トレモロ10 ナスタVSアルトダ
先ほどまで気配は感じられなかった背後を振り返るとアルトダが部屋の隅に座っていた。化粧を落とし、素顔になっている。
「い……いつの間に……」
「ずっといました。陛下に夢中になって気付かなかったのは、カルナラ兄さんのほうでしょう?」
アルトダはカルナラを兄さんと呼んだ。いつもは少尉と呼ぶ。
「酔っているのか?」
「酔ってますよ〜。酔ってなきゃやってられませんよこんなこと」
普段のアルトダは真面目な好青年だが、酒が入るとやや酒乱気味になる。ようは酒に弱いのだ。弱いから飲まれてしまう。
「兄さんも、陛下も、もっと周りに気を使ってください! なんであんな堂々といちゃつけるんですか! 大体ね、あの時もあの時もあの時も、なんで私が気まずい思いをしなきゃならないんですか!」
喚くように言い放つ。唇を尖らせ睨む姿はまるで子供だ。
「わかったわかった。伍長、飲みすぎだ。もっと風の当たるところに行こう」
再びウイッグをかぶりカナデアに変わったカルナラはアルトダの手を引いた。
足腰に力が入らないらしく、勢い良く引き上げるとアルトダは凭れるようにカナデア(カルナラ)の胸に飛び込んだ。
「ん〜兄さん、ずっと会いたかった〜」
「わっ、ちょっと伍長!!」
ぎゅっと抱きつかれてカナデア はうろたえた。
その時、ガチャリと音がした。
「ごめん、カルナラ。やっぱりさっきちょっと言い過ぎ……なにしてんの?」
誤解されてもおかしくない場面に、また間の悪い男が入ってきた。
「や、その、これは」
「なんで、アルトダと抱き合ってんだ?」
シザークはやや顎を上に上げてカナデア を斜め見するように、明らかに不愉快そうな声を出す。
「違います、こ、これは、えーと、中身はフィズです」
酒の入った口が、自分でも無茶だと思う言い訳を作る。カナデア は、アルトダが下手な事を言い出さないように脇に羽交い絞めにしたまま、ズルズルとドアへ向かった。
「フィズ少尉? え? だってさっき、向こうで司会の男と……」
「え?」
「あれ? じゃ、さっきのは本物のアルトダで、こっちがアルトダになったフィズ……?」
シザークが混乱している。
「ほら、フィズ! しっかりしろ。もう仕方ないなあ。あ、シザーク様、フィズを休憩させますので、これにて失礼」
焦っているのか、妙な口調でアルトダを抱きかかえて廊下に出ようとするカナデア(カルナラ)を、シザークが遮る。
「おーまーえー。オレを騙せるとでも思ってんの?」
カナデア は、はっとする。
違う――? これは……
違和感がカナデア の背筋をぞくっとさせた。
「まさか、ナ、ナスタ様?」
目の前のニヤリと笑う口元は、自分の知っている愛するシザークのものではない。
SPの直感が、今、自分が危険だと知らせている。
ナスタは優雅に壁にもたれた。
「フィズ少尉はシザークと一緒にもう会場に戻った。だからこれがフィズ少尉のはずがない」
容赦なく事実を突きつけた。
カルナラはぐうの音もでない状態でいる。
「ちょっと〜いくらナスタ様と言えども兄さんをいじめる人は私が許しませんよ」
突然、アルトダが酔いに任せて物凄い事を言う。
「ほ〜う。どう許さないのか教えてもらおうか」
「そうですね〜城内にある盗聴、盗撮装置の妨害電波流すとか、冷蔵庫から盗んだ氷菓子の行方をセテ准将に告げ口するとか、消し忘れた盗聴装置から入ったナスタ様と掃除夫のむにゃむにゃなお声を食堂の朝食の音楽の時に流すとか……」
威嚇するようなナスタの声にも動じず、アルトダはペラペラと答える。
どうでもいいものから、凄いものまで色んなことが出てきている。
さすがはアルトダだ。情報収集に掛けては非凡な才能をもっている。
思いがけない反撃でナスタは苦笑しながら降参のポーズをした。
「兎に角、今は邪魔しないでくださいね。兄弟の親睦を深めているんですから」
