トレモロ36 入り乱れ
「あ、ああああ!」
密着させた部分を震わせて、二人の悦声が重なる。
動きがようやく止まると、ナスタから離れたシザークはソファベッドに倒れるように座り込んだ。はぁはぁと荒げた呼吸を収めながら声を出す。
「ど、どっち?」
「お前だろう」
少しずつ、収斂 していくナスタの後孔から洩れ出るシザークの痕が足を伝う。
「いや、ナスタが先だろ。ナスタの身体が震えた後に、オレ、出したんだから」
「百歩譲って、同時か」
「同時じゃない!」
下手に相槌を打てば、この後に絶対にナスタに入れられてしまう。シザークは認めるわけにはいかなかった。
ナスタはゆっくりと壁から手を離し、だるそうにシザークの方に向き直る。
そして、とんでもない事を言った。
「第三者に判断させるか?」
目をぱちくりさせるシザークにナスタは不敵な笑みを見せると、顔をすっとドアに向けた。
「外にいる二人。入れ」
「ええっ?」
数秒が経ってからゆっくりと、ドアが開いた。
そこには、憮然とした顔のマイルと、ばつが悪い事極まれりという顔のタレンが、ドアノブに手をかけたまま、所在無さげに立っていた。
「なっ!」
「突っ立っていないでさっさと入れ!」
シザークが手で口を押さえ、これ以上無いほど赤面しているのを尻目に、ナスタが二人に部屋へ入るよう、口と目で指図した。
「……オク……マイルと、タレンか? 大臣付きの」
赤面しまくりのシザークが、居心地悪そうに二人とは逆の方へ身体を向ける。
「も、も、も、申し訳ありません!」
シザーク同様、真っ赤になって床を見つめたまま、タレンが深々と頭を下げて謝った。
「ずいぶん楽しそうな事で……」
マイルは、憮然とした顔を崩さず、相変わらずふてぶてしい態度でシザークとナスタを交互に見ていた。
「ふぅん、お前がマイル・オクトか。体がでかいから、ナニもでかそうだな」
ナスタはわざと下品に言う。
「大きさはどうだかわかりませんが、それなりには膨張はします」
オクトは気にも留めずに返すと、ナスタは愉快そうに笑った。
「お前なかなかいいな。気に入った……それでさっきの話だが、どっちが早かったと思う?」
紅い瞳が今度はタレンを見ていた。
(え? 俺が聞かれてるのか?)
視線を感じ、タレンは一瞬顔を上げたが、二人の美人のあられもない姿を再び目にし、顔をまた赤面させて下げてしまう。
「コレには刺激が強いようだから、何か着てもらえませんかね」
オクトはやれやれといった表情でダナヤ兄弟に言った。
コレ呼ばわりされてタレンは腹が立ったが、実際その通りなので黙って手を握り締めた。
言われた二人はのっそりと動き、散らばっている服を回収する。
「タオルでも絞ってきましょうか。すぐに戻るのでお待ちください。あとシザーク陛下はシャツでもお持ちします」
マイル・オクトは仕事のできる男。
的確に物事を把握し、部屋から出て行った。
タレンも後を追おうとしたが、ナスタに呼び止められた。
「お前はこっちを手伝え」
「えぇ!? あ、はいっ!」
壮絶な色気を漂わせるナスタにオズオズと近寄ると、タレンはいきなり腕を引っ張られてソファに座らされた。
「オドオドとしていて臆病な犬みたいだな。こういうタイプ、周りにあんまりいないから、新・鮮♪」
顎をむんずと掴み、しげしげと眺める。
「ナスタ! うちのSP苛めんなよ!」
人手不足なんだからやめられたら困る、とシザークは付け足す。
(ひっ……人手不足とかそういう問題だけなんですかー!?)
