トレモロ62 指輪の行方
人数の減ってきたパーティ会場で、一際高い位置から人を探す姿があった。
隣では不自然な歩き方の若者もキョロキョロとしている。
「いらっしゃらないね」
「……ああ」
つまらなそうに長身のオクトが言う。
「だから早く戻ろうって言ったのに、マイルがあんなに……」
自分で言いながらタレンは赤面する。
オクトの絶倫に付き合って…基い、流されて隣のヘンタイに色んな声を聞かせてしまった事を恥じる。
その様子を横目で見ながらニヤニヤとしていると、視界の端に自分と同じような身長の男を見つけ、オクトは歩き出した。
「おい、お前。アシュレイ殿下は?」
「おチビちゃん? おチビちゃんならナスタ様と一緒に寝ちゃったよ」
やはり。
オクトは嘆息して男に礼を言う。
「待てよ、マイル。……ったく。いっつも獲物を見つけた肉食竜みたいなんだから」
重い腰を抑えながら、文句を言いつつやってきたタレンに男が好奇の目を向ける。
「お、ウサギちゃん。なんか色っぽい顔になってるね」
「僕のウォレスを勝手に見るな、ヘンタイ」
「ヘンタイって……しかも見るのも駄目って酷くない? せっかくおチビちゃんから伝言があるのに」
二人の間に割って入ったオクトの顔がパッと変わる。
「どうしようかなぁ。条件次第、かなぁ」
男の笑みに含む黒いものを感じ、タレンはオクトの制服の裾をぎゅっと掴む。
オクトもすっと、守るように小柄な身体を自分で隠すと、男を睨み付けた。
「オイ、何度言えば分るんだ?」
この気配は隣のヘンタイ。
そう思ってオクトは声に振り向く。
「ウギャ! 耳ィ! 千切れるぅぅぅ!」
耳をギュッと引っ張って、二人から力任せに遠ざけるのはナスタだ。
男を睨みつけ、威嚇した顔とは正反対の穏やかな顔でオクトとタレンを見る。
「アーシュが随分世話になったな。お前たちと遊んだのが楽しかったようだ。礼を言う。お前たちさえよければまた遊んでやってもらえるか? カード立てみたいに集中力を必要とするものは特にいい。あれが欠如してシザークのようになったら困るからな」
その言葉に国王の少年時代の姿が鮮明に浮かぶのは何故だろうか。
失笑しながら頷くと、ナスタも満足そうに頷いた。
隣のヘンタイも子供のことになると、優しい父親のようだ。
アシュレイに免じ、先程までのことを水に流し、アシュレイと遊んでいるときの話をしていると、シザークの声が聞こえた。
特に大きいわけじゃないのに、良く通るから嫌でも耳に入ってしまう。
「ナーーースターーーーッ!」
弾丸の勢いで走ってくる国王は、まるで十代の少年のようだった。
先程、カルナラを抱き、その前にも数回ほどことに及んでいるというのに、そのタフさには脱帽する。
「シザーク様! そう闇雲に走り回らないでください! ぶつかって誰かが怪我したらどうするんですか!」
後ろからカルナラの声もする。
すっかり仮装を解き、いつもの姿だ。
「遅いぞ、主役。お前が居なければこの宴も終わらんじゃないか」
「あ、すみません。ナスタ様」
「なんでカルナラが謝るんだよ。謝って欲しいのはこっちじゃん!」
「謝る? 私がお前等に?」
はて、と本気で考え始めたナスタに、シザークが食って掛かった。
「指輪だよ、指輪! 早く返せ、オレの指輪!」
「指輪? あぁ、あれか。……ん? お前の?」
驚いた表情でふと弟を見る。
「そうだよ、オレのだよ! 今までオレがしてたのはカルナラの指輪なの! ナスタが勝手に盗ってったのがオレの指輪! どう考えても、カルナラの指輪がナスタの中指に収まるわけないだろ? 何考えてるんだよ、人の物 黙って盗って! アーシュの教育にも悪いだろ?」
アシュレイの名前を出せば動揺するかと思ったが、ナスタは涼しそうな顔をしている。
「ふん。お前のモノもカルナラのモノも、私のモノだ」
「なんだよ、その理屈は!」
「ジャイアニズム、ですね。昔の本で読んだことあります」
「本の話なんかどうでもいいだろ! お前、もう少し怒れよ!」
「私が冷静じゃないと、あなたを諭せないじゃないですか」
「……何だよ、もう」
興ざめしたように、シザークが横を向いた。
カルナラが冷静に対処したお陰で、頭まで上った血液があっさりと引いたようだ。
「まったくお前はギャーギャーとよく喚く。もう少し品格ある行動は取れないのか?」
「うるさいな! 誰のせいだよ」
そう言って、シザークはナスタに右手を差し出した。
「とにかく、早く返せ」
ナスタは仕方なさそうに右手の中指を見やる。
――ない。
今度は洋服のポケットの上を、ポンポンと叩く。
――やはり、ない。
