『cuffs』BL18禁

「竜棲星-ドラゴンズプラネット」二次創作小説
制作--文月様


「……あ」

自室のドアを開けるや否や、カルナラは思わず声を出した。
誰もいないはずの自分の部屋に、先客がいたので驚いたのだろう。
自分のよく知る人物が、自分の部屋の、しかもベッドの上に寝転んでいたのだ。

「…眠い」
先に部屋にいたシザークは、そう言って自分の目をこすった。

「帰ってくるのを待ってたら、待ちくたびれた」
「でしたら呼んで下されば……」
「どこにいるか、わからなかった」

シザークが上半身を起こす。
眠たそうに大きなあくびをすると、少し身体をずらしてベッドサイドに腰を乗せる。

「まったく……」
キチンとメイキングされていたはずのベッドは無論、跡形もない。
カルナラは今に始まった事ではない、とため息をつきながらも、
持っていた書類の束をデスクの上へ置いた。

「…それで、ご用というのは?」
腰につけた剣を鞘ごと外して横に立てかける。
呆れた顔をしているカルナラを、シザークはじっと観察するかのように凝視していた。

どこか一点を見ているようにも、何かを探しているようにもみてとれる。
「ん…。ほら、この間の……」
少し沈んだシザークの声が聞こえたので、カルナラは椅子に腰を下ろす前に、シザークの方に顔を向けた。

「先日の待ち合わせに遅刻した事ですか?」
「ち、違う」
「では、医師から苦情が来た事ですか?」
「ち、違くて…っ」
「セテ准将の眼鏡とアルトダ伍長の眼鏡をすり替えた事ですか?」
「あ、バレた?」
「当たり前です」

きょとんとしたシザークに、カルナラが怒りにも似た声を出す。

「セテ准将の方はとてもお怒りでした。
 ……あなたの仕業とわかっていても」
「…でも、かけただろ、眼鏡!」
楽しそうにシザークが笑う。

「…はい、確かに」
その顔を見て怒る気力を無くしたのか、カルナラはやれやれと眉を下げながら答える。

「准将、似合ってた?」
「いえ、まったく」
「やっぱり!!」
その返事に、シザークが腹を抱えてベッドへと沈み込んだ。
カルナラもその時の光景を思い出し、少しだけ口元に笑みを浮かべる。
このシザークといると、いつも笑ってしまう。

「あー、オレも見たかった」
「その事を確認しに来たのですか?」
「あ…違う。この間の、怪我の事……」
そう言ってシザークが身体を起こす。
「怪我?」

シザークの真剣な顔に、カルナラは首をかしげた。
最初は何を言っているのかわからなかった。
だが、彼の申し訳なさそうな眼差しに、記憶が甦る。
「ああ、私の怪我ですか…」
カルナラが相槌を打つ。

ついこの間、このシザークに付き合って怪我をしたのだ。
怪我といっても、そんなにひどいものではない。
首元を少し切っただけである。
今はシャツの襟で見えないが、傷の跡はうっすらと残っているはずだ。

「どう……?」
「大丈夫です。心配には及びません」
カルナラはそう言い終わると、椅子に腰を下ろした。

「本当にごめん」
シザークの声は沈んだままだ。
「いいですよ」
「あの時、オレがもっと注意していれば…」
「だったら、次からは気をつけて下さい」
カルナラがシザークの方へ振り向く。
「反省しているのでしたら、 ……次からはあんなところへ登らない事」
「…はい」
その声に、シザークが首を深く折る。

「私は大丈夫です」
カルナラはそう言って机上へ視線を戻すと、先程持って帰ってきた書類を開いた。
慣れた手つきで書類を仕分けし、二つ、三つと束を作る。
紙が捌かれる音が聞こえる。
「……」
その背中を見ながら、シザークは色々と考えていた。
あの時は確かに自分も危険だったが、それよりも周囲の人間を危険に晒した。
周囲が自分を怪我させまいと必死で動いてくれたおかげで、自分は無傷だったのである。

特に、このカルナラが。

「…でも、まだまだ体力あるよなぁ」
「これでもまだ若いんです」
独り言のような言葉に、返事が返ってくる。
「あれって、とっさの行動?」
「そうですね」
カルナラは返事はするものの、顔を向けずに黙々と書類に目を通している。
「……」