「心外だな。どう可愛がってやるか、考えてるだけだ」
ナスタは不敵に笑った。
(た……助けて、マイル……)
情けないと言われてもいい。自分だけではこの人物には抗えない。助けて欲しくて、タレンはただひたすらオクトの名前を呼んだ。
扉が開いた。
マイルだ! と思い顔をそちらに向けたが、目に映るのは知らない顔。身長もこの男の方が高そうだ。
「うひゃー。ウサギちゃんが増えてる」
「誰がウサギだ。減らず口を叩けないようにしてやるぞ?」
ナスタは男をねめつけた。
「ナスタさんこわーい。ところで、この子誰? 初めて見るなぁ」
慣れているのか、ナスタの脅しも軽く交わし、怯えたままのタレンに微笑む。
(あ、この人はちょっと優しそう)
ちょっと気を許したタレンに、男は笑顔のまま顔を寄せてくる。
シザークの焦った声が聞こえた。
「おい、コラッ!」
(もしかしてキスされるのかな)
と、他人事のように思う。唇が触れようとした瞬間、男の頭が不自然に仰け反った。
「お前、SPのくせに自分の身も満足に守れないのか?」
「マイル!」
濡れたタオルを数本と、新しい服を調達してきたオクトが、男の襟首を抑えて立っていた。
その顔はこれ以上ないほど唇を歪め、忌々しそうにしている。
「め、面目ない」
タレンは突き刺すような視線に、そう謝るので精一杯だった。
「シザーク陛下も、自分の手の者が襲われかけてるのを黙って見ていたんですか?」
「う……」
図星を指されてシザークも口ごもる。
「こちらをお使いください。シャツはナスタ様のをお借りしてきました。ナスタ様のお着替えもあります。適当に持ってこさせたものですが、よろしいですよね?」
「ああ、気が利くな」
矢継ぎ早に仕事をこなし、オクトはタレンを廊下に連れ出した。
「中尉が心配されていたので、勝負が終わり次第会場へお戻りください。中尉にはナスタ様とご一緒だったということだけお伝えします。それでは――っと、勝負の方ですが、ほぼ同時だったと思います。こちら側からはそれ以上は分りませんでした。それでは」
きっちり礼をしてオクトは部屋を後にした。
密着させた部分を震わせて、二人の悦声が重なる。
動きがようやく止まると、ナスタから離れたシザークはソファベッドに倒れるように座り込んだ。はぁはぁと荒げた呼吸を収めながら声を出す。
「ど、どっち?」
「お前だろう」
少しずつ、
「いや、ナスタが先だろ。ナスタの身体が震えた後に、オレ、出したんだから」
「百歩譲って、同時か」
「同時じゃない!」
下手に相槌を打てば、この後に絶対にナスタに入れられてしまう。シザークは認めるわけにはいかなかった。
ナスタはゆっくりと壁から手を離し、だるそうにシザークの方に向き直る。
そして、とんでもない事を言った。
「第三者に判断させるか?」
目をぱちくりさせるシザークにナスタは不敵な笑みを見せると、顔をすっとドアに向けた。
「外にいる二人。入れ」
「ええっ?」
数秒が経ってからゆっくりと、ドアが開いた。
そこには、憮然とした顔のマイルと、ばつが悪い事極まれりという顔のタレンが、ドアノブに手をかけたまま、所在無さげに立っていた。
「なっ!」
「突っ立っていないでさっさと入れ!」
シザークが手で口を押さえ、これ以上無いほど赤面しているのを尻目に、ナスタが二人に部屋へ入るよう、口と目で指図した。
「……オク……マイルと、タレンか? 大臣付きの」
赤面しまくりのシザークが、居心地悪そうに二人とは逆の方へ身体を向ける。
「も、も、も、申し訳ありません!」
シザーク同様、真っ赤になって床を見つめたまま、タレンが深々と頭を下げて謝った。
「ずいぶん楽しそうな事で……」
マイルは、憮然とした顔を崩さず、相変わらずふてぶてしい態度でシザークとナスタを交互に見ていた。
「ふぅん、お前がマイル・オクトか。体がでかいから、ナニもでかそうだな」
ナスタはわざと下品に言う。
「大きさはどうだかわかりませんが、それなりには膨張はします」
オクトは気にも留めずに返すと、ナスタは愉快そうに笑った。
「お前なかなかいいな。気に入った……それでさっきの話だが、どっちが早かったと思う?」
紅い瞳が今度はタレンを見ていた。
(え? 俺が聞かれてるのか?)
