family ties

01 /

 口は開けずに溜息をついて、カルナラはテーブルを挟んでシザークに向き合った。
「シザーク。言いにくいんですが……実はアルトダ伍長を、弟だと完全には思えてないんです」
「どういう意味?」
「一度も一緒に暮らした事もありませんし。二十三歳になって初めて、彼が弟だ、と言われたわけですから」
「ピンと来ないって事」
「はい。特別な存在だと言うのは頭ではわかってるんですが、どうも……遠慮してしまうというか」
「ふぅん」

 シザークはカルナラの言う事も理解できた。
 彼らがした会話の時間は、多分 全部足してもほんの数日分に過ぎないだろう。
 それで、仲良くしろというのも土台無理な話か。

「じゃあさ!」
「拒否します」
「またかよ。言う前に拒否するのやめろよ」
「貴方の思いつきは、決まってろくな事がない」
「そんな事ないぞ! 多分」
「じゃ、言ってみてください」
「期間限定で、お前とアルトダが一緒に暮らしてみる」
「やっぱり……無理に決まってるじゃないですか。彼、今は式の準備なんかで、何度も実家に帰ったりして、とても忙しそうですよ」
「そうか。だよな。でも数日くらいなら」
「……私が居ない方が息抜きできる?」
「なんでそんな話になるんだよ。一回も思った事ないぞ!」
「そうかな」

 カルナラは目をわざと細めて疑わしそうな口調で続けた。
「ずっと見張られてて、そろそろ自由になりたいと思ってるんじゃないですか。以前はしょっちゅう抜け出してたのに、この一年近く、皆無ですよね」
「……」
 確かに、オクトとの事があった後は、シザークもカルナラを不安にさせるような軽々しい態度は避けていた。それが当然だと思っていたし、別に苦痛でもなかった。
 だが、カルナラの方はそうは思っていないのかもしれない。
「安心しろよ。もう」
「え?」
「オレ、お前しか見てない」

 カルナラの動作が止まったのを見て、シザークはしまったと思った。
 今、出した恥ずかしい言葉を飲み込みたい。そう思いながら口を押さえて、慌てて言った。
「ちが……っ、いや、違わない。だから」
 シザークはカルナラの耳が赤くなるのに気づく。
 それを見たシザークも、もっと恥ずかしくなって、心拍数が跳ね上がった。
 こういう時、下手に言い繕えば状況が悪化するのを、流石にシザークも学習していた。手を当てた口をぎゅっと閉じて、羞恥に耐える選択をする。
 カルナラが小さく、ありがとうございます、と言うのを聞いて、ほっとしつつ、それでも鼓動が収まらなかった。

「でも、いいです。時間取って、伍長と話をしてみますから、心配なさらないでください」
「そう?」
 カルナラがテーブルに手をついて上半身を寄せて来る。
「シザーク」
 シザークは呼ばれるまま仰け反っていた身体を起こし、少し赤くなった顔をカルナラに近づけ、口付けた。
 二人の間から、テーブルに置かれたコーヒーの香りがする。
「……冷えちゃいますから」
「そうだな。いいじゃん」
「本当は飲む気、なかったでしょう」
 喋るカルナラの口を塞ぐように続けてキスをして、そのまま二人は立ち上がる。
「シザークは、これから予定が入ってます」
「いいよ。遅れたって。たまには待たせておけよ」
「良くはないですよ」
 苦笑いするカルナラの手を取り、シザークは寝室に向かった。






Copyright © 2002 竜棲星-Dragon's Planet
サイト内の展示物の無断転載や引用は禁止
No reproduction or republication without written permission.
Update : 2007/07/12