『休憩中』

「竜棲星-ドラゴンズプラネット」二次創作小説
制作--文月様



今だったら 勝てるような気がする。

「……と、いうこと」

話が終わり、男は太陽を見上げ、少し眩しそうに目を細める。
SP詰め所に近い野外のベンチで話し声がする。

「そっか!なんだかお前らしいな」

楽しそうに肩を動かし笑いながら、別な男が席を立つ。
太陽の光を遮って、男はベンチへ背の高い影を落とした。

「悪かったな。話に付き合ってもらって」
彼がまだ座ったままの男へ声をかける。
「こっちこそ。話したら少しすっきりした」
「仕事溜まってるんだろ?」
「午前中にあらかた片付けたよ。非番の日は時間もあるから」
「シザーク様に付きっきりじゃなくて済むし、って?」
「そんな事思ってないさ」

軽くスーツを直すフィズへ、そうカルナラが答えた。
フィズが制服を着ているのに対し、カルナラは私服である。

「おっ、そろそろ休憩終了だ。戻るなっ」
「ああ」

軽く右手で挨拶を返し、フィズの後ろ姿を見送っていたカルナラ。
と、何かを思いついたのか彼もまた、ベンチから腰を上げた。

「ん?」

フィズが振り返ると、頭をかきながら自分の方へ進んでくるカルナラが目に入る。

「…そう言えば詰め所にまだ」

"片付ける書類が…"と言葉を繋げようとして、それは突如後ろから聞こえた物音でかき消された。

「だあぁぁっ!」

カルナラの背中めがけて突っ込んでくる人物。
振り向いたカルナラの瞳が一瞬だけ、真剣な光を放つ。
人物は勢いに任せて右拳を振り切ろうとしたが、その前にカルナラの体が横を向き、攻撃はいとも簡単に避けられた。
そして、カルナラの前にいた…。

「え!?」

フィズの顔面に拳が当たるか否かのところで、パァンと張りつめた音が響いた。

「…あ、危なかった〜……」

右手で拳を受け止めたフィズが真顔でため息をつく。

「ご、ごめん!フィズ准尉に当てるつもりは……」

少し顔を唖然とさせて、突っ込んできた人物は慌てて拳を引っ込めた。

「シ、シザーク様!」

絶叫にも似たカルナラの声が響く。

「一体どうしたのですか?」

彼はフィズの前に立ち、つい先程、衝撃的な登場をしたシザークを見つめる。
その顔は付き人というよりも、教育者のような顔である。

「…つい」

シザークもまた、教師の前に立つ生徒のように目をそらしながら、頬をかいていた。

「つい、ってあなた……」
「今のカルナラだったら、勝てそうだったから」
「え?」

カルナラとフィズが同時に声を上げる。

「一度は不意打ちを成功させてみたくてさ〜」
「不意打ち?」
「今日、非番だろ?だったらいつもより、ぼけーとしてるかと思って」
「…はぁ…?」

言葉の意味がよく飲み込めないのか、カルナラがガクンと肩を落とす。
その後ろで、微かな声がした。

「…くくく…」
「…フィズ准尉?」

今度はカルナラとシザークが同時の声を出す。
二人が見たのは、腹を抱えながら笑うフィズであった。

「ははは…、すみません、ついっ」

笑いを堪えるように、フィズが声を出す。

「カルナラ、ほんっっと、のほほんとした顔してますよね!」
「…悪かったな」

釈然としない顔でカルナラが呟く。

「でも、これでも強いんですよ。運動神経いいし。剣は苦手みたいですけど」
「ん〜…カルナラに教わったからか?オレが剣、苦手なの」
「ひどい言い方ですね」

カルナラが笑い合う二人の間に割って入る。

「シザーク様、危険ですから無闇な行動はお控えください!私は部屋に戻りますっ」

彼は一方的にそう言うと、城の方へ歩き出した。

「あ、カルナラ……」

その姿をシザークが目で追う。
怒らせたかと少し悲しげな顔をしていたが、フィズの方はいつもの表情のまま、シザークの隣に立つ。

「シザーク様。……カルナラの不意を付くならば、こっちの方が有効ですよ」

フィズはそう笑みを浮かべ、左手を腰に、右手を自分の顔に近づけ、こう声を張り上げた。

「カルナラ准尉ってー、まだ彼女いないんですよねーー」
「!」

ぐさり。と音がしたようだった。カルナラの背中が面白いほどに跳ねる。

「………フィズ……准尉…」

ゆっくりとした動作で振り返るカルナラへ、ニヤリと、シザークが笑った。
彼もまた、意味ありげな笑みで。

― でも、本当に…。

フィズは自分の目の前の光景を見て、心の中で呟く。

― シザーク様とカルナラって、本当にきょうだいみたいだ。

そして、カルナラが自分に話した内容を思い出し、再び、思う。

― やっぱりカルナラが兄貴、だよなぁ……。

のほほんとした顔をしていても、本当は心配性なのかもしれない。
"さっきもシザーク様に関する愚痴を聞かされたばかりだった"、と、二人には決して聞こえぬよう、フィズが心の中で呟いた。

   ―終―


 
頂いたコメントも嬉しかったのです♪(抜粋)

「フィズさんの普段を想像……。
外伝の反応から、恐らくフィズさんはこんな性格ではない、と思いつつ。
シザークとも仲がいいといいなぁ…(ただの妄想です)
カルナラが咄嗟にシザークを避ける…のは考えられませんよね(><)
普通ならば、フィズさんのように受け止めるはず。

描写では書きませんでしたが、何となく、フィズさんは休憩中、外でぼーっとしているような気がして。
イメージとしては昼休みに公園でパンを食べるサラリーマンでした(えー…)」
Dragon's Planet Mania 文月様



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