『Legend of Nasta』 「竜棲星-ドラゴンズプラネット」二次創作小説
制作--文月様 この広い世界には、数々の伝説が存在する。 それ等のほとんどは単なる娯楽として人々に伝えられているものだが、 具体的な事柄についてが語られた伝説については、かつてはその内容が真実であると誰もが信じていた。 たとえ、それが誰も見ていなかった事であったとしても、 はたまた、とても信じられないような不思議な現象であったとしても……。 ◆9年前◆ 「おいて行くぞ、シザーク!」 「ま、待ってよ…」 平凡な一日だった。 カルナラは二人のきょうだいの様子を、木陰に腰を下ろし、何気なく見ていた。 ぐいぐいと弟を引っ張っていくナスタに、その後を必死でついて行くシザーク。 その姿はほほえましく、平和そのものである。 だが、そのカルナラの笑みも続かなかった。 「うわっぁ」 バタンと大きな音を立ててシザークが転んだ。 「シザークさま!」 「……」 カルナラが駆け寄る前に、前を歩いていたナスタが振り返り、じっと弟を見下ろす。 「……ううっ…」 シザークはいつものように右手で顔を覆って、今にも泣きそうな顔を隠していた。 「…」 ふと、そんな弟と目が合って、ナスタは一瞬だけ硬直した。 そのナスタの前をカルナラが通り過ぎていく。 「お怪我は?」 「……………ない」 「…よかった」 カルナラはその返答に安堵して、シザークを起こそうと両手を伸ばす。 「さぁ、起きてください。洋服が汚れてしまいますよ」 「…ナスタぁー…っ」 ところがシザークは何を思ったのか、前に立っていたナスタへと手を伸ばした。 「ちょ、ちょっと…」 その土がついた両手でナスタの服をつかみ、自分へ引き寄せる。 抱きつかれて動転しているのか、ナスタは焦り顔でシザークを見ていた。 「……」 カルナラがゆっくりと二、三歩、足を引き、ナスタの服にしがみつくシザークから離れ始める。 「は、離せ、シザーク」 「ううぅ、ナスタ…」 甘えられる事に慣れていないナスタは、行き場のない手を宙へ浮かせていた。 そのままシザークに引っ張り込まれるように地面へ座り、ようやく、その手をシザークの肩へと置く。 そんなナスタを見てから、カルナラは瞳を閉じる。 これがきょうだいの姿であろう。 ナスタは普段から厳しい事ばかりシザークへ言うが、本当は彼を心から心配しているのだ。 それをうまく表現できないだけで。 ところが…。 「カルナラーーーーーーッッッ!!!」 「!?」 今まで聞いた事もないようなシザークの絶叫が庭中に響き渡った。 力が抜けてその場に座り込んでいる彼の元へ、血相を変えてカルナラが走り寄る。 「どうしました!?」 シザークは涙を溜め、唖然とした顔で地面を見つめていた。 その前には同じく、ただ地面を見つめるナスタがいる。 「と、とととととと取れた…!」 「…え?」 「ナスタの"胸"が取れたーーーー!!」 「………あ」 カルナラが地面に転がっている物体を見て声を上げる。 「うぅ…ポロって…取れた…取れ……ちゃった………うわぁぁぁーーん!!」 「シ、シザークさま…大丈夫ですから……」 「ごめんねナスタ…!!ごめん…! ひっく…。僕…ナスタがお兄ちゃんになっても……ちゃんと言うこと聞くから……!!」 ◆現在◆ 「ん?9年前の事?」 「はい」 「んー…特にすごい記憶してる事は…ないけど…」 「そうですか」 「何で?」 「い、いえ…」 カルナラが心の中で思う。 「(よかった…トラウマになってなくて)」 ただ、あれ以来、シザークがナスタに飛びつかなくなったのは、偶然ではなかったのかもしれない。 あの事件から、ナスタの服も改良を重ねられ、より安定性のあり、型崩れのしないものへ進化した。 今では一部の愛好家にも幻の名品として密やかに語り継がれている。 と、いう話が真実であるかは、定かではない。 これもひとつの、伝説である。 ―FIN― |
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