この外伝はアルトダ外伝と同じく、制作はりゅうかではありませんが、本設定です。(9,635文字)
「帰る?」
「はい」
シザークの素っ頓狂な声に、カルナラはそう頷いた。
「いつ?」
「明日です」
「あ、明日? なんでまた急に……」
それに明日は…とシザークは俯いた。
「すみません。日程の調整がうまく付かなくて無理かもしれなかったので、報告が遅れました」
本当にすまなそうにカルナラは頭を下げる。
「……ダは?」
「は?」
「アルトダは? アルトダも帰るの?」
「あ、ええ。ガフィルダも一緒……」
「オレも行く!」
そういきり立ってシザークは廊下に出た。
「無茶言わないでください!」
慌てて制止しようとしたが、ひらりと身を交わして進んでいく。
「行くったら行く! 誰が何と言おうとゼーッタイ行くんだからな!」
◇ ◆ ◇
「成る程、そう言う事情だったわけですか」
よくそれで上が許しましたね、とアルトダは若干呆れ顔だ。
「もうあの時のことは、思い出したくない」
肩を並べて歩くカルナラも疲れた顔をしていた。
騒動の主はアルトダが昔使用していた眼鏡をかけ、昇進パーティの後にナスタから寄贈された仮装セットを使い、フィズっぽい人物になりすましている。鼻歌などを歌い、それはもうご機嫌だ。
付いてくる以上は迷惑かけない、と荷物も自分で持ち、我が儘も今のところ言っていない。
「私もなるべく気を付けて見ますから、兄さんもなにかあれば遠慮なく言ってくださいね」
「ありがとう、ガフィルダ」
溜め息を落とし、眉間の皺を揉んだ。紙が挟めそうなそれに対して母は絶対文句を言うだろう。
その前に突然付いてきたシザークにどんな反応をみせるだろうか。
家の屋根が見えてくると気が重くなる。
このまま家に着かなければいいと思いながらも、それは到底無理な話で、あっと言う間に着いてしまう。
「早く来いよっ」
シザークは門の前で大きく手を振った。
「楽しそうですね」
「うん、楽しいよ。こうやって誰かの家に泊まりに行くのは久々だし」
昔のことを懐かしんでシザークは言った。もう何年コニスの家に泊まりに行ってないだろうか。―――実のところ、泊まりに言ってると思ってるのはシザークだけで、コニスに至っては押しかけられて、狭いベッドの半分を占領され迷惑な事、と思っているらしいが―――
コールスリ家に入った三人を玄関先で出迎えたのはナシムだった。
シザークは嬉しさのあまり飛び付いて抱き締める。
「ナシム! 元気だった?」
「えっと…誰だったかしら」
「オレだよ、オレオレ」
眼鏡とウイッグを外し、シザークはニカッと笑った。
「まぁ! シザーク様!? このようなところにいらしていただけるなんて……」
一瞬目を潤ませたナシムだが、直ぐに長男を振り返り鋭く言う。
「なんでシザーク様がいらっしゃることを言わないの! まったくあなたって子は……」
「ナシム、カルナラを責めないでよ。オレが我が儘を言って無理矢理付いてきたんだから」
シザークが遮って言うとナシムは次男に向かって「そうなの?」と訊ねる。その様子にカルナラは眉を潜めた。
「どれだけ私は信用ないんだよ」
「昔から信用なんかしてないわよ。ずっとしてるのは心配よ。母さん、いつもヘマしてないか心配で……」
ナシムが冷めた目でカルナラを見て言うと、シザークとアルトダは思わず吹き出した。
口をパクパクさせているカルナラを尻目に、ナシムも笑顔でシザークに聞く。
「ところで本当に大丈夫なんですか? このような警備も手薄なところに来られて……」
「ああ。カルナラも一緒だし、行き先もわかってるし、ナシムのことも信頼してるからって納得してくれたよ」
本当は大臣の弱みに付け込んで脅したのだが、そういうことにしておこう。
「とりあえず、部屋に荷物を置いて、着替えてきたいんだけど」
三人にあてがわれた部屋は、以前カルナラとアルトダが仲良く眠ったあの部屋、とは別の大きな部屋だった。
ナシムはシザークには別の部屋を、と言ったが、シザークは断固拒否した。
みんなで枕を並べて眠りたい。そう希望したのだ。
その希望を叶えるべく、キングサイズのベッドにダブルのベッドをくっつけて置いてある。
突然のことにコールスリ家で働く者は大変な思いをしてこれを用意したのだろう。
「ガフィルダはともかく、あなたとシザーク様は体が大きいからこれくらいしないと」
ナシムは笑った。そして、アルトダがグサッとくる一言を放つ。
「この身長差であなたたちあまり体重変わらないって、ちょっと変じゃない?」
「そ、それは私も好きでそういう風になっているんじゃなくて……」
アルトダはしどろもどろだ。
「同じ種と畑なのに、個人差とか体質って面白いわねぇ」
「母さん!」
カルナラの「はしたない」という様な剣幕に、ペロッと舌を出してナシムは部屋を出た。
「荷物の整理ができたらお茶にしましょう」
そう言ってナシムという嵐が去った後、「あぁ、もう!」とカルナラは頭を抱えてベッドに腰を下ろした。
シザークはポカンとしている。
「ナシムってあんなんだっけ?」
「最近、年のせいか、丸くなったというか…くだけてきたんですが、今日はまた一段と……」
「陛下が見えたから、はしゃいでいるのかもしれませんね」
「……帰る頃、カルナラが一気に老け込んでそうだな」
シザークの言葉に、カルナラは静かに肩を落とした。
なんか髪の毛が抜けたような気がする。
荷物を整理し、服を着替えると、三人はティールームに降りてきた。
ティールームは日当たりの良いガーデンテラスになっており、庭の草木を眺めながら静かにお茶が飲めるようになっていた。
「あの、これレイからのお土産です」
アルトダが袋に入ったものをナシムに渡した。
