トレモロ BL18禁

トレモロ67 戻ってきた指輪

「なんだ」
 折角、楽しもうと思ったのに、余計な邪魔が入ってしまったナスタは、コップを床にポンと放り投げてシザークに向き合った。
「何だ、じゃない」
 と、睨み付けるシザークを睨み返してナスタが答える。
「指輪なら」
「司会の男か?」
 ふと、シザークの様子がいつもと違う事にナスタも気づいた。
「まだ怒ってるのか。しつこいな」
「その事だけじゃない! ナスタのせいだろ。別邸の中で、こんなにいっぺんにエッチがあったの!」
「はぁ? 何言ってるんだ」
「そうじゃん! エッチのある所に必ずナスタが居るじゃん! そんなナスタに都合よく、人の家で皆が発情するか?」
「お前、何でそんな考えになってるんだ。私が仕向けたわけじゃないぞ」
「うそだ! 酒になんか入れたんじゃないだろうな?」

 そう言えば、いつも、別邸に来るとどうもカルナラと「したく」なる。
 場所が変わる事の新鮮さ故かと思っていたのだが、ナスタが自分の趣味の達成の為に何か仕込んでいたのなら説明もつく。
 シザークがナスタの胸ぐらを掴んだ。
 多くのエロシーンに中てられたのか、いつもより行動が大胆だった。

「入れるか。バカ。それなら他の客も全部淫乱になるだろうが」
「じゃあ、なんでオレ、今日はこんなに沢山、他人のエロシーン見なきゃいけなかったんだよ?! それも男同士ばっかり!」

 今にも殴りかかりそうなシザークに、チっと舌打ちしてナスタは怒りの矛先を逸らそうとした。

「自分を省みろ」
「何っ」
「国王からして、公に男をパートナーしてるんだぞ。自然、周りもそう言った事に寛大になるだろうが。自業自得だ」
「何だよ! 結局、オレのせいかよ」
「ああ、もうキイキイうるさい。嫌ならカルナラと別れてみれば、事態は変わるかもしれんぞ」
 軽い冗談のつもりで言ったのだが、ナスタの想像以上にシザークがうろたえた。

「そ……んなの……」
「……シ」

 バン! とドアが勢いよく開いた。

「嫌です!」
 一言、そう怒鳴ってズカズカと入って来たのは、カルナラだった。

「シザークと別れろ、ということは私に死ね、と言ってるんですか!?」
「カルナラッ!」
 尋常ではないカルナラの雰囲気にシザークは青褪めた。
 ナスタも「冗談だ」というタイミングを失い、更に修羅場となりそうなこの様子に頭を抱えた。

 まさに一触即発。
 誰が口火を切るか、ジリジリとした空気が全員を包んでいた。
 雰囲気に耐えられなくなったシザークが、首を横に向けようとしたとき、大男が入ってきた。
「待ーった、待った、待った!」
 司会の男が巨体を大きく動かして全員の注意を引き付ける。
 つい反射的にしてしまった行動なので、全員がこちらに注目すると、さて何を言おうかで悩んだ。
「い……今のは揶揄、揶揄ね! でもナスタさんの本心じゃないのよ! その理由にほら、こんな展開になってナスタさんも焦って汗かいてるし!」
「バッ、私は焦ってなど……痛ッ」
 いつもの言い訳をしようとするナスタのわき腹を、男がいきなり抓る。
 かなり痛い。シザークとカルナラに気付かれないように、となぜか思うと汗がツツッと落ちてくる。
 睨みあげるナスタに、顔を引き攣らせながら男は続けた。
「あー、そうそう。この指輪、弟くんに返すからね。間違いないよね。ちゃんと返したからね」
「……あぁ、どうも」
 毒気を抜かれた表情で指輪を受け取ると、シザークはそれを指に納めた。

「やっと戻ってきた」
 愛おしそうに指輪に頬擦りする姿に、カルナラも尖っていた神経が徐々に丸くなるのを感じた。