トレモロ BL18禁

トレモロ25 男の洞察力とフィズの提案

 会場を後にしたシザークは ある部屋の前で足を止め、悪いこととは思いつつ、ドアに耳をつけるようにしてへばりついた。
 会場に戻る前に、仲良さげに手をつないだフィズとアルトダがこの部屋へ入って行くのを目撃していた。
「も……もうひとつだけお願いが……」
「なに?」
アルトダとフィズの声が聞こえた。でも、どうやらこれは……

 アルトダの叫ぶ声に、すっかり酒乱振りを発揮しているのに気が付いて、シザークは今来た廊下をさっさと会場へ向かって戻る。
 酒乱のアルトダに、フィズが真っ先に被害を受ける事を予想しながら、呟いた。
「あ! お腹空いたな」


「私にやらせて下さいー!」
「却下」
 あっさり拒否される。
「どの世の中に、押し倒されてアンアン言う俺を見たいという人がいるんだよ!」
 いつになく真剣な顔でフィズは言う。
「私は見たいです!」
「見たいなら外伝でも読んでよ! 俺はもう嫌だからね!」
「いいじゃないですか、減るもんじゃないし!」
 引かないアルトダに焦れて、フィズはじゃんけんで決着をつけようと提案し、アルトダもそれを飲んだ。
 
 食うか、食われるか。

 勝負は一瞬で決まった。

「ううううう」
「そらみろ。これが世のお嬢様方の総意ってこと。なんで、おとなしく抱かれてね」
 パーで負けたことにショックを受けているアルトダの手首に、引き抜いた自分のベルトをぐるりと回し、逃げられないように軽く締める。
「俺さ、挿れたあとが結構長いみたいなんだよね。置いてけぼりにされるのって嫌だから、最後までちゃんと相手してね」
 言われたそばから、アルトダは気絶しそうだった。


 アルトダが気絶しかかってる頃。
 

 ナスタは眠ってしまったアシュレイを抱いた司会の男と廊下を歩いていた。
「この子の服ってナスタさんが子供の頃着ていたヤツ?」
「ああ。少し男用に手直ししたと言っていたな」
「そう、可愛いね」
「……洋服が? アシュレイが?」
「この服を着たナスタさん」
 男はにっこりと笑った。
 その笑顔が愛しいと想いながらも、ナスタはクールにしている。
「私はさっきのことまだ許してないぞ」
「あぁ、眼鏡の彼と出てったこと? 別に何もしてないよ。ちょっと話して、男の身だしなみをこっそりとポケットにいれてあげただけ。今頃、どこかでよろしくやってるんじゃないかな?」
 嘘をつくときは、本当のことを交えながら言うのが一番。
 キスをした、ということだけ伏せて、男はナスタにご機嫌を取る。

 この屋敷のどこでフィズ少尉が誰とよろしくやってるのか。そういう目で男を見ると、軽い口がペラペラと動く。
「さっき、メードのおばちゃんが酔った眼鏡の人を連れた男に部屋を貸したって言ってたから、多分その彼だと思うよ」
「なんだと? それはどの部屋だ?」
 今にもその部屋に出歯亀していきそうなナスタに、男はストップを掛ける。
「ひとまず、この子が先でしょ。眼鏡の子みたいなタイプって往生際が悪そうだから、慌てなくても平気だと思うよ」
 男の洞察力は優れていた。


「ほらそこ、入れる前から落ちるな!」
「嫌です! 入れられるくらいなら寝ます!」
「無理やりするのは、性に合わないんだってば。観念しろよ。はっきりさせたいんだろう?」
「でも、こんな方法じゃなくても」
「じゃ、訂正。俺がしたいの。それでいい?」
「余計、嫌ですよ!」
「なんで? アルトダは俺の事が嫌い?」

 まるで、自分達が男女のカップルのような前提の問いかけに、アルトダはひるんだ。
「いえ、好きですが、抱かれるのとは、また違う……」
「陛下とカルナラも最初はそうだったんだろうなー」
 わざとらしく遠い目をして、フィズは、手はいそいそとアルトダの服のボタンを外していく。
「何してるんですか!」
「きっと、陛下も最初はそうやって抵抗したんだろうなぁ。でも、最後はカルナラの愛を受け入れたんだな」
 そう言いつつボタンを全部外すと、シャツを背中の後ろに追いやり、アルトダの肌を露わにした。
「フィズ少尉、やめてくださいよ! 私、やっぱり……」
「ね、知りたくない?」
「は?」
「知りたいと思ったんだろう? カルナラに入れられる自分の姿を想像して」
「え……」
「男に入れられて、自分がどうなるのか、知りたいって思ったんだろ? 陛下があんなに気持ち良さそうな理由を」
「……」
 確かに、カルナラに後ろを弄られた時に、アルトダはそう思っていた。
「でも」
「じゃあさ、目、つぶってろよ」
「え?」
「癪だけど、今回だけ、そこは譲ってやる。抱かれてる相手は自分で選んで思い込め」
 この人は何を言ってるんだろうと、アルトダは思った。それでも、笑っている口元とは違って、目の奥は真剣な事に気づく。
 酔いに任せて、抵抗するだけはした。酔いに任せて、抱かれてみるのも、もしかしたら。