「あらまぁ! きちんとお礼を言っておいてね。『母が喜んでいた』って。それにしてもやっぱり女の子は気が利くわねぇ」
中に入っていた紅茶の缶を取り出し、繁々と見つめる。
「……そのお店、クルズさんに教えたのは私なんだけど」
「買って来なきゃ意味ないじゃないの。馬鹿な子ね」
思わず溜息が出る。
「次に行くときには母さんの分も買ってお持ちします」
「あら、催促したみたいで悪いわね」
態と慇懃に言ったのに、母は勝ち誇ったような顔をした。カルナラは手のひらで踊らされているような感がした。
それをシザークはキラキラした目で見ている。カルナラを手玉に取っている女勇者に感激しているようだ。
「あはははは。当分、兄さんは陛下にこのネタでやりこめられそうですね」
◇ ◆ ◇
お茶の後、カルナラが城に来るまでの話で大いに盛り上がった。
子供の頃に作った工作や絵がどんどん出てきて、そのセンスのなさにみんなで大笑いをした。
当然、カルナラは拗ねてしまい、ニヤニヤしながらシザークがそれを宥めた。
それで気分を直すことはまずありえない。
弟とタッグを組んでは引き上げ、母にまた落とされる、という行為をしばらくは繰り返していた。
普段はできないカルナラの部分に触れて、シザークはとても嬉しかった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
もう夜は遅く、外から小さな虫の声が聞こえた。
「眠れないんですか?」
隣で寝ているアルトダを起こさないように、カルナラが小さく声をかけた。
「ここにいるのが凄く楽しくて、なんか寝るのが勿体無くてさ。明日は帰らないとならないし」
「……場所を変えて少し話でもしますか?」
「うん」
二人は昼にお茶をしたテラスに出てきた。
夜風が心地よくシザークの肌を撫ぜる。
「あの噴水、魚がいるの?」
「ええ。城を離れ、この家に戻った時に私が入れました」
へぇ、とシザークは噴水に寄る。
闇を飲み込んだ様な水面に顔を寄せると、色とりどりの魚が歓迎のダンスを踊る。
「餌を欲しがってるんですよ」
「何かやるものない?」
「残念ながら。明日、朝食が終わったらパンでも持ってきましょう」
「うん、そうしよう!」
彼の笑顔がリラックスしているのが良く分った。すべての表情が生き生きしていた。
度々頭の痛いことはあったが、シザークをここに連れて来る事ができてよかったと思う。
「なあ、カルナラ」
「なんです?」
シザークは言い難そうに鼻の頭をかいていた。
「誰も言わないから…オレの勘違いなのかな」
「はい?」
会話が読めない。
「今日、その…お前の誕生日だろ?」
「え?」
カルナラは腕時計の日付を確認しようとするが、暗くてはっきりしない。
急いで昨日の記憶をたどる。
昨晩、遅くに急ぎの書類が舞い込み、そこに記入した日付は確か、八月三日だった。
次の日の四日の日付にすべきか、聞きに行ったので、昨日が三日であったのに間違いない。
とすると、あと小一時間程で日付が変わりそうな今日が四日となる。
「忘れてました」
情けない表情で頭をかくと、忘れるなよ、とシザークが噴出した。
「ナシムもアルトダも何も言わなかったから、オレが間違ってたのかと思った」
「もうこの年にもなっておめでとうも何もないから、言わなかったのかもしれませんね」
「えー? オレは幾つになっても誕生日は嬉しいよ? 生まれてきたからみんなに出逢えて、カルナラと今こうして話してる」
「シザーク」
「だからオレはカルナラの誕生日が嬉しいよ」
生まれてきてくれて有難う。
ナシムの子供に生まれてきてくれて有難う。
オレのそばにいてくれて有難う。
守ってくれて有難う。
オレを愛してくれて…有難う。
「こういうこと言うの、ガラじゃないけど、今日くらいは素直に言いたくてさ」
照れくさくはにかむシザークを、カルナラは無意識で抱き止めた。
「あなたからそんな言葉をもらえるなんて……。有難う、シザーク」
不覚にも目頭が熱くなる。
シザークが瞳を閉じるのが気配で分った。
噴水の水音が口付けをする二人を包む。深く、浅く、波のようなリズム。
「なんだか、したくなりました」
「ここで?」
「嫌なら、私の部屋で……」
カルナラは手を引いたが、シザークはそれを引っ込めてしまう。
そして悪戯に笑った。
「いいよ、ここで」
「ねえ、その噴水のところに座ってよ」
「ここ?」
シザークが指を指したところにカルナラが腰を下ろした。シザークも隣に腰を下ろす。
パジャマの上に来ていた薄いガウンの裾を割り、シザークの指が入り込んでくる。
「口でしてくれるんですか?」
「して欲しい?」
「ええ、是非」
素直にカルナラが頷くと、シザークはくすぐったそうな顔をして笑った。
そのまま取り出したモノを舐めた。鈴口を含み、そこから裏筋にそっと舌を這わせるとカルナラが息を呑む。
感じているのが嬉しくて、口いっぱいに頬張った。唇をすぼめて上下に扱くと、髪の毛がぐっと掴まれる。
「イイよ、シザーク」
熱い息を吐き出して、カルナラは唸る。
先走りで口元がベタベタになり、質量が限界を知らずに増すモノを、顎がだるくなっても離さなかった。
「シザークのも触らせて」
隣で丸まるように自分をむさぼっているシザークに、カルナラは腕を伸ばした。
ガウンをたくし上げ、ズボン越しに触れると、大きく反応しているシザークがわかる。
「もうこんなになってる。相変わらず反応が早い」
ぬめりを帯びているシザークの棹は、手で擦るとぐちゅぐちゅと水音を立てている。
「ンんんんっ」
気持ちよくされると息苦しくて、咥えているのもやっとだ。
「もっと上手に口に入れないと、全部飲めないよ?」
