Sweet Surrender BL18禁
「どうした。まだ本調子じゃないのか」
フィズに言われてふと我に返る。書きかけの書類はインク染みで散々なことになっていた。 「それ、総務に行かないと新しいのもらえないぞ」 フィズがニシシと笑った。自分の完璧にかき上げた同じ書類を持ち、目の前でひらひらとさせる。 それを鬱陶しそうに手で払うと、失敗してしまったものは仕方ない、と新しい書類を貰いに詰め所を後にしようとする。 そんなカルナラに、フィズは先ほどとは違う、真面目な声をかけた。 「陛下がお前のこと気にしてたぞ。仕事以外じゃ顔見せに行ってないんだって? 珍しいな。喧嘩でもしたのか?」 特に喧嘩をしたわけではなかった。 どう接すればいいのか分からなかった。こんな気分になるのは、初めてシザークを抱いたあの時以来だった。 ―――それはベッドの中でのことだった。 「今日はオレが攻めたい感じ」 と、いつものようにあっけらかんと言うので、シザークの愛撫に身をゆだねることにした。 昔から言い出したら聞かないのであきらめもあったし、ここのところの激務で疲れていてあまり動きたくない、というのもあった。 愛でる。撫でる。舐める。食む。 いつもと同じ愛撫であったが、ひとつだけ違うものがあった。 それはカルナラにシザークを触らせないことだ。 愛撫を返そうとすると、目で制される。 カルナラはおとなしくシザークの与える快感に酔うことにした。素直に気持ちいいと思った。 勃ち上がってきたものを根元から舐め上げられ、目の裏がチカチカとする。 カルナラはシザークの名前を読んだ。欲望に掠れたこの声がシザークは好きだった。 不意にシザークの指がカルナラの奥のつぼみに触れた。 ピクンと体が反応する。 「ちょ・・・シザー・・・・・・」 躊躇いも無く暖かく濡れた物がそこを蠢いた。 「くっ…ン」 出そうとしているわけではないが、声が漏れてしまう。気持ちいいというより、ゾクゾクとした未知の感覚がカルナラを襲う。 「結構気持ちいいだろ?」 口元を右手で拭い、もう片方の手でポケットを探った。 出てきたのは見覚えのあるチューブだ。 ―――まさか。 跳ね起きようとして軽く足を振り上げた途端、シザークが小さく痛みを訴え目を押さえた。 本能でシザークのそばへ行き、痛む場所を見ようとする。 「シザーク!」 シザークはぐっと目を押さえ、俯いたままだ。見せて、と指を外そうとするとシザークは首を振ってそれを拒否する。 「今タオルを濡らしてきます」 大きなベットから降りようとシザークに背中を向けた。しかし、腰に白い腕が回されてグイと引き戻される。 「そのまま・・・動くなよ。蹴られるのは好きじゃない」 その台詞に目のことは嘘なのかと思った。しかし、真剣な顔つきで腰を抱きなおすシザークの片目はやや細められ、潤んでいた。 目のどの変にぶつけてしまったのか・・・。こんな体勢なのに、シザークを心配してしまう。 「今日はオレにヤらして。大丈夫だから」 大丈夫だから。と言われて激しく戸惑った。 「シザーク…あの……」 「本当にする。させて。冗談じゃなくて」 なぜ、そこで頷いてしまったのか、カルナラには理解できなかった。 「その顔、エロいじゃん……」 ペロリと唇を舐めて、シザークが言った。 カルナラとしてはそっちの方がエロティックだと思うが、今は感情の波に流されないように踏ん張るのに必死だった。 「ねえ、ちょっとは声出してよ」 「でも……」 「そういう苦しい、切ない顔も悪くないけどさ、もっと反応してくれないとさ、わかんないよ」 ふっと息を吐く。 「お前が感じてるのか、痛いのかってさ」 「あ……」 中で動かしていた指の動きを止めると、カルナラが少しホッとした顔をした。 そんなカルナラに、意地悪くシザークが笑った。 嫌な予感がする。 「なぁ、この指抜くと、次はオレのが入るけどどうする?」 「シザーク……」 「指か、オレか。選んでよ」 何を唐突に言うのだろうか、この人は。 カルナラは呆れてものが言えなかった。 それなのにシザークは判断を急かす。 「十数えるうちに答えなければオレのを突っ込む。じゃあ数えるぞ? いーち、にーぃ、さーん、しーぃ……」 「わかりました!」 無慈悲にも数を数えていくシザークに対し、カルナラは降参の形で両手を胸に掲げた。 「遅かれ早かれ…そうなるならば、早くすれば……その、早く終わるんですよね?」 「お前なぁ、もっと……まあいいや。