トレモロ BL18禁

トレモロ37 兄さんが入るとさんぴーも

「彼等、何しに来たの?」
 廊下から聞こえるのはオクトの怒鳴り声と、タレンの小さな言い訳。それがどんどんと遠のいていく。
 今、目の前にいるこの男にも、同じことが言えるのだが、とりあえず言葉を飲み込む。
「さあ。でも助かった」
 シザークは濡れたタオルを使い、不快な部分をこそこそを拭い、ズボンを履いた。
「まて、シザーク。決着つかないままやめるということは、お前の方が早かったと認めるんだな?」

「な、何言ってんだよ。 マイルが言ってたじゃん。同時だったって!」
「有り得んな。どう考えてもお前の方が早かったぞ」
「そんなことない!」
「ふ〜ん。何の話?」
 言い争いになり始めた二人の間に、男はするりと割り込んだ。
「えっ」
 シザークは何も言えずに、どうやって誤魔化すかを考える。
「そんなにマジに考えちゃうと、いまに禿げるよ」
 その長身の男は笑いながらシザークに覆いかぶさるように立ち、シザークの耳元へ唇を近づけて、そう言った。

「おい」
 その先の男の行動を見越して、短く制したのはナスタの声だった。
「お前はそこで見てるだけだ」
「えー? こんな美味しい状況をただ黙ってみてろって言うの?」
「当たり前だ。お前が入ったら勝負にならんだろ」
「ちぇっ。そっくりな兄弟、(はべ)らしてみたかったのにな」
 男は額に手をあて、そのまま大げさにソファに倒れた。
「フン。こいつには男がいるぞ。相手がいる奴は食わないのがお前の主義だろう? だったら黙って見てろ。どっちが早いか、もう一度だ、シザーク」
 ナスタはシザークが先程はいたズボンのファスナーをあっという間に下ろした。
「おっ、ツルツル」
「見るなよ!」
 シザークは慌てて股間を隠した。
「俺が見てなきゃ駄目みたいだよ。どっちがイクの早いか競争してるんでしょ? 審判は公正に判定するから安心して頑張ってね」
 相変わらず男は察しが良い。にこやかにエールも送られる。ご丁寧に投げキッスまでくっついている。
「おい―― 邪魔だ」
 相変わらずの女王様振りで男を睨み付け、壁際に追いやり、ナスタはソファにシザークを押し倒す。
「今度は私が入れる番だ。覚悟はできてるよな」

 シザークは顔を引きつらせた。
「ちょ! ちょっと! オレはもうカルナラ以外には……」
「私もそうだったが、お前に入れさせてやったぞ。同じ顔なんだから、自慰行為だと思えばいい」
「んな、無茶苦茶なー!」
 もがいた。
 苦手な双眸(そうぼう)に見下ろされていたが、力の限り抵抗する。
「後ろから抑えててあげるよ」
 突然ふわりと背中が浮いて、暖かな布の感触に包み込まれた。
 両腕と両足を器用に拘束され、シザークは小さく痛みを訴える。
「いい眺め」
 男の笑いが吐息に変わり、耳を刺激して体が震えた。
 敏感に反応するシザークを面白がり、耳を軽く啄ばんだり、なまめかしい息を吹き込む。
 ナスタは一度男にキスを贈った。
「カウントには入れるなよ」
 男は笑んだ。それだけで十分だった。

 唇はシザークの白い肌に、紅い跡を残す。
 小さな痛みは快感となり、触れなくともソコを十分に大きくさせた。
 胸を飾る突起もプッツリと立ち上がり、存在を主張する。
「はぁ……っん、ゃ……」
「触りたいなぁ。でも 押さえてるから無理だし。ナスタさん、これってなんていうプレイ?」
 形のいいヘソに舌を入れたままナスタが笑った。
「逆拘束プレイと放置プレイの中間、と言ったところか」

 ナスタの舌が体中を這い、シザークの敏感な場所に触れると否応なくビクリと反応する。
「あの中尉さんに開発されてこうなの? 元からこうなの?」
 短く喘ぐ声と共に何度も体を震わせるシザークを見て、男はナスタに訊いた。
「知らん。カルナラに抱かれる前に私はこいつを抱いた事はない」
「あれ? 弟とするのは今回が初めて?」
「いや……本当は、一度」

 何だって?
 ナスタの返答にシザークは驚愕する。

「んンっ、何、それ! いつ?」
「聞いてどうするんだ。折角覚えてないのに」
「何のことだよ!」
 シザークは男の強い力に及ばずながらも抵抗して顔だけ前に出し、ナスタに食ってかかる。
 ナスタは鬱陶しそうな視線をシザークに送った後、舌をシザークの根元に絡ませた。
「やっ……くすぐったい」
 思わず再び、男の腕の中に倒れこむ。
「出来心でな。毎晩お前がカルナラに抱かれて、あんまりいい声を聞かせてくれるから、ちょっと試してみた」
「知らないぞ」
「腕に知らないうちに痣が出来てた事がなかったか?」
「あざ?」