意地悪く先端の窪みに先走りを塗りこむと、舌が震える。
「ンふ。んんんぁ」
「そう、シザーク。もう少し」
カルナラはシザークを擦る手を止めた。
喉の奥の限界まで頬張り、舌で裏筋をなぞると、カルナラが息を呑む。
手を添えて口と一緒に扱いてやると、口の中に青臭いものが広がる。
ゴクリ。
音を立てて嚥下すると、カルナラの首がかすかに力なく落ちる。脳に酸素を送るため、カルナラが大きく深呼吸を繰り返している。
「気持ちよかった?」
「ええ、とても。今度はあなたを……」
そう言ってカルナラはシザークにキスをする。
「……気持ち悪くない?」
キスの合間に問う。
「ん? した後のキス?」
「ン…ぁん、そう……」
胸の突起を摘まれ、シザークが喘ぐ。
「抵抗がないわけではないですが、シザークが飲んでくれたというだけで、自分の精液でも愛せる、とは思います」
「なに、それ」
薄く笑みを浮かべて、シザークはカルナラに抱きついた。
「日付が変わる前に入れて。誕生日にしなきゃ意味が無いよ」
シザークは噴水のそばにある木に縋るように立っている。
足を割られ、尻を突き出し、秘部をカルナラの舌に犯されていた。
「はっ…くぅ、んん……」
静かな夜だ。
ちょっとでも大声を出せば屋敷の者すべてに聞こえてしまうだろう。
シザークは懸命に堪えた。
舌が孔を侵蝕し、たくさんの唾液を送り込んでくる。
卑猥な孔はしとどにぬれそぼり、カルナラを今か今かと待ち構えていた。
収縮を繰り返す入り口に、シザークが一番欲しいものよりも細い指を差し入れる。
今日はゆっくりと慣らしている時間が無い。早急に三本を収め、抉る様に回転させる。
「シザーク、入れても?」
「う…ん、平気」
辛うじてパジャマの上着が身体に纏っている状態で、尻は剥きだしのまま夜の空気に触れていた。
カルナラの指のぬくもりが去ってしまうと、次にもっと熱いものが来るのが分っているのに、急激に震えが来る。
「寒い?」
問われて首を振る。
「早く……」
「何ていうの? シザーク」
切っ先で入り口を突きながらカルナラは耳朶を噛むと、ゾクリと首筋が粟立つ。
「……い、入れてカルナラ」
催促と共にカルナラは奥へと突き立てた。
「―――――んっ!!」
声はカルナラの手で阻まれた。
強い快感と、閉じた目にチカチカと瞬く強烈なピンク。
シザークは大きく息をついた。それがいつもの合図だった。
満ちるときは体の力を抜き、引くときは力を入れる。
相手と自分が同時に快感を呼べる受け入れ方だ。
「あ、ん…んふ、ぁあ……」
「凄く締まってる。気持ちいいんですか?」
「う、ん。イイ、イイよカルナ、ラ……」
もっと気持ち良くすべく、カルナラはシザークの棹を擦った。
艶やかな声でシザークが啼くと、ぎゅっとカルナラを締め付ける。
「あ…ん、そんな擦ったら出る……」
「出していいですよ? 何度でも気持ちよくさせてあげる」
そうは言いつつも、カルナラの息も荒い。
もしかすると同時に出してしまうかもしれない。
「あっ、あっ、あっ、あ……」
声が小刻みに漏れる。それと同時に手の中のモノは大きく膨れ、今にも爆発しそうだった。
「私のだけで、イッってみて」
「ぁ…ゃ……」
射精感をはぐらかされ、シザークの下半身をマグマが出口を求め暴れだした。
カルナラの刺激だけでイけるように、シザークが一番感じるところを擦ってやる。
「あっんんん……だ、め…イく……」
キツイ締め付けにカルナラも顔を歪めた。
「シザーク、一緒に……」
上体を起こされ、シザークはカルナラと密着した。唇を貪られ、激しく腰を動かされる。
最後の声はカルナラに飲み込まれた。
体を痙攣させ、下腹部で暴れていた精を吐き出すと、がっくりと膝の力が抜け、慌てたカルナラに抱きとめられた。
カルナラの去った後から、残滓がたらりと落ちる。
「く、くたくた……」
「大丈夫ですか? そんなに突っ張ってたんですか?」
「うん…なんか凄い感じちゃってさ。……カルナラの家でしたからかな」
気だるそうにするシザークをカルナラが抱えなおし、噴水のところまでつれてきた。
大理石の石台に寝かせると、冷たくて気持ちがいいと笑う。
「ウチでするのは初めてじゃないですよね」
「お前を予約しに行ったとき? あの時は必死だったから、あんまり覚えてないなぁ」
噴水の水を含ませた布で軽く拭われ、服を調えられると少しすっとした気分になる。
「外でしたからかな。」
「開放感のせいかもしれませんね。よろしければ、本当に外でしたからそうなったのか、私の部屋で試してみませんか?」
カルナラがにっこり笑う。
「えー!? お前二回も出したじゃん! まだやるつもりなのか?」
「シザーク相手なら、無限にも沸きますよ」
「無理! オレは無理だからね!」
「あなたは寝ているだけでいいですよ。空っぽになるまで愛して差し上げますから」
タフなSPは、顔面蒼白の主を抱き上げノッシノッシと歩いていく。
「二回も出したから、次はかなり長く保ちますよ。よかったですね、シザーク」
「〜〜〜〜〜〜!!!!」
二の句が告げなくなったシザークは、そのまま部屋まで連れて行かれ、カルナラが満足するまで可愛がられた……らしい。
「シザーク様はまだ寝てらっしゃるの?」
「昨日、興奮して眠れなくなって夜更かしされたからね」
「せっかく私がパンを焼いたのに、焼き立てを食べてもらえなくて残念だわ」
寂しそうな母の声にアルトダは慰めるように言った。
「このパン、冷めても温めなおしても美味しいから、大丈夫ですよ」
「そうだ、昨日シザーク様が噴水の魚にえさを遣りたいって言ってたんだけど、このパン少しもらってもいい?」
「いいわよ。たくさん焼いたから、母の味をお城にも持って帰ってちょうだいな」