気が変わらないうちに頂いとくから」 シザークは指を引き抜くと、慣れた手つきで避妊具を取り出して自分に被せる。 カルナラはこの時間どうして言いか分らず、ただ手で顔を覆った。 「顔見たいから前からするよ」 膝を抱えて入り込むと、シザークは指で一度位置を確認してから、切っ先を押し当てた。 「息、止めるなよ」 そう一声かけて、柔らかくした部分へ入った。 「ふ……」 「息を止めるなって言っただろ?」 少しずつ、グイグイと自分を排除しようとする肉を掻き分けていく。 「あ…ぁ」 ぎゅっと目を閉じたカルナラの瞼にそっと触れ、自分の方を向かせた。 くすんだ翠が涙で潤み、不思議な色に光っていた。 眦にキスをし、カルナラが落ち着くのを待つ。 「全部入った……中がすっごい動いてる。自分でわかる?」 圧迫感に言葉が出ず、カルナラは首をただ一度横に振っただけだった。 「凄く気持ちよくてさ、すぐにイッちゃいそう」 愛おしそうに髪を撫ぜると、カルナラはびくりと身体を竦ませた。 全身が性感帯にでもなってしまったのか、少しの刺激でも反応し、その姿にシザークは少し笑みを浮かべる。 「動くよ」 そう言ってシザークも律動を始めた。 久しぶりの刺激に蕩けそうになる。 (前よりも気持ちいい……) そう思うのはなぜだろうか。 後ろの刺激の良さを知ってしまったからだろうか。 カルナラもこの良さを知ると、自分に挿入した時にもっと気持ちよくなってくれるだろうか。 シザークはそんな風に思った。 「カルナラ、忘れられないくらい気持ちよくしてやるからな」 震える砲身に手を絡める。 意外といい反応をしており、カルナラ自身も満更ではないようだ。 あとは気持ちの問題か、と取り敢えず理性が飛ぶように擦りあげる。 「ぁ…くン……」 「たまにはオレに任せてよ。オレだけしか見たこと無い顔を見せてよ。ね、カルナラ……」 白濁したミルクのような波に揉まれていたカルナラは、シザークからのその甘い口付けに完全に―――溶けた。 気が付いたときには、目の前にふわふわの金髪と、シザークの寝顔があった。 勝気な瞳も閉じているとガラリと印象を変え、正反対に見える。 そっと体勢を変えようとすると、芯が悲鳴を上げた。 のどの奥で声を噛み殺し、シザークを起こさないようにそろそろとベッドを離れる。 シャワーを、と思ったが身はすでに清められており、シザークを見て溜息を吐いた。 着衣をなんとか整えると、もう振り返らずに部屋を後にする。 外に居たフィズが声をかける前に、気だるそうに手で会話を制し、のそのそと自室に切り上げていく。 気まずい。 どうしよう。 そんな思いで悶々としながら身体をベッドに沈めた。 カルナラは思い出しながら廊下を歩いていた。 明日はシザークの休みであることも、その過程で思い出す。 「カルナラ!」 良く通る声が廊下に響いた。 思わず硬直した形で立ち止まってしまう。 それを見てシザークはぐいとカルナラの腕を取り、柱の影に引っ張っていった。 「逃げるなよ……頼むから逃げないでくれよ。悔やんじゃうじゃないか……」 今度は珍しく押し殺した声だった。 「シザーク……」 「ごめん。怒ってるんだろ?」 抱きしめられたカルナラは頭を振った。 「違います。結果的に最後に望んだのは、私です。ただ……」 青い瞳が不安そうに自分を見ていた。 「ただ、恥ずかしくて。どんな顔をしてあなたに会えばいいか、わからなくて……」 見ないでくれ、と言わんばかりに新しい書類の入った封筒で顔を覆い、冷たい壁に肩を当てた。 「オレに……されたのは嫌じゃなかった?」 「それは―――」 顔を真っ赤にしてカルナラは小さく頷いた。 「他ならぬ、あなたですから嫌というわけでは、その……」 モゴモゴと口ごもるカルナラに、シザークはやっと安堵の笑みを浮かべる。 先程までの憑き物が落ち、心から喜びを露にしていた。 その表情にカルナラは思わずドキリとする。 そうしてこの人には敵わない。と、どこか嬉しい気持ちで言うのだった。 「その……仕事に支障があるので、次されるのであれば、休みの前の日にしていただければ、ありがた……」 言葉は最後まで紡がれず、シザークの唇がそれを飲み込んでいく。 もうすぐ乾季の終わりが見える、ダナヤの空は重かったが、シザークの気持ちはそれを払拭するぐらい晴れ晴れとしていた。 カルナラの心がとても嬉しい。 ここが廊下であることを忘れた二人の長い口付けのあと、シザークは子供のように悪戯な笑みを浮かべて言う。 「じゃあ次は今度の―――」 〜END〜 07/10/12 |