視線を感じ、タレンは一瞬顔を上げたが、二人の美人のあられもない姿を再び目にし、顔をまた赤面させて下げてしまう。
「コレには刺激が強いようだから、何か着てもらえませんかね」
オクトはやれやれといった表情でダナヤ兄弟に言った。
コレ呼ばわりされてタレンは腹が立ったが、実際その通りなので黙って手を握り締めた。
言われた二人はのっそりと動き、散らばっている服を回収する。
「タオルでも絞ってきましょうか。すぐに戻るのでお待ちください。あとシザーク陛下はシャツでもお持ちします」
マイル・オクトは仕事のできる男。
的確に物事を把握し、部屋から出て行った。
タレンも後を追おうとしたが、ナスタに呼び止められた。
「お前はこっちを手伝え」
「えぇ!? あ、はいっ!」
壮絶な色気を漂わせるナスタにオズオズと近寄ると、タレンはいきなり腕を引っ張られてソファに座らされた。
「オドオドとしていて臆病な犬みたいだな。こういうタイプ、周りにあんまりいないから、新・鮮♪」
顎をむんずと掴み、しげしげと眺める。
「ナスタ! うちのSP苛めんなよ!」
人手不足なんだからやめられたら困る、とシザークは付け足す。
(ひっ……人手不足とかそういう問題だけなんですかー!?)
「心外だな。どう可愛がってやるか、考えてるだけだ」
ナスタは不敵に笑った。
(た……助けて、マイル……)
情けないと言われてもいい。自分だけではこの人物には抗えない。助けて欲しくて、タレンはただひたすらオクトの名前を呼んだ。
扉が開いた。
マイルだ! と思い顔をそちらに向けたが、目に映るのは知らない顔。身長もこの男の方が高そうだ。
「うひゃー。ウサギちゃんが増えてる」
「誰がウサギだ。減らず口を叩けないようにしてやるぞ?」
ナスタは男をねめつけた。
「ナスタさんこわーい。ところで、この子誰? 初めて見るなぁ」
慣れているのか、ナスタの脅しも軽く交わし、怯えたままのタレンに微笑む。
(あ、この人はちょっと優しそう)
ちょっと気を許したタレンに、男は笑顔のまま顔を寄せてくる。
シザークの焦った声が聞こえた。
「おい、コラッ!」
(もしかしてキスされるのかな)
と、他人事のように思う。唇が触れようとした瞬間、男の頭が不自然に仰け反った。
「お前、SPのくせに自分の身も満足に守れないのか?」
「マイル!」
濡れたタオルを数本と、新しい服を調達してきたオクトが、男の襟首を抑えて立っていた。
その顔はこれ以上ないほど唇を歪め、忌々しそうにしている。
「め、面目ない」
タレンは突き刺すような視線に、そう謝るので精一杯だった。
「シザーク陛下も、自分の手の者が襲われかけてるのを黙って見ていたんですか?」
「う……」
図星を指されてシザークも口ごもる。
「こちらをお使いください。シャツはナスタ様のをお借りしてきました。ナスタ様のお着替えもあります。適当に持ってこさせたものですが、よろしいですよね?」
「ああ、気が利くな」
矢継ぎ早に仕事をこなし、オクトはタレンを廊下に連れ出した。
「中尉が心配されていたので、勝負が終わり次第会場へお戻りください。中尉にはナスタ様とご一緒だったということだけお伝えします。それでは――っと、勝負の方ですが、ほぼ同時だったと思います。こちら側からはそれ以上は分りませんでした。それでは」
きっちり礼をしてオクトは部屋を後にした。