何だか構ってもらえないようで、シザークの方は顔をムッとさせた。
「……これ」
声をかけられた事に反応して、カルナラが顔を上げ、振り向く。
シザークは小さな箱をカルナラの前に差し出していた。
「はい?」
「やる…、よ」
「えっ?」

ペンを置いて、カルナラは席を立った。
自分の主の前へ歩み寄ると、その箱を受け取る。
シザークは照れたように顔を窓の方へ向けていた。

「……」
包み紙もない、ただの小さな木箱。
開けると、中にはカフスボタンが二つ、布に包まれるように入っていた。
四角く、二つの色の石で彩られたデザイン。
深い青色の石のまわりに、薄い赤色の石がはめ込まれている。

「私に…ですか?」
カルナラが驚いてシザークを見る。
「そう。あの時と……いつものお礼。いつも、ありがとな!」
そう言って、シザークが笑った。
その誰も疑わないであろう嬉しそうな表情に、カルナラはふっと、心地よさを感じる。

ずっとこのまま、この顔を見ていられるのだろうか。
自分が、壊してしまわないだろうか。
自分のせいで、壊されてしまわないだろうか。
そして、自分が、この笑顔に壊されてしまわないだろうか。
カルナラはシザークの顔を見ている事ができず、下を向いた。
ずっと考えていると不安になるばかりで、その光が、痛い。

「何だ。嬉しくない?」
彼のリアクションに、シザークが口を尖らせている。
彼としては、これをあげればカルナラはとても喜んで、笑顔を見せてくれると思ったのだろう。
「いえ、嬉しいです」
期待に答えるかのように、カルナラが微笑んでみせる。

「これ、オレが作ったんだぜ」
「え?」
得意げにシザークが笑った。
「コニスに頼んで道具借りたんだ。石とか削るの大変だったけど、うまく出来たほうだと思う!」
「あ………」
純粋な喜びが心の奥から湧き出てくる。
「ありがとうございます」
カルナラは今度は心から微笑むと、上着を脱いで、後ろ手で椅子にかけた。
いつもつけている両腕のカフスを外し、机へ置く。
木箱からカフスを取り出して、自分の腕へとつけた。
「おっ、似合うじゃん」
その姿を見て、シザークがまた笑った。
自分の考えたデザインが良かった、と言わんばかりでもある。
「……」
カルナラは右腕を軽く上げて、左手でその腕に輝くカフスを触る。
「とても綺麗ですね…」
よく見ると石には少し擦り傷がついていて、それが手作り感を物語っていた。

―――「……きず…」
「…!」
呟きに、カルナラは突然身体を硬直させた。
「傷…見せて」
シザークがまっすぐに、カルナラを見て言う。
「え……」
戸惑っている事に痺れを切らしたのか、シザークは立ち上がると、カルナラの首元に手をかけた。

「なっ…」
つい条件反射で避けようとしてしまう。
が、シザークの左手がそれを許さなかった。
左手で肩をつかまれる。
「痛くないか?」
シザークはそう言って、カルナラの右側の首筋を、襟の上からそっと撫でた。
「はい……」
「ごめん、傷を……増やしちまって」
「……」
『傷』という言葉に過剰反応する。身体が締め付けられる。
「いつも守ってもらってるのに、オレは勝手な事ばかりして」
深刻な表情というよりも、痛々しい目だった。

ふっと、シザークが髪を動かす。
すぐそばで、青い草の匂いがした。
「……」
「直に、見ていい……?」
「…えっ」

シザークはそう呟いた後すぐ、少し強引にカルナラの襟元を露にさせた。
「!」

部屋は暖かいが、新たな外気が肌を擦って身震いを覚える。
「ちょ、ちょっと待って下さい…」
うろたえたカルナラの首元に描かれた、細い傷跡。
血の滲んだ跡がうっすらと感じ取れる。
「…痛かった?」
シザークの言葉に、思い出してはならない記憶が溶け込んでくる。
昔、あの時、別の人物に言われた言葉。