カップを置いてナシムが言った。
「私からの誕生日のお祝いと一緒にね」
彼女から差し出されたのは、細長い包みだった。
「忘れてるのか、興味が無いかのどちらかかと思ったよ」
自嘲気味に笑う息子に、母は言う。
「痛い思いをして産んだ日を忘れるわけ無いじゃないの、なーんてね。大切な子供の誕生日を忘れる親なんていないわよ。ほら開けないの?」
急かされて丁寧に包みを開けた。
中にはシンプルな意匠のアクセサリーが二本入っていた。
よく見ると、埋め込まれたシザークの瞳の様な石の中にコールスリ家の印が浮かぶように入っている。とても不思議な細工だ。
「あなたのことだから、その指輪のお返し、なにもしていないでしょう? 私と父さんのものを直したものなんだけれど、二人に持っていてもらおうと思って。病気の父さんと母さんは離れて暮らしていたけれど、あなたは……あなたたちはもう離れ離れにならないようにって、特殊な技術で二つの鎖を一つに繋げてもらったのよ」
「母さん……有難う。大切にする」
カルナラは母の願いに胸が熱くなった。
鎖の凹凸を指で撫でると、父の面影が浮かんだ。
「私からはこれを。何にしようと悩んだんですが、実用的なもので」
「ガフィルダも? よく私の誕生日を知ってたね」
「やだなぁ兄さん、私の部署をどこだと思ってるんですか?」
ああ、そうだったね。カルナラはアルトダからも包みを受け取った。
「有難う、ガフィルダ。九月の誕生日には何かお返しをするからね。あぁ、これは本当に実用的なものを有難う。さっそく使わせてもらうよ」
中身は様々な素材のブックレートだった。さすがに本好きは、同じ本好きのことを良く分っていた。
「ガフィルダったら昨日さっさと渡そうとするから私が止めたのよ。シザーク様がまだ祝われてなかったらどうするのよって。本当に男の子は気が利かないんだから」
初めての気が利かない呼ばわり。相手が実母だけあり、ちょっと嬉しい。
「それが昨日くれなかった理由?」
カルナラはおかしくて笑った。
「おかげで私も忘れてたし、シザークに至っては本当に昨日が誕生日なのか不安になっていたよ」
「あなたたちらしいわ」
三人は笑った。
それから間もなくしてシザークは起きてきた。
楽しそうな親子を少し羨ましく思い、そしてその幸せそうな様子に目を細めた。
「ごめん、寝坊した」
「おはようございます」
三人は笑顔のままシザークを見る。
「あの後、よく眠れました?」
「うん…まあ、ね」
少々言葉が濁るが、カルナラ以外は気付かなかったようだ
朝食が出てくるのを待つ間、食卓に並んだ好物のフルーツを一つ摘んだシザークは、カルナラの傍らに置かれた包みを見つけた。
「それプレゼント?」
「ええ、先程貰いました」
嬉しそうに笑う。
「じゃあ、二人とも興味がなかったわけじゃなかったんだ。よかったじゃん」
「ええ、素敵な誕生日になりました」
カルナラの笑顔が輝かしい。
今日のカルナラの誕生日は、彼の中でも、シザークの中でもとても記憶に残るものになるだろう。
(よかった。あんな嬉しそうなカルナラの顔、なかなか見れないもんな)
シザークは優しく、愛おしい気持ちで溢れた眼差しを、瞼へと閉じ込めた。
◆ ◇ ◆
「ほう、ナシムはパン作りの才能があるな」
土産にと持ち帰ったパンを食べながら、ナスタは珍しく素直な感想を言う。
「だろ?」
自分は貰っただけなのに、なぜかシザークは鼻高々だ。
「それにしても、昨日いなくなるならそうとこちらにも連絡を寄越せ。お陰で二度も城に来ることになった」
小言を言う間もパンを食べることをやめない。
なかなか気に入ったようだ。
「すみません。まさかナスタ様が直々に来られるとは思わなかったので」
カルナラは二人にお茶と口直しのフルーツを出し、シザークのそばに控えた。
「たまにはお前も労わってやらんとな」
そう言って付き人に大きな箱を持ってこさせた。
「服だ。お前の服のセンスが物凄く悪いとフィズ少尉から聞いてな。王族と近しいお前の服のセンスが最悪だなんて許せん! 我々と付き合うからには、それ相応の格好をしてもらおうか」
そう言って勝手に包みを開く。中には様々なタイプの洋服がぎっしりと詰まっていた。
「ここに服の組み合わせが書いてある。それ以外の組み合わせで着ているのを見かけたときは……わかってるだろうな」
「あ、いや、しかし私服なんて、あまり着る機会が……」
圧倒されながらもカルナラは言うが、やはりこの人に敵うわけが無く、
「わ か っ て る だ ろ う な」
「はい!」
強く言われ、思わず姿勢を正した。
「よろしい。では礼に次の帰宅時には私も誘え。このパンを焼き立てで食ってみたい」
「それは母も喜びます。ナスタ様のことも、よく気にかけていましたから」
「……そうか」
ナスタは少し目を伏せた。そして、その表情を読まれないうちに、さっさとナスタは席を立つ。
「では、帰るぞ。また来る」
「ナスタ様、有難うございました。次は、必ずお誘いします」
「頼むぞ」
「ナスタ、そこまで送るよ。カルナラの家に行って、ちょっと家族って奴に中てられたみたいでさ」
ナスタの後を追うシザークの胸元には、ナシムから託されたペンダントが揺れていた。
「今更だろう、家族なんて」
「今更だから仲良くするんだよ!」
シザークに纏わりつかれているナスタの表情は柔らかい。
幼いあの頃に戻ったようだ、とカルナラはふと思う。
「おい、SP。王様に単独行動させていていいのか?」
「今参ります」
制服の下に隠れたおそろいのペンダントの感触に、くすぐったい気持ちを覚えながら、カルナラは二人の後を早足で追いかけた。
END
