トレモロ BL18禁

トレモロ64 謎のコップ、そしてトマトか!

 小さな指輪を、広い屋敷の中で探すのは骨が折れる。
 各自が床に頭をつけて家具の下を覗いたり、それぞれがナスタと会った付近の捜索をしたが、案の定、なかなか見つからなかった。

 客間に居たフィズは早々に探すのを諦め、アルトダに言い寄っていた。さっき仲直りしたばかりで、気分は盛り上がっているらしい。
 当然、アルトダに不謹慎だと諌められて、しょげていた。
「城に帰ったら、なかなか時間も取れないしさー。俺って夜勤とかあるしさー」
 まだ往生際悪くブツブツ言っている。
「同じ城内に居るんですから、会おうとする気さえあればいつでも会えるでしょ。陛下と兄さんが困ってるのに、真剣に探してくださいよ」
「そう言わずに」
「わ! ちょっとフィズ少尉!」
 ニヤついてのしかかってくるフィズから逃れようとして、アルトダが床に倒れた。倒れた目の先に光るものが見える。
「?」
「アルトダー」
「フィズ少尉! 離してっ」
 もがきながら手を伸ばして掴んだそれは、期待した指輪のサイズではなかった。
「コップ……?」
「……ガラスのコップだね。普通の」
「そう言えば。今までに探した部屋にも、何故かコップ、落ちてましたね」
「なんで片付けないんだろうな。ちゃんと清掃員もいるだろうに」
「うーん?」



 同じ疑問を、東の棟で捜索中のタレンも口にしていた。
「なんで壁際に落ちてるんだろう。物置にも落ちてたなぁ」
「ウォレスは鈍い」
「は?」
 呆れたような顔で、オクトがタレンの持っていたコップを受け取り、そのまま耳に当てた。
「何やってるんだ?」
「こうやってもわからないのか。お前、もうSP辞めろよ。絶対、向いてない」
「かっ、関係ないだろっ。それとこれとは」
「何でSPなんてやってんだよ。危険な仕事なのに、ウォレスに務まるわけないぞ」
「それは、心配して言ってくれてるのか」
「え……」
「そうじゃないなら、取り消せ。不愉快」
 ぷい、と横を向いて作業に戻ってしまったタレンを、気まずそうにオクトが見つめる。
「……ごめん。言い過ぎた」
 王族にも怖気づく事なく突っ掛かって行くくせに、タレンに冷たくされるのには、オクトは弱い。
 タレンも最近は、その事に気づいているようで、時折こうしてお灸を据える事もあった。
「いいけど。で、どうなんだよ、オクト」
「何が」
「だから、心配して言ってくれてるのか、ってトコだよ」
「……ああ、そうだ」

 少しくらい反論するかと思っていたのに、オクトにすんなり肯定されて、逆にタレンが慌てた。
 見る間に顔が赤くなる。
 何とも言えない空気と沈黙が流れ、タレンの呼吸がかなり速くなってきた時、それを見計らったようにオクトが抱きついた。

「ちょっ……!」
「誰も居ないから」
 そう言って、ギュウギュウと構わず抱きしめ続ける。
「やだよ!」
「隣のヘンタイも今は居ない」
「なんで! 確かめてないだろうっ。見て来たのかよ!」
「……ウォレス」
「なに!」
 はぁーと溜息をつき体を少し離して、オクトがタレンを見下ろす。

「やっぱり、お前、SPには向いてない」



 食品庫の奥まで探しにきたシザーク達は、床をキョロキョロ見ながら歩いていた。
「あと、ナスタはどこに居たっけ」
「えーと……」
 シザークに問われたが、目の前の野菜に目が行ってしまい、その質問を上の空で返してしまう。
 しばらく黙りこくったままの状態が続き、急にハッとシザークを振り返る。
「……シザーク、手が汚れたとき、どうしますか?」
「は?」
 唐突な質問に眉をひそめながら答える。
「洗うか、拭く」
「その汚れがトマトだったら?」
「トマト? あっ!」
 ようやくシザークにも合点が言ったようで、カルナラも満足げに頷く。
「オレなら手を洗う。あの指輪は絶対に外す。ナスタはひとりで指輪が填められないから……」
「外す時にそばにいた誰かが知っているはず。その時に傍にいた可能性が高いのは?」
「司会のあの男だ!」
「断定は出来ませんが、聞いて見てもよいのではないでしょうか。本人も忘れている可能性もあるわけですし」
 方向性は決まった。二人はナスタと男の元に急ぐ。
「あの二人に振り回されっぱなしだよ!」
「仕方ありませんね。似た者夫婦ですから」
「やだよ、あんな兄貴が二人もだなんて!」
 確かに。
 笑えるような状況ではないが、カルナラは思わず吹き出した。
「あの二人どこで探してるんだ?」
「またどこかでデバガメしてると厄介ですね」
「その可能性もあるのかよ! 頼むからじっとしててくれよ!」

 シザークの祈りはナスタたちには……