思い出したくない。
現実へと意識を戻したカルナラは、再び声にならない声を上げた。

「っ!」

似ていた。
自分の目の前にいる人物と、思い出してしまったつらい記憶の中にいた人物が。

「…ごめん」
シザークは瞳を伏せると、カルナラの傷口へそっと、口付けた。

「な、何を…っ」

「…カルナラ」

そのままカルナラの肩に頭をつけ、背中に手を回す。
今までよりその手がきつく感じる。そして、熱い。

「どうしたんですか?どこか具合でも…」

いつもとは違う、シザークの熱。
彼はきつくカルナラの服を握り締めたまま、離そうとしない。

「シザークさ…っ!」

言葉が途切れる。
シザークがまた、首筋の傷に口付けたためだ。
肌に触れるその唇に、カルナラは思わず目を閉じた。

「…ど、どうして……」
声が自然とかすれてしまう。

この人物は、本当に自分がしている事をわかっているのだろうか。
何か熱にあてられて、誰かと勘違いしているのではないか。
考えれば考える程、混乱する。

「……オレの事、好き?」
その瞳が、訴えかけるように見上げてくる。

「………好き、って…」

カルナラは言葉を詰まらせた。
いつもの、シザークの瞳ではない。
確かに微笑んではいるが、それでも瞳は、深く、虚ろに感じる。

「いつも聞いてたよな、オレ。好きか、って……」
「そう…ですね…。でも、今日は……違う……」
「……」

首筋が熱い。口付けされた傷跡が、熱を放っている。

「オレは、お前が好きだ」

不意にすぐそばで、シザークの耳飾りが音を立てた。
シザークの唇が、カルナラの唇に重なる。

「!」

振り払う事はできたはずだ。だが、身体が動かない。
シザークにその両手で押さえ込まれていたせいもあったが、それだけではない。

「あ……っ」
無意識にため息のような声が漏れる。
甘いキスに、首筋だけでなく、全身の熱が上昇していくのがわかった。

「…シザ…ッ」
「……」

シザークは唇を離そうとしない。
カルナラから零れる声を拾うかのように、キスを重ねる。
何度も、何度も繰り返し、相手の息を奪う。
その刹那の快楽のひとつひとつが、カルナラの思考を飛ばしていった。

「…ん…っ」
「…カルナラ」
口を少し浮かせて、シザークが呟く。

「……は…はい…」
カルナラは息をつくのも精一杯といったように、呼吸を乱し、速まる鼓動を抑えていた。

「もう一度、聞く。
 ……オレの事、好き?」

あんなに強引なキスをしたのにも関わらず、シザークは少し不安げな顔をしている。
カルナラは何も言わずに目を閉じると、その両腕で、シザークを強く抱きしめた。
その体温が伝わってきて、シザークも安心するかのように瞳を閉じる。



どちらからとも無く、口付けをしていた。
言葉でも言いたい事が、伝えたい事がたくさんある。
あり過ぎて、きっと一晩語り尽くしても言い切れないだろう。
常に寄り添って暮らしていてもそういうものなのだろう、と、
カルナラはあえて言葉で表す事をやめた。
シザークが、行動で示しているのだから。



 そのまま、お互いが後ろにあったベッドに崩れ落ちた。

シザークはカルナラの上に乗ると、そのシャツのボタンに手をかける。
先程贈ったカフスが、サイドボードに当たって微かな音を立てた。

「……やっぱり」
シャツのボタンを開け終わり、シザークが呟く。

「……?」
「傷だらけだ…」

そう言って、彼はカルナラの開け放たれた胸元に、顔を埋めた。
髪が素肌に触れてくすぐったい。
そしてそのすぐ後、柔らかい唇の感触に襲われる。
カルナラは眉をひそめ、目を閉じた。

「あ…っ」
彼の肌に刻まれた微かな傷は、殆ど首元と同じように、シザークを護ろうとしてついた傷だ。
シザークはその傷を愛でるように、ひとつひとつにキスをしていく。

「……っ」
カルナラがシザークの髪を優しく撫でる。
「シザーク……」
その息は確実に上がっていた。
まるで飢えに慣れない獣のように、満たせるものを探している。
だが、それが何であるか、獣自身にはまだわからない。

