トレモロ BL18禁

トレモロ46 おっ……きいよ!

 何とも言えない感覚にタレンが身体を畏縮させたのに気がついて、オクトが空いている方の手でタレンの身体を擦るように愛撫する。
「ん、ふぁっ」
 オクトの愛撫に合わせる様に紡ぎ出すタレンの喘ぎが、逆にオクトを追い詰める。
 無理にでも抱きたい衝動を、壊れ掛けた理性を総動員して鎮圧したオクトは、ギリギリの境界線で留まっている。
 痛みに小さくうめくタレンを見つめて、その唇に口付けた。


 オクトがギリギリの所で理性を保っている頃――


 シザークが長い廊下をズンズンと歩く後ろを、カルナラがふてくされたような顔をして歩いていた。
「全く。年中さかってんじゃないぞ。今は、オ……マイルとタレンの確認しなきゃ」
「そっちの問題こそ、私にはどうでもいいですよ」
「もう……さっきヤったばかりだろ」
 機嫌の直りそうにないカルナラに呆れて振り向きながら言うシザークに、カルナラはそっぽを向いて答えた。
「そりゃ、貴方は良かったでしょうけど」
「なに」
「シザークは百回セックスしたら、九十九回は必ずイキますよね」
 パクパクと口を開け赤面したシザークが反論しようとするのを、カルナラが言葉で制した。
「まあ、貴方が気持ち良さそうなのが何よりなので、それはいいんです。ただ私が望んだ時には答えて欲しいなーと」

 真面目な顔で言うカルナラの顔を覗き込んでシザークは不安そうに言った。
「カルナラ、お前、満足してないの?」
 カルナラは意地悪く、すぐに返事をしない。
「どっちだよ? 確かにそりゃ、毎回毎回 オレが先に気持ち良くなっちゃうし、最近は数だけで言ったら例えば一日七回してもお前がイクのは良くて一回だよ」
「数えてんですか」
「お前だって、さっき言ったじゃん……とにかく、気にはなってたんだ」
「へぇ?」
 案外、シザークもそんな繊細な事に気が回ってたんだと感心したカルナラの耳に響いたのは、カルナラをうちのめすような言葉だった。

「カルナラ、お前さ……最近、イカないよな。あれ、出さないの? それとも出ないの? それって、やっぱり老けたから?」
「……」
「若い頃はもっと早かったし何回でも出たよな。もうお前も中年だしさ、これでも心配してんだ」
「しん……」
 呆然とするカルナラの両肩を抱いてシザークが慰めるように言った。
「いくらなんでも、その……遅漏過ぎないか? 感度鈍ってんじゃないか?」


 少し離れた廊下の角に隠れて、ナスタが呟いていた。
「またあいつらは、アホな事言ってるのか。あれじゃ、しばらく来ないな」
 足音を立てないように、ナスタはオクトとタレンの居る部屋に向かった。
 もちろん、ナスタの趣味である、"他人のセックスの時の声"を聞く為に。
 そのために、さっきあっさりとタレンをオクトに返したのだから。


 ナスタが忍者よろしく、隣の部屋で盗み聞きをしている頃


 オクトはふと思いついたことをタレンにしていた。
 これ以上 舌が触れていない場所がないくらいに全身を隈なく舐めてみたのだ。
 しかし、肝心な部分には一切触れない。
 触れたい衝動を堪えながら舌が疲れても、タレンをグルーミングしていく。
「オ、クトぉ……」
 唇からもれる、やや不満そうな声。しかし、とても艶やかな声。

 タレンは自分を甘く攻める舌の動きに翻弄されていた。
 まったく触れられない肝心な部分がもどかしい。
 自分で触れようとすると、オクトの自分より大きな手に阻まれる。
「や、だ……触って……」
 タレンの求めにオクトは胸が震え(むせ)ぶ。
(こんなことだったのか。……僕は、馬鹿だな)
 自嘲して笑う。
「気持ちよくしてあげるよ」
 唇をあわせると、タレンのほうから舌が忍んでくる。
「ンンンン、ふ……ぅん」
 前を触るとすでにガチガチで、トロトロと垂れる涙でオクトの手はスムーズに動く。
 上下に擦ると、引っ切り無しに声が漏れる。
 今までのタレンとの行為で、ここまで彼が乱れたことはない。
「ひゃ……」
 後孔も柔らかく、そっと中指を納めると抵抗無く受け入れてくれた。

