トレモロ29 食いちぎ、られそう
答えを待たずに挿入の体勢を作った。一瞬避妊具の存在を思い出したが、それを付けることさえも煩わしい。一刻も早く繋がりたかった。
強引にぐいと押し付けると、息をつめたような声でアルトダが言った。
「逃げないから、ゆっくりシて……」
「……悪い」
謝ると泣きそうな顔でアルトダが首を横に振る。
大きく息を吐いた。酸素を脳に取り込むと、次第に気持ちが落ち着いてくる。
「ゴメン、余裕無かった。アルトダ可愛くってさ。もう大丈夫。優しくするから」
アルトダの肩に額をあて、フィズはすまなそうに詫びる。
大丈夫、というように髪を撫でられるとお互いが暖かい気持ちになる。
チュッと軽やかなキスを贈りあい、フィズは再び体勢を作った。
本当に入るのか、不安な気持ちでアルトダの奥を押し開く。
「ンンン……」
先の一番太い部分さえ飲み込めばあとは楽、と聞いていたが、無意識の抵抗に閉口する。
「いっ……たぁ……」
「お…れも痛い。もうちょっと力抜ける?」
アルトダは何度も頭を振った。
「息吸って」
「?」
不思議そうな顔をしたアルトダにもう一度言う。
「いいから。息を大きく吸って」
わけが分らないままそれに従う。
「吐いて」
吸い込んだものを吐き出すと、ぐいっとフィズが入ってくる。
その圧迫感にまた息を詰めるとまた同じことを言われた。
それを幾度か繰り返すと、ようやくフィズを受け入れることができた。
これがアルトダが興味を持った、男同士の受身での行為。
体内で脈打つフィズがほろ苦いが、甘さを含んだ疼きを与えてくれた。
「大丈夫?」
「は、はい。あっ……大丈夫じゃない……かも」
「ええ?」
「……やっぱり……い、痛いぃ……」
歯を食いしばって痛みを訴える身体は、小刻みに震えている。
フィズもこればかりはどうすることもできない。ただ、アルトダが慣れるまで待つしか無いと、汗で張り付いた
前髪を指でそっと払う。
「うっ、くっ」
「アルトダ?」
「あ、いや……待って下さ、い」
フィズが少し動いただけで、アルトダの額に汗が粒となって浮かぶ。
『やっぱりずいぶん痛そうだなぁ。こりゃ気をつけないと怪我させちゃうかも』
フィズは、なるべく負担をかけないよう注意しながら、アルトダの腰を両手で持ち、ほんの少しだけ揺すった。
「……っ……」
身体を捩り、アルトダが無意識に痛みから逃げようと身体を丸めるのを、フィズは肩を押さえて戻しながら、アルトダの耳元に唇を寄せ呟く。
「ごめんね」
その瞬間、ぎゅっとつぶったままのアルトダの目から涙が零れるのを見る羽目になったフィズは、罪悪感に躊躇した。
動き出さないフィズを不思議に思ってアルトダが目を開けると、苦渋に満ちた表情のフィズが居る。
「大丈夫ですよ。もう」
痛みと不安とを押しやりアルトダが無理に笑う。
「多少痛くても我慢……じゃなくて……私だってしたいと思ったんですから!」
そうしてフィズが、アルトダの言葉に押されるように少しずつ動き出すのを、アルトダの息が追う。
揺れるのを不安に思ったのか、アルトダがフィズの背中を両手で抱いた。
「ん……」
何度かフィズの躍動を受け入れていると、入れたときのように、フィズの動きに呼吸を合わせると楽なことに気付いた。
「あぅ、ン……ああぁ……」
多少の違和感はあるものの、痛みはあまりない。
逆に僅かな痛みが気持ちいいと思うようになっている。
不思議だ。
「あっ、あっあぁん」
自分の声が自分のものではないようだ。
羞恥しようにも頭がついていかない。
「気持ちよさそうだね」
フィズの声も快感に上擦っている。
