『鎖と、心で』18禁(♂×♂)


「竜棲星-ドラゴンズプラネット」二次創作小説
制作--文月様

「カルナラ×ナスタ バージョン」





 "シャラン..."

微かな金属音にシザークは顔を上げた。
「……」
音のした方向にいるのは、一人の男。制服に身を包み、腕章をつけ、黒い髪の、背の高い男―カルナラだった。
「?」
視線に気付いたのか、カルナラがシザークの方へ向き直る。
「どうかなさいました?」
「いや…」
『勘違いかも』と思ったがとりあえず、とシザークが口を開く。
「…カルナラ。アクセサリー、つけてる?」
「えっ?!」
シザークの言葉に、カルナラは思わず自分の右手首を握りしめた。
「…」
無言でもシザークの目がそこへ動く。とっさに手首を押さえた事からすると、ブレスレットの類なのだろう。
ニヤリと、シザークの顔が笑った。
「珍しいな。お前がアクセサリーつけてるなんて。確か全然持ってないんじゃ…」
興味本位でシザークがカルナラに詰め寄り、その腕を覗き込む。
「い、いえ!」
「見せろって。お前がどんなものつけて…」
強引に腕をどかして見えたものは、シザークの予想をはるかに超えたものだった。
「…るか興味が…あ…る…?」
ブレスレットというよりも、単なる『鎖』という表現の方がいいだろうか。
まるで剣の鞘に繋いでおくような銀色の鎖が、カルナラの手首にあった。
鎖の中では細い方だが、それでも装飾品としては少しセンスに欠けていて、重苦しい雰囲気である。
「…鎖?」
「チェーン…です」
言い換えになっていないカルナラの返事。
彼の少しうつむいた顔に、シザークはなにか罪悪めいたものを感じた。
何かを隠している顔だ。しかも、大概はカルナラにとって都合の悪い事を隠している顔。
「お前にこんな趣味、あったっけ?」
以前、アクセサリーが好きなシザークに対し、カルナラは『危険だ』と言っていた事もあった。
どうやら鋭利な部分が肌を傷付けると思っているらしい。
「…いえ、頂き物です」
カルナラはそれだけ答えると、すぐにシザークから顔をそらした。それ以上詮索されたくないようである。
「…ふーん」
少しカルナラの様子が変だと思ったものの、その時のシザークも別段、気にとめなかった。
 "...シャリン"
カルナラが動く度、腕のチェーンが小さく音を立てる。
ため息をついて、カルナラは自分の手首に触れた。

何度触れてみても、自分の腕に巻かれている。

何度…触れてみても。


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―「遅かったな」
部屋の主はややきつめの声で、カルナラを迎えた。いつもの椅子に座り、頬杖をついてドアの方を見つめている。
その、鋭い緋色の瞳で。
「……逃げるのかと思ったが、来たのか」
「…」
カルナラが無言で小さく頭を下げた。
わざと無表情を装っているようで、その態度が気に食わなかったのか、部屋の主の顔が少し歪む。
だが、すぐに目を細めて微笑んでみせた。
「…さぁ、今夜はどうしようか」
弾むような声で、部屋の主―ナスタが尋ねる。その楽しそうな表情とは対照的に、カルナラは顔を強張らせていた。
「……もう、慣れただろう?」
表情を読み取ったのか、ナスタは笑って、彼の側へゆっくりと歩み寄る。
力の入った肩に手を伸ばし、少しだけ指に触れた後ろ髪を、優しく撫でる。
"シャラ..."
カルナラが動かした手から、微かな音が聞こえた。ナスタが嬉しそうに笑みを浮かべる。
「似合っているよ」
「……」
微笑みながらカルナラの背後にあるドアへ近付き、鍵をかけた。
無情な金属音が、カルナラの体に響いては消えた。
「……」
ナスタはドアへ寄りかかって腕を組むと、無言でカルナラの背中を見つめる。
その黒い髪、均整のとれた身体、血の通った心。
こんなにも近くにいるというのに、遠い存在に思える。
あの夜も、あんなに近くにいたというのに。
カルナラは視線に気付いているが、振り返ろうとはしなかった。黙ったまま、主がいなくなった椅子を見つめている。
音もなく手が伸ばされ、背後から、ナスタの長い腕に抱かれた。
「……どうした?呼吸が荒いぞ」
耳元で囁かれた言葉に、カルナラが思わず自分の口を塞ぐ。
ナスタはそのまま、まだ残っているカルナラの耳に囁いた。
「覚えているだろう?…あの夜、ここで何をしたのか」
「!」
振り返ろうとしたが、再び耳が反応する。冷たく、全身を縛るような感覚と、濡れた水の音。
ナスタの舌がゆっくり、彼の耳を撫でていた。
「……あ……ッ!」
声が漏れる。
思い出してしまう。あの夜の記憶を。
耳に触れられただけで体が熱くなる。
ナスタはその反応を冷静な面持ちで見つめ、口元を緩ませた。
「さぁ……行こうか」
その笑みはカルナラへ向けられたのではなかったかもしれない。
彼は頭によぎったある男の姿を、黒い闇の奥へ消し去った。
自分の弟の姿を。

