family ties

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 アルトダは、言葉を失う。
 ――今、何て……?

「そうなの? 貴方、結婚するの?」
「……」
 カルナラが、自分を名前で呼んだ事に驚いて、アルトダはナシムではなくカルナラを見つめた。

「もう、そんな大事な事、どうして帰る間際に言うの。お祝いの用意は何もしてないわよ。これだから男の子は……」
 アルトダは、まだ黙ったままだ。
 カルナラが気づいて、
「ん? なに?」
と言っても、返事が出来ずにいた。
「ガフィルダ? どうしたの?」
「……え? あ、いえ」
「とにかく、おめでとう! 良かったわ。それで挙式はいつなの? あ、お相手はどなた?」
 矢継ぎ早に質問するナシムに答えながらも、カルナラの目ばかり見ていたアルトダに、カルナラが苦笑する。
「なに? さっきから。そんなに見つめないでくれないか」
「え。だって」
 兄さんが――と言おうとして、アルトダは口をつぐむ。まだ照れくさい。
 ようやくカルナラから目を離して、アルトダは食事に戻った。
「それなら今は忙しいでしょうけど、近いうちに是非もう一度、うちに来てくれない? ね? お祝いしたいわ」
「はい。是非」



 コールスリ家の吹き抜けの玄関で、ナシムが一人ずつ息子を抱きしめていた。
「時間が経つの、早いわね。残念だわ。もっと居られればいいのに」
「私は無理だよ。今回もシザーク様が無理に都合つけてくれたんだし。SPも母さんの頃と違って、少し人手不足でね」
「そうなの……貴方も大変なのね」
「そう。大変なんだよ。ようやくわかった?」
 小さなナシムは、背伸びをしてカルナラの頬にキスをする。
「じゃあ、無理は言わないわ。シザーク様によろしくお伝えしてね」
「うん」

 ナシムはアルトダにも同じようにキスをした。
 母親からそんな事をされたのは初めてで、アルトダはなんとも言えないくすぐったい気持ちになる。
「貴方も。クルズさんによろしくね……って、あまり私がでしゃばってもいけないだろうけど。不肖の兄をよろしくね」
「不肖って」
 カルナラが、わかってないな、という顔でアルトダに目配せした。
「はい。なるべく気をつけて見てるようにします」
 冗談めかしてアルトダが答えると、カルナラは昨日から何度目かの溜息をついた。
「ガフィルダまで……きっと、母さんとお前だけだよ。私にそんな事言うの」
 ナシムとアルトダは笑い、
「家族だから遠慮することないわよねえ?」
と二人で頷きあった。






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Update : 2007/07/16