トレモロ BL18禁

トレモロ2 ナスタ登場

 「カルナラ! オレ思いついたんだけど!」
 ドアを蹴破らんばかりの勢いでシザークが戻って来た。
 「はっ、はい?」
 カルナラは、左手をさりげなく後ろに回し、衝撃で鼓動を止めそうになった心臓を何とか落ち着かせながら答えた。
 「仮装パーティにしよう! 仮装パーティ! まだ、半日あるからさ、なんとかなるだろ。」
 とんでもない無謀を事も無げに言いながら、シザークが笑う。
 「それと、大事な事を言い忘れたからさ」
 「大事な事?」
 「うん」
 するりとカルナラの首に両手をかけたシザークが、カルナラの唇に唇で触れる。
 「中尉昇進、おめでとう」
 「……っ。あ、ありがとうございます。でも貴方が決めて下さったのに……」
 「まあね。でも一応さ……」
 艶やかに笑って身を引こうとするシザークの腰に、カルナラの腕が回る。
 離れた唇を惜しむように、カルナラがシザークの唇を追う。
 「ん……ちょっと待って。カルナラ」
 「はい?」
 「さすがにここじゃ……」
 シザークは段々と深くなるキスに困惑し、足の踏み場すらない部屋での行為に及ぼうとするカルナラを咎めた。
 「お前って本当……」
 「何です?」
 大胆とも行動力があるとも言えず、シザークは苦笑した。
 「何でもない」
 カルナラの胸を押し返し、その腕をすり抜けドアへ向かう。
 肩越しに振り返り、綺麗な笑顔でシザークが言った。
 「じゃ、改めて。 夕方迎えに来る」


 「カルナラ」
 シザークがドアの向こうへ消えるのを見つめていたカルナラの、何故か真後ろから唐突にナスタの声がした。

 カルナラの心臓は跳ね上がった。
 居もしない人間から突然声をかけられたのだ。
 情けない悲鳴をあげ恐る恐る振り返る。
 先ほど別れた、愛しい人と同じ顔。
「ど……どこから……?」
 問われてナスタは風で翻ったカーテンを指差す。
「ちょうど外に掃除夫が居たから、そいつのはしごで登ってきた」
「そっ……そんなところから登ってこないでください! 落ちたら危ないじゃないですか!」
「私は落ちるようなヘマをすると思うか?」
 この人に口で敵うわけが無い。これ以上言っても不毛なだけだ。
 カルナラは「そうですね」とナスタから視線をはずし、ため息を吐く。
「つれないな。せっかく来てやったのに」
 優雅な動きでナスタがカルナラに近付いてくる。
「これは私個人からの祝いの気持ちだ」
 首の後ろを掴まれ引き寄せられた。強引に唇が合わされる。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ーーーーー」
 先ほどのシザークとのキスとは違い、ナスタ主導のキスは舌が痺れるほど吸いつくものだった。

「はなっ……」
 ぶはっと息を吐いて、ナスタを引き離す。
「なんだ、相変わらずキスまでヘタれてるんだな」
「ヘタ……」
 れてなどいない、シザークはいつも喜んで腰砕けだ! と心の中で強く否定して、
「お祝いのお気持ちは、これから、もう充分すぎる程 頂く予定ですから!」
 と、厭味も込めてナスタに言い放った。
「あー、パーティの事か。さっきシザークが仮装パーティにするとか言ってたな」
 いつからはしごに登ってて、聞いていたんだろう。
「そうだな……女装……」
「却下します」
「何偉そうに言ってるんだ」
「主賓は私ですから、希望は言わせてください」
「じゃあ、乱交……」
「絶対、却下! どんな昇進祝いですか」
「お前、つまらん人間だと言われるだろう」
「言われてません。貴方以外に」
「成る程」
 ナスタはあはははと高笑いし、
「じゃ、ヘタレたお前にぴったりの仮装にしよう。こっちで用意するとシザークに伝えておけ」
 と言って、今度はドアから出て行った。
 ナスタを目で見送ったカルナラは、散乱する私物を踏みつけながらドカっと椅子に腰を下ろしてうそぶいた。
「ふん。こっちは指輪が無くてそれどころじゃないんだ。ナスタ様の用意した衣装なんか、絶対に着るものか」
 そして、窓から中庭を見て溜息をつき、つぶやいた。
「……無理だろうけど」