family ties

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「……できないね」
 出来てたら、あんな苦労も無かったろうと、カルナラは脱力した。
「だから、それでいいって、シザーク様はおっしゃってるの?」
「あ、そういう事? 仕方ないからね。それは最初からお互い充分わかってるよ」
 軽く自嘲気味にカルナラは言う。
「貴方……女だったら良かったわね……失敗したわ」

 アルトダは仰天して思わずナシムの顔を見た。こんな場面で、そんな事をさらっと言う母親に驚く。
 カルナラの方は、そんなナシムに慣れているのか、
「そうだね。ホント。ま、シザーク様が女でもいいんだけどね、私としては」
と、会話を流している。

「失礼な事、言わないのよ! この場合、貴方が女でしょう」
「どうでもいいよ! 無茶苦茶な事言わないでよ。どれだけ悩んだと思ってるんだ。もういいってば」
 ナシムが真面目におかしな事を言い続けるので、遂にカルナラも話を切ろうとした。
「あ、ごめんなさい。そうよね。ええ……そう、よね」

 あんな会話をしながら、実は一番困っているのは、ナシムかもしれない。
 アルトダは、随分小さな印象の実母を見ながら、そう思った。
 苛々した様子のカルナラは、少し考えた後、口調を変えた。
「怒鳴ってごめん。それに、心配もかけてた」
「……」
「やっぱり言いにくくて。何より、相手がシザーク様だし。まぁ……男だし。あのシザーク様だし」
 カルナラは念押しするように、二度もシザークの名前を出す。

「そうね……」
「国の事もだけど、コールスリ家の方もだよ。私で途絶えるかと思うと、それも母さんには悪くて」
「それは、いいの。どうも貴方に女性の影がちっとも見えないから、割と早くから諦めてた」
「何、それ」
「シザーク様うんぬんより、どうせ独身だったんじゃないかって事よ」
「それは悪かったね。随分 心配かけて」
 今度は少し厭味を込めて、カルナラは口を尖らせる。
 二人が何か考え始めたらしく、沈黙が続いた。

 アルトダは、場の雰囲気が段々重くなるのに耐えられず、明るく、でも小さな声で言う。
「あの……! でも、カルナラ……中尉は、女性にモテモテだってフィズ少尉がおっしゃってました」
 ナシムとカルナラが、アルトダを黙って見つめる。
「えと……」
 こんな事を言っても、堂々巡りになるだけで何の解決にもならないじゃないか。アルトダは早くも後悔していた。
 すると、カルナラがコホンと咳をして、努めて明るく声を出した。
「そうだよ。あなたの息子は、あなたが思ってるより ずっとデキるいい男なんだ。だから心配しなくて大丈夫」
「ええー?」
 ナシムは思いっきり疑わしそうな半開きの目をして、カルナラを見る。
 思わずアルトダがまくしたてた。
「それは本当です! 仕事も出来るし、皆に信頼されてるし、何より陛下が一番必要とされてるんです。だから……その、こんな優れてる人だから、きっと、これからも心配ないと思います」

 アルトダはドキドキする胸を押さえながら、カルナラを擁護した。
 どうして自分は、こんなに必死になってるんだろう。
 ナシムを安心させたいという思いだけでない事は、アルトダも気づいていた。






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Update : 2007/07/16