トレモロ BL18禁

トレモロ51 深刻なのか

 おいしい陛下を放置し、中の二人に話を戻す。

「俺も最近長くなったな、とは思う訳よ」
「やっぱり」
 カルナラは頷いた。
「でもさ、アルトダとさっきエッチしちゃったときは普通だったかな〜」
 間延びした口調で言うと、カルナラが変な顔をしていた。
 それはそうだろう。他ならぬ弟がそういう話に関わっているのだから。
「でさ、思ったわけよ。やっぱ、若い子とのエッチは肉体を若返らせるんじゃないかってさ!」
下品なことを言って、フィズは再び「ぎゃはは」と笑った。
「お前も一回してみろよ、若い子とのエッチ」
 肩を思いっ切り叩かれ、カルナラはその部分を押さえ、怪訝そうな顔でフィズを見る。
「……シザークは伍長と同い年なんだけど」
「あり?」
「あり? じゃないよ。まったく……」
 呆れた顔だ。フィズはなぜか慌てて返す。
「年齢差の問題かもよ! 俺とアルトダぐらいの年齢差があるヤツと一回エッチしてみればわかるって。例えば、タレン伍長とか!」
 そこへなぜタレンの名前が出てくるのか、それはフィズにも分からなかった。
 カルナラはカルナラで、タレンの名前で先程のオクトとの一件を思い出し、腹が立ってくる。
 あのくそ生意気な男と、なぜタレンのような真っ直ぐで純朴な青年が付き合っているのか不思議だ。

 遅漏の話とはいえ関係ないことでムカつき始めたカルナラが、自分の発言で怒ってしまったのではないかとフィズは顔色を伺っていた。
 真面目実直な男に浮気を奨めるような発言をしたのだから後ろめたいのだ。
 横目でちらりとカルナラをみる。
 ウイッグに閉じ込められていた長く延びてきた髪が、乱雑に跳ねている。
(時々似てるなぁと思うけど、今日はまた一段と似てるな。エッチしてもやっぱり同じ顔をするもんかな)
 ちょっとした興味だった。

「まぁ、相手の年齢がどうこうっていうより、自身の問題のような気がするんだ」
「陛下はどうなの? って、こんな事訊いちゃいけないか」
「そうだな」
 苦笑して肩をすくめるカルナラは、フィズから見てもやはりいつもと違う。
 そう思うのは、自分がついさっき男――それもカルナラの弟――と寝たからに他ならない事にフィズ自身も気づいていた。

 一方、ドアの外でシザークは カルナラがどこまで自分達のプライベートな話を深くするのかと、やきもきしていた。相手がフィズ少尉だから尚更だ。カルナラはどうも彼に、過剰に気を許している所がある、とシザークは常から思っていた。
「ヘンな事、喋るなよ。後で承知しないからな」
 心の中でブツブツ文句を言いながら、それでもカルナラの悩みの解決の糸口がフィズにあるのではないかという矛盾した期待で、そのまま彼らの様子を伺い続ける。

「もしかしてさ、倦怠期?」
「え?」
「何年になるんだっけ。お前達」
「えーと、九年くらいか」
「ふぅん。俺、そんなに長く一人と付き合った事ないからわからないけど、飽きたりはしないもん?」
「飽きる? 誰が? 私が?」
「そりゃ、例えばお前が陛下に。陛下がお前に」
「え……」

 カルナラが急に本当に青ざめたのを見て、フィズはヤバイ事を口走ったと思った。
 なんとかフォローしようと思う前に、カルナラが小さな声で呟く。

「そうか、そういう理由もあったのかもしれないな。だからシザークはマイルと」
「ち、違うんじゃないか?!」

 慌てて否定するが、もう遅い。
 カルナラはどんどん暗く沈んでいく。

「マイルの方が若いしなぁ……はぁ」
 とうとう、頭もがっくりと落としてしまったカルナラに、フィズはどうしたらいいものかと思案する。
「お、お前はどうなの? 陛下以外の人を抱いてみたいとか抱かれたいとか」
「……無いよ。というより、なんで抱かれたいんだ」
「あ、いや」

 廊下で(単純な)シザークは感動していた。
 自分の浮気の事はともかくとして、今、カルナラは「他の人間を抱きたいとは思わない」と言った。
 その一途さに、さっき自分が心配していた「嫌われたかもしれない」という不安は吹き飛んだ。
 なら、後はカルナラの体だ。一体どうすれば、彼の悩みは打ち消せるのだろう。
 そう考え始めたシザークの耳に、フィズの思いがけない提案が聞こえてきた。