バタバタバタ・・・ッと、騒々しい足音が聞こえてきたかと思った瞬間
「バタンッ!!」 という、そのうち絶対壊れるんじゃないか?と真剣に心配したくなる勢いでドアが開かれた 「課長ーー!き、来ました!予告状です!!」 そんな言葉と供に、新米刑事のコニスが興奮しきった面持ちで飛び込んできた ここは、警視庁捜査第一課 強盗や殺人などの凶悪事件や窃盗事件など・・・犯罪捜査を通じ、庶民の皆様の安全を日夜守ることに全力を注ぐ集団が集う場所である 「・・・・予告状?」 「捜査第一課・課長」・・・と、肩書きの書かれたデスクの上で書類整理におわれていた男が、顔を上げた 印象的な左右の瞳の色味が違う・・・オッドアイ 警視庁の中でも一番の男前と高身長を誇り、捜査一課全員が最も信頼を置く、自慢の課長だ 「はいっ!今、世間を騒がせている”怪盗キール”が所轄内某所に予告状を・・・!」 新米刑事らしい熱血漢を漂わせたコニスが、握りしめていたせいで歪んだ予告状を、課長の前に差し出した そこには ********************* ドラプラ商事所蔵 世界に名だたるガラス細工の名工・トノダ翁の作 ”コリンズグラス”を展示会当日に頂きに参上する。 怪盗・キール ********************** と、記されていた ドラプラ商事・・・といえば、輸入雑貨を取り扱う会社で、最近、滅多に手に入れることの出来ない名工・トノダ翁のグラスを入手し、その展示会を開く・・・というのでマスコミがこぞって書き立てている話題の会社だった そして ”怪盗・キール”・・・世界を股にかけて暗躍し、”赤いもの”だけを盗む・・・というので名を馳せている大怪盗 ”キール”という名は、一番最初に盗んだカトリック系僧職者が着ている赤いブーケ(このブーケの名前がキールという)から由来している その、超有名人とも言うべき”怪盗・キール”からの予告状! 新米刑事であるコニスならずとも、警察関係者なら誰しも一度は逮捕してみたい・・!と興奮し躍起になるというもの なにしろ、今まで一度としてその本当の姿を見た者が居ないといわれるほどの変装の達人 ある時は妖艶な美女 ある時は美丈夫な紳士 どんな人物にも成りすまし 男か女かさえ分かっていない ただ 風にたなびく長く美しい金髪 目元を隠した赤い仮面、胸元を飾る一輪の赤いバラ それだけが共通の目撃証言 その姿を見た男は、妖艶な美女だったと言い その姿を見た女は、美丈夫な紳士だったと言う 美女か!?美男か!? 今、一番、警視庁内部でホットに盛り上がっている話題でもある・・・その当人が現われるのだ 捜査一課室内が、かつてない異様な興奮に包まれる だが 「ばかもの!何が”怪盗キール”だ!ただのこそ泥だろうが!リドウ刑事、すぐに捜査本部の設置準備!コニス刑事、他国との情報交換の要請!タザリ刑事、手口捜査の検証!急げ!!」 まさに鶴の一声・・・ならぬ課長の一声 一瞬にして静まり返った室内が、次の瞬間、バタバタとそれぞれの担当の持ち場と資料集めへと、蜘蛛の子を散らす勢いで散っていく 流す浮名は数あれど 仕事の出来る、”仕事の鬼” 未だ、これぞ!という相手に巡り会えていない・・・花の独身貴族 それが、捜査一課・課長と呼ばれる男の実情だった *********** 「おはよう!コニス!」 「あ!か、かちょ・・・っ、ムゴ・・・ッ」 いきなり背後から肩を叩かれ振り返ったコニスが、反射的に言おうとしたその言葉を、口を塞がれる格好で遮られる 「朝っぱらから何を寝ぼけているのかなぁ?俺の名前はトールだよ?コ・ニ・ス、君?」 ニッコリと頭一つ分高い位置から、色味の違う双眸がコニスの顔を覗き込んでそう言うと、塞いでいた口から手を離す トールは偽名で、単純に高身長からもじってつけたられたものらしい 「っ、す、すみません!おはようございます、トールさん!」 慌てて言いなおしたコニスと、捜査一課・課長・・・こと、トールが、周囲を歩くサラリーマン達と何の違和感もなく溶け込んでいく 今二人が居るのは、所轄内某所にある、ドラプラ商事のオフィスビル 犯行予告の展示会まで、後10日 ”キール”の今までの犯行手口からいって、既にドラプラ商事内部の誰かに変装し、潜伏している可能性が高い それが誰か・・・ ”キール”にそれと知られずに探りを入れるため、コニスと課長自らが潜入捜査と称して、ドラプラ商事に派遣会社からの出向という形で潜り込む事にしたのだ 会社内部の枠を超えて、煩雑に他の部署に出入りする事が可能なのが営業一課と二課 二人はそれぞれ、一課と二課とに別れて潜入することになった コニスは、ドラプラ商事の営業一課にいるシザークと幼なじみだったせいもあり、偽名も使わずそのままの名前を使っている そして、会社内上層部にも刑事だと知らせてあり、内部調査が円滑に進むように手回ししてある 