『ある日の午後』


「竜棲星-ドラゴンズプラネット」二次創作小説
制作--文月様


―「あの!」

突然廊下で後ろから声をかけられて、ある男は立ち止まってから振り返った。

「アルトダ伍長!」

そこにいたのは自分の助手として仕事をしてくれている女性と、同僚の女性2人。

「あ、はい?」

抱えた書類をもう片方の手で押えつつ、アルトダが彼女達へ近付く。
3人とも、何かプレゼントのようなものを大事そうに持っているのが見える。

「これ…私達で作ったんです。食べてみてくれませんか…?」
助手の女性からプレゼントを渡されて、アルトダは一瞬だけ、少し驚いたような顔をした。

「もしかして…これは…」
「今日はバレンタインですよね。いつもお世話になっている気持ちです」
と、同僚の女性が答えて、アルトダへ小さな箱を渡す。

「ありがとうございます」
3人から包みを受け取ったアルトダは、にっこりと笑顔を返してみせた。

「あ………う、嬉しいですっ!!」
いつものように微笑む同僚2人に対し、助手の女性の方は顔を真っ赤にさせて声を上げる。
それにまた驚いたアルトダを見て、同僚達はクスクスと笑っていた。

「私達はこれで失礼します。感想、後で教えて下さいね」
「はい」

3人がアルトダの横を通り過ぎる。
少し離れて、こんな会話が聞こえてきた。


―「…ほら、だから言ったでしょう。アルトダ伍長なら受け取ってくれる、って」
―「う、うん。…どうしよう、お口に合わなかったら…」
―「大丈夫ですよ!頑張って作ったものなんだし」
―「でも…笑ってくれた……。やだ!私、顔真っ赤!!」
―「(…伍長のスマイルって……、無敵よね)」

アルトダは話の趣旨を飲み込めていないのか、ひとり不思議そうな顔をして彼女達を見送っていた。



「…バレンタインか〜。女の子に貰うなら、俺はチョコよりも別なものがいいな」

部屋の椅子に座っていたシザークが声を出した。

「別なもの、ですか?」
『何でしょうか』と聞くように、近くで作業をしていたカルナラが首を傾げる。

「聞きたい?」
「…いえ、やめておきます」

大体の予想がついたのか、ニヤニヤするシザークからすぐに視線をそらした。

「今日もお忍びしよっかな。城にいても何も貰えなさそうだし」
「私が全て毒見するのですか…って、シザーク様。甘いものはお嫌いでは?」
「お前が毒見する必要が無いものを貰ってくるぜ」
「…別な心配をさせないで下さいね……」


『紅茶、お好きでしたよね?』

同封されていたカードにはこんなメッセージと、新しく町に出来た紅茶専門店で発売されている紅茶の缶が入っていた。
香りに弱いアルトダを気遣ってか、フレーバーはシンプルなもので、濃厚な香りとそれでもすっきりとした飲み口が自慢の紅茶だ。
隣に入っていた布の包みには、やや不揃いのクッキーが入っていた。
わざと固めに焼いてあって、少しだけハーブの香りがする。
紅茶によく合いそうだ。恐らくあの女性の手作りなのだろう。

「…」

アルトダはデスクにそのプレゼントを置いたまま席を立つと、白い壁に仕切られた隣の部屋へと向かう。
入り口のところで、黙々とペンを走らせている助手の女性が見えた。

「…作業、終わりそうですか?」
「あ!」

突然声が聞こえて、それまで気付かなかったのか、女性が飛び跳ねるように顔を上げる。

「ご、ごめんなさい…。まだ全然終わってません…」

先程、アルトダにプレゼントを渡した女性だった。

「いえ、そうではなく…。邪魔をしては悪いと思って……」
「…?」

「一緒にお茶をしませんか?美味しい紅茶を淹れる自信はまだありませんが……」
「は、はい…!」

ある日の午後の、出来事だった。



―「カルナラって毎年バレンタイン、貰ってるの?」
―「…秘密です」
―「何だよー。…オレ、好かれてるよな?日頃からみんなに感謝されてるよな!?」
―「どうしたのですか、突然。…心配になったんですか?」
―「准将よりは貰えるよなー、チョコ!!」
―「(どうしていつも准将を引き合いに…。それより甘いもの嫌いなんじゃ……)」


Dragon's Planet Mania 文月様


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