 思い当たる節があった。

「え? じゃ、本当に?」
「私は嘘は言わん。都合のいいように言い換えはするが」
「オレ、なんで覚えてないんだ」
「薬を使ったからな」
「く……?」
「心配するな。ただ、行為中の記憶が途切れるだけで害はない。」

 ナスタの言葉に反応して、男がくっくっと笑った。
「やるね。それって、一回使ってこりごりだって言ってたアレでしょ」

 唖然とするシザークに、ナスタは舌使いを続ける。軽く口に含んで、唾液を塗りつけながら上下させると、シザークの切なそうな声が洩れた。
「あ、ん……」
 先程一度達したのに、またすぐに次の快感が来る予感がする。
「さっきも奉仕してやったし、前はもう充分だな。おい、ちゃんと押さえてろ」
 またシザークの頬付近に顔を近づけて唇をつけようとする男に、ナスタは一瞥をくれる。そして、弟の紅潮した顔に近付いて囁くように言った。
「私が抱いたあの時みたいに、声が枯れるまでいい声でなけよ? そう言えば涙もぼろぼろ出してたな。そんなに良かったか?」
 シザークが覚えていないので反論できないのがわかっているくせに、ナスタはわざと言う。
「やめろ、ナスタ。やっぱり嫌だ。こんな状況で」
 お互いだけならまだしも、体の自由を奪う男が居る。男の前でナスタに弄ばれるのは、やはりプライドが許さなかった。
「笑わせるな。自分は指輪の謎を知る為とは言え、私に突っ込んでおいて。それにいつもと違うのもいいだろう?」
 ナスタが、細い指をシザークの中にするりと差し入れた。
「や」
「先刻、カルナラに抱かれたばかりだから、余裕で入るな……」

「あ、や……やめろっ、ナスタ」
「その割には……」
 ナスタがにやりと笑い、指でゆっくりとシザークの中をかき回す。
「ああっ!」
「いい声になってるぞ」
「うっ! や……嫌だ、あ」
「うわ。色っぽいねぇ。本当にナスタさんにそっくり」
 男は言いながら、にっこりと爽やかに笑った。
 倒錯しそうだなと思いながら、男はこの状態を心の底から楽しんでいた。
「何を言う。私はここまで淫乱じゃないぞ」
 とんでもない事を言い出すナスタを、既に咎める事もできないシザークが睨む。
「こいつの声を楽しむ気持ちはわかるが……」
 話に気を取られたナスタの手が少しだけ緩んだのをチャンスとばかり、シザークが押さえつけられていた両足でナスタの肩を蹴ろうとした。
「あれ、元気だなぁ」
「右だけでいいから足もしっかり押さえろ」
「ナスタ!」
 気合だけでシザークが怒鳴る。
 ナスタはそれを軽く無視して、シザークの左足の大腿を掴み、そのままシザークの胸に付くほど押し上げた。
「うあっ」
「良い格好だ」
 身体を開かせたシザークの上に乗り上がる様にして、ナスタは一息でシザークと自分を繋いだ。

 嬌声と共に、シザークの身体が強張った。
「あン……ふ、ぁあァ……」
「ヤりまくってるくせに、お前のは相変わらず具合がいいな」
「へぇ〜。それは一度試してみたいね」
 揶揄(やゆ)するような声が耳元をくすぐる。
「あう……ヤ、ぁぁ……ンンン」
「お前とは嫌だと言ってるぞ」
「嫌よ嫌よも好きのうちってね。今だってそうじゃん。口は嫌がってるけど、こっちはギンギンだしさ」
 抵抗の無くなった身体から手を放し、男はシザークに触れた。
「ヒァ……んん」
「おい」
 律動を止めぬままナスタは男を叱咤する。
「だって弟クン、もう抵抗しないからやることなくて暇なんだもん」
「お前はどちらが早いか見てればいいんだ。その大きくなったのは私が後で相手をしてやるから、今はただ黙って見ていろ」
「ホント〜? 絶対だよ?」
 男はシザークから離れた。
 支えの無くなったシザークの身体はソファに倒れ、その上から瞳の紅い同じ顔が覆い被さる。
「ああっ!」
 奥まで貫かれ、喉が反る。
 ナスタを締め付け、ナスタから快感を堪える声が漏れる。
「ナ……ナス、タぁぁ」
 シザークを組み敷き、喘がせ、その反応を見た。それは薬を使ったときとはまったく違う。

 あれは、ただ薬を使った後の反応が見たくてした些細な悪戯だった。
 しかし、その後のシザークの痴態から、正体を無くしたときの自分の姿が想像でき、とても後味の悪い思いをした。

 シザークの芯の強そうな瞳は艶やかな色を帯び、虚ろだったあの時とは違う。
 この歓喜に歪む表情も、薔薇色に上気する肌もみんな自分と同じなんだろう。

 実のところ、薬の件以来、ナスタは素面のシザークを一度抱きたいと思っていた。
 若干酒に飲まれ、更に勝負と言われ、頭に血が登った部分もあるが、シザークを抱くことによって己を取り戻したいと、根底で思っていた。
 一度間近で見れば、あの時の自分の痴態を払拭できる、とそう直感していたからだ。
 男の下で色付く自分を直視できなくなって、正直焦っていた。
 そんな時にカルナラが中尉に昇進する話を聞き、これは使えると思った。

