『綺麗なお兄さんは好きですか? 』――2

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「竜棲星-ドラゴンズプラネット」二次創作小説
制作--文月様


―「それで?」

部屋に響く冷静な声。それに続いて聞こえるのは…。

「え、えと…」
「…」
「シザーク様が…あの……」
「…」
「今日一日、弟を代って欲しい…と…」

申し訳なさそうにナスタを見て、アルトダは思い切り頭を下げた。
その胸の前にある両手にはシザークのアウランマダーが大切に包まれている。

「…ロクな事を考えないな、シザークは」

ナスタはため息をついてアルトダへ近付いていった。
彼に触れるか触れないかのところで立ち止まり、その両手を見つめる。

「それは私が預かろう」
「は、はい」

アルトダが素直に頷いて、ナスタへ両手を差し出す。
と、ナスタは不意に笑いながらアルトダへ手を伸ばした。

「え!」

アルトダは一瞬の事でどう反応していいのかわからなかったが、ナスタの手は素早く彼の眼鏡をとらえていた。

「どうせカモフラージュだろう?」

ナスタがそう言って勝手に眼鏡を外す。
その表情がすぐ目の前にあって、アルトダは反応に困り、その結果、再び固まった。

「……」

そんなアルトダを観察するように、ナスタが緋色の瞳を動かす。そしてまた、微笑んだ。

「ほう、間近で見るとやはりカルナラに似ているな」
「え……」

その意味深な笑みにアルトダが声を上ずらせる。
ナスタはその反応にも笑いながら、アルトダの後ろ髪へと指を絡ませた。

「顔のラインも…目元の辺りも…………この首筋もな」
「(ひぇっ!!)」

アルトダの背中がしゃきりんと伸びる。ナスタの指が首筋に一本の線を描いたためだ。

「……」

今にも泣きそうな顔をしているアルトダを見て、ナスタが笑っている。
その真紅に輝く瞳から視線をそらせないアルトダは、そっと心の中で呟きながら、泣いていた。

「(た、助けて………正直、怖いです)」



 一方、シザークの方はどうなっているかと言うと……。


「シザーク様。私は勤務中で……」
「シザーク"様"?!今日、オレはお前の弟なんだぞ!"様"なんて付けるなっ!」
「(また始まった…)」


と、いつもと同じようなものなので…………………………割愛。





「…まぁ、いい」

ナスタは硬直するアルトダの肩をポンと叩くと、すぐにアウランマダーを受け取って、自分のデスクへと戻った。

「(ほっ…)」

その視線と意味ありげに動く指から開放されたアルトダが、心からのため息をつく。

「アルトダ、シザークが迷惑をかけたな」

手にしたままだったアルトダの眼鏡を机の上に置き、ナスタが話を始めた。

「…い、いえ」

いつもの調子に戻った事に安心したのか、アルトダの声もいつも通りである。

「今日の会議だが、予定通りだ。出席してくれ」
「はい」
「資料は既に担当へ回してある。…お前にはいつも通りカルナラに付いてもらう」
「…え?」
「……どうした」

アルトダの間が抜けた声に、ナスタが不思議そうに彼へ目を向ける。

「い、いえ。あ、あの、なぜ准尉の名前が……」
「なぜって……カルナラは"お前の"付き人だろう?」

「え゛」

「そうか、今日は資料を別の者に頼むか。"新しい"伍長はアテにならないだろうからな」
「ナ、ナスタ様?」

着々と書類をまとめ、会議室へ向かう準備をするナスタ。

「今日の会議は怒鳴らなくて済みそうだ」
「えっええ…?」
「理解力がある"弟"で助かる」


「……まだ続いてるんですか…」




  『綺麗なお兄さんは好きですか?』05/5/21       >>>>>続く





次回・「本当の兄弟」

―「すみません…。"伍長"にまで迷惑をかけてしまって」

―「あ……(よかった!!この人は普通にしてくれてる)」