トレモロ BL18禁

トレモロ54 水を差す

「う、それは単にくすぐったい程度かも……」
「ふうん、カルナラって脇腹も背中も全然平気なんだ? いい筋肉ついてるから感じ難いのかね?」
 中では既に、フィズとカルナラが半裸で真剣にもぞもぞしていた。

けれど、さすがにカルナラも、一番肝心な事に気がつく。

   シザークが相手でなければ、意味が無い。

 カルナラは自分のしている事のばかさ加減にようやく気づき、フィズにギブアップを申し出ようと思ったものの、既に思考はガタが来ていて上手い言葉が見つからない。
「駄目だ……」
「へ?」
 いきなり何かを否定したカルナラに、フィズが素っ頓狂な返事をする。

「やっぱりお前とじゃ、駄目だ……ギブアップ」 
 両手を上げ、降参するように手のひらをフィズに向ける。
「あ〜、無理」
 フィズがにへらっと笑って答えた。
「なに?」
「ここまで来たら、もう無理!」
「お前っ!! ギブアップオーケーと言ってなかったか!?」
 カルナラが叫んだ瞬間、
「前言撤回!」
 と、フィズが叫び、カルナラの身体に思い切り体重をかけ、このまま事に及ぼうというのか、その身体に乗り上がった。
 その瞬間、


「がまんできるかーー!!」
 一声叫んで、シザークが立ち上がり、無用心にも鍵の架けられていないドアのノブを掴もうとした。
 シザークがノブを掴んだつもりになった瞬間、そのドアがめりめりと音を立てて部屋の中に倒れ、かろうじて下側に残った蝶番に引かれて、斜めに止まる。
 ドアを蹴破ってその足で押さえたまま、鬼のような形相で立っていたのは、アルトダ・ガフィルダ、その人だった。


「フィ〜・ズ〜・しょお〜・い〜」

 シザークの叫び声とドアの破壊音に かろうじて振り向きはしたものの、二人は半裸状態のあられもない格好で、恐ろしさに動けず石像と化した。
 アルトダからゴゴゴゴゴという地響きのような怒りの波動を感じ取ったフィズは、自分の人生が一瞬走馬灯のように頭の中で流れるのを感じた。

「ア、アルトダ。これには深〜い訳があるんだ……」
 アルトダは、とっさに言い訳を始めたフィズを一瞬で氷の彫像に変え、冷ややかな視線の威力をそのままカルナラにも向ける。
「兄さん! あなたという人は〜……見損ないました。陛下が廊下で泣いておられるから何事かと思えば〜……」
「え! シザ……」

 そのままアルトダの肩越しに視線を向けると、所在無い瞳をしてシザークがこちらを見ていた。
 カルナラと目が合い、シザークの方がいたたまれなくなって、ふと足元に視線を逸らした。
 シザークはその瞬間、驚愕に目を見開き、あわあわと両手をバタつかせた。
「父様も父上も何してるの?」
 伏せた視線の先に居たのは、アルトダを追って来たアシュレイだった。

「貴様ら! さっさと撤収しろ!」

 一番最初に反応し、理不尽にも そう怒鳴ったのは、アシュレイの父親である――ナスタだった。
 フィズとカルナラが、わたわたと身繕いをする。

「あ! 父上また泣いてたの!?」
 アシュレイが心配そうにシザークを見上げる。
「誰が泣かしたの? また、かるなら?」
「え、いや泣いてないよ……怒りで目が赤くなっただけ」
 シザークも動揺し、理屈に合わない言い訳をしながら、さりげなくアシュレイの向きをくるりと変えさせた。
「アシュレイ。今度は父様と遊ぼうか?」
 二重人格かと疑いたい程、瞬間芸で良き父親に変化したナスタが、アシュレイを連れて会場へと戻って行った。