family ties

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 カーテン越しに感じる光がまぶしい。
 アルトダが目を覚ました時には、もう陽はだいぶ高くなっていて、当然カルナラは横には寝ていなかった。
 窓の前に立って、深呼吸する。
 カルナラが開けていったのか、窓から入る新鮮な空気が部屋に満ちていた。

 その窓から、鳥の鳴き声に混じって、シュンっという小さな音が聞こえ、アルトダはすぐ下の庭を見下ろした。
 カルナラが一人、動いているのが見える。
 右手に持った剣が、ゆるやかにしなって、時折、光を反射する。
「稽古……?」
 右から後ろへ大きく弧を描き、剣舞のような淀みない動作で速度を変えて振り下ろす。
 しばらくすると、剣を左手に持ち替えて、同じ順序で繰り返した。
 相手が居ないので、激しい突き合いの練習は出来ないのだろうが、休みの時にもわざわざ時間を作って鍛錬を怠っていない事にアルトダは感心する。

 そういえば、昨夜、目の前で着替えていたカルナラの体は、それを物語るかのようにどこも厳しく引き締まっていた。
「大変な職業なんだな……」
 昨日も色々な話をしたが、SPになった理由やカルナラの幼い頃の話などは、まだ聞いていない。
 そんな事を思いながら見ていると、どうやらだいぶ前から気づいていたらしく、稽古を終えたカルナラがアルトダが居る窓を見上げて手を振った。指で家の方を指す。
「?」
 すぐに、「食事よ」というナシムの声が階下から響く。
 アルトダは着替えて下に下りていった。



 フルーツがふんだんに盛られたテーブルについて、昨夜と同じように三人で食事を摂った。
「毎日、稽古は欠かさないんですか?」
「ん? ああ」
「普段もちゃんとしてるの?」
「そりゃ、体力もいつまでも同じようにはないだろうからね。続けてないと、きっとすぐに衰えるよ」
「カルナラ、貴方、何歳になるんだっけ?」
「息子の年も覚えてないのか……」
「あら、ガフィルダの年は覚えてるわよ。シザーク様と同じだし」
 得意気に胸を張るナシムに、カルナラが呆れて返事をする。
「もうすぐ三十三」
「嫌だ。もう? 年とったわね」
「……」
 ナシムがそう言いながら、自分の口の辺りを撫でて皺を確かめるのを、アルトダもカルナラも何も言わずに見ていた。

「昨日は、どうだった? 沢山、お話できた?」
「あ、はい! 実はまだ足りませんけど」
 笑って答えるアルトダに、カルナラが目を見開いた。
「あれで? 明け方近くまで話したじゃないか」
「一日やそこらじゃ、まだまだ、話し足りませんよ」
「また来ればいいじゃない」
 執事が、三人の飲み物を注ぎ足して出て行くのを待ってから、アルトダはナシムに答えた。
「いいんですか?」
「何が?」
「え。だって、私は」
「それを言うなら、こちらでしょう? アルトダ家や貴方が困らないなら、私は大歓迎なんだけど」
「……はい。ありがとうございます」

 アルトダの両親に、そういう事を訊いた事はない。
 一度、確かめなきゃとは思ったが、自分が結婚して家に戻り跡を継ぐことが決まっている以上、元の親の家を訪れる事にそう反対はされないだろうとも思った。

「カルナラ、貴方もよ。もう少し帰って来られないかしら」
「え? どうして?」
「年を取ると、寂しいのよね……」
「それなら大丈夫だよ。ガフィルダの所に、じき 子どもも出来るだろうし」
「え?」






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Update : 2007/07/16