「…カルナラ、どうして欲しい?」
「え…?」
見透かされたかのように、シザークが尋ねてくる。
「どこが…いい?」
シザークはそう微笑んで、カルナラの唇に、首元に、軽くキスをする。
「シザーク……」
腕、胸元、そして腰へ、シザークが身体をだんだんと後退させる。
「…シ、シザーク様……!」
その動きを制止させるかのようにカルナラが声を上げた。
「……なに?」
「あ、あの……」
カルナラの顔がますます紅を帯びていく。

「…ここから先は、触って欲しくないのか?」
シザークはそう悪戯っぽく笑って、強く、彼の腰元をつかんだ。
「うぁ…っ!」
直接の刺激に上ずった声が出てしまう。
「……オレは見たい」
「…シザーク…?」
「全てを、見たい」

「………」
その強い視線に導かれるように、カルナラは半裸となった上半身を起こした。

「シザーク様。……あなたは一体……」
少し悲しそうに、カルナラが主の前髪を撫でる。
シザークは瞳をそらさなかった。
「このまま黙ってたら、オレはきっと後悔する。
 だから、きちんと気持ちを伝えたいんだ」

その、まっすぐに向けられた目と、言葉。

「カルナラは……嫌か?」
「……わ、私には……」
『選ぶ権利が無い』と言おうとしたが、それもシザークの口付けに閉ざされてしまった。

「…んっ…」
溶けるような香りと、甘い唇の感触。
全てを麻痺させるような、強過ぎる刺激。

「……嫌なら…やめるぞ…」
そう言いながらも、シザークはカルナラの身体を抱きしめる。

「…嫌なんて……」
カルナラは答えるかのように、自分からキスを返した。
「……ただ、強引だと思っている……だけです……」
「…強引…?そんなに…あっ…ん…っ!」

舌が絡まり、シザークが甘い声を零す。
その声にカルナラの鼓動も急速に速くなる。

「あなたも……」
今度はカルナラがシザークを包むように抱きしめた。
ボタンがほどかれたシャツと素肌が、まだ服を着ているシザークの身体に合わさる。

「あなたも…でしょう……?」
そう言って、シザークの熱くなったものをズボン越しに触れる。
「……っ」
シザークは刺激に耐え切れず片目をつむった。
予想通り、熱を帯びたそのものが強く自己主張している。
「あ…当たり前だろ……。お、男なんだし…!」
顔を赤らめ、急に弁解を始めるシザークに、カルナラが少し笑みを浮かべる。
「………私もです」
と、わざと下腹部が当たるように肌を密着させる。

「……だったら」
つられてシザークも笑みを見せると、不意に顔をカルナラの下腹部へ割り込ませた。
「シザークっ?!」
「恥ずかしがる事ないだろ」
彼は戸惑う事なくカルナラのベルトを外し、ジッパーを下ろすと、その熱くなったものをすくい出した。

「!」

すぐにいやらしい水音が響く。

「あっ!シ…シザーク…っ!……」

シザークは手と足で四つん這いになり、その口にカルナラのものを含ませていた。

「……んっ!……っ」

唇の柔らかさは先程のキスで狂わされるほど味わっている。
その唇が、今は自分の欲望の化身を包み込んでいるのだ。
咥えられただけで肩の力が抜け、抵抗できなくなる。

「……う……っ。…ぁあっ…っ!」

シザークが口を動かすと、カルナラは今まで以上に高く、弱い声を上げた。
内側から急激に湧き上がる感情へ、太刀打ちする術がない。
シザークの吐息と舌の動きに翻弄され、全身に熱い衝撃が駆け巡る。