Copyright © 2002 竜棲星-Dragon's Planet & たかだ
2007/8/1完結
「はい」
シザークの素っ頓狂な声に、カルナラはそう頷いた。
「いつ?」
「明日です」
「あ、明日? なんでまた急に……」
それに明日は…とシザークは俯いた。
「すみません。日程の調整がうまく付かなくて無理かもしれなかったので、報告が遅れました」
本当にすまなそうにカルナラは頭を下げる。
「……ダは?」
「は?」
「アルトダは? アルトダも帰るの?」
「あ、ええ。ガフィルダも一緒……」
「オレも行く!」
そういきり立ってシザークは廊下に出た。
「無茶言わないでください!」
慌てて制止しようとしたが、ひらりと身を交わして進んでいく。
「行くったら行く! 誰が何と言おうとゼーッタイ行くんだからな!」
「成る程、そう言う事情だったわけですか」
よくそれで上が許しましたね、とアルトダは若干呆れ顔だ。
「もうあの時のことは、思い出したくない」
肩を並べて歩くカルナラも疲れた顔をしていた。
騒動の主はアルトダが昔使用していた眼鏡をかけ、昇進パーティの後にナスタから寄贈された仮装セットを使い、フィズっぽい人物になりすましている。鼻歌などを歌い、それはもうご機嫌だ。
付いてくる以上は迷惑かけない、と荷物も自分で持ち、我が儘も今のところ言っていない。
「私もなるべく気を付けて見ますから、兄さんもなにかあれば遠慮なく言ってくださいね」
「ありがとう、ガフィルダ」
溜め息を落とし、眉間の皺を揉んだ。紙が挟めそうなそれに対して母は絶対文句を言うだろう。
その前に突然付いてきたシザークにどんな反応をみせるだろうか。
家の屋根が見えてくると気が重くなる。
このまま家に着かなければいいと思いながらも、それは到底無理な話で、あっと言う間に着いてしまう。
「早く来いよっ」
シザークは門の前で大きく手を振った。
「楽しそうですね」
「うん、楽しいよ。こうやって誰かの家に泊まりに行くのは久々だし」
昔のことを懐かしんでシザークは言った。もう何年コニスの家に泊まりに行ってないだろうか。―――実のところ、泊まりに言ってると思ってるのはシザークだけで、コニスに至っては押しかけられて、狭いベッドの半分を占領され迷惑な事、と思っているらしいが―――
コールスリ家に入った三人を玄関先で出迎えたのはナシムだった。
シザークは嬉しさのあまり飛び付いて抱き締める。
「ナシム! 元気だった?」
「えっと…誰だったかしら」
「オレだよ、オレオレ」
眼鏡とウイッグを外し、シザークはニカッと笑った。
「まぁ! シザーク様!? このようなところにいらしていただけるなんて……」
一瞬目を潤ませたナシムだが、直ぐに長男を振り返り鋭く言う。
「なんでシザーク様がいらっしゃることを言わないの! まったくあなたって子は……」
「ナシム、カルナラを責めないでよ。オレが我が儘を言って無理矢理付いてきたんだから」
シザークが遮って言うとナシムは次男に向かって「そうなの?」と訊ねる。その様子にカルナラは眉を潜めた。
「どれだけ私は信用ないんだよ」
「昔から信用なんかしてないわよ。ずっとしてるのは心配よ。母さん、いつもヘマしてないか心配で……」
ナシムが冷めた目でカルナラを見て言うと、シザークとアルトダは思わず吹き出した。
口をパクパクさせているカルナラを尻目に、ナシムも笑顔でシザークに聞く。
「ところで本当に大丈夫なんですか? このような警備も手薄なところに来られて……」
「ああ。カルナラも一緒だし、行き先もわかってるし、ナシムのことも信頼してるからって納得してくれたよ」
本当は大臣の弱みに付け込んで脅したのだが、そういうことにしておこう。
「とりあえず、部屋に荷物を置いて、着替えてきたいんだけど」
三人にあてがわれた部屋は、以前カルナラとアルトダが仲良く眠ったあの部屋、とは別の大きな部屋だった。
ナシムはシザークには別の部屋を、と言ったが、シザークは断固拒否した。
みんなで枕を並べて眠りたい。そう希望したのだ。
その希望を叶えるべく、キングサイズのベッドにダブルのベッドをくっつけて置いてある。
突然のことにコールスリ家で働く者は大変な思いをしてこれを用意したのだろう。
「ガフィルダはともかく、あなたとシザーク様は体が大きいからこれくらいしないと」
ナシムは笑った。そして、アルトダがグサッとくる一言を放つ。
「この身長差であなたたちあまり体重変わらないって、ちょっと変じゃない?」
「そ、それは私も好きでそういう風になっているんじゃなくて……」
アルトダはしどろもどろだ。
「同じ種と畑なのに、個人差とか体質って面白いわねぇ」
「母さん!」
カルナラの「はしたない」という様な剣幕に、ペロッと舌を出してナシムは部屋を出た。
「荷物の整理ができたらお茶にしましょう」
そう言ってナシムという嵐が去った後、「あぁ、もう!」とカルナラは頭を抱えてベッドに腰を下ろした。
シザークはポカンとしている。
「ナシムってあんなんだっけ?」
「最近、年のせいか、丸くなったというか…くだけてきたんですが、今日はまた一段と……」
「陛下が見えたから、はしゃいでいるのかもしれませんね」
「……帰る頃、カルナラが一気に老け込んでそうだな」
シザークの言葉に、カルナラは静かに肩を落とした。
なんか髪の毛が抜けたような気がする。
荷物を整理し、服を着替えると、三人はティールームに降りてきた。
ティールームは日当たりの良いガーデンテラスになっており、庭の草木を眺めながら静かにお茶が飲めるようになっていた。
「あの、これレイからのお土産です」
アルトダが袋に入ったものをナシムに渡した。