「ん……い、いい……か、も……」
目でフィズ少尉は?と訴えると、ゆっくりと目を閉じて恍惚の表情を浮かべる。その仕草にアルトダの心臓は跳ね動き、無意識に後ろを締め付けた。
「う…く……食いちぎ、られそう……」
痛みに耐え、アルトダを突き上げると、アルトダが鳴いて縛めを緩めた。
二人の間で揺れるアルトダ自身を擦り上げると、溢れる涙でくちゅといやらしい水音を立てる。
「あっん、い……や……触る、と出……ぅ……」
「まだ駄目って言いたいけど、俺ももう無理かも……すっげ、気持ち良過ぎ」
最近やたらと行為に長くなったと思っていたが、今日は入れる前から早く出したいという射精感があった。
入れてみれば凄い締め付けと、中の具合の良さに、さっさと白旗を揚げる。
「いっしょ……一緒がいいです……」
「わかった。一緒にイこうね」
フィズがピッチを上げると、その凄い快感にアルトダはフィズの腕に爪を食い込ませた。
痛みと快感に顔が歪んだフィズが、アルトダを擦り、頂点の窪みに爪を食い込ませると、一瞬にしてアルトダが弾けた。
その時の後ろの急激な絞めで、フィズもブルッと体を震わせる。
二、三度腰を動かし、融けた内壁で精を搾り出すと、大きく息を吐き、アルトダの上に倒れこんだ。
「すっげー良かった」
「私も…初めてだったのに、凄い感じちゃいました」
お互い荒い息を吐き出しながら唇を合わせた。
「んふ……ふふふふ」
口付けの途中でアルトダがいきなり笑い出して、フィズはしこたま驚いた。初エッチの衝撃で壊れたのかと一瞬思った。
「ね、もう一回したくないですか?」
「えええ?」
「私、良く無かったですか?」
「いや、凄い良かったよ。目茶苦茶気持ちよかったし!」
「じゃあしましょうよ」
アルトダがフィズと体を入れ替えて迫った。
「……俺、そんなに若くないからなぁ」
渋った声でフィズが言う。
「じゃあ今度は私がしてあげますよ。ふふふふ。これの気持ちよさ、知らないのは可哀想ですから!」
(ど……どこで回線切れちゃったんだろう)
ありえない馬鹿力で組み伏せられてフィズは怯えた。
(一仕事終わったし、もういいや。寝ちゃおう)
ブラックアルトダの不気味な笑いを余所に、フィズは意識を手放したのだった。
あれからどれくらいの時間が経過しただろうか。
ぽっかりとフィズが目を開けると、恨みがましい目でアルトダがこちらを見ていた。
眠ってしまう前のことを瞬時に思い出し、思わず布団をめくって下半身を確認する。
違和感は……ない。
とりあえずホッと胸を撫で下ろす。
「フィズ少尉……」
「あ……アルトダ。あははは、ごめん寝ちゃった」
雰囲気を一掃するように明るく言ってみるが、アルトダを取り巻く暗いものは渦を巻いたままだった。
「ごめんじゃないですよ! 私一人宙ぶらりんにさせて、悔しいから襲ってやろうと思ったのに……お尻がどんどん痛くなって動くにも動けないなんてーーーー!」
こ……殺される……
身の危険をヒシヒシと感じ、フィズは引きつった笑顔でアルトダから少し離れた。
「逃げるなんて卑怯ですよ! 私の初めてを奪った代償は、必ず払ってもらいますからね!」
自分からしてくれと言ったくせになんという言い草。
「しているときより、終わってからの方が痛いなんて、聞いてなーーーい! 陛下も、兄さんも……フィズ少尉も、全員覚えてなさいーーーーーー!!」
「ヒーーーーー!!」
その後、アルトダとフィズがどうなったか。
詳しく語れるものはこの二人だけだろう。
「ヘタレの弟と同僚は、やはりヘタレか。並みの伝染病より怖いな」
「ナスタさん、そんな見も蓋も無い言い方しちゃ気の毒だよ」