「あっ、ああぁ…っ!……、シ…シザーク……ッ!」

カルナラは頭をのけぞらせて、喉から千切れんばかりの声を出した。

「んっ…はぁ……んっ!」

声に共鳴してカルナラの熱も硬さを増していく。
その反応に、シザーク自身も新たな高ぶりを覚えた。
――ぴちゃ、とシザークの舌が音を響かせ、カルナラを攻める。

「ああぁっ!く…うぁ…っ!あっ…!」
「…カルナラ……」
シザークが右手をカルナラの熱にあてがい、少し強く、こすった。
「うっ…っ!」
今までとは違った刺激。だが、強烈に身体へ響く。
「……」
シザークはその反応を確かめるようにカルナラの顔を見つめると、
また目線を下へ戻し、自分の舌を熱の根源へ伸ばす。
「……気持ちいいだろ?」
咥えたまま、そう尋ねる。
だがその言葉さえ、その呼吸さえも、今のカルナラにとっては熱に喰らいつく麻酔に過ぎない。
快楽へ縛り付ける、麻酔。
「あ…、あぁぁ…っ!」
声を抑えようとしても、理性とは逆の方へ結果が向く。
その声が信じられない程に妖艶で、カルナラ自身、自分の声ではないと感じてしまう。

そしてその声すら、感情を高ぶらせる薬であった。
「…シザーク…!」
カルナラの片腕が、シザークの方へ伸びる。
その柔らかな髪に触れて、虚ろな目を開いた。
自分の主でもある人物、しかも一国の皇太子殿下が、今はこうやって、自分の欲望を咥え込んでいる。
背徳的な行為。他の誰も望まないであろうその行為を、自分達二人は望んでいる。
強く、そして、何よりも深く、底の見えない程に。

「うぁ!あ…く…くる…う…っ!」
行動に歯止めが利かない。
カルナラは思わず、シザークの頭を自分の熱へと押し付けた。
「うっ!」
少しむせたようにシザークが声をくぐもらせる。
「あ…!シザーク…!」
「大丈夫…」
答えを返すように、シザークが刺激を強くする。

「ああっ!うっっ…!!」

シザークの耳に光る竜の紋章――アウランマダー――が金属音を立てて大きく揺れた。
その音もカルナラにとっては既にただの効果音でしかない。
この行為を、止められるだけの力はなかった。
熱を締め付ける閉塞感と、強くかき乱されるような手からの刺激。

「くっ…、狂う……!シザーク!…く、狂う…っ!!」

カルナラが呟く。
呟きは徐々に強くなり、いつの間にか、うわごとへと変わっていった。

「ああっ、狂え…っ!」

その高鳴りに答えるように、シザークも動きを早めた。
一段と大きく、水の跳る音が部屋中にこだまする。

「あぁっ!……うっ!!」

カルナラがきゅっと目を閉じる。
全身から駆け上がる衝動と深い気持ちを代弁するかのように、
その先から白濁した液が生み落とされた。

「んっ……」
シザークはその液体を全て口で受け止めた。
決して強要されたのではない。彼自身が、そうしたくて口に含んだのだ。
部屋に独特の匂いが漂い、じっとりと汗が背を伝い落ちるのを感じた。

「……!」
罪悪感に似た気持ちでその光景を見て、カルナラが頭を下げる。
「すっ、すみま…」
謝ろうとした言葉が止まる。
「……ふぅ」
シザークは白い液をまるでワインを味わうかのように飲み干すと、口元を軽く手で拭っていた。
透明な糸が頬に描かれ、彼の口から飲み切れなかった液が零れ落ちる。
それを見てカルナラは、再び、自分がどんな事をしたのか気づかされた。

「……」

だが、言葉が出ない。
そのシザークの顔が自分より大人びて見えて、そして、いやらしく見えて。
いやらしさだけではない。
とても高貴な者のように見えたのだ。
それは元々の身分からではなく、いつもの屈託の無い優しさからでもなく、純粋に、とても美しく、とても気高い者だと感じる。
シザークの誘うような鋭い瞳と満足そうに笑うその口に、カルナラの感情は治まるどころか、高ぶる一方だった。

「…シザーク」

その瞳を捕まえたくて、彼の名を呼ぶ。

「ん?」

シザークが微笑む。
まるで何もかもを知っていて、それを全て受け入れるかのように。

「………」

カルナラの身体は一度欲望を吐き出しても、すぐにまた新たな快楽を呼んでいた。
そして求めるものは、ただひとつ。



「カル…ッ?!」

シザークの声が天井へ響き、すぐに消えた。
カルナラが自分のシャツを脱ぎ捨て、シザークに覆いかぶさったのだ。
その白い肌に口付け、金色の髪を握りしめる。
長めの後ろ髪から、汗が滴り落ちた。