「あらまぁ! きちんとお礼を言っておいてね。『母が喜んでいた』って。それにしてもやっぱり女の子は気が利くわねぇ」
中に入っていた紅茶の缶を取り出し、繁々と見つめる。
「……そのお店、クルズさんに教えたのは私なんだけど」
「買って来なきゃ意味ないじゃないの。馬鹿な子ね」
思わず溜息が出る。
「次に行くときには母さんの分も買ってお持ちします」
「あら、催促したみたいで悪いわね」
態と慇懃に言ったのに、母は勝ち誇ったような顔をした。カルナラは手のひらで踊らされているような感がした。
それをシザークはキラキラした目で見ている。カルナラを手玉に取っている女勇者に感激しているようだ。
「あはははは。当分、兄さんは陛下にこのネタでやりこめられそうですね」
お茶の後、カルナラが城に来るまでの話で大いに盛り上がった。
子供の頃に作った工作や絵がどんどん出てきて、そのセンスのなさにみんなで大笑いをした。
当然、カルナラは拗ねてしまい、ニヤニヤしながらシザークがそれを宥めた。
それで気分を直すことはまずありえない。
弟とタッグを組んでは引き上げ、母にまた落とされる、という行為をしばらくは繰り返していた。
普段はできないカルナラの部分に触れて、シザークはとても嬉しかった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
もう夜は遅く、外から小さな虫の声が聞こえた。
「眠れないんですか?」
隣で寝ているアルトダを起こさないように、カルナラが小さく声をかけた。
「ここにいるのが凄く楽しくて、なんか寝るのが勿体無くてさ。明日は帰らないとならないし」
「……場所を変えて少し話でもしますか?」
「うん」
二人は昼にお茶をしたテラスに出てきた。
夜風が心地よくシザークの肌を撫ぜる。
「あの噴水、魚がいるの?」
「ええ。城を離れ、この家に戻った時に私が入れました」
へぇ、とシザークは噴水に寄る。
闇を飲み込んだ様な水面に顔を寄せると、色とりどりの魚が歓迎のダンスを踊る。
「餌を欲しがってるんですよ」
「何かやるものない?」
「残念ながら。明日、朝食が終わったらパンでも持ってきましょう」
「うん、そうしよう!」
彼の笑顔がリラックスしているのが良く分った。すべての表情が生き生きしていた。
度々頭の痛いことはあったが、シザークをここに連れて来る事ができてよかったと思う。
「なあ、カルナラ」
「なんです?」
シザークは言い難そうに鼻の頭をかいていた。
「誰も言わないから…オレの勘違いなのかな」
「はい?」
会話が読めない。
「今日、その…お前の誕生日だろ?」
「え?」
カルナラは腕時計の日付を確認しようとするが、暗くてはっきりしない。
急いで昨日の記憶をたどる。
昨晩、遅くに急ぎの書類が舞い込み、そこに記入した日付は確か、八月三日だった。
次の日の四日の日付にすべきか、聞きに行ったので、昨日が三日であったのに間違いない。
とすると、あと小一時間程で日付が変わりそうな今日が四日となる。
「忘れてました」
情けない表情で頭をかくと、忘れるなよ、とシザークが噴出した。
「ナシムもアルトダも何も言わなかったから、オレが間違ってたのかと思った」
「もうこの年にもなっておめでとうも何もないから、言わなかったのかもしれませんね」
「えー? オレは幾つになっても誕生日は嬉しいよ? 生まれてきたからみんなに出逢えて、カルナラと今こうして話してる」
「シザーク」
「だからオレはカルナラの誕生日が嬉しいよ」
生まれてきてくれて有難う。
ナシムの子供に生まれてきてくれて有難う。
オレのそばにいてくれて有難う。
守ってくれて有難う。
オレを愛してくれて…有難う。
「こういうこと言うの、ガラじゃないけど、今日くらいは素直に言いたくてさ」
照れくさくはにかむシザークを、カルナラは無意識で抱き止めた。
「あなたからそんな言葉をもらえるなんて……。有難う、シザーク」
不覚にも目頭が熱くなる。
シザークが瞳を閉じるのが気配で分った。
噴水の水音が口付けをする二人を包む。深く、浅く、波のようなリズム。
「なんだか、したくなりました」
「ここで?」
「嫌なら、私の部屋で……」
カルナラは手を引いたが、シザークはそれを引っ込めてしまう。
そして悪戯に笑った。
「いいよ、ここで」
「ねえ、その噴水のところに座ってよ」
「ここ?」
シザークが指を指したところにカルナラが腰を下ろした。シザークも隣に腰を下ろす。
パジャマの上に来ていた薄いガウンの裾を割り、シザークの指が入り込んでくる。
「口でしてくれるんですか?」
「して欲しい?」
「ええ、是非」
素直にカルナラが頷くと、シザークはくすぐったそうな顔をして笑った。
そのまま取り出したモノを舐めた。鈴口を含み、そこから裏筋にそっと舌を這わせるとカルナラが息を呑む。
感じているのが嬉しくて、口いっぱいに頬張った。唇をすぼめて上下に扱くと、髪の毛がぐっと掴まれる。
「イイよ、シザーク」
熱い息を吐き出して、カルナラは唸る。
先走りで口元がベタベタになり、質量が限界を知らずに増すモノを、顎がだるくなっても離さなかった。
「シザークのも触らせて」
隣で丸まるように自分をむさぼっているシザークに、カルナラは腕を伸ばした。
ガウンをたくし上げ、ズボン越しに触れると、大きく反応しているシザークがわかる。
「もうこんなになってる。相変わらず反応が早い」
ぬめりを帯びているシザークの棹は、手で擦るとぐちゅぐちゅと水音を立てている。
「ンんんんっ」
気持ちよくされると息苦しくて、咥えているのもやっとだ。
「もっと上手に口に入れないと、全部飲めないよ?」
意地悪く先端の窪みに先走りを塗りこむと、舌が震える。
「ンふ。んんんぁ」