今回、それを逆に利用する事にしたのだ 上層部の一部とシザークには、コニスが刑事だと知られた上で潜入させ 恐らくはコニスを捜査員だと勘付くだろう、”キール”の成りすました人物を油断させようという計画 つまり 会社側にも誰にも知られることなく、もう一人、潜入する必要があった その役を、課長自ら買って出たのだ なにしろ他の面々では浮き足立って、潜入捜査どころではない 唯一、新米熱血漢のコニスだけが、幼なじみのシザークという情報収集に役立つ繋がりがあり 展示会にも直接関わる営業一課と二課のうち、一課に関しては誰よりも完璧に捜査できるだろう・・・ と言う課長判断が下されたほどだったのだから 同じ派遣会社の先輩と後輩・・・という設定のおかげで二人が親しくしていても不審がられることもない 並んで上階へと上がるエレベーターに乗り込んだ時 不意に周囲の空気が変わった ガラス張りのオフィスのロビーを、カツカツ・・・と高いヒールの音を響かせて優雅に歩いてくる人物 黒いエナメル素材のボディコンシャスなスーツに、大胆に開いたスリットから覗く、視線を釘付けにせずにはいられないスレンダーな長い美脚、高いヒールが良く映える細い足首 キッチリと機能的に、しかし女性らしさを失わせることなくまとめ上げられた、金色の長い髪 隙のない才女振りを伺わせる、細いフレームの華奢な眼鏡 凛として、申し分なく整った、美しい顔立ち 人目を引きつけずにはいられない、その印象的な赤い双眸 「・・・っ、ダナヤ社長秘書室長・・・!」 どこからか、羨望の溜め息と供に囁かれた、その見目麗しい才女の名 ・・・・・・これが・・・噂の社長秘書か・・! トールが心の中で嘆息し、それとなくその人物を観察する 潜入捜査するに当たって、展示会場に出入り可能な社員はチェック済みだ 当然、社内の噂話も収集済み その中で、この社長秘書はどこかの会社からヘッドハンティングされてきてまだ3ヶ月弱だというのに、美人で仕事も出来る、全社員の憧れの的的存在だった あまりに完璧すぎて近寄りがたく、安易に声をかける勇気のある者も皆無だったようで 今まで浮いた噂一つたっていない 知らず、エレベーターへと続く道がダナヤ秘書の前に出来上がる 微笑を浮かべながら、優美な足取りでトールとコニスの乗ったエレベーターに、ダナヤ秘書が乗り込んできた ニッコリと二人に向かって笑み返し、エレベーターのボタンに白魚のような指先を伸ばした 「どちらの階までですか?」 問われた問いに、茫然とスリットから覗く微脚に見惚れているコニスから、トールの方へとダナヤ秘書の視線が移動する 「・・・っ、あ、10階・・を」 「10階・・営業課ですね。あら・・・あなた、オッドアイなんですね。片方だけ、私と同じ赤い色・・・」 エレベーターのボタンを押しながら、フフ・・・と、ダナヤ秘書がトールに微笑みかける その笑みに、その印象的な赤い瞳に トールが一瞬、瞬きも忘れて見惚れた ・・・・・・うそ・・だろ?この俺が、女に見惚れるなんて・・・! 思わずトールが、心の中で驚愕の声を上げる 実は トールは根っからのゲイで、女には全く興味がない 誘われれば飲みに行く程度の付き合いは出来るが、そこから先はいつも仕事が入った・・・と、”仕事の鬼”という二つ名の存在をフル活用してかわしている つまり、一生、どうやっても、独身貴族から抜け出せない宿命 そのはずが・・・ なぜか、ダナヤ秘書を一目見た瞬間から、視線が外せない その赤い双眸に、惹き付けられる 眼鏡を取り払い、その双眸を間近で見つめ キッチリと結われた長い金色の髪を、この手で解いて、指に絡めて・・・ そんな妄想が止まらなくなる 「10階ですよ?」 笑いを含んだその声に、ハッとトールが我に返っていた 「す、すみません・・・!」 未だ微脚に見惚れたままのコニスの首根っこを掴み上げて、無理やりエレベーターから引きずり落ろす 「いてててて・・・!あ!あの、今度、ぜひ、お茶でもご一緒に・・・!」 トールに掴み上げられながらも我に返ったコニスが、この機会を逃してなるものか!とばかりに勇気を振り絞って誘いの言葉をかける 「お茶・・・ですか・・・」 困った顔つきでコニスを見返したダナヤ秘書が、一瞬、トールに視線を投げる 「・・・え?」 トールがその視線の意味を問う間もなく、無情にもエレベーターの扉が閉ざされてしまった 「・・・・・かーちょー・・・今の・・・なんすか!?」 未だトールに首根っこを捕まえられたまま、コニスが流し目視線でトールに問う 「・・・トールだって言ってるだろ!にしても、今の・・・なんだ?」 「・・・・なんだ・・・って、あれは完璧に誘ってください・・・!っていう視線でしたよ!どう見ても!!」 「・・・・だよなぁ?じゃ、今度誘ってみるか・・・」 「あ、俺も!