「うぁ…っ!」

カルナラが声を上げるシザークの首元を強く吸う。
通常の彼からは考えられない荒々しい行為。
その悪しきものを知らないようなシザークの心を、滅茶苦茶にしてやりたい衝動があったのかもしれない。

「…あっ!……あぁっああっ……!」

慈しむように、壊すように、シザークの肌に触れる。
シャツをめくり、指を這わせて、柔らかな肌に唇で証を刻み付けた。
キスの度にシザークの身体は小刻みに動き、シーツが波打つ。

「………シザークッ……!」

シザークのベルトが外され、全てが露になった後、二人の身体は急速に互いの肌を求め合った。
何度キスをしても、何度肌に触れても、その鼓動は落ち着く事を知らない。
自然と、カルナラの手が下降し、シザークの突起に触った。

「…カルナラ……。して……くれんの…?」
「……」

シザークの笑みに、カルナラは言葉では答えなかった。
だが、代わりに長い指でシザークのものを擦り上げ、心地よい刺激を与え始める。

「…んっ……!」

じわじわと追い立てられていった。
手の動きが激しくなるにつれて、シザークが眉間にしわを寄せ、声を漏らす。
一点に集中した熱が、外へ放たれる事を切望している。
ついには張り詰めたものが大きく唸り、カルナラの手のひらを白い液で満たした。
「……はぁ……っ」
熱に犯された目でシザークが自らのものを見つめ、ため息をつく。

カルナラは無言のまま塗れた指を自らの口に運び、舌で舐め上げた。
「…カルナラ……?」
普段と違うその表情と気配。
彼は鈍く光るその手を再び下降させて、シザークの奥に指の先をあてがった。

「…!」

シザークの顔に影がよぎり、意識せずとも肩に力がこもる。

「…痛くはしませんから……」
カルナラはそう告げると、指をゆっくり、その中へ沈めていった。

「!!…うっ…っ、あっ……!」
一段と際立った声が響く。

「うっ!……う…うそだっ…ろ…っ!」
シザークは目を閉じた。
上り詰める快感とは違った、新たな感覚が生まれる。
素直に心が受け入れられない。
だが、身体は確実に、受け入れようとしている。

「…シザーク……」

ゆっくりと、カルナラがその名を呼んだ。
その声を頼るようにシザークが頭を上げる。
カルナラは引き抜かぬまま、反対の手でシザークのもたげた欲望を触り、撫で回す。
そして、中の指を少しだけ動かした。

「あっ!い゛っ…!」
苦痛の声が上がる。

「……大丈夫…」
優しく言葉をかけ、カルナラはシザークの欲望から溢れ出た体液を手で集めると、その結合付近へ塗りつけた。
粘りのある音と共に、透明な光がライトに照らされる。

