まれた足跡の行き先を覆い隠す



その夜
起こった奇跡の末は、しんしんと降り積もる雪のみぞ・・知る


=終=






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