俺も仲間に入れてくださいよー!」 はいはい・・・と呆れ顔で生返事を返しながら、トールが掴んでいたコニスを離し、最上階で止まったエレベーターの表示ランプを困惑気味に見つめていた ************** それから瞬く間に9日が過ぎ、明日はもう展示会の前日 営業二課で雑用に追われる日々なので、最上階にある社長室に勤務するダナヤ秘書との接点は何もない あれっきり、遠い場所からその姿を見かけることはあっても、声をかけるなど・・・到底ありえない状況 そんな悶々・・・とした思いを募らせているせいなのか? 町を歩いていれば、金色のロングヘアーに無意識に視線が行く 夜の街に繰り出して適当に相手を捕まえて、体よく性欲処理すれば良いモノを なぜか、そんな気には到底なれなくなっていた 仕事の方はといえば 疑わしき人物には探りを入れるものの、皆特に不審な点はなく・・・”怪盗キール”が潜り込んでいるとは到底思えない そんな時 なんだかんだと言いくるめられ、同じ営業二課のフィズから仕事を押し付けられたトールは、一人居残って残業を続けていた フィズはどこか憎めない性格の持ち主で、その上トールと同じ趣向の持ち主・・・どうやら営業一課のカルナラとは好い仲らしい まあ、そのあたりの空気を読む・・・というか雰囲気が分かる・・・というは その趣向のある人間同士ならでは・・・だ 「あーーーーっ!終了!!ちぇっ、今頃フィズとカルナラはお楽しみの真っ最中!なんだろうなぁ・・・羨ましい・・・」 出来上がった精算書類をトントン・・・と束ねて引き出しにしまったトールが、大きく伸びをしながらそんな独り言を呟く 何しろ カルナラとデートなんだ、頼んだぞ・・・!と、耳打ちし、意気揚々とフィズはオフィスを出て行ってしまったのだから 時刻はもう深夜に近い時間帯 帰り支度を整えたトールがエレベーターの前に立つ ちょうど上階から降りて来たエレベーターが、ポンッ!という軽やかな到着のメロディを奏でて扉を開けた 途端 「っ!?」 トールが乗り込むのも忘れ、その眩しい光を放つ箱の中に居た人物を凝視した 「・・・・・お乗りにならないんですか?」 クスリ・・・と笑って上目遣いに高身長のトールを見つめる、赤い瞳 こんな遅い時間まで残業だったのだろうか・・・いつもは感じない少し愁いを帯びて疲れた感じのする声のトーン 「・・・あっ、す、すみません、オジャマします・・・!」 エレベーターに乗るのにオジャマします・・も何もないのだが、百戦錬磨の捜査一課・課長ともあろう男が、どうやら緊張してしまっているらしい そのトンチンカンなトールの受け答えがツボにはまったのか・・・ダナヤ秘書がクスクス・・・と肩を揺らして笑いを耐えている 扉が閉まり、二人きりの空間になると同時に漂ってきた、甘い香水の香り 普段そういった類の香りに慣れず、また、あまり好きではないトールだったが、その香りに関してだけは、なぜか、好いかも知れない・・・などと思ってしまっている 手前に立つダナヤ秘書の後方に立ち、そのキッチリとまとめ上げ結わえられた金色の髪を見下ろしていると・・・ どうにも、その、まるで城砦のように整えられ一糸乱れることなく結わえられたその髪を・・・乱したくてしょうがない衝動に駆られてしまう 特に会話もなく、静まり返った四角い箱の中で、トールが早鐘を打つ心臓の音が聞こえやしないか・・・?と、一層緊張し、気の聞いた言葉の一つも浮かばず、どうしたんだ一体!?と、いつもの自分らしくない自分を叱咤する ダナヤ秘書はそんなトールの心情を知ってか知らずか・・・扉を見つめ、トールに背中を向けたまま微動だにしない ウィィィ・・・・・ン・・・と、静かに振動するエレベーターが、やがてやってくる到着地点、二人きりの時間の終わりを刻んでいく ・・・・・ポンッ 無情に鳴り響いた・・・束の間の時間と空間の終わりを告げる音 とっさに トールの指先が伸び、エレベーターの”閉”のボタンを押し込んでいた 「っ、?」 不意に背後から伸びた指と、閉じられたままの扉に・・・ダナヤ秘書が振り返る 「・・・・あの、今夜いっしょに食事でも・・・?」 思わず、トールの口から流れ出た真剣な声音と、切実な表情 その声音に その表情に 遊びや興味本位の軽さは微塵も感じられない 「・・・・食事だけよ」 振り向いた瞬間浮かんでいた警戒の色がすぐに消え、その艶やかな唇に笑みを浮べて、得られた答え キッチリと釘を刺すその言い方に、トールの顔に苦笑いが浮かんでいた ***************** 「あ〜〜〜〜〜うめぇ〜〜〜〜」 夜半も過ぎ、人気のない捜査一課室内で「捜査一課・課長」と書かれたデスクの上に、行儀悪くドッカリと両足を組んで乗せ ぷかーーーーー・・・ と、紫煙を上げながらイスの背もたれに反り返っていた男・・・コニスが天上に這い上がっていく煙を、見るともなしに見上げている 「・・・ほほう、新米刑事が課長に昇進か?