「…う…、ああっ!」

緊張を押し退け広がっていく生々しい感覚。
シザークも挿し込まれた指の感覚に酔い始める。
その本数が増えても、欲情への傾きは戻らない。

「…ああ……っ!…へ…へんに……!変になりそうだ……ッ!」

声をあげ、必死にこの感覚に打ち勝とうとするが、どうあがいても決着が付けられない。
彼の全てを、今は果てる事ない欲望が握っている。

「………き…たい…」
カルナラがそう呟いて、静かに指を引き抜く。
その手をシザークの欲望へと導かせて、未だ光る白濁色の液を絡め取る。

「…え……っ?」
シザークが虚ろな目で聞き返した時、カルナラはシザークによって汚された手で、いきり立ったその身を包んでいた。

「………今度は…」
そのシザークの全てを、奪いたくて。
狂わせたくて、従わせたくて。
そして、今までより深い、愛しさを伝えたくて。

――「……あなたが…狂う番だ……」


カルナラはシザークの足を上げると、抱えるようにその肩に手を回し、そのまま、己の欲望を挿し入れた。

「くっ…あああッ!!」

カルナラの腕の中でシザークが叫ぶ。
その声をも奪うかのように、カルナラはシザークに口付ける。

「あ…はぁっ!あっっ、カル…っ!」
「シザーク…!…うっ…くっ…!」

触れ合った口元から零れ落ちる二人の声。
舌が執拗に求め合い、いやらしい水音を立てた。

「ああっ!あっ、あっ…あぅ…っ!」

全身を貫かれる痛みに、シザークが身を震わせ、声を鳴らす。
塞がれた部分はカルナラのものをきつくつかんで離さない。

「…きつい…ですか……っ?!」
耳元でカルナラが囁きかける。

挿し入れた方も苦痛に顔を歪ませ、食われるような痛みに耐えていた。
シザークはそれに髪を振って答える。

「…い…いい…、だいじょ…ぶ……!…ああっ!!」
だが痛みに耐え切れず、がくんと頭をカルナラの胸元へ落としてしまった。

「ああっ!あっ、あっ…あぅ…っ!」
口が上手く言葉を作り出せない。痛みと快楽の間を行き交う。

「…シザークッ……!」
その様子にカルナラが行為を止めるため、引き抜こうと動かした時、

「…うああぁ!」
引っかくような刺激にシザークが声を上げた。
痛みの中で、はっきりとつかめる快感。
それは今まで以上に強く、激しく、確かな、至高の快楽だった。

「カルナラぁっ…!」

身体がカルナラの刺激を求める。
抜かれそうなものを繋ぎとめようとするかのように、その腰がカルナラへと動く。

「………!」
カルナラはその動きに合わせて、再び深く、貫いた。

「うああぁっ…ああっ!」
シザークの喘ぎがカルナラの胸を汚す。

「あっぁあっ!ああっ、カルナラッ!…カル…ぅっ!」
「シザーク…!」

互いの熱で、温め合い、支え合い、求め合う。
シザークは大きく息を吐いて、その衝撃を受け止めていた。
肩の力を抜こうと頭をもたげ、カルナラへ瞳を向ける。

「…ああっっ!」
「……シザーク…!」

カルナラはシザークの髪を撫でながら、徐々に腰を動かし始める。

「あ、っああっあ…!」

途切れ途切れの喘ぎ。
快楽と苦痛がまるで絡まる二本のリボンのように、シザークの中を縛っていく。

「カルナラ…カルナラッ…!」
「はぁ…、はぁ…っ……シ…シザーク……」

カルナラはシザークのせり立ったものに手を伸ばした。
二人の汗や精液によって濡れそぼったその熱を、優しく撫でるように包む。

「…くぁっ!あっ……ああぁっ!」
完全にシザークの声から苦痛の色が消えた。

「あ…ああっん…あっああっ……!」
カルナラが強くこすり、欲望の衝動をかき立てると、その動きに合わせて、シザークは何度も頭を振り乱し、声を荒げ、悶える。

「うっ!ああっ!カルナラッ…ぁっ!!」

刺激はそれだけではない。
再び襲いかかる痛みを伴った快感。

「シザーク……。いいっ……かっ…!」

カルナラはシザークの髪を強く握り締めると、腰の動きを速め始めた。

「うああっっっ!!」

外からの快楽と中からの衝動に、シザークがカルナラの背を強くつかむ。
ベッドのスプリングが悲鳴を上げ、シーツの端が浮き上がる程に振動が強さを増した。
深く腰が打ち付けられる度、シザークは狂ったような声を出し、その快楽のみを貪る。

「カルナラッ!ダメだ…っ、イ…イく…ッ!」
「ああ…!シザーク……ッ!」

カルナラの声に包まれて、シザークが少しだけ、顔をほころばせた。
快楽に溺れながら、それを作り出すために腰を振り動かすカルナラを見つめる。

「…ああ…オレは………オレは……っ!!」
「…うっ!シザークっっ…!!」
「ああぁぁっ!!」

熱く強い叫びに衝かれて一気に膨張したかと思うと、シザークの中で白濁した液が吐き出された。
呼応するようにシザーク自身からも精液が溢れ出し、カルナラの胸元を白く染め上げる。


無数の欲望の証を抱えながら、二人はシーツの中に沈み込んだ。





 水が激しく落ちる音。
カルナラは一人、シャワーに身体を委ねていた。
火照りは熱い湯をかけてもまだ取れない。

「………」

ふと頭を垂らして足元を見つめる。
自分の髪を、肩を、濡らしながら伝い落ちていく水滴。
少し胸をこすると、肌があの時の快感を思い出したかのように高鳴る。
こうして欲望が露出しては、シャワーによってかき流されていく。
その繰り返しだった。

