トレモロ7 トレモロ
「え? あれは……」
カルナラ は、シザーク とナスタ が一緒になって料理を頬張るのを警護していたが、続きの間のドアの前で身を寄せ合うように何かを囁き合う二人に気づき、呟いた。
「……アルトダ と、司会の男?」
すぐ傍に居たシザーク がその呟きに、カルナラ の視線を辿り、開け放たれていた続きの間へのドアを振り返った。
そこには、一緒になって部屋のドアをくぐる二人と、空間を隔てるように閉まるドアがあった。
(ちっ、あいつ……)
シザーク は舌打ちをした。
また男の悪い虫が騒いだのを見て、あからさまに不機嫌な顔をしている。
(私という者がありながら、他のやつにまた手を出す気か!)
皿をカルナラ に渡し、後を追おうとするシザーク の洋服のすそを小さな手が押さえた。
「シザーク、よもや私を一人にする気ではないよな」
ナスタ も大好きな父様の口真似を一生懸命にして褒めてもらおうと必死だ。
「ちょ、ナスタ。放せって。大切な用事を思い出したんだ!」
「私より大切なことなどあるものか」
「いや、そうだけと違くて……」
強引に手を離すこともできずシザーク はうろたえる。
さすがにアシュレイはナスタの子だ。カルナラ は笑いを噛み殺して「私が見てきましょう」と告げた。
アルトダ が案内された寒々とした部屋にはひとつのビリヤード台があった。
しかし、そんなものには目もくれず、男はアルトダ を抱きとめた。
「ふたりっきりだね」
耳たぶを食むように言葉を囁くとアルトダ の身体がゾクリと震えた。
アルトダ は隙を突いて掠めるように拳を繰り出し、男の懐から離れた。
紛いもなく自分はSPだ、相手がいくら大男でも伸すことは可能だと瞬時に考える。
「せっかく可愛いのに、あなたって色気は全然だね」
「今の形はこんなんですけど、中身は違うからね。あ、いい事教えてあげましょうか? さっきあなたから逃げた女の中身、この姿の男ですよ。襲うならそっちの方がいいんじゃないの?」
やってらんねーとばかりにアルトダはフィズに戻り、タバコを一本取り出して火をつけた。自分を置いていったアルトダにも悪態を吐く。
司会の男も懐を探っている。
タバコかな?と思いフィズは差し出した。
「俺はこれなんで遠慮します。ついでにあなたのも遠慮してもらえないかな」
男が取り出して見せたのは吸入器だった。
「あ、悪りぃ」
慌てて携帯用の吸殻入れにタバコをすりつぶして入れた。煙を拡散させようとしてパパパと動かした手付きを見て、司会の男が噴出した。笑いの中に咳が混じる。
フィズは窓を開けた。夜風に乗って爽やかな空気が入ってくる。
「なぁ、キス……だけならしてやってもいいぜ?」
「どういう風の吹き回し?」
「さぁな。ちょっとした興味本位かな、男同士の恋愛ってやつの」
フィズは司会の男に振り返る。
「するの? しねぇの?」
「……『据え膳は死んでも食え』ってのが死んだジーサンの遺言なんだ」
どんな遺言なんだよ、と笑いを含んだ唇が男のやや乾いた唇によってふさがれた。
キスはトレモロのリズムだった。 ※外伝1で別バージョン
「……
すぐ傍に居た
そこには、一緒になって部屋のドアをくぐる二人と、空間を隔てるように閉まるドアがあった。
(ちっ、あいつ……)
また男の悪い虫が騒いだのを見て、あからさまに不機嫌な顔をしている。
(私という者がありながら、他のやつにまた手を出す気か!)
皿を
「シザーク、よもや私を一人にする気ではないよな」
「ちょ、ナスタ。放せって。大切な用事を思い出したんだ!」
「私より大切なことなどあるものか」
「いや、そうだけと違くて……」
強引に手を離すこともできず
さすがにアシュレイはナスタの子だ。
しかし、そんなものには目もくれず、男は
「ふたりっきりだね」
耳たぶを食むように言葉を囁くと
紛いもなく自分はSPだ、相手がいくら大男でも伸すことは可能だと瞬時に考える。
「せっかく可愛いのに、あなたって色気は全然だね」
「今の形はこんなんですけど、中身は違うからね。あ、いい事教えてあげましょうか? さっきあなたから逃げた女の中身、この姿の男ですよ。襲うならそっちの方がいいんじゃないの?」
やってらんねーとばかりにアルトダはフィズに戻り、タバコを一本取り出して火をつけた。自分を置いていったアルトダにも悪態を吐く。
司会の男も懐を探っている。
タバコかな?と思いフィズは差し出した。
「俺はこれなんで遠慮します。ついでにあなたのも遠慮してもらえないかな」
男が取り出して見せたのは吸入器だった。
「あ、悪りぃ」
慌てて携帯用の吸殻入れにタバコをすりつぶして入れた。煙を拡散させようとしてパパパと動かした手付きを見て、司会の男が噴出した。笑いの中に咳が混じる。
フィズは窓を開けた。夜風に乗って爽やかな空気が入ってくる。
「なぁ、キス……だけならしてやってもいいぜ?」
「どういう風の吹き回し?」
「さぁな。ちょっとした興味本位かな、男同士の恋愛ってやつの」
フィズは司会の男に振り返る。
「するの? しねぇの?」
「……『据え膳は死んでも食え』ってのが死んだジーサンの遺言なんだ」
どんな遺言なんだよ、と笑いを含んだ唇が男のやや乾いた唇によってふさがれた。
キスはトレモロのリズムだった。 ※外伝1で別バージョン