family ties

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「まさか、私が伍長を襲うと心配したのか?」
「あ、いえ。まさか」
「冗談。結婚間近の弟に手を出すなんて、有り得ない。第一、私は、元からそういう趣味じゃない」
「はい……ですよね。すみません」
 素直に失言を謝るアルトダに、カルナラも不快な顔はやめた。
「無理ないか。伍長にはわからないだろうね。私も、いまだにどうして男のシザークじゃないと駄目なのかわからないよ」
「そうなんですか?」

 てっきり、そんな理屈は乗り越えて成就した関係だと思っていたアルトダは驚いた。
「伍長は、クルズさんじゃないと駄目かい?」
「えっ」
 急に自分に話題を振られて、アルトダは身じろぐ。
「いえ、駄目というか……」
「何で結婚したいの?」
「そりゃ、これから先を一緒に生きていきたいと思ったからで」
「今まで 他にはそういう女性は居なかった?」
「はい」
「そう」
「あ、今までは、です。私もそんなに人生経験が豊富というわけじゃないし」
「あはは。それは浮気するかもって言ってるようなもんだよ」
「あ。そんな事は……そんなつもりじゃ」
「いや、普通はそうだろう。先の事なんてわからないし、自分がどう変わるかなんて予測できない」
「……ええ」
「でも違うんだ」
「え?」
「私は違う。きっとシザークも私と同じだと思う」
「違う? 先がわかってるって事ですか?」
「いいや。私とシザークは、多分、他の人間じゃ駄目なんだ。お互い、傍にいるのが自分達じゃないと、きっと……」
「……」
「死ぬんじゃないかな」
「え?」
「……なんてね。ノロケだな、これは」
「あ、はは」

 真剣なカルナラの表情が弛むのを見て、アルトダは安堵する。
 カルナラが替えの服を取り出して、着替え始めた。
 アルトダは裸になったカルナラの体のあちこちに、大小数多くの傷がある事に気づいた。
「傷だらけですね」
「え? ああ、まぁSPだからね」
 当然だと言うようにカルナラは答える。
「手首にも、足首にも、深い傷が……」

 これだけ大きな傷を負ったなら、ひょっとしたら生死の境を彷徨ったのではないか。アルトダは不安になる。
「うん、痕が残ったな。シザークが心配するから困るんだけどね」
 微笑みながら言うカルナラを見て、アルトダは、カルナラがとにかくいつも シザークの事ばかり考えているのだと察した。






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Update : 2007/07/16