トレモロ6 司会のお兄さんの魔の手
「父う……」
素のシザークに戻ったカルナラ が、思わず駆け寄る。
よく見るとカナデア の着ている衣装は、紛うことなく前国王のものだ。二人の身長もさほど変わらないので、実にぴったり似合っている。
「父上……」
懐かしさに感極まり、手を取ろうとするカルナラ を、カナデア は制止した。
「場と立場をわきまえろ。衆人の前で、護衛ごときが馴れ馴れしくするものではない」
「え」
言われてカルナラ は、今、自分がSPであることを思い出す。
「し、失礼しました」
必要以上に恭しく敬礼をし、なんとカルナラ はカナデア の前に跪いた。
会場がざわめく。
一番焦ったのは、カナデア だった。
前国王に成り切るよう、ナスタに強く言い含められているので、目の前で頭を下げている本物の国王を抱き起こす事もできない。
「あ……の」
しどろもどろになりながら、カルナラ に立ち上がるよう命じようとすると、シザーク が豪快に笑って近付いてきた。
「オレのSPが不愉快な真似をしたようですみません。ですが本日の主役です。大目にみてやってもらえませんか?」
シザーク にしてはやけに丁寧な口調だ。
ボロは出すなよ、とカナデアの中のカルナラに目で牽制をしている。
しばしの沈黙の後、カナデア は髭を撫で付けて言った。
「ふむ。そうであったな。折角の祝いに水を差すのは私としても心苦しい。ましてや縁遠くないコールスリ家の人間だ。」
カナデア はカルナラ に手を差し出した。
立ち上がらせ、自分の隣に据え背中を抱く。その姿勢のままナスタ に渡された杯を高々と掲げた。
「さぁ皆、杯を持て。コールスリ・カルナラ中尉の昇進を祝おう。今宵は無礼講だ、肩の力を落とし楽しむが良い」
よく考えれば自分で自分の為に乾杯を促しているのだが、ここに集まった者はすでにカルナラを本物のカナデアだと錯覚していた。それくらいカルナラはカナデアになりきっていた。自分の記憶の中にあるカナデアの言動で無意識に演じていた。
カナデア はシザーク に優しく言う。
「シザーク、お前の配下の者だ。お前が音頭をとりなさい」
やがてシザーク のよく通る声が会場に響いた。
会場全体が割れんばかりに復唱し、華やかな宴は今始まったのだ。
アルトダ とカムリ は暇をしていた。
料理は美味しいし、酒も旨い。
しかし、主役の周りには人だかりができており、話しかけることも叶わず、シザーク とカルナラ はナスタ の世話で忙しそうだ。
「……・暇ですね」
「ですね」
仕事から離れ二人っきりになると、あまり会話が続かない。
とりあえず、食べる。飲む。を繰り返している二人の肩を勢い良く抱きついてくる人物がいた。
「あ……司会の……」
「綺麗どころが二人で暇してそうなので遊びに来ました。向こうの部屋にビリヤード台を置いたんでよかったら一緒にどうですか?」
にこやかに笑ってゲームに誘う。
しかし、「私はちょっと苦手で……・」と、一人が断わりそそくさと離れたので、司会のお兄さんは残った方の手を強引に取り、自分のほうへ引き寄せた。
「じゃああなた、付き合ってもらえますよね」
にっこりと爽やかな笑顔で強引に肩を抱き、続きの間へ誘う。
「い、いえ。あの、私は……」
司会のお兄さんは、連れが逃げ去り取り残された人物の困惑も気にせず、更に強引に腰に手を置いて聞いた。
「それとも、付き合ってる男がいる?」
「え? ……い、いません。そんな……」
「じゃあ、問題ないね」
素のシザークに戻った
よく見ると
「父上……」
懐かしさに感極まり、手を取ろうとする
「場と立場をわきまえろ。衆人の前で、護衛ごときが馴れ馴れしくするものではない」
「え」
言われて
「し、失礼しました」
必要以上に恭しく敬礼をし、なんと
会場がざわめく。
一番焦ったのは、
前国王に成り切るよう、ナスタに強く言い含められているので、目の前で頭を下げている本物の国王を抱き起こす事もできない。
「あ……の」
しどろもどろになりながら、
「オレのSPが不愉快な真似をしたようですみません。ですが本日の主役です。大目にみてやってもらえませんか?」
ボロは出すなよ、とカナデアの中のカルナラに目で牽制をしている。
しばしの沈黙の後、
「ふむ。そうであったな。折角の祝いに水を差すのは私としても心苦しい。ましてや縁遠くないコールスリ家の人間だ。」
立ち上がらせ、自分の隣に据え背中を抱く。その姿勢のまま
「さぁ皆、杯を持て。コールスリ・カルナラ中尉の昇進を祝おう。今宵は無礼講だ、肩の力を落とし楽しむが良い」
よく考えれば自分で自分の為に乾杯を促しているのだが、ここに集まった者はすでにカルナラを本物のカナデアだと錯覚していた。それくらいカルナラはカナデアになりきっていた。自分の記憶の中にあるカナデアの言動で無意識に演じていた。
「シザーク、お前の配下の者だ。お前が音頭をとりなさい」
やがて
会場全体が割れんばかりに復唱し、華やかな宴は今始まったのだ。
料理は美味しいし、酒も旨い。
しかし、主役の周りには人だかりができており、話しかけることも叶わず、
「……・暇ですね」
「ですね」
仕事から離れ二人っきりになると、あまり会話が続かない。
とりあえず、食べる。飲む。を繰り返している二人の肩を勢い良く抱きついてくる人物がいた。
「あ……司会の……」
「綺麗どころが二人で暇してそうなので遊びに来ました。向こうの部屋にビリヤード台を置いたんでよかったら一緒にどうですか?」
にこやかに笑ってゲームに誘う。
しかし、「私はちょっと苦手で……・」と、一人が断わりそそくさと離れたので、司会のお兄さんは残った方の手を強引に取り、自分のほうへ引き寄せた。
「じゃああなた、付き合ってもらえますよね」
にっこりと爽やかな笑顔で強引に肩を抱き、続きの間へ誘う。
「い、いえ。あの、私は……」
司会のお兄さんは、連れが逃げ去り取り残された人物の困惑も気にせず、更に強引に腰に手を置いて聞いた。
「それとも、付き合ってる男がいる?」
「え? ……い、いません。そんな……」
「じゃあ、問題ないね」