family ties

07 /

 日中の日差しが乾いた空気を通して、余計 強く暑く感じる。
 情報部はアンテナに近い三階にあり、風がよく通る方だったが、城裏の林にこもった青臭い匂いが城まで立ち上って来ているようで、窓を開けると逆に気分が悪くなった。

「三階でこれじゃ、風の通りにくい下はもっとだろうな」
 半袖の情報部室長が、ノートを団扇代わりにパタパタと振って言う。
「逆じゃないですか? 屋上に近い分、ここの方が暑いですよ」
「でも、SP詰め所も暑いよ。あそこ、窓も小さめだし」
 また暇つぶしに情報部に入り浸っているフィズと、帰り支度をしているアルトダも話していた。

「じゃ、帰るのは多分、明日の昼になるから」
 アルトダは、少し離れた所で作業しているクルズに向かって話しかけた。クルズが返事をするより先にフィズが口を挟む。
「どこ行くの? その荷物」
「コールスリ家です」
「カルナラの家? え? お泊り?」
「はい」
「へぇ。招待されたの?」
「えーと……」
「良かったじゃん。初めてじゃないの?」
「ええ。行った事は何度かありますが、宿泊は」

 どことなく嬉しそうなアルトダを見て、フィズはアルトダの肩をポンポンと叩く。
「楽しんで来いよ。結婚したら、そうそう よそに泊まるなんて出来なくなるだろうからな」
 そう言って、フィズがちらっとクルズを見たので、アルトダが苦笑した。
「そんなに心が狭くないですよ」
 クルズが、自分の事を言われているのに気づいて、フィズの背中に言う。
「いや、わかんないよ? どこに泊まってるのかしら? まさか……あの人に他の女が? きぃーー! とかさ」
 振り向いてふざけ気味に言うフィズに、クルズが反論した。
「そんなに嫉妬深くありません」
「それは、アルトダが浮気しないって思ってるからだろう? まぁ、しないだろうけど」
「フィズ少尉。結婚前に波風立てるのやめて下さいよ」
「あ、悪い。お前達があんまり幸せそうなんで、俺の方が嫉妬した」
 あははと笑うフィズに、アルトダとクルズが思わず噴き出した。
「じゃ、そろそろ行きます。待ち合わせてるんで」
「ん? 待ち合わせ?」
 服の入った荷物を持って立ち上がったアルトダは、言ってもいいものなのか少し迷ったが、相手がフィズなので隠す必要もないと判断した。
「コールスリ中尉と一緒に」
「あ! なるほどね。そういう事。カルナラが提案したの?」
「え。いえ。あの……」
 口ごもるアルトダを見て、フィズはシザークが一枚噛んでいるのに気づき、笑ってひらひらと手を振った。
「行ってらっしゃい。あ、クルズさんより先に俺が言ったらダメか」



 城門横の小さな受付室に座る守衛と、これまた小さな窓越しに話していたカルナラは、北棟の方から走ってくるアルトダに気づき 手を口の横に当てて大きな声で叫んだ。
「走らなくていいよ! 今、来たばかりだから」
 そして、振り向いて守衛に告げた。
「じゃ、開けてください」
 言われた通り走るのをやめたアルトダが門に到着する頃には、ギィギィと金属が擦れる音を立てて、重くて大きな門扉の右半分が徐々にせり上がって行く所だった。
 全部、上がりきるのを待って、二人して守衛に礼をし、外に出た。
「わざわざ主門を開けてもらったんですか?」
 驚いた顔で訊くアルトダに、カルナラが肩をすくめて言う。
「私もそう言ったんだけど。陛下の命令なんだ。"こそこそ出かけるようなマネするな"って事らしい」
 思わずアルトダは「あはは!」と笑った。シザークらしい考えだ。
 カルナラが自分をしげしげと見つめているのに気づいて、アルトダは笑ったのがまずかったと思った。
「すみません……つい。失礼な事を」
「いや、違うんだ。笑ってる顔を見るのも初めてだなと思って」
「え?」
 城からの下り坂を、二人はゆっくり歩く。
 高台にある城からは、澄んだ空気の時は、熱帯雨林が茂る地平線までよく見通せた。

 アルトダが少し変わったというのは、カルナラもそうだと思っている。あまり話す機会もないので具体的には言えないが、特に……眼鏡を外した頃から、以前のおどおどした雰囲気がやや少なくなった感じもしていた。

 シザークと同い年の弟――

「確かに妙な感じだ」
 口に出して笑ってしまうと、アルトダが怪訝そうな顔をした。
「あ、ごめん。急ごうか。母も楽しみに待ってると思うから」
「はい」

 カルナラは、「弟といっぱい話、して来いよ」と、出掛けにシザークに言われた事を思い出した。
 だが、実は、別にわざわざこうして話さなくても、そう問題はないように思えていたのだ。
 一方、アルトダの方はそうではない。彼は、この機会に訊いてみたい事が沢山あった。






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Update : 2007/07/16