六人の間に静かな空気が漂っていた。
「……悪い。失くした」
隣では不自然な歩き方の若者もキョロキョロとしている。
「いらっしゃらないね」
「……ああ」
つまらなそうに長身のオクトが言う。
「だから早く戻ろうって言ったのに、マイルがあんなに……」
自分で言いながらタレンは赤面する。
オクトの絶倫に付き合って…基い、流されて隣のヘンタイに色んな声を聞かせてしまった事を恥じる。
その様子を横目で見ながらニヤニヤとしていると、視界の端に自分と同じような身長の男を見つけ、オクトは歩き出した。
「おい、お前。アシュレイ殿下は?」
「おチビちゃん? おチビちゃんならナスタ様と一緒に寝ちゃったよ」
やはり。
オクトは嘆息して男に礼を言う。
「待てよ、マイル。……ったく。いっつも獲物を見つけた肉食竜みたいなんだから」
重い腰を抑えながら、文句を言いつつやってきたタレンに男が好奇の目を向ける。
「お、ウサギちゃん。なんか色っぽい顔になってるね」
「僕のウォレスを勝手に見るな、ヘンタイ」
「ヘンタイって……しかも見るのも駄目って酷くない? せっかくおチビちゃんから伝言があるのに」
二人の間に割って入ったオクトの顔がパッと変わる。
「どうしようかなぁ。条件次第、かなぁ」
男の笑みに含む黒いものを感じ、タレンはオクトの制服の裾をぎゅっと掴む。
オクトもすっと、守るように小柄な身体を自分で隠すと、男を睨み付けた。
「オイ、何度言えば分るんだ?」
この気配は隣のヘンタイ。
そう思ってオクトは声に振り向く。
「ウギャ! 耳ィ! 千切れるぅぅぅ!」
耳をギュッと引っ張って、二人から力任せに遠ざけるのはナスタだ。
男を睨みつけ、威嚇した顔とは正反対の穏やかな顔でオクトとタレンを見る。
「アーシュが随分世話になったな。お前たちと遊んだのが楽しかったようだ。礼を言う。お前たちさえよければまた遊んでやってもらえるか? カード立てみたいに集中力を必要とするものは特にいい。あれが欠如してシザークのようになったら困るからな」
その言葉に国王の少年時代の姿が鮮明に浮かぶのは何故だろうか。
失笑しながら頷くと、ナスタも満足そうに頷いた。
隣のヘンタイも子供のことになると、優しい父親のようだ。
アシュレイに免じ、先程までのことを水に流し、アシュレイと遊んでいるときの話をしていると、シザークの声が聞こえた。
特に大きいわけじゃないのに、良く通るから嫌でも耳に入ってしまう。
「ナーーースターーーーッ!」
弾丸の勢いで走ってくる国王は、まるで十代の少年のようだった。
先程、カルナラを抱き、その前にも数回ほどことに及んでいるというのに、そのタフさには脱帽する。
「シザーク様! そう闇雲に走り回らないでください! ぶつかって誰かが怪我したらどうするんですか!」
後ろからカルナラの声もする。
すっかり仮装を解き、いつもの姿だ。
「遅いぞ、主役。お前が居なければこの宴も終わらんじゃないか」
「あ、すみません。ナスタ様」
「なんでカルナラが謝るんだよ。謝って欲しいのはこっちじゃん!」
「謝る? 私がお前等に?」
はて、と本気で考え始めたナスタに、シザークが食って掛かった。
「指輪だよ、指輪! 早く返せ、オレの指輪!」
「指輪? あぁ、あれか。……ん? お前の?」
驚いた表情でふと弟を見る。
「そうだよ、オレのだよ! 今までオレがしてたのはカルナラの指輪なの! ナスタが勝手に盗ってったのがオレの指輪! どう考えても、カルナラの指輪がナスタの中指に収まるわけないだろ? 何考えてるんだよ、人の物 黙って盗って! アーシュの教育にも悪いだろ?」
アシュレイの名前を出せば動揺するかと思ったが、ナスタは涼しそうな顔をしている。
「ふん。お前のモノもカルナラのモノも、私のモノだ」
「なんだよ、その理屈は!」
「ジャイアニズム、ですね。昔の本で読んだことあります」
「本の話なんかどうでもいいだろ! お前、もう少し怒れよ!」
「私が冷静じゃないと、あなたを諭せないじゃないですか」
「……何だよ、もう」
興ざめしたように、シザークが横を向いた。
カルナラが冷静に対処したお陰で、頭まで上った血液があっさりと引いたようだ。
「まったくお前はギャーギャーとよく喚く。もう少し品格ある行動は取れないのか?」
「うるさいな! 誰のせいだよ」
そう言って、シザークはナスタに右手を差し出した。
「とにかく、早く返せ」
ナスタは仕方なさそうに右手の中指を見やる。
――ない。
今度は洋服のポケットの上を、ポンポンと叩く。
――やはり、ない。
六人の間に静かな空気が漂っていた。
「……悪い。失くした」