family ties

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「慣れない場所で、疲れたんじゃない? もう寝ようか」
「いえ」
 アルトダは、首を振った。

「もっと話をさせてくれませんか。貴方の事を、もっとよく知りたい」
「え?」
「まだ、兄さんと呼ぶ事もできないんです。私も、中尉に名前で呼ばれた事がない。だから、もう少し」
「随分、話したんだよ? 私にしては」
「は?」
「シザークとの事なんて、一度も誰にも喋った事がない。ましてや自分の気持ちを人に言うなんて事も、私は普段しないらしいんだ。シザークによると」
「あ……」
 カルナラなりに、一生懸命だった事に気づいて、アルトダは嬉しくなった。
「じゃあ、もっと色々な方面の話も」
「えー? そんなに話上手じゃないよ、私は」
「私も、色々話をしたいんです」

 すっかり寝る支度を整え、カルナラは大きなベッドに潜り込んだ。
「いつもは寝る前に本を必ず読むんだけど」
 そう言って、ポンポンと自分の横の布団を軽く叩く。
「今日は、特別。伍長、どうぞ」
 未だ荷物も下ろさずに、立ったままためらうアルトダを、カルナラが急かした。
「早くしないと、朝が来る。沢山話をしたいんだろう?」

 シザークや母の好意を無駄にする事もないだろうと、カルナラは割り切ってアルトダと積極的に話をする事に決めた。
 アルトダはゆっくり荷物を降ろして手早く着替えると、おずおずと、シーツをめくった。
「お邪魔します」
「どうぞ」
 カルナラは左端に寄って仰向けになる。
 アルトダも同じように天井を向いて寝た。
「妙な感じだね」
「本当」

 生まれて初めて、一緒に眠る。
 離されてしまった家族の時間は、もう取り戻せないし、子供の頃にできたであろう遊びや、養われるはずだった兄弟の感情も、今からでは完成される事はないだろう。
「惜しいな。一緒に育ってたら、どんな感じだったんだろう。想像するのも難しいよ」
「私は一人っ子だったんでそれは本当に無理ですけど、中尉はシザーク様やナスタ様と一緒に育ったとお聞きしましたよ。じゃ、シザーク様が弟のような感じだったんじゃ?」
「うー……ん」

 カルナラはシザークの赤ん坊の時から今までを、ざっと思い出してみた。
「そんな気持ちもあったかもしれないけど、やっぱり私自身が、SPの心得を母さんに教え込まれてたからね。必要以上にそういう感情は持たなかったと思う」
「そうですか……勿体無い」
「勿体無い? 面白い事言うね。母さんみたいだ」
 ふふと、アルトダは笑い、順を追ってカルナラと母とシザークの事を話してくれるよう頼んだ。
「シザークの事は、流石にあまり話せないよ。私と母の事ならいくらでも。でも、私も訊きたい。結婚することになった経緯とか」
「そんなの興味ありますか?」
「普通の結婚なんて、縁遠いからね。そういや、リドウさんから後、最近は周りで誰も結婚してないんだ。SPはなかなか晩婚らしい。フィズももう四十なのに相変わらず、ああだしな」
「フィズ少尉って、その……」
 アルトダはこんな手で知ろうとしてもいいものか迷ったが、カルナラなら喋る事もないだろうと思い、訊く事にした。
「お付き合いされてたかたとは 結婚されないんですか?」
「さあ? 今は居ないだろう? 二十代の頃にぽつぽつ聞いたような気がするけど、どれも上手く行かなかったと思うよ」
「ずっと好きな人がいる、とか」
「ああ、居るかもね。でも言わないから、相手はわからないな」
「どうして居るって思うんですか?」
 カルナラは顔をアルトダに向けて不思議そうに訊いた。
「何? フィズに何かあった?」
「いえっ! ただ、いい人なのに未婚なのはどうしてかなと思ったので」
「本当だね。まぁ、あそこは兄弟も多いから、ゆったり構えてるんじゃないのかな」
「そうですか」
「なんだ、一番知りたいのはフィズの事?」
 可笑しそうにカルナラが笑う。
「違いますよ。話の流れで」
「じゃあ、他に訊きたい事は?」
「もちろん沢山。まずは、その……母の事と、貴方の事と」
「そろそろ、ちゃんと呼ぼうか」
「え?」
「名前でね。あ、言い出した私から言わないと駄目か」
 カルナラは、少し上半身を起こして、アルトダの顔を覗き込んだ。
「……ガ」
「……」
 数秒、沈黙した後、カルナラはボフッと体をベッドに戻した。
「急には無理だな。徐々に、徐々に」
 自分に言い聞かせるようにブツブツと呟くカルナラを見て、アルトダはくすくす笑った。






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Update : 2007/07/16