デバガメに間に合った二人は結末まで見届けて、それぞれ溜息を吐いた。
強引にぐいと押し付けると、息をつめたような声でアルトダが言った。
「逃げないから、ゆっくりシて……」
「……悪い」
謝ると泣きそうな顔でアルトダが首を横に振る。
大きく息を吐いた。酸素を脳に取り込むと、次第に気持ちが落ち着いてくる。
「ゴメン、余裕無かった。アルトダ可愛くってさ。もう大丈夫。優しくするから」
アルトダの肩に額をあて、フィズはすまなそうに詫びる。
大丈夫、というように髪を撫でられるとお互いが暖かい気持ちになる。
チュッと軽やかなキスを贈りあい、フィズは再び体勢を作った。
本当に入るのか、不安な気持ちでアルトダの奥を押し開く。
「ンンン……」
先の一番太い部分さえ飲み込めばあとは楽、と聞いていたが、無意識の抵抗に閉口する。
「いっ……たぁ……」
「お…れも痛い。もうちょっと力抜ける?」
アルトダは何度も頭を振った。
「息吸って」
「?」
不思議そうな顔をしたアルトダにもう一度言う。
「いいから。息を大きく吸って」
わけが分らないままそれに従う。
「吐いて」
吸い込んだものを吐き出すと、ぐいっとフィズが入ってくる。
その圧迫感にまた息を詰めるとまた同じことを言われた。
それを幾度か繰り返すと、ようやくフィズを受け入れることができた。
これがアルトダが興味を持った、男同士の受身での行為。
体内で脈打つフィズがほろ苦いが、甘さを含んだ疼きを与えてくれた。
「大丈夫?」
「は、はい。あっ……大丈夫じゃない……かも」
「ええ?」
「……やっぱり……い、痛いぃ……」
歯を食いしばって痛みを訴える身体は、小刻みに震えている。
フィズもこればかりはどうすることもできない。ただ、アルトダが慣れるまで待つしか無いと、汗で張り付いた
前髪を指でそっと払う。
「うっ、くっ」
「アルトダ?」
「あ、いや……待って下さ、い」
フィズが少し動いただけで、アルトダの額に汗が粒となって浮かぶ。
『やっぱりずいぶん痛そうだなぁ。こりゃ気をつけないと怪我させちゃうかも』
フィズは、なるべく負担をかけないよう注意しながら、アルトダの腰を両手で持ち、ほんの少しだけ揺すった。
「……っ……」
身体を捩り、アルトダが無意識に痛みから逃げようと身体を丸めるのを、フィズは肩を押さえて戻しながら、アルトダの耳元に唇を寄せ呟く。
「ごめんね」
その瞬間、ぎゅっとつぶったままのアルトダの目から涙が零れるのを見る羽目になったフィズは、罪悪感に躊躇した。
動き出さないフィズを不思議に思ってアルトダが目を開けると、苦渋に満ちた表情のフィズが居る。
「大丈夫ですよ。もう」
痛みと不安とを押しやりアルトダが無理に笑う。
「多少痛くても我慢……じゃなくて……私だってしたいと思ったんですから!」
そうしてフィズが、アルトダの言葉に押されるように少しずつ動き出すのを、アルトダの息が追う。
揺れるのを不安に思ったのか、アルトダがフィズの背中を両手で抱いた。
「ん……」
何度かフィズの躍動を受け入れていると、入れたときのように、フィズの動きに呼吸を合わせると楽なことに気付いた。
「あぅ、ン……ああぁ……」
多少の違和感はあるものの、痛みはあまりない。
逆に僅かな痛みが気持ちいいと思うようになっている。
不思議だ。
「あっ、あっあぁん」
自分の声が自分のものではないようだ。
羞恥しようにも頭がついていかない。
「気持ちよさそうだね」
フィズの声も快感に上擦っている。
「ん……い、いい……か、も……」