そんなイス、いつでも熨し付けてくれてやるぞ?コニス?」 不意に聞こえた聞き覚えのある声に、コニスが弾かれたように足を下ろし、勢い余って背後にあった窓に頭を嫌というほど打ち付けた 「ぃってーーー!!!って、課長!?なにしてんすか?こんな時間に!?」 「それはこっちの台詞だ。お前こそ、なにしてる?」 思い切り打ち付けた後頭部を擦りながら、コニスがバツが悪そうにトールに課長デスクのイスの権利を返却し、転がった煙草を拾い上げキッチリと灰皿に押し込んだ 「いやぁ・・・”怪盗キール”って、今まで”赤いもの”しか盗んでないじゃないですか。なのに今回盗むと予告してきたグラスは全然赤くない。だから、何か理由があるのかな?と思って・・・」 コニスのその言葉に、トールがニヤリ・・・と笑み返す 「なんだ、お前もか」 「って!?え?じゃ、課長も?」 「コニス、他国との情報交換と収集、お前の担当だったな?そのデータどこにある?」 「あ、これです。俺もさっき見てたんですけど、目ぼしい物は・・・」 デスクの上で開いていたパソコン画面を示し、言いかけたコニスが、クンクン・・ッ!と、鼻を鳴らす 「かぁーちょーぉーーっ!!!今まで誰と一緒だったんですか!?この香水の香り!ダナヤ秘書ですね!?」 ズバリ言い当てられたトールが、目を見開いて言い訳する 「・・・っ!?い、いや、食事を一緒にしただけで・・・!」 「うわっ、マジですか!?抜けがけ〜〜〜!!で、ほんとにそれだけだったんですか!?」 「本当だ!信じろ!というより自分で信じられん・・・キスの一つも出来ないなんて・・・俺はどこかおかしいのか?」 そう、本当に食事をした・・・ただそれだけで、情けないことにトールは年甲斐もなく緊張し、キスどころか指一本触れられない有様だったのだ 本気で言っているらしきその言葉に、コニスがニヤけていたその顔を、へぇ?という風に意外そうな顔つき変え、トールに笑み返す 「・・・なんだ、課長もようやく本気になれる相手と巡り会えたんじゃないですか。そういうことなら俺も応援しますよ!稀に見る美男美女カップル!お似合いですよ! でも、課長、頑張らないと明日”怪盗キール”が現われたら、潜入捜査も終了ですよ!?」 「う、うるさい・・・!分かってる!それより、お前は明日の展示会場の警備網をもう一度確認!」 「ハッ!了解です!課長どの!」 どこかその状況を面白がっている色を滲ませた答えを返しながら、コニスが自分のデスクのパソコンを立ち上げる トールもまた、名工・トノダ翁が作った”コリンズグラス”についてのデータ分析に取り掛かるべく、パソコン画面に視線を落とした ******************* 『・・・・あのグラスは、トノダ翁が孫のリサラ嬢のために作った物なんだそうですよ?ご存知でしたか?』 別れ際、タクシーの窓越しに、ダナヤ秘書がそう言った 『え・・・っ!?』 初めて聞くその事実に、トールが窓越しにダナヤ秘書の顔を覗き込む 『・・・・明日の警備、よろしくお願いいたしますね』 『ッ!?』 トールが驚愕の表情を浮かべると同時にタクシーは走り出し、その言葉の真意を確める事は出来なかったのだ ******************** ・・・・・・・・俺が捜査員だって、知っている? トールが徹夜明けでボウッとする頭を抱えながら、ドラプラ商事に出社した 昨夜のダナヤ秘書の言葉・・・ あれはどう考えてもトールの正体を知っている口振りだった おまけに 孫へのプレゼントだったという名工・トノダの最高傑作”コリンズグラス” もう一度良くデータを洗いなおしてみた結果 孫のリサラ嬢は言葉が不自由で、大事にしていたそのグラスを、騙されて売りに出され、手放さざる得なくなったようだった その素晴らしいフォルムと、光が当たった時の乱反射する輝き・・・ 見ているだけで溜め息が出るほどの、名作 収集家の間でも一番の人気で、そこに動くお金も桁違いに大きい それが様々な遍歴を経てドラプラ商事の手に渡り、今日の夜、明日から展示の為に銀行の貸し金庫から持ち出されてくる ”怪盗キール”が狙うとすると・・・ 最上階の特別展示室で、盗み出す事が困難な特殊合金素材で作られたケースの中に納められる直前・・・と考えるのが妥当だ だが 結局、トールとコニスは、何故、”怪盗キール”がその、赤くもない”コリンズグラス”を狙うのか・・・その理由を見つけ出すことが出来なかった いつもどおりの勤務につきながら 従業員に不審な動きはないか? 