トレモロ40 シザークの策略
その後、気に入ったのか、アシュレイはオクトにべったりだった。
一緒にいるタレンも温和な性格なので、すぐに懐いて一緒に遊んでもらっている。
「なーんか凄くモヤモヤしてる」
「え? マイルとアシュレイ殿下のことですか?」
「そう」
カルナラに寄りかかるように椅子に座り、シザークは言葉を続ける。
「だって、アシュレイってオレにそっくりじゃん?」
「まさか。マイルはタレンと、その……そういう関係なのでは?」
最後の部分を小声で言う。
シザークは弾かれたようにカルナラを見た。
そういえば、と先程 悪戯されかけたタレンと、それを寸止めさせたオクトのことを思い出す。
その後のあのオクトの怒りようを考えると二人が付き合っていてもおかしくない。
「カルナラ! あの二人がデキてるかどうか試そう! オレにいい考えがある」
「拒否します」
「え!? なんで?」
「どうせいつもの様にろくでもない事を思い付いたのでしょう?」
いつもの様にろくでもない と言われてシザークは少しムッとしたものの、オクトとタレンの事に関しては好奇心が勝り、カルナラに食い下がる。
「お前は気にならない?」
「え……まあ、気にならないと言えば嘘になりますが……」
「んじゃ、協力しろよ」
侍女に言い付け、新たに持って来させたグラスになみなみと注がれた酒を、シザークが受け取る。
困り顔で言い淀むカルナラに、飲むだろう? という仕種で渡した。
「あいつ、マイルさ。びっくりするようなタイミングで現れるけど、そういえばタレン絡みだよな。見てるとさ」
「見てると? そんなにシザークはマイルをよく見てるんですか?」
「変な言い方すんなよ」
シザークがカルナラの方へ向き直ると、カルナラは怒るでも悲しむでもなく、淡々とした口調と同じ、静かな顔でシザークを見ていた。
その顔に安堵して、シザークはまた少しカルナラに身体を寄せた。
「タレンが『居る』んだよ。そうするとマイルが現れるんだ。絶対あやしい!」
「はあ」
「気になるのを放っておいたら、ずーっと気になるだろ? 解決するには」
ふと、視線を感じたシザークが見ると、マイルの膝に座ったアシュレイがこちらを見ていた。
「お前の協力が必要なんだよ。カルナラ君」
シザークは言いながらアシュレイに微笑んでみせ、自分が席を外したら、タレンを誘って外に出るよう小声で指示し、さりげなく立ち上がる。
「アーシュ。父上と一緒にデザート食べないか?」
「うん。食べる」
「お持ちします」
タレンが気にして立ち上がりかける。
「あ、いいよ。何があるか見たいしさ。二人で行くから。な?アーシュ」
「うん。二人で行く」
嬉しそうに返事をしながらアシュレイがマイルの膝から立ち上がった。
「食べたらまた遊ぼうね、オクト」
「はい。喜んで」
常日頃、ここまで笑顔を振り撒くマイルを見た事の無い一同が、無言でその奇跡のような顔を凝視する。
「よし、行こう」
シザークはアシュレイを連れて会場内のテーブルへ向かった。
こっそりと溜息をつき、渡されたグラスを一息で空にして、タレンを外へ誘い出す為にカルナラは立ち上がった。
まず最初に行ったのは、今回カルナラの世話係りの女性(フィズは相当な美人だったという)にメモを渡してもらうことだった。
カルナラが女性に、内緒話をするように耳打ちして頼むと、女性は頬を赤らめて頷いた。
笑って「よろしく」と再度言うと、女性の目にハートが出来ていたとか、出来ていなかったとか。
「あれは父上の姿だったから、カルナラじゃなくて父上に対しての態度だったんだ!」
と、後日シザークがみんなの前で、怒りあらわに言って見せたことを考えると、前者だったのかもしれない。
オクトが飲み物を取りに行った隙に、女性はタレンに近寄って行った。
「あの、これを……」
小さな声で女性が声を掛ける。
「これは?」
「あの、SPの方への内密の指示ですので、周りには知られないようにお願いします」
SPという言葉にタレンの顔が一気に緊張した。
女性が去ると、メモを開く。
「なんだ、それは」
「うわ!」
突然、オクトから声を掛けられて、緊張のボルテージが振り切れてしまった。
声を上げて驚いて、メモをぐしゃぐしゃに閉じる。
一瞬だけ読み取れたのは『緊急』『食品庫』の二文字である。
「あの女、コールスリ中尉のところにいた女だな」
「え? そうだった?」
「お前、SPだろ。もっと注意深く人物を見ていないのか? それとも宴の雰囲気に流されているのか?」
相変わらずオクトの言い方は嫌な感じで胸を抉る。
心臓に手を当てたまま上座を見ると、カルナラの姿はなく、女性は所在無さげに控えていた。
カルナラがいないとなると、ますます先程の女性の言葉に不安を覚える。
『SPの方への内密の指示ですので、周りには知られないようにお願いします』
何か事件があったのだろうか。
慌ててシザークの姿を探す。
(――いた! アシュレイ殿下もいらっしゃる)
二人は奥のテーブルでデザートを楽しそうに摘んでいる。
となるとシザーク絡みの事件ではなさそうだ。
(一体、何事だ?)
不安は募るばかりだ。
「タレン? どうした?」
「悪い、マイル! 陛下とアシュレイ殿下のことを良く見ていてくれ!」
オクトが声を掛けるや否や、タレンは走って会場を出た。
呆気に取られていたオクトは、足元に丸まっている紙を見つける。
眉間に縦皺をくっきりつけてそれを拾うと、遠慮なく開く。
『緊急。SPは一階の食品庫へ』
「……緊急? 何があった?」
オクトはタレンが出て行ったドアを見た。
一緒にいるタレンも温和な性格なので、すぐに懐いて一緒に遊んでもらっている。
「なーんか凄くモヤモヤしてる」
「え? マイルとアシュレイ殿下のことですか?」
「そう」
カルナラに寄りかかるように椅子に座り、シザークは言葉を続ける。
「だって、アシュレイってオレにそっくりじゃん?」
「まさか。マイルはタレンと