family ties

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 数日後、情報部の接客用の椅子に座って、フィズがしきりにアルトダに話しかけていた。
「新居は? もう決まった?」
「いえ、彼女も私も住み込みなので、どうしようかと」
「確か、既婚者用の大部屋、まだ空きがあったと思うけど」
「そうですね。でもそのうち、家族も増えるだろうし、やっぱり狭いかな」
「え? まさか、もう?」
「いえ! 違いますよ」
 アルトダは笑いながら、チェックした書類をファイルしていく。その手際の良さに思わずフィズが見とれていると、アルトダが思い出したように言った。
「最近、フィズ少尉の提出書類もだいぶ直しが減りましたよね? もうそろそろ私のチェックは要らないんじゃないですか?」
「そうだねえ。お前に残業させるわけにもいかなくなるだろうしな」
 そう言って、何故かフィズは哀しそうな顔をした。
「寂しいな……」
「はい?」
「皆、俺を置いて一人にして行く……」
「……結婚の事ですか」
「そうだよ。弟のように思っていたアルトダにまで ついに先を越された俺! ああ、フィズ家の行く末やいかに」

 アルトダは、フィズの大げさな身振りを見て笑いながら言った。
「お見合いをすればいいんじゃないですか。この間、ミシア少尉に勧められてたじゃないですか」
「ああ、お世話好きオバサンね」
「失礼な」
 咎めるアルトダを無視して、フィズは手を大きく広げた。
「俺はね、恋愛がしたいの!」
「見合いで恋愛に発展しないとも限らないでしょう」
「そうだけど、七回失敗してるからなー。ちょっと、もう怖いかなー」
 アルトダが驚いて詰め寄った。
「七回!? いつ見合いしたんです?」
「や、やだなぁ。最近じゃないよ。全部、断られた」
「本当に?」
「……いや、実は断った」

 はぁ、と溜息をついて、アルトダもフィズの横に腰掛ける。
「面食いなんですか?」
「いや? 付き合った子は皆、普通だったよ」
「じゃ、なんで結婚しないんですか」
「さあ?」
 首をかしげて、いかにも不思議そうな顔をするフィズに、アルトダは言う。
「本当は……結婚したくないんじゃないですか?」
「え?」
 フィズはアルトダを見て、笑い出す。
「あははは! 何でだよ? 親にも跡取り作れって、散々言われてるんだぜ?」
「それと話は別じゃないですか? あ! もしかして」
「何」
 何を言われるのかと露骨に嫌そうな顔をするフィズに、アルトダは顔を近づけて小さな声で言った。
「ずっと、好きな人がいる、とか」
「……え? いや? 居ないよ」
 普段と違い、真面目な顔で返事をするフィズの態度がおかしいと感じたアルトダは、もう確信していた。
「そうなのか」
「いや、だから違うって」
「なんでその人とは結婚されないんですか?」
「お前ね……話聞けよ。居ないってば」
「あまり突付いてはいけない事かもしれないので、もうやめますけど……えーと」
「何よ」
「が、頑張ってください」
「……」
 しらーとした目でアルトダを睨みつけると、フィズは立ち上がって情報部を出て行った。
 その姿を見送り、アルトダは腕をまくる。
「情報部の手腕の見せ所だ」






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Update : 2007/07/12