何か、変わった点がなかったか? トールがそんな視線を抜け目なく周囲に注ぐ コニスも建物の周りなど、何か仕掛けのようなものがないか・・・など、十分に注意しながら、一日を終えた 夕方、ほとんどの従業員が帰った後、捜査一課の面々が警備網を敷くため、ゾクゾクとドラプラ商事に集まり、オフィスビル周辺はおびただしい警官で埋め尽くされ、空には追跡用のヘリコプターが巡回している 夜になって、ドラプラ商事社長・カナデア自らが桐の箱の中でビロードの布地に納まっている”コリンズグラス”を持って、最上階の展示室に現われた その社長の後に、ダナヤ秘書がいつもの美貌に少し緊張の色を浮べて付き従っている 展示室の中には、数人の警察官とコニス刑事、リドウ刑事、タザリ刑事が通信用の小型マイクがセットになったイヤホンをつけ、等間隔で張り込んでいる その中央、特殊合金で作られたケースへと、カナデア社長が近付いていく その瞬間 バチンッ!! というどこかでショートしたかのような音が鳴り響き、一斉に電気が消える 同時に 女の悲鳴と供に何かが倒される音と、ガシャンッ!という何かが砕ける音が聞こえ、「グラスが・・・っ!」という叫び声が上がる その直後 明かりが復活したかと思いきや、鋭い閃光と供に爆発音が鳴り響き、最上階の窓ガラスが破壊され、そこから何かが飛び出していった 「キールがパラグライダーで逃走!全員キールを追え!!」 爆発音と同時に捜査一課の面々が身につけていたイヤホンから、課長の・・トールの声が響き渡る その声に素早く反応したリドウ刑事とタザリ刑事が、供に展示室を駆け出していく 上空を巡回していたヘリが、割れた窓から飛び出したパラグライダーを追って、追跡を開始する 展示室とその周辺警備に付いていた警察官達も、我先に・・・と”怪盗キール”との追いかけっこに参戦しようと、パラグライダーの後を追いかけていった 展示室室内に残されたのは・・・空になった桐の箱と、その横で無残に砕け散った・・・”コリンズグラス” そして、それを呆然と見つめるカナデア社長と、ダナヤ秘書 不意に カナデア社長が振り返り、ダナヤ秘書に向かって言った 「・・・なぜ、グラスを壊した?”怪盗キール”!」 カナデア社長の口から流れ出た声は、捜査一課・課長、トールの声音 その言葉と同時に、掛けていた薄い色味のサングラスと巧妙に作られた変装用のマスクを、トールが取り払った 現われた色味の違う双眸が、ダナヤ秘書の薄い笑みを浮べたままの美貌を、見据える 「・・・ただ飾られるだけのグラスに、何の意味がある?」 返されたその答えと、聞こえた声音に、トールが目を見張る その声は、今まで聞いていたダナヤ秘書のものとは全く違う それは・・・ どう聞いても、キーの低い、男の声音・・・! 「な・・・っ!?」 驚くトールの目の前で、ゆっくりとダナヤ秘書が掛けていた眼鏡を取り払い、その、今までとはまるで違う、闇夜で獲物を狙う獣のように底光りする赤い双眸でトールを捕え、その動きを封じた まるで蛇に睨まれたカエル・・・! トールが呼吸すら忘れて、その赤い瞳に魅入られる 「・・・いつから私がキールだと分かっていた?分かっていて、なぜあの偽者を追わせた?」 浮かんだ不敵な笑み、その物言い・・・ 表情までもが、今までの女性らしさなど微塵も感じられない、精悍な雄の顔つき・・・! その態度と表情、その声音に、トールの口元がゆっくりと上がり、笑みを象る ・・・・・・どうりで女なのに食事に誘ったわけだ どうやら俺はおかしくなってたわけじゃないらしい 密かに安堵の息をついたトールが、キ・・ッと表情を引き締めて言い放った 「ヒントをくれたのはお前の方だろう、怪盗キール!残業などしていないのにあの時間に会社で何をしていた?何のために俺にグラスの話題を振り、社内上層部にも知らせていなかったはずなのに、何故俺が警備をすると知っていた!?」 トールのその問いかけに、キールがゆっくりとまとめ上げていた髪に手を伸ばし、その髪を振り解く ふわり・・・と広がった波打つ金色の海に、トールが目を奪われた瞬間 すぐ横にあったグラスを展示する為のケースの上に、胸倉を掴まれて上半身を押し付けられていた 思いがけない力強さに、抗う間もなくキールに圧し掛かられ・・・反射的に突っ張ったトールの指先が、キールの胸元を掴んでいた そこにあるはずの女性特有の柔らかな物体は、当然、なく 代わりに当たって、掴んだ、その感触は・・・!? 「っ!?おまえ・・・これ・・・っ!?」 トールが言いかけた言葉を、キールがそれ以上言う事を許さない・・・!