 そのためにカルナラの指輪を盗った。
 失くなったことをシザークに言えないカルナラの性格を利用したのだ。
 盗った指輪でシザークを煽り、そうして今、彼は自分の下にいる。
 直感は当たっていた。
 シザークを抱くことで、ナスタは徐々に自身を取り戻していく。
 
「ほら、もっと鳴け。いい顔を見せてみろ」
 シザークには悪いとは思いつつも、ナスタは攻めることをやめなかった。

「ねぇ、ナスタさん」
 シザークの掠れた喘ぎの中、男が突然声を発した。
「……なんだ?」
 汗が光る額に張り付いた弟の金色の髪を後ろに撫でつけてやり、ナスタが返す。
「このまま俺をナスタさんの後ろに突っ込んだらどうする?」
「馬鹿は死んでから言え」
 にべも無く言われても男は引き下がらなかった。
 上気した顔でナスタの蕾に触れる。
「我慢したんだけどさ、美人が二人でアンアンしてるのを見てたら、もう限界でさ」
「ちょっと待……ンッ」
 先程までシザークを受け入れていた箇所は、男の指をたやすく受け止め、二本でも物足らなそうだ。

「入れちゃおうかな〜。どうしようかな〜」
 男は葛藤を口にしながら、指を捻り動かすのをやめなかった。

「お前が私に入れたら、その時点でフェアじゃないだろうが」
 自分の中でうごめく指の感触に身震いしながら、ナスタが男を振り返る。
「そんなに勝負こだわらなくてもいいじゃなーい」
「やめろ! バカ! この……辛抱の欠片もないのか! いつもいつも節操なしがっ」
 男は聞き慣れたナスタの罵倒を受け流し、指を更に増やす。
「あぁ! やめ」
 男の指を容赦なく抽挿され、ナスタの背中が緊張でこわばった。シザークへの律動が同時に弱まる。
 男はナスタの傷だらけの背中にキスを落とすと、
「弟くんに突っ込んでるナスタさんに言われてもね。この状態で俺に我慢しろって言うの、無理なことくらい」
 ナスタにゆっくり顔を近づけてハスキーな声を耳元で聞かせた。
「わかってるでしょ」

 ナスタの後ろで、ファスナーを下ろす微かな金属音が聞こえる。程なくして尻を固定され、いつも男を受け入れている小さな部分に似つかわしくない大きなものがあてがわれた。
 思わず動きの止まったナスタに、シザークがようやく目を開けて訊く。
「なに……? ナスタ」
「あ!」
「えっ? あ」
 シザークの中が急に膨れ上がる。
「きつ……い、ナスタ」
 ナスタの変化に戸惑うシザークは、その後ろに覆いかぶさる男に気づいた。
 ナスタは顔を歪ませ、前後の刺激に耐えている。
「お前?」
「ナスタさんが不利だから、陛下。勝負は次回にお預け、ね」
「え?」
 ようやくシザークは、男がナスタの中に居ることに気づいた。
「待っ」
「待たない」
 すぐに男が腰の動きを始めた。

「ちょっ、ちょっと!」
 シザークは戸惑った。
(これってどう考えても変態行為!?)
 男の与える刺激がナスタに伝わり、シザークを刺激する。
 そしてシザークが受けた刺激が、またナスタに伝わり、男を締め付ける。
「ナ、ナスタ、だいじょ……ッ!!!」
 見上げたナスタの顔は怒りに震えていた。
 その形相の恐ろしさのあまり、シザークは目を見開いたまま固まってしまう。
「こ……この、単細胞のドラゴニアンめ!!! 貴様、誰の許可を得て私に触れている!! あぁ? この唐変木(とうへんぼく)が!」
 地を這うような声を振り絞りると、男が「ギャッ!」と叫んだ。
「痛い! いたたたたたた! 絞めないで! 痛いってば!! 千切れる!!」
「許すものか! 大体、お前が妙な薬を私に使うから、こんなことになったんだろう! 自業自得だ!」

 もの凄い状態で修羅場になった。
 我に返ったシザークが、「ン」という小さな声を上げてナスタからそっと離れても二人は気付かない。
 やはり先程と同じように、汚れた部分をタオルでふき取り、静かな動きで服を(まと)う。

「なんか、邪魔っぽいし、オレ先に帰るからね……」
「あぁ、帰れ! 私はこいつを闇に葬ってから戻る」
 その時のナスタの瞳はあの時と同じだった。
(酒が……酒の勢いがまたぶり返したのか?)
「あ、ちょっと、弟くん! 痛いってば、ナスタさん! ちょ、逃げないでよ! 助けてぇぇ!!」

 触らぬナスタに、祟りなし。
 男の悲鳴を無視し、シザークはドアを閉めた。
 そして無事に帰って来い、という祈りをこめて中の人物に合掌した。