トレモロ BL18禁

トレモロ61 元の鞘に

「これ、お前に返さないとな」
「何です?」
「これ」

 シザークは、自分の右手の指にはめていたカルナラの指輪を抜いて、カルナラの顔の前にかざした。
「ごめんな。お前の指輪、昨夜からずっとオレが持ってた」
「え? ええ!?」
「ごめん! 理由はわからないんだけど、オレのはナスタが取って行ったんだ。昨夜、部屋に忍び込んで来たと思うんだけど」
「あ、ああ。はい。そのようですね」
「知ってた?」
「それは、途中で気が付きました」
「そうか」
 ふうっと溜息をついてシザークが眉間に皺を寄せる。
「ナスタ……どうすれば返してくれるかな、オレの指輪」
 呟いている間も、カルナラが指輪をずっと見つめている事に気がついたシザークが、かざしていた指輪をカルナラの手に握らせて、言った。

「カルナラ。オレの全部を任せてるんだから、これから先は悩んでなんかいられないと思えよ」
 自分の膝に頬杖をつき、シザークが微笑む。
 綺麗な笑顔だとカルナラは思いながら、片手でシザークの頭を抱き寄せる。
 シザークが前へかがむようにするのを、そのまま引いて唇を寄せる。
「カルナラ!」
「もう、この際ですから主役はずっと離席のままでも」
「良くないだろ……!」
 唇を重ねたままで、シザークは文句を言った。
「ちゃんとナスタから指輪を返してもらわないとならないんだから、このまま離れてちゃまずいだろ」
 シザークの言葉に、シザークの肌を撫でていたカルナラが、名残惜しそうにその手を放す。
「もう少し、こうしていたいのですが……」
「お前って本当にタフだよな。まだ入れられたいの?」
「いや、入れられるのはちょっと……」
「取り敢えず、城に帰るまで今日はそういうのもうナシ。カルナラ、動けるならシャワー浴びて来よう。オレ、中に出しちゃったから、きちんと処理しないと腹壊すぞ」
 手を引かれ、立ち上がろうとすると、ビリっと電気ショックが走った。
「うわ!」
 垂れてくる不快な感覚にも悲鳴を上げる。
「歩けない?」
 どこかからタオルを持ち出し、カルナラに手渡すと、シザークは腰に手をやった。
「歩けないわけじゃないんですが、ちょっと違和感と痛みが……」
「それはおいおい慣れる! シャワー浴びてさっぱりしたらマッサージしてやるから、あそこまでがんばれよ」


 その後、シャワー室で、シザークとカルナラがどうやって処理をするか揉めている頃、



フィズとアルトダは、先程愛ある営みをしていた部屋のベッドの上で、緊張した面持ちで対峙していた。
 フィズからどういう経緯かを聞き、溜息を吐く。
「フィズ少尉がそういう方だなんてショックです」
「いや、だからつい魔が差して……」
「言い訳は、今後一切聞きません」
 きっぱりとアルトダが言い放つ。
「挽回のチャンスももらえないのかな?」
「……ここでそういうこと聞くのって、まったく反省してないってことですよね」
「ものすごい反省してるよ! 反省してるってば! ただ、アルトダに許してもらえないかと思うと……辛いじゃん」
 過去の恋愛を思い出し、フィズは一瞬だけ暗い顔をした。
「あー、ゴメン。オレってすんごい未練がましいんだわ。だけど、今回はオレが本当に悪かったし、もう嫌ならそういうこともう言わないから。ちゃんと書類だって書くし、お前の手も煩わせないようにするから。……だからゴメン」
 うなだれた犬のような格好になってしまったフィズの両肩に手を置くと、寂しそうに笑ってもう一度「ゴメン」と謝る。
「仕方ない人ですよね、フィズ少尉も。普段飄々としてるくせに、なんでそんな顔するんですか……今後、私が許すかどうかは少尉次第ですよ? 次はないですからね」
「ありがとう、アルトダ! オレ頑張るから!」
 フィズの晴れの笑顔にガバっと抱きつかれて、思わずひっくり返ってしまう。
 変なのに捕まっちゃったな、と溜息を吐くアルトダの顔は、とても優しかった。