…嘲笑いながら。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 ベッドサイドに立ち尽くすカルナラへ、ナスタが近付く。
その細い指で、ダーク・スーツのボタンをひとつひとつ外していった。
きちんとプレスされたジャケットが、静かに寝室の床へと落とされる。
ナスタの手は止まらずに、白いシャツも脱がし、その場へ打ち捨てた。
「…」
カルナラの右腕に光る鎖。それよりも目を引くのは、胸につけられた"刻印"だった。
赤く肌に浮き上がるその印は、彼の胸元を斜めに切り裂くように刻まれていた。
まるで、鎖で縛られた痕のように。
「…」
ナスタは大きめのベッドに腰を下ろし、カルナラの胸元に描かれた赤い線へ、ゆっくりと舌を這わせた。
「…うっ…!」
甘い刺激に襲われ、カルナラが顔をそむける。硬く握りしめた手に、冷たい物体が当たった。
「…!」
カルナラが見たものは、手首に巻かれたものよりも長い、鎖であった。あの夜、自分を拘束した鎖だ。
その鎖を手に、ナスタが声をかける。
「…おいで」
まるで飼い犬を呼び寄せる時のような言い方。カルナラは何も言わずにそれに従う。
耳障りな金属音。長い鎖は枕元から二本、伸ばされていた。
少しだけカルナラがベッドへ近づくと、ナスタは何も言わず、彼のブレスレットに鎖の一本を繋げた。
そして、深い口づけを送る。
「…く…―…ッ」
カルナラは必死に何か抑えているようだった。
呼吸を乱されそうになり、喉が軽い音を立てる。だが、それでも熱を受け入れ、拒もうとはしない。
「素直だな…」
キスの合間にナスタが声を漏らす。
"シャン..."
もう一本の鎖が近付けられ、肌が過剰に反応する。
長めの鎖はカルナラの上半身に巻きつき、その身体をきつく縛り上げた。
「……」
カルナラは黙ったまま自分の体を見つめる。
囚人のように束縛された姿。
左手は解放されたままだ。だが、右手には鎖が巻かれ、それがベッドへと繋がっている。
露になった素肌の上を、鎖が巻き付いて離れない。
無機質な冷気が肌に触れる。
解こうと動いてみても、ただ鎖の擦れた音が響くだけであった。
「…こんな事で………私を…」
「知っているだろう。欲しいんだ」
ナスタが強引にカルナラの言葉を止める。
彼の髪が揺れ、再び口づけた。
「私はお前の全てが欲しい。シザークが知らないお前の全てを…」
鎖によって自由を奪われたカルナラの前で、ナスタは微笑むような表情を見せる。

    全てが欲しいんだ。

    たとえシザークがお前の全てを知っていようが、私がそれを全て、奪ってやる。

   シザークは知らないはずだろう?