「そう、シザーク。もう少し」
カルナラはシザークを擦る手を止めた。
喉の奥の限界まで頬張り、舌で裏筋をなぞると、カルナラが息を呑む。
手を添えて口と一緒に扱いてやると、口の中に青臭いものが広がる。
ゴクリ。
音を立てて嚥下すると、カルナラの首がかすかに力なく落ちる。脳に酸素を送るため、カルナラが大きく深呼吸を繰り返している。
「気持ちよかった?」
「ええ、とても。今度はあなたを……」
そう言ってカルナラはシザークにキスをする。
「……気持ち悪くない?」
キスの合間に問う。
「ん? した後のキス?」
「ン…ぁん、そう……」
胸の突起を摘まれ、シザークが喘ぐ。
「抵抗がないわけではないですが、シザークが飲んでくれたというだけで、自分の精液でも愛せる、とは思います」
「なに、それ」
薄く笑みを浮かべて、シザークはカルナラに抱きついた。
「日付が変わる前に入れて。誕生日にしなきゃ意味が無いよ」
シザークは噴水のそばにある木に縋るように立っている。
足を割られ、尻を突き出し、秘部をカルナラの舌に犯されていた。
「はっ…くぅ、んん……」
静かな夜だ。
ちょっとでも大声を出せば屋敷の者すべてに聞こえてしまうだろう。
シザークは懸命に堪えた。
舌が孔を侵蝕し、たくさんの唾液を送り込んでくる。
卑猥な孔はしとどにぬれそぼり、カルナラを今か今かと待ち構えていた。
収縮を繰り返す入り口に、シザークが一番欲しいものよりも細い指を差し入れる。
今日はゆっくりと慣らしている時間が無い。早急に三本を収め、抉る様に回転させる。
「シザーク、入れても?」
「う…ん、平気」
辛うじてパジャマの上着が身体に纏っている状態で、尻は剥きだしのまま夜の空気に触れていた。
カルナラの指のぬくもりが去ってしまうと、次にもっと熱いものが来るのが分っているのに、急激に震えが来る。
「寒い?」
問われて首を振る。
「早く……」
「何ていうの? シザーク」
切っ先で入り口を突きながらカルナラは耳朶を噛むと、ゾクリと首筋が粟立つ。
「……い、入れてカルナラ」
催促と共にカルナラは奥へと突き立てた。
「―――――んっ!!」
声はカルナラの手で阻まれた。
強い快感と、閉じた目にチカチカと瞬く強烈なピンク。
シザークは大きく息をついた。それがいつもの合図だった。
満ちるときは体の力を抜き、引くときは力を入れる。
相手と自分が同時に快感を呼べる受け入れ方だ。
「あ、ん…んふ、ぁあ……」
「凄く締まってる。気持ちいいんですか?」
「う、ん。イイ、イイよカルナ、ラ……」
もっと気持ち良くすべく、カルナラはシザークの棹を擦った。
艶やかな声でシザークが啼くと、ぎゅっとカルナラを締め付ける。
「あ…ん、そんな擦ったら出る……」
「出していいですよ? 何度でも気持ちよくさせてあげる」
そうは言いつつも、カルナラの息も荒い。
もしかすると同時に出してしまうかもしれない。
「あっ、あっ、あっ、あ……」
声が小刻みに漏れる。それと同時に手の中のモノは大きく膨れ、今にも爆発しそうだった。
「私のだけで、イッってみて」
「ぁ…ゃ……」
射精感をはぐらかされ、シザークの下半身をマグマが出口を求め暴れだした。
カルナラの刺激だけでイけるように、シザークが一番感じるところを擦ってやる。
「あっんんん……だ、め…イく……」
キツイ締め付けにカルナラも顔を歪めた。
「シザーク、一緒に……」
上体を起こされ、シザークはカルナラと密着した。唇を貪られ、激しく腰を動かされる。
最後の声はカルナラに飲み込まれた。
体を痙攣させ、下腹部で暴れていた精を吐き出すと、がっくりと膝の力が抜け、慌てたカルナラに抱きとめられた。
カルナラの去った後から、残滓がたらりと落ちる。
「く、くたくた……」
「大丈夫ですか? そんなに突っ張ってたんですか?」
「うん…なんか凄い感じちゃってさ。……カルナラの家でしたからかな」
気だるそうにするシザークをカルナラが抱えなおし、噴水のところまでつれてきた。
大理石の石台に寝かせると、冷たくて気持ちがいいと笑う。
「ウチでするのは初めてじゃないですよね」
「お前を予約しに行ったとき? あの時は必死だったから、あんまり覚えてないなぁ」
噴水の水を含ませた布で軽く拭われ、服を調えられると少しすっとした気分になる。
「外でしたからかな。」
「開放感のせいかもしれませんね。よろしければ、本当に外でしたからそうなったのか、私の部屋で試してみませんか?」
カルナラがにっこり笑う。
「えー!? お前二回も出したじゃん! まだやるつもりなのか?」
「シザーク相手なら、無限にも沸きますよ」
「無理! オレは無理だからね!」
「あなたは寝ているだけでいいですよ。空っぽになるまで愛して差し上げますから」
タフなSPは、顔面蒼白の主を抱き上げノッシノッシと歩いていく。
「二回も出したから、次はかなり長く保ちますよ。よかったですね、シザーク」
「〜〜〜〜〜〜!!!!」
二の句が告げなくなったシザークは、そのまま部屋まで連れて行かれ、カルナラが満足するまで可愛がられた……らしい。
「シザーク様はまだ寝てらっしゃるの?」
「昨日、興奮して眠れなくなって夜更かしされたからね」
「せっかく私がパンを焼いたのに、焼き立てを食べてもらえなくて残念だわ」
寂しそうな母の声にアルトダは慰めるように言った。
「このパン、冷めても温めなおしても美味しいから、大丈夫ですよ」
「そうだ、昨日シザーク様が噴水の魚にえさを遣りたいって言ってたんだけど、このパン少しもらってもいい?」
「いいわよ。たくさん焼いたから、母の味をお城にも持って帰ってちょうだいな」
カップを置いてナシムが言った。
