〜漢たちの熱き戦いV 〜完結編〜




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「ふぅ…」
「どうしました、司令官。溜息なんてついちゃって」
「あぁ、君か。いや、私もそろそろ後進に道を譲る時かなと、そう思ってね」
「珍しく弱気ですね。どうなさいました?」
「珍しく…か。フッ…」
「…ひょっとして、救護室にいるあいつの事を気にしておられるのですか?」
「………」
「やっぱり…あれは司令官のせいでは」
「そう思いたいが…敵の戦力を見誤ったのは、私の責任だ」
「ヒノキですか…今年のヤツらは確かにちょっと手ごわいようですが」
「あぁ、例年よりも随分勢力を増しているらしいな」
「はい。今年からヒノキにまで発症したという報告がずいぶん増えているそうです」
「そして…ここにもついに犠牲者を出してしまった」
「そ、それは…」

コンコン!

「なんだ?」
「失礼します! 司令官、救護室にいた隊員がたった今…」
「…そうか、わかった。報告ごくろうだった。下がっていいぞ」
「いや、あの…はい、失礼します」
「はぁ…」
「また、溜息ですか。あまりご自分を…」
「……」
「司令官…」
「さて…かわいい部下達の仕事ぶりでも見に行くかな」
「はい。ではご一緒させていただきます」
「あぁ、頼むよ」
「頼む? 何を言ってるんですか! ほら、あなたの弱気はこの艦の士気を落としますよ。もっとしっかりなさって下さい!」
「君はいつも元気だな。それに若い…私も……」
「(司令官…――)」

「あ、司令官。ごくろうさまです!」
「…どうだ、戦況は?」
「あいかわらず手ごわいッスねぇ、今年のヒノキは」
「そうか。他はどうなんだ?」
「おとなしいもんですよ、今んとこ。まぁヒノキにここまで苦戦するとは…」
「いったいなんなんでしょうね、今年のヒノキは。随分長引いてますよ」
「…みんな、聞いてくれ」
「!?」
「一つ…言っておかなくてはならんことがあるんだ」
「司令官、いったい何を…」
「この艦の装備についてなんだが…」
「装備? 何か問題でもありましたか?」
「…私は、お前達に謝らなくてはならん事があるんだ」
「謝る? 何をです!?」
「この艦は確かに最新鋭だ、最新鋭なんだが…その……」
「なんです? マイナスイオン発生装置が、搭載されていない事ですか?」
「!! し、知っていたのか…」
「知ってますよ。俺も、こいつらも…たぶんほとんどの連中が知ってることです」
「………」
「司令官のことだ。俺達が不安になるとか、そんな事を思ってたのでは?」
「あ、あぁ…まぁ、な」
「やっぱりね。不器用なあなたの考えそうなことだ」
「そうそう。だから俺達も知ってるって言い出しにくくてね」
「お、お前達…」
「そりゃいろんな装備がついてりゃ安心するヤツもいるだろうけどね」
「この艦に乗ってるヤツで、そういう野郎は少ないんじゃないッスかねぇ?」
「だいたい俺達の仕事は花粉除去なんだ。マイナスイオンがどうとか、そんなの知ったこっちゃないんですよ」
「だよなぁ! それを司令官が…まったく何を気にしているんだか…」
「最前線で戦ってるのに、昔ながらの装備で…俺達の艦はそういう船なんですよ」
「そう。この船は…まるで、あんたみたいだろ、司令官」
「…私?」
「ははは、俺達はこの船の事もあんたの事も大好きなんですよ」
「昔気質で不器用だけど、やるべき事を着実にこなしていく。まったく、そっくりじゃないですか!」
「それを…何をそんな今にも引退しそうな顔をしてるんですか、司令官」
「そ…そうですよ。あんたが辞めたらダメだ、司令官」
「なっ! お、お前は救護室でさっき…」
「? あれ、俺の事勝手に殺さないで下さいよ。ちゃんと生きてますって、ほら、足もちゃんとある」
「短いけどなぁ!」
「あ、あのなぁ…あれ? さっき報告のヤツが行きませんでしたか?」
「来た。確かに来たが…」
「司令官、話はちゃんと最後まで聞かなくちゃ。あんたがいつも言ってる事だろう? たった今…意識を取り戻しましたって、そう報告が行ったはずです」
「そ、そうだったか。私はてっきり…」
「…しっかりして下さい。俺達は皆、この船とあんたを信じてここにいるんです」
「私を?」
「そうですよ、司令官」
「まったく、世話のやける上司ですなぁ!」
「ホントに。そんなだから部下がどんどんしっかりしてくるんですよ」
「おいおい、お前はまだまだ半人前だろう?」
「そ、そんな事ないッスよ、先輩!」
「お、お前達…」
「司令官。あんたの下だからこの長引く戦いの中でも頑張れるんですよ」
「こんな馬鹿みたいに年がら年中、敵の絶えない場所にも踏みとどまっているんです」
「そうじゃよ、司令官殿」
「じ、爺さん…あなたまで何を…」
「いやいや、こんな年寄りだからわかる事だってある。こいつらの気持ち、わからんお前ではないだろう?」
「ですが…」
「ですがも何もないじゃろう? ほら、顔を上げて…こやつらの顔を見てみぃ。お前を信頼して集まった連中だ。みんなお前の指示を待っておるぞ?」
「…最新鋭の装備だとずっと騙してきた私をですか?」
「あんたと一緒なら、廃棄寸前の船にだって乗りますよ、司令官!」
「そうそう。あんたならどうにかしてくれそうな気がするんだよ、司令官」
「そ、そんな…」
「ほれ、若ゾウ達にこれほどまでに慕われてる上司もおらんぞ? 自信を持ちなされよ、司令官」
「爺さん…」
「司令官!」
「司令官!!」
「司令官、どうか指示を!」
「指示をお願いします、司令官!」
「お前達…」
「ほれ、何か答えんか、司令官殿!?」
「…ほ、本当に俺で、この船でいいのか?」
「……」
「当たり前じゃないッスか」
「…あ、ありがとう」
「さ、司令官。指示をお願いします!」
「わかった。全員、通常運転を維持。敵はヒノキ、長期戦になりそうだが、ここは踏ん張って次の敵に備えて力を温存することも忘れないでくれ」
「「「「「はいっ!!」」」」」
「私も…お前達と同じ船に乗れて嬉しいよ。おかげで、もう少し頑張ってみようという気になってきたよ」
「あれ? 司令官、本当に引退なさるおつもりだったんですか?」
「だめッスよぉ! まだまだここにいてもらわなくちゃ」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
「そうこなくっちゃ!」
「(ありがとう、爺さん、みんな…)」

こうしてまた自分達の絆を確かめ合った隊員達。
花粉との戦いはまだまだ続いていくことだろう。
だが、どんな苦難にぶつかっても、漢たちはその都度乗り越えていくのだ。
固い絆と、熱い気持ちを胸に…

その想いを力に変えて…――


〜< 漢たちの熱き戦い 完 >〜


by かぶさん





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