とばかりにその唇を塞ぐ 思わず目を見開いたトールの瞳の目の前に、閉じられることなく自分を見据える、赤い双眸 口腔に侵入したキールの舌が、トールの舌を捕らえ執拗に追い回す クチュ・・ヌル・・と音を立てて、キールの赤い双眸に相応しい蛇のような舌先が、トールの舌に絡みつき、弄ぶ 絡まった舌がゾクゾクするほどの快感を与え、、こんな不測の事態にも百戦錬磨で慣れっこのはずの男の背筋を震わせた ・・・・・・やば・・っ抵抗できない・・・っていうか、したくない そのトールの感情を如実に語る・・・色味の違う双眸を見つめる赤い瞳が、ゆっくりと細まっていく やがて互いに求め、奪い合うように深くなったキスは、捜査一課・課長から、ただの男へと・・・その目的を見失わせてしまうには十分で 「・・・んっ・・・ふ」 トールが息苦しさに喘いだ瞬間、キールが唇を離してその耳元に言葉を注ぐ 「・・・なぜ赤いものしか盗まない”怪盗キール”がグラスを盗んだか・・理由が知りたくば、明日の夜「ジョーカー」に来い。お前の行き付けのバーだろう・・・?」 「・・・・え?」 キスに酔わされたトールが、どうしてその事を知っているのか?と、茫然としている間に、キールが不敵な笑みを浮べてトールから離れていく 「・・・またな」 笑みを浮べたまま意味深な言葉を吐いたキールが、爆発で割れたガラス窓から虚空へと身を躍らせた 一瞬沈んだ金色の長い髪が、キールの背に生えた白いパラグライダーの羽によって、上空へと舞い上がった クルッと旋回し、闇夜の向こうへ消え去る瞬間、何かがキールの手元から放たれ、それが割れたガラスの散乱する床の上に突き刺さる 「っ!?」 追う事も忘れ、その金色の髪の天使・・・のごとき姿に見惚れていたトールが、突き刺さった物へ歩み寄る それは 深紅のバラによって床に縫い止められた、一枚のカード ******************** 砕け散った”コリンズグラス”の代わりに ”トールグラス”を頂いていく 怪盗キール ******************** それを読んだトールの瞳が大きく見開かれ、クックッ・・・と肩を揺らしてくぐもった笑い声を立てた 「なるほど・・・!さすが”赤いものしか盗まない怪盗キール”!俺の偽名の意味に引っ掛けるとは・・・やられたな。確かに、盗んでいかれたよ・・・たいした奴だ」 ”コリンズグラス”とは、炭酸の入ったカクテルに良く使われる細長いグラスの事で、別名”トールグラス”とも呼ばれている 行き付けのバーまである酒好きな捜査一課・課長が、その事を知らないはずもなく トールという偽名にしたのは、そんな意味合いを込めての選択でもあったのだ 「・・・またな・・か」 キールが最後に残した意味深な言葉を紡いだ唇に、深紅のバラが押し付けられる キールが消えた夜空の彼方を見つめたオッドアイ その片方の瞳が、闇夜の中でキールが盗んでいったそのままの色合いで、輝いていた ******************* 次の日の朝 「おー・・・派手にやられたなぁ、コニス」 お見舞い用の果物カゴを抱えた捜査一課・課長が、クック・・・ッと肩を揺らして笑い声を耐えながら、見舞いの言葉を口にした 「課長!!笑い事じゃないですよ!なんなんですか、あのキールって野郎は!勝手に俺を身代わりに仕立てて逃げやがって・・・!」 ギリギリ・・・と、歯噛みをしながら言い募るコニスの片足が、ギプスで固められ、天井から吊るされている そこ以外にも、顔やら腕やら・・・そこかしこに擦り傷や打撲など・・・青痣が鮮やかに浮かんでいた 昨夜 展示室で電気が消された瞬間 窓に一番近い位置に居たコニスは、何者かによって思い切り背中を押され、何か硬いものが押し付けられた・・・と思った瞬間、起こった爆発によって外へ投げ出され、背中に装着されたパラグライダーによって、夜空を飛んでいた そう、あの爆発音と供に夜空に飛び出した偽者・・・ あれはキールによって偽物に仕立て上げられた、コニスだったのだ 操縦方法も分からず、追跡用の2機のヘリコプターに追われ、風に乗ってただ流されている内にバランスを崩して地上へ落下 もともと運動神経抜群・・だったのが幸いしたのだろう、足1本の骨折と打ち身と捻挫・・・だけで済み、ただいま病院のベッドの上・・・というわけなのだ 結局、グラスは砕け散り、キールは何も得られないまま逃走・・・したことになり、事件後、急に行方不明になったダナヤ秘書が”怪盗キール”の変装だったことが明らかになった グラスは割られ、怪盗キールにはまんまと逃走・・・ その屈辱を晴らすべく、日本警察も本格的に”怪盗キール”逮捕へ向け、各国と協力し合っていく方針が決定されたのだ ******************** カタン・・・ッ トールが、いつもの指定席・・であるシックで落ち着いた雰囲気のバーのカウンター席に座った 店の名は「ジョーカー」 よく使い込まれた古びた木製の扉を開けて入ると、正面斜め横に一枚板の重厚なバーカウンターが置かれている 今時珍しいその一枚板のカウンターは、どっしりとしていてグラスを置かれてもその音さえほとんどしないほどだ 触れると肌にしっくりと来る柔らかな木肌の温もり そのカウンターの向かい側には、その雰囲気に似つかわしい静かな瞳とサムソンスタイルといわれる、長めの髪をオールバックで後手に一つに括った・・・今ひとつ年齢不詳なバーテンダーが佇んでいる バーテンダーの背後に設置された棚には、グラスと様々な酒が整然と並び、そのグラスの選別と置かれた酒の種類から、そのバーテンダーの趣味の良さが窺えた 「いらっしゃいませ。