family ties

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 玄関先でナシムに別れを言って、二人で帰路につく。
 門を出るまで手を振り続ける母親に、カルナラもアルトダも手を振り返し続けた。

「時々は帰らないとなぁ。やっぱり心配ばかりかけてたんだ」
 そう言うカルナラに、アルトダは同意した。
「今度、お帰りになる時には誘ってくれませんか?」
「もちろん。母さんも喜ぶだろうね」
「話し足りないのは本当なんです。もう焦ってはいないから、少しずつ……」
 何と言えばいいのか迷う。
 失った時間と繋がりを取り戻したい――?
 違う気がした。

「私もだな。結局、クルズさんとのいきさつも聞けなかったし」
「そんな大層なものじゃないですから」
「それはお前の判断。私は大いに興味がある」
「あはは」
 興味がある――そんな些細な言葉でも、アルトダは嬉しかった。
「そう言えば、シザークが先に会いに行っただろう?」
「はい」
「それで……なんて?」
「え?」
「シザークは、ガフィルダがその時に何て言ったか、隠すんだよ」
「ああ、じゃ、内緒で」
「それはやめてくれ。気になって仕方がない」
「陛下がわざわざお話に来られたので、びっくりしたんです。だから私も慌ててしまって。"中尉をよろしくお願いします"って可笑しな事を言ってしまいました」
「なんだ」
 カルナラは安心したように笑う。
「シザークが、お前が随分と堂々としてたって言ってたけど、なんだかそうでもなかったね?」
「は?」
「あ、ごめん。悪い意味じゃないよ。そんなに前と変わらないかなと私は思ったんで」
「それは……」

 大きな並木と、低いこんもりした植え込みが整備された通りを抜け、城へ続く坂道を上り始めながら、アルトダは考えた。
 うつむいていた顔を空に向けて、抜けるような青い色を目に入れる。

 最近、意識的にそう振る舞っていた気がする。
 結婚するから、というのが一番大きな理由だと思うが、あの時――
 神妙にすまなさそうな顔をして
「ごめん。話に来るの 遅くなって。ずっと気になってただろ?」
と言うシザークを前にした時に、咄嗟にこちらの心配をさせたくないと思ったのは確かだ。
 それで妙に高揚した口調で答えたような気がする。

 アルトダは可笑しくなった。
 どうして自分まで、シザークの事を心配しているんだろう。カルナラの心配性がうつったのか?
 それでも、彼に嫌な思いをして欲しくないというのは、本当だ。
 ナシムを助けてくれる時に、シザークがとても辛そうに苦しんでいたのを見ている。あの人に、あんな顔はもうして欲しくない。

「兄さん」
「えっ?」
 少しうわずったカルナラの声に気づいたが、アルトダはそのまま続けた。
「陛下を……なんて言えばいいのかな。幸せに、でいいのかな。上手く言えませんが、シザーク様を泣かせたりしないでくださいね」
「……」
「私が言わなくても、もちろん重々承知されてるでしょうけど」
 黙っているカルナラの顔を見て、アルトダは微笑んだ。
 そして時計を確認して、慌てた声を出す。
「わ、急がないと。午後になっちゃう。昼からの会議の資料整理、まだ少し残ってるのに」
「あ、私もだ。昼からは護衛担当なんだ」

 荷物を肩に回して、アルトダが駆け出す。
「まさか、坂を城まで走って帰るのか?」
 カルナラが背後からかけた声に、アルトダは振り向かずに答えた。
「結婚間近の男は色々と忙しいんです。兄さんが走らないならお先! ごゆっくりー」

 鍛えもしていないアルトダの体では、絶対、城門に着く前にばててしまうだろうと苦笑しながら、カルナラは弟の姿を見送った。






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Update : 2007/07/16