「私からの誕生日のお祝いと一緒にね」
彼女から差し出されたのは、細長い包みだった。
「忘れてるのか、興味が無いかのどちらかかと思ったよ」
自嘲気味に笑う息子に、母は言う。
「痛い思いをして産んだ日を忘れるわけ無いじゃないの、なーんてね。大切な子供の誕生日を忘れる親なんていないわよ。ほら開けないの?」
急かされて丁寧に包みを開けた。
中にはシンプルな意匠のアクセサリーが二本入っていた。
よく見ると、埋め込まれたシザークの瞳の様な石の中にコールスリ家の印が浮かぶように入っている。とても不思議な細工だ。
「あなたのことだから、その指輪のお返し、なにもしていないでしょう? 私と父さんのものを直したものなんだけれど、二人に持っていてもらおうと思って。病気の父さんと母さんは離れて暮らしていたけれど、あなたは……あなたたちはもう離れ離れにならないようにって、特殊な技術で二つの鎖を一つに繋げてもらったのよ」
「母さん……有難う。大切にする」
カルナラは母の願いに胸が熱くなった。
鎖の凹凸を指で撫でると、父の面影が浮かんだ。
「私からはこれを。何にしようと悩んだんですが、実用的なもので」
「ガフィルダも? よく私の誕生日を知ってたね」
「やだなぁ兄さん、私の部署をどこだと思ってるんですか?」
ああ、そうだったね。カルナラはアルトダからも包みを受け取った。
「有難う、ガフィルダ。九月の誕生日には何かお返しをするからね。あぁ、これは本当に実用的なものを有難う。さっそく使わせてもらうよ」
中身は様々な素材のブックレートだった。さすがに本好きは、同じ本好きのことを良く分っていた。
「ガフィルダったら昨日さっさと渡そうとするから私が止めたのよ。シザーク様がまだ祝われてなかったらどうするのよって。本当に男の子は気が利かないんだから」
初めての気が利かない呼ばわり。相手が実母だけあり、ちょっと嬉しい。
「それが昨日くれなかった理由?」
カルナラはおかしくて笑った。
「おかげで私も忘れてたし、シザークに至っては本当に昨日が誕生日なのか不安になっていたよ」
「あなたたちらしいわ」
三人は笑った。
それから間もなくしてシザークは起きてきた。
楽しそうな親子を少し羨ましく思い、そしてその幸せそうな様子に目を細めた。
「ごめん、寝坊した」
「おはようございます」
三人は笑顔のままシザークを見る。
「あの後、よく眠れました?」
「うん…まあ、ね」
少々言葉が濁るが、カルナラ以外は気付かなかったようだ
朝食が出てくるのを待つ間、食卓に並んだ好物のフルーツを一つ摘んだシザークは、カルナラの傍らに置かれた包みを見つけた。
「それプレゼント?」
「ええ、先程貰いました」
嬉しそうに笑う。
「じゃあ、二人とも興味がなかったわけじゃなかったんだ。よかったじゃん」
「ええ、素敵な誕生日になりました」
カルナラの笑顔が輝かしい。
今日のカルナラの誕生日は、彼の中でも、シザークの中でもとても記憶に残るものになるだろう。
(よかった。あんな嬉しそうなカルナラの顔、なかなか見れないもんな)
シザークは優しく、愛おしい気持ちで溢れた眼差しを、瞼へと閉じ込めた。
「ほう、ナシムはパン作りの才能があるな」
土産にと持ち帰ったパンを食べながら、ナスタは珍しく素直な感想を言う。
「だろ?」
自分は貰っただけなのに、なぜかシザークは鼻高々だ。
「それにしても、昨日いなくなるならそうとこちらにも連絡を寄越せ。お陰で二度も城に来ることになった」
小言を言う間もパンを食べることをやめない。
なかなか気に入ったようだ。
「すみません。まさかナスタ様が直々に来られるとは思わなかったので」
カルナラは二人にお茶と口直しのフルーツを出し、シザークのそばに控えた。
「たまにはお前も労わってやらんとな」
そう言って付き人に大きな箱を持ってこさせた。
「服だ。お前の服のセンスが物凄く悪いとフィズ少尉から聞いてな。王族と近しいお前の服のセンスが最悪だなんて許せん! 我々と付き合うからには、それ相応の格好をしてもらおうか」
そう言って勝手に包みを開く。中には様々なタイプの洋服がぎっしりと詰まっていた。
「ここに服の組み合わせが書いてある。それ以外の組み合わせで着ているのを見かけたときは……わかってるだろうな」
「あ、いや、しかし私服なんて、あまり着る機会が……」
圧倒されながらもカルナラは言うが、やはりこの人に敵うわけが無く、
「わ か っ て る だ ろ う な」
「はい!」
強く言われ、思わず姿勢を正した。
「よろしい。では礼に次の帰宅時には私も誘え。このパンを焼き立てで食ってみたい」
「それは母も喜びます。ナスタ様のことも、よく気にかけていましたから」
「……そうか」
ナスタは少し目を伏せた。そして、その表情を読まれないうちに、さっさとナスタは席を立つ。
「では、帰るぞ。また来る」
「ナスタ様、有難うございました。次は、必ずお誘いします」
「頼むぞ」
「ナスタ、そこまで送るよ。カルナラの家に行って、ちょっと家族って奴に中てられたみたいでさ」
ナスタの後を追うシザークの胸元には、ナシムから託されたペンダントが揺れていた。
「今更だろう、家族なんて」
「今更だから仲良くするんだよ!」
シザークに纏わりつかれているナスタの表情は柔らかい。
幼いあの頃に戻ったようだ、とカルナラはふと思う。
「おい、SP。王様に単独行動させていていいのか?」
「今参ります」
制服の下に隠れたおそろいのペンダントの感触に、くすぐったい気持ちを覚えながら、カルナラは二人の後を早足で追いかけた。
END
Copyright © 2002 竜棲星-Dragon's Planet & たかだ
2007/8/1完結