おや?今日はどちらかの病院に寄ってこられたんですか?」 座った途端、そんな質問が飛んでくる 「え・・・参った。さすがだな、米良(めら)さん。朝一にケガをした部下の見舞いに少し寄っただけなんだけど・・・」 米良と呼ばれるこのバーテンダーは、異常に嗅覚が発達しているらしく、過去、漂う僅かな香りでいろいろなことを言い当てられた経験がある 感心したように言ったトールに、米良がただ、静かな笑みだけを返してくる 店の中に流れるBGMは古き良き時代のモダンジャズ 警視庁捜査一課ともなると、血生臭い事件からやり切れない事件まで・・・毎日神経の休まる時間がないと言っても過言ではない そんな中で、この「ジョーカー」の持つシックで落ち着いた雰囲気と、必要以上の言葉を決してかけてこないが、その日にあった好みの酒を必要量だけ差し出してくれる・・・このバーテンダーの存在は貴重だ 「・・・そういえば、今日は何の酒を出してくれるの?いつもなら座った途端、出してくるのに・・・?」 トールが笑いながら問いかける このカウンター席に座ると、いつもバーテンダーにお任せで・・・そして間違いなく、その日の気分に合った、美味い酒が差し出されてくるのだ 「・・・今日は、酒もそうなんですが、グラスも見ていただきたくて」 そう言って、米良がス・・・ッとカウンター下から背の高いグラスを取り出し、トールの前に差し出した 「っ、これ・・・!?」 トールが驚愕の表情でグラスを見つめた それは・・・昨夜”怪盗キール”が割ったはずの・・・”コリンズグラス”! 思わずトールが指先を握り込む そう、昨夜、キールに圧し掛かられた時、掴んだ・・・胸 そこには女性特有の柔らかな存在はなく・・・合ったのは 硬い、硬質な、細長い物体・・・ どう考えても、割られたはずの・・この、”コリンズグラス”だったのだ それをキールに問おうとした途端、その言葉を遮るように濃厚なキスを仕掛けられて・・・! 思い出した途端、その時の感覚が甦ってきて・・・トールが慌てて頭を振って、その感覚を振り払った そんなトールの態度など気にも掛けない風に、米良が珍しく饒舌に語り始める 「これ、ついさっき知り合いの若いお嬢さんからお預かりした物なんです。お祖父さんの形見の品だそうで・・・でも、自分が持っていると手放さないといけなくなるとかで。預って欲しい・・・と頼まれましてね」 「え、でも、そんな大事な預り物、なんで俺に・・・?」 「そのお嬢さん、実は言葉が不自由でして。お連れ様がご一緒だったんです。その方曰く、”器は使われてこそ存在する価値がある。ただ飾っておくぐらいなら壊してしまった方がマシ・・・”だとおっしゃって。お嬢さんも同じ意見でしてね。 でしたら遠慮なく・・・と預ったら、この”コリンズグラス”と同じ意味合いの名前であるトールさんがいらっしゃったものですから」 このバーには、質の高い上質な客が多く、男同士のカップルが集うことでも名の知られた店・・・という一面があった そんな一面のせいでもあるのだろう・・・常連のほとんどが偽名やニックネームを名乗るのが常・・・ トールもまた、最初は背が高い・・・というイメージからその偽名で名乗った その時に、グラスの名前で同じ名前の物がある・・・と、米良から教えてもらったのだ 以来、この店でトールはずっと、トールという名前で呼ばれている そのトールが、微かに震える声で、米良に聞いた 「・・・その、連れ・・・って、ひょっとして、長い金髪の・・・?」 「おや、ご存知でしたか?ええ、長い金髪と赤い瞳が印象的な、とてもお綺麗な方でして・・・」 「ちょ・・まって!その人、よくこの店に来るの!?」 「ええ、いらっしゃいますよ。昔からの常連様ですから」 事も無げにそう言われて・・・トールが言葉を失う 「そ・・・んな、俺、見たことなんて・・・!」 「そうですね。とても面白い方で、来るたびに変装してこられるんです。ですからトールさんが御存じなくても不思議ではありませんよ。でも、その方はトールさんを良く知っておられるようでしたよ?」 「俺・・・を?」 「はい。今日は伝言とカードを一枚お預かりしております。もしも今夜、こちらに来られたら渡して欲しい・・・と」 「伝言?!カード!?何を言ってたんです?カードって・・・!?」 今にも米良に食って掛かりそうな勢いで腰を浮かしたトールに、米良が静かに笑み返す 「伝言は、”答えを知りたいか?”です。どうされます?」 「こ・・たえ?」 