   お前がこんなに……。

「…」
シザークという名を耳にしたからか、カルナラが苦しそうに横を向く。
ナスタの視線が険しくなる。
「あれほど…私が与えたものを忘れたのか?」
そう言って、ナスタはカルナラの体に巻かれた鎖を手前へ引いた。
"ジャラリ..."
強い音を立てて鎖が揺れ、カルナラが自然と前かがみになる。
ひざまずくような格好で、カルナラはナスタのすぐ前に両膝を立てた。
「…そう我慢しなくていい」
ナスタが笑みを浮かべながら、カルナラの下腹部へ手を這わせる。最初は軽くゆっくりと、そしてだんだん激しくなるように。
「………ナスタ様…ッ」
拒むようにカルナラが息を吐く。ナスタはカルナラの右手を繋いでいる鎖を握り、少しだけベッドの方へ手繰り寄せる。
「我慢できないだろう?」
独り言のように、ナスタが呟いた。頭を垂らしながら刺激に対抗するカルナラが、その頭を持ち上げる。
「……」
先程まであんなに濡れていた口は、もう体温との温度差で渇き切ってしまっていた。
荒く渦巻いたもどかしい感情に、自分が何者であるかも忘れてしまうような錯覚に陥る。
「どうした?」
ナスタはそう言って、カルナラの胸元を締めつける鎖を強く、引き寄せた。鎖が今までで一番大きな悲鳴を上げる。
その音と肌が裂かれる痛み、そして主の顔に、カルナラの表情が歪む。
だが彼の虚ろな目は、ナスタへ向けられたまま変わらなかった。
「………」
既に鎖の冷気は感じない。
カルナラはだらんと下ろしていた左手を持ち上げ、頭に当てた。
自分の髪を強くつかむ。
どうしていいか、わからない。
考えれば考えるほど、頭の中がぐちゃぐちゃになるようで。
苦しそうに声を殺すカルナラへ、ナスタが再び微笑んだ。
「……欲しいんだろう?」
張り詰めたものを見れば、すぐにわかる。
どんなに無理をしても、体は欲望へ従順だ。
「………」
「…どうすればいいか、私が教えてやろうか」
ナスタはそう言うと、カルナラのベルトに手をかけた。


   カルナラは狂う。

   あの夜のように………。


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止まる事も許されず、離れる事も許されない。
右手を繋いだ鎖が揺れる。
左手でその長い髪を触り、強く押さえる。
自分が、誰と何をやっているのかさえ、わからなくなる。
この身体の下にいるのは誰なのか、自分を鎖で締め付けるのは何者なのか。
自分が望んだものではなかったはずだ。
望むものはきっと、違う。
だが、この部屋から逃げられない。
鎖で繋がれる事に逆らえない。
この繋がれた身体で、彼を抱くことをやめられない。

―「……っ」
ベッドの白いシーツに顔をつけ、ナスタが声を漏らした。
金色の綺麗な髪がその表情を隠すように揺れる。
背中から伝わる、カルナラの熱。衝動。
合わさった肌から、鼓動が聞こえる。
自分を求めて早く刻まれる鼓動と、荒い、男の呼吸。
「……ぁ・・・っ!……っ」
声を出そうとするが、言葉にならない。
ずっと今まで自分が彼を支配していたのに、抱かれるといつもそうだった。
何も言えない。
自分が何も伝えなくとも、彼は自分の欲するものをわかっている。

「……」
カルナラは無言で、その表情を見つめた。そして思わず、ナスタの髪を右手ですくう。
"...シャラ"
小さく、鎖が揺れる。
いつもの表情とはまったく違う。あの誰かを恨むようなあの恐ろしい瞳ではない。
辛そうに眉をひそめたその表情が、逆に愛しくも見える。
「……」
カルナラは、その瞳に少し心を許してしまう自分に気付いた。
否定するように頭を振る。
様々な記憶が過ぎっては消える。
心を縛り付ける様々な感情。
感覚を失っているはずの傷痕が熱く、痛い。

背後から抱いたナスタの身体は、いつもより小さく見えていた。
色白で、女性を思わせるような肌。
思い切り強く抱くと、その肌が心地よかった。
「…あっ…」
カルナラが動くたび、ナスタはその下で小さな声を上げる。
緋色の瞳が、虚ろに揺らめいたのが見えた。

今なら、全てから解放されるかもしれない。
そんな考えよりも先に、身体が動く。
白い背へなぞるように触れて、己を突き動かす。


壊せるものなら、壊したい。
溶かせるものなら、溶かしたい。
忘れられるものなら、忘れたい。

―もっと…… もっとだ……

―もっと…

愛の必要なこの行為に、偽りの愛など必要ないはずである。
なのにここまで熱くなれるのは、偽りではないからなのか。
それとも、自身の心へ嘘をつくのが上手いからなのか。

現実には、受け入れがたいものがありすぎる。
せめてこの部屋の中だけは……。


「あなたを、支配したい…」









                                          Fin
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Dragon's Planet Mania 文月様


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