ねー♪ と言ってアルトダはカルナラの顔を両手で挟み、むちゅっと口付けた。
色んなことに呆気に取られてカルナラは反応できないでいる。
「深めるのはそういう親睦か?」
ナスタはまた笑った。
「だったら私も混ぜて欲しいな」
「い……いつの間に……」
「ずっといました。陛下に夢中になって気付かなかったのは、カルナラ兄さんのほうでしょう?」
アルトダはカルナラを兄さんと呼んだ。いつもは少尉と呼ぶ。
「酔っているのか?」
「酔ってますよ〜。酔ってなきゃやってられませんよこんなこと」
普段のアルトダは真面目な好青年だが、酒が入るとやや酒乱気味になる。ようは酒に弱いのだ。弱いから飲まれてしまう。
「兄さんも、陛下も、もっと周りに気を使ってください! なんであんな堂々といちゃつけるんですか! 大体ね、あの時もあの時もあの時も、なんで私が気まずい思いをしなきゃならないんですか!」
喚くように言い放つ。唇を尖らせ睨む姿はまるで子供だ。
「わかったわかった。伍長、飲みすぎだ。もっと風の当たるところに行こう」
再びウイッグをかぶりカナデアに変わったカルナラはアルトダの手を引いた。
足腰に力が入らないらしく、勢い良く引き上げるとアルトダは凭れるようにカナデア(カルナラ)の胸に飛び込んだ。
「ん〜兄さん、ずっと会いたかった〜」
「わっ、ちょっと伍長!!」
ぎゅっと抱きつかれて
その時、ガチャリと音がした。
「ごめん、カルナラ。やっぱりさっきちょっと言い過ぎ……なにしてんの?」
誤解されてもおかしくない場面に、また間の悪い男が入ってきた。
「や、その、これは」
「なんで、アルトダと抱き合ってんだ?」
シザークはやや顎を上に上げて
「違います、こ、これは、えーと、中身はフィズです」
酒の入った口が、自分でも無茶だと思う言い訳を作る。
「フィズ少尉? え? だってさっき、向こうで司会の男と……」
「え?」
「あれ? じゃ、さっきのは本物のアルトダで、こっちがアルトダになったフィズ……?」
シザークが混乱している。
「ほら、フィズ! しっかりしろ。もう仕方ないなあ。あ、シザーク様、フィズを休憩させますので、これにて失礼」
焦っているのか、妙な口調でアルトダを抱きかかえて廊下に出ようとするカナデア(カルナラ)を、シザークが遮る。
「おーまーえー。オレを騙せるとでも思ってんの?」
違う――? これは……
違和感が
「まさか、ナ、ナスタ様?」
目の前のニヤリと笑う口元は、自分の知っている愛するシザークのものではない。
SPの直感が、今、自分が危険だと知らせている。
ナスタは優雅に壁にもたれた。
「フィズ少尉はシザークと一緒にもう会場に戻った。だからこれがフィズ少尉のはずがない」
容赦なく事実を突きつけた。
カルナラはぐうの音もでない状態でいる。
「ちょっと〜いくらナスタ様と言えども兄さんをいじめる人は私が許しませんよ」
突然、アルトダが酔いに任せて物凄い事を言う。
「ほ〜う。どう許さないのか教えてもらおうか」
「そうですね〜城内にある盗聴、盗撮装置の妨害電波流すとか、冷蔵庫から盗んだ氷菓子の行方をセテ准将に告げ口するとか、消し忘れた盗聴装置から入ったナスタ様と掃除夫のむにゃむにゃなお声を食堂の朝食の音楽の時に流すとか……」
威嚇するようなナスタの声にも動じず、アルトダはペラペラと答える。
どうでもいいものから、凄いものまで色んなことが出てきている。
さすがはアルトダだ。情報収集に掛けては非凡な才能をもっている。
思いがけない反撃でナスタは苦笑しながら降参のポーズをした。
「兎に角、今は邪魔しないでくださいね。兄弟の親睦を深めているんですから」
ねー♪ と言ってアルトダはカルナラの顔を両手で挟み、むちゅっと口付けた。
色んなことに呆気に取られてカルナラは反応できないでいる。
「深めるのはそういう親睦か?」
ナスタはまた笑った。
「だったら私も混ぜて欲しいな」