『綺麗なお兄さんは好きですか? 』――1


「竜棲星-ドラゴンズプラネット」二次創作小説
制作--文月様


※ 本編(漫画)とはストーリー展開が一部異なっています。
  ナスタとアルトダの正体がバレても、普通に暮らしているという設定です。


「なぁー…」

ぽわんと口を開けて、机に腰掛けたシザークが天井を見上げる。
その横でいつも通り仕事をしていたアルトダは、その気だるい声にペンを止めて、彼と同じように上を見た。

「何でしょう?」
「………兄貴、取り替えない?」
「…はい?」

と、聞き返すアルトダ。シザークは彼へ視線を向け、話を続ける。

「一日ぐらいナスタの弟になってみろよ」
「え?」

彼の顔があまりにも真剣だったからか、アルトダは思わず眼鏡を押え、自分の目がきちんと真実を見ているかを確認する。
もっとも、伊達眼鏡のために視力の矯正はないが。

「シ、シザーク様?そ、それってどういう意味…」
「だーかーらー!」

シザークはじれったそうに声を出し、机から腰を上げる。
そしてアルトダの前に身をかがめ、覗き込むように彼の顔へ詰め寄った。

「お前がナスタの弟で、オレがカルナラの弟になるの!」
「わ、私がナスタ様の?!」
「そう」

と、シザークがニヤリと笑った。

「ちょ、ちょっと待ってください!ナスタ様はシザーク様の…」
「アルトダ、一日だけ!オレがカルナラの弟になる代わりに!」
「そ、そんな…。カルナラ准尉は何て言っ…!」
「多分、何も言わないだろ」
「……」
「ナスタはいいぞー。カルナラと違って美形だし」
「…別に容姿が問題では……」
「カルナラより剣の扱いもうまいぞ。教えてもらえば?」
「私は内務担当ですので…」
「しかもナスタはよく気がつくし、優しくて、弟想いの良いお兄さんだぞー」
「……本気で言ってます?」
「もちろん」

そう言うシザークの瞳はアルトダを見ていない。

「…べ、別にシザーク様が准尉の弟になるのでしたら、私の事は気になさらないでください。
 ナスタ様だって、お困りになるでしょうし……」

焦ったように、それでも笑顔を返すアルトダ。
そんなアルトダを見たシザークは、不意に瞳を閉じた。
先程まで座っていた机に手を添えて、再び、天井を見上げる。

「……ナスタは、さ」
「?」
「…オレの事、嫌ってるんだ。お前みたいな弟を望んでた、きっと」
「シザーク……さま……?」
「わかってる。オレだって、心のどこかでナスタを避けていたのかもしれない」
「…」

その辛そうな瞳に、アルトダがかける言葉を失う。

「もっと色んなヤツにナスタを知って欲しいんだよ」
「…」
「そしたらナスタだって……」
「………………わ、わかりました」
「ホント?」

アルトダの呟きに、憂いの目をしていたシザークの顔が一瞬にして変わった。
いや、いつものように戻った、と言った方が正しいかもしれない。

「え」

その変化に、アルトダが唖然とする。
シザークはウキウキと口の端を上げて、自分の耳についているアウランマダーを外し始めていた。

「アルトダ!皇太子の仕事なんてな、ただ会議に出てるだけだから!」
「え、み、身分はそのままなんですよね!?」

アルトダの言葉をかき消すように、いささか乱暴に置かれた耳飾りが音を立てる。

「もちろん…………今日一日はお前が"皇子様"」
「……え゛」
「じゃあ、カルナラに伝えてくるなー♪」

シザークは固まったアルトダを置き去りにして、執務室を出て行った。

「………」

何が起こっているのか飲み込めないようで、アルトダはしばらくの間、固まったままだった。
ふっと我に返り、シザークの後を追おうと部屋を出る。

「…ナ、ナスタ様にはちゃんと……」

"お伝えになったんですよねぇ…?"というアルトダの声が廊下に響くものの、
そのか細い声を聞いている者は、誰もいなかった。



  『綺麗なお兄さんは好きですか?』 05/5/19       >>>>>続く





次回・アルトダの受難


―「ほう、間近で見るとやはりカルナラに似ているな」

―「(た、助けて………正直、怖いです)」





背景素材うんちく・・・緋色(じゃないけど)のバラの花言葉は、情事、灼熱の恋、陰謀

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