目でフィズ少尉は?と訴えると、ゆっくりと目を閉じて恍惚の表情を浮かべる。その仕草にアルトダの心臓は跳ね動き、無意識に後ろを締め付けた。
「う…く……食いちぎ、られそう……」
痛みに耐え、アルトダを突き上げると、アルトダが鳴いて縛めを緩めた。
二人の間で揺れるアルトダ自身を擦り上げると、溢れる涙でくちゅといやらしい水音を立てる。
「あっん、い……や……触る、と出……ぅ……」
「まだ駄目って言いたいけど、俺ももう無理かも……すっげ、気持ち良過ぎ」
最近やたらと行為に長くなったと思っていたが、今日は入れる前から早く出したいという射精感があった。
入れてみれば凄い締め付けと、中の具合の良さに、さっさと白旗を揚げる。
「いっしょ……一緒がいいです……」
「わかった。一緒にイこうね」
フィズがピッチを上げると、その凄い快感にアルトダはフィズの腕に爪を食い込ませた。
痛みと快感に顔が歪んだフィズが、アルトダを擦り、頂点の窪みに爪を食い込ませると、一瞬にしてアルトダが弾けた。
その時の後ろの急激な絞めで、フィズもブルッと体を震わせる。
二、三度腰を動かし、融けた内壁で精を搾り出すと、大きく息を吐き、アルトダの上に倒れこんだ。
「すっげー良かった」
「私も…初めてだったのに、凄い感じちゃいました」
お互い荒い息を吐き出しながら唇を合わせた。
「んふ……ふふふふ」
口付けの途中でアルトダがいきなり笑い出して、フィズはしこたま驚いた。初エッチの衝撃で壊れたのかと一瞬思った。
「ね、もう一回したくないですか?」
「えええ?」
「私、良く無かったですか?」
「いや、凄い良かったよ。目茶苦茶気持ちよかったし!」
「じゃあしましょうよ」
アルトダがフィズと体を入れ替えて迫った。
「……俺、そんなに若くないからなぁ」
渋った声でフィズが言う。
「じゃあ今度は私がしてあげますよ。ふふふふ。これの気持ちよさ、知らないのは可哀想ですから!」
(ど……どこで回線切れちゃったんだろう)
ありえない馬鹿力で組み伏せられてフィズは怯えた。
(一仕事終わったし、もういいや。寝ちゃおう)
ブラックアルトダの不気味な笑いを余所に、フィズは意識を手放したのだった。
あれからどれくらいの時間が経過しただろうか。
ぽっかりとフィズが目を開けると、恨みがましい目でアルトダがこちらを見ていた。
眠ってしまう前のことを瞬時に思い出し、思わず布団をめくって下半身を確認する。
違和感は……ない。
とりあえずホッと胸を撫で下ろす。
「フィズ少尉……」
「あ……アルトダ。あははは、ごめん寝ちゃった」
雰囲気を一掃するように明るく言ってみるが、アルトダを取り巻く暗いものは渦を巻いたままだった。
「ごめんじゃないですよ! 私一人宙ぶらりんにさせて、悔しいから襲ってやろうと思ったのに……お尻がどんどん痛くなって動くにも動けないなんてーーーー!」
こ……殺される……
身の危険をヒシヒシと感じ、フィズは引きつった笑顔でアルトダから少し離れた。
「逃げるなんて卑怯ですよ! 私の初めてを奪った代償は、必ず払ってもらいますからね!」
自分からしてくれと言ったくせになんという言い草。
「しているときより、終わってからの方が痛いなんて、聞いてなーーーい! 陛下も、兄さんも……フィズ少尉も、全員覚えてなさいーーーーーー!!」
「ヒーーーーー!!」
その後、アルトダとフィズがどうなったか。
詳しく語れるものはこの二人だけだろう。
「ヘタレの弟と同僚は、やはりヘタレか。並みの伝染病より怖いな」
「ナスタさん、そんな見も蓋も無い言い方しちゃ気の毒だよ」
デバガメに間に合った二人は結末まで見届けて、それぞれ溜息を吐いた。