一瞬、眉根を寄せたトールが、ハッと息を呑む 『なぜ赤いものしか盗まない”怪盗キール”がグラスを盗んだか・・理由が知りたくば、明日の夜「ジョーカー」に来い』 そう言ったキールの言葉を思い出して、頷き返す すると米良は、目の前の”コリンズグラス”にカシスリキュールと呼ばれる赤い酒を注ぎ、次に良く冷えたシャンパンを注いだ たちまち、名工トノダ翁独特のカッティングが施されたグラスに、”キール・ロワイヤル”と呼ばれる赤い液体が満たされていく それを見つめるトールのオッドアイが大きく見開かれ、その、グラスの中で輝く赤い液体に視線が釘付けになる 「凄い・・・っ!なんだ・・この、グラス・・・ッ!?」 「・・・これはこの、”キール・ロワイヤル”専用に作られたグラスですね。こうして酒を注がないと、このグラスの本当の価値は分からない・・・」 米良も目を細めてそのグラスを見つめている 施されたカッティングにより、赤い液体がさながら万華鏡のように様々な色合いに変化する シャンパンが放つ細かな泡がグラスの中で弾ける度、それは赤い天の川を流れ落ちる流れ星のように鮮烈な輝きを放って、見る者を飽きさせる事がない まさに、グラスの中で広がる赤い宇宙、赤い星空・・・! 赤いものしか盗まないキールが、何故、このグラスを盗み、このバーに正統な持ち主と供に現われ、預けていったのか・・ これを見た後でなら、理解できる もしも あの時、偽物のグラスを用意して砕き、この”コリンズグラス”がこの世から”消失”した・・・と思わせなかったら 正統な持ち主に戻しただけだったら それは結局、再び同じ過ちを繰り返すだけの結果に終わっていただろう だが、この店の、このバーテンなら 本当に酒の楽しみ方を知り、この美しいグラスのあるべき場所と存在価値を心得た・・・選ばれた客にのみ、この奇跡が披露される つまり トール自身も、その、選抜された客の一人に選ばれた・・・という事 フ・・・ッと笑ったトールが、「まいったなぁ・・・」と、ため息を吐く 警視庁捜査一課・課長としての役目を果たすなら、このグラスは持ち主であるドラプラ商事社長のもとに、戻す・・・!のが、仕事だ だが このグラスの、この美しい輝きを目の前で見せられて そんな事ができる無粋な奴が居たのなら、トール自身がブン殴っているところだ それに 「・・・米良さん、実は俺、来月から部署を移動になるんです」 グラスの中で弾ける流れ星の行方を追いながら、トールが静かに言った 「移動・・・ですか?遠い場所にでも・・・?」 「ええ。凄く遠くて・・・きっとあっちこっち世界中を飛び回るような・・・」 「そうですか・・・。では滅多にお顔を拝見できなくなりますね・・・。寂しいですが、また、このグラスでお酒を出させてくださるんでしょう?」 意味ありげに米良が言う 「もちろん。これが見られるのはこの店だけですからね」 そう答えたトールに、米良がス・・・ッと一輪のバラと供にカードを一枚差し出した 「・・・どうぞ。あの方はここでは、ナスタと名乗っておられました」 「ナスタ・・・」 まるでその名前を胸に刻み込むように繰り返したトールが、そのカードを開く そこには ******************** 次はリヨンだ 会えるのを楽しみにしている ナスタ ********************* そう、書かれていた まるで 来月から”ICPO(国際刑事警察機構)”へ出向することになったトールの行動を見透かしたかのような・・・その内容 リヨン・・・そこはICPOの本部がある場所で、対”怪盗キール”専属チームに配属になるトールが、最初に向かう場所・・・だ ク・・・ッと肩を揺らしたトールが、ゆっくりとグラスに手を伸ばし、”キール・ロワイヤル”を飲み干した 「・・・・もう、行かれるんですか?」 「ええ。盗まれたままじゃシャクなんで・・・ね」 「盗まれた?」 「”トールグラス”って言う名前のグラスをね」 そう言って、トールが立ち上がる 「それは・・・どうやら私では満たす事の出来ないグラスのようですね・・・」 「ええ、満たすのは・・・俺でなきゃ」 ふわり・・・と笑ってトールが米良に背を向けた 次の キール・ロワイヤルを飲み干す為に =終= ****** 後書き 土井さんのイラストと紗夜さんの小説に触発されて、勢いだけで書いてしまいました・・・。 べ・・・ベタですね。すみません。 コ○ンだとか、銭○のおっさんとル○ンだとか・・・パロてんこ盛り・・・(笑) 最後に出てくるバーテンダー、サイト越えで自キャラの(しかも一瞬だけしか出てこない)脇役です・・・申し訳ない・・・遊ばせてもらいました(笑) お掃除お兄さんとナスタに幸あれ!乾杯! 可那他 拝 |
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