family ties

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外伝小説 Rex Danayaより後、Vol.3より前の、ほのぼのとした話。
小説【Rex Danaya】と違い、会話メインで進みます。
ストーリーのメインはアルトダと、その周り。

22,934文字
「け……」
「結婚」
 口をあんぐりと開けて、シザークはカルナラに言葉を補完してもらう。
「結婚て、あの結婚?」
「はい。その結婚」
「誰と?」

 シザークの部屋の、ダイニングの手前にある応接間で、カルナラはシザークが散らかした本や服を拾い集めながら答えていた。
「クルズ・レイ」
「誰、それ」
 シザークは顔だけを前に突き出して、左の眉を器用に吊り上げた。
「同じ情報部の部下だけど先輩らしいですよ……フィズの情報によると、"二十八歳、身長は百六十、生年月日は"……忘れました。なんかもっと趣味やら好きなものやら色々聞かされたんですが」
「何。お前が直接聞いたんじゃないのか」
「はい」
 カルナラは床に落ちていたものを全て拾い上げ、ゴミを分けて捨てに行く。脱いだ服をかごに放り込んで呆れたように言った。
「なんで寝室だけじゃなくて、応接間にまで物が氾濫してるんですか。貴方、どんな生活してるんです」
「そんなの知ってるじゃないか。何言ってるんだよ。今はそれどころじゃないだろ」
「何が」
「アルトダ伍長だよ! お前、弟が結婚するって言ってるのに、何で話しに行かないんだよ」
「ああ……そうですね。何か飲みます?」

 文字通りがっくりと肩を落として、シザークはソファに座り直す。カルナラが脈絡のない会話を繋げているという事は、きっといつもの平常心とは少しは違うのだろう。そう想像してみたが、かと言って、自分が何を言えばいいのかも、シザークは考えあぐねていた。

「飲む。コーヒー」
「え? いつ飲めるようになったんです?」
 びっくりしたように、カルナラがシザークの顔を覗き込む。
「コーヒーでも飲めば、きっと頭がすっきりして何か思いつくに違いない」
「何言ってるんですか……もう」
 すっと身体を離して、カルナラはそのままダイニングの簡易キッチンに向かった。

 シザークは腕を頭の後ろで組んで、ソファに仰(の)け反る。前のテーブルをオットマン代わりにして足を載せて、少し考えた。
 そう言えば、戦後に、アルトダとちゃんと話した記憶がない。自分とカルナラとの事が城内に噂になった時にも、気まずさは解消されず、そのまま時が過ぎて、何となく前の状態に戻ってしまった、という感じだ。たまに廊下ですれ違えば、普通に挨拶はするし、取り立ててアルトダが自分達に不快感を示すような事も、もう無い。

「一回くらい、話をした方がいいな」
 天井を見上げたまま呟くと、カルナラがトレイを持って戻ってきた。
「誰と?」
「アルトダに決まってるじゃんか」
「誰が?」
「オレ……だけじゃなくて、お前もだよ」
「……」
 カルナラは目で、シザークに足をテーブルから下ろすよう指示し、カップの乗ったトレイを置いた。
「おかしいだろ? 兄弟なのに。あ、それともお前、普段は話をしてるの?」
「いえ」
「最近は?」
「最近と言うか、殆ど話をする事は無いです」
「なんで」






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Update : 2007/07/11