―― 「……」

鈍い金属音が室内に響き、外の空気が入ってきた。

「…シザーク…」

全身を濡らしたカルナラがドアの方を見つめる。
そこには、シザークの姿があった。

「オレも入って、いい?」
「……ええ、もちろん」

返事を待って、シザークがドアを閉める。
カルナラは少し後退してシャワーから抜けた。
二人を包む、立ち込めた湯気。
その中でシザークの白い肌が浮き上がって見える。

「…ん…」
気だるそうな声を出しながら、シザークが頭からシャワーをかぶった。
その綺麗な金髪が濡れながら肌にはり付いていく。
身体から疲労が抜けていくのだろう、彼の顔に明るさが戻ってきた事にカルナラは気づいた。

「あー、気持ちいーっ!」
シザークはそう言って、シャワーから出る湯をパシャンと手で弾いた。
手だけではなく、その肌全体も水を弾いている。
これがいつものシザークだ。
活発に身体を動かし、誰にでも明るく笑いかける。

「うーん…!」

嬉しそうに天を仰ぎながらシャワーに打たれる彼を見ると、とても先程まで艶やかな喘ぎ声を上げていた者だとは思えない。
ギャップが激し過ぎる。
だから一緒にいると疲れるのだろうか。
だから、惹かれるのだろうか。

「………」

カルナラは無言のまま、シザークを後ろから抱きしめた。

「ん、何だよ」
少しくすぐったそうにシザークが言う。

「カルナラ?」
「……」

彼が振り返れないくらい、カルナラはシザークの身体をきつく抱いていた。

「……苦しいって」
「…」
「おーい…!」
「…」
「カルナラ〜〜!」

シザーク一人がいつものトーンで暴れもがく中、
それでもカルナラは離そうとも、何かを言おうともしない。
ただ黙って主を抱きしめ、シャワーに打たれ続ける。
その肌の温もりを、繋ぎとめたい一心から。

「……」

二人の全身をシャワーの熱が覆い、優しく溶かしていく。

「……カルナラ」
シザークが再び微笑む。

そしてカルナラの髪をそっと撫でると、彼の腕に心を込めて、口付けを贈った。



 誰もいないベッドサイドで光るカフスボタン。
 あたたかい赤い石は護るかのように聖なる青い石を包み、
 その優しさの中で、青い石は何よりも力強い輝きを放つ。

 まるでカルナラがシザークを抱きしめ、
 そしてシザークがカルナラへ、青き光を放つように。

 その光だけはいつまでも消えない
 気高き竜の、輝きだけは……  ――





定例会議

 始まりは不本意にも、アルトダの言葉からだった。

「セテ准将。そ、それは私の眼鏡なのですが…」
「な、何と!いつの間に?!」
「(シザーク……!まだこりてなかったのか…)」

カルナラがシザークの悪戯に呆れつつ准将を見る。

「…!」
あれだけ笑うまいと思っていたが、ついにこらえきれず、下を向く事で顔を隠すカルナラ。
とその時、会議室の重い扉が勢い良く開け放たれた。

――「た、大変です!」
「どうした?!」

突然の報告者に全員がどよめく。

「シザーク様が!また三階から転落して…っ!」



…しばしの沈黙。

そしてその後に聞こえる、前に座ったナスタが手元の書類をぐしゃりと握り潰す音。

「(…誰かシザークを縛っておいてくれ)」
カルナラはそう心で嘆きながら、足早に会議室を後にした。

「シザーク様は自覚されていないようですな…!ご自身が非常に重要な……」
「セ、セテ准将。そろそろ私の眼鏡をお返し下さい……」


当のシザークは一階の植え込みに身体を強打しながらも、
再びカルナラに叱られる事を、まだ知らない。


   ―終―



Dragon's Planet Mania 文月様

素敵な文章…、なのにすみません、私の挿絵ないほうが絶対よさそう…(汗)
まだ未来外伝連載が始まってない頃に頂いたもので、自分のキャラがBLになってる事にすごく感動しました…。



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