 ゆっくりと身体を開くことはこれほど重要だったのか。
 オクトはようやく理解できた。

「すまない、ウォレス」 
「ああっ……んぁ……オク、トぉ」
 指を増やしかき混ぜてもまったく嫌がらない。
 むしろ、それ以上の衝撃を欲しているようにも思える。
 自分も限界だった。
「ウォレス……入れるよ」

 解した後ろに、切っ先をつけると、タレンが小さく声を上げた。
「痛い?」
 聞くと首を振る。
「ちょっと怖いから……ゆっくり、してくれ……」
 後半は消え入りそうな声だった。
 タレンの手を自分の肩に止まらせ、大きく開いた股にゆっくりと差し入れる。
「――ぁっ」
 声を出すたびに髪を撫で、口付けを送り安心させる。
「あぁぁ……オ、クト……」

 タレンがオクトでいっぱいになる。
 中は収縮を繰り返し、オクトに快楽を与え、そしてタレンにも同じく分け与えていた。
「平気か?」
「ん」

 恐る恐る動いてみる。
 タレンはすぐに声をあげた。
 中身がすべてオクトに持っていかれそうだ。

「おっ……きいよ!」
「削れるわけじゃないんだから無理言うな」

 憎まれ口に軽く返し、腰のペースをあげる。
 タレンの表情を見ながら、壊れないように慎重に。

「んくぅ……あぁん、あっや……ああっ!」
 グリっと擦った場所にタレンが声を高めた。
「ここ?」
「あう……だ、めだ。擦るな……よ」
「わかった、あまりしないから髪の毛を掴むな」
「んふぁ、だってあ、やだ。ンンンン……」

 オクトの腹で擦られた部分が、ピクピクと限界を示している。

「ウォレス」

 一際奥へ突き動かし、欲望で掠れた声で名前を呼ぶ。
 タレンは爆発するように精を吐き出した。
 その時の強い締め付けはオクトにも耐えられなかった。

「……ンッ」

 歯を食いしばって声を抑え、タレンの入り口付近で射精する。
 後の処理に楽だからだ。

 お互い肩で息をし、力なくベッドに横たわった。

「辛くないか?」
「あ、うん。いつもよりは」
 本来受け入れる器官ではないところへ、オクトの巨大なものを入れるのだから、負担がないほうがおかしい。
 しかし、今回は切れることもなく、少し入り口は腫れた程度ですみそうだった。体調も割りといい。
 事後の口付けを贈り合いながら、タレンは思った。

(陛下ってやっぱり凄いんだな……)

 そう思ってみたものの、その意味を再度考えてタレンは赤面した。
 あの陛下と自分を比べる事は情けなくなるからしないでおこうと決めたのに、どこかまだオクトが自分を透かして陛下を見ているような気がしてならない。

 赤くなったり、真剣な顔になったりするタレンを不思議そうに見ていたオクトが「どうした?」と訊いた。
「オクトって、いまだに陛下やコールスリ中尉につっかかる事があるよな」
「そう? どこがだ?」
「どこって、中尉の前だと明らかに不愉快そうな態度だし」
「それは、最初からあいつは気に喰わないから」
「あいつって言うなよ。仮にも中尉に」
「はん。タレンはいちいち細かい事を気にするよな。疲れないか」
「疲れないよ。それよりお前が失敗しでかさないかと、そっちにヒヤヒヤして疲れるよ」

 体を起こして、服を着ようと立ち上がるタレンの腕をオクトが引っ張った。
 またベッドに倒れこんで、タレンが不服そうに口を尖らせる。
「なんだよ? 早く洗いたいんだけど」
「しっ」
 オクトが指を唇に当て、ドアを見る。
「え?」
「……」

 黙っているよう目で合図し、ドアに向かうオクトの背中を見てタレンは青ざめた。
 まさか――誰か外に?
 気配を消したまま、オクトが勢い良くドアを開けた。
 タレンは息を詰める。
 音はない。
 だが、オクトがドアから顔を出して廊下を確認し、
「逃げても無駄ですよ。もう見えました」
 と声を上げた。

 様子のわからないタレンは、慌てて服を引っつかみ、出来るだけ身にまとう。同時にドアの傍で全裸で立っているオクトをどうしたらいいものか思案しているうちに、廊下の離れた所からと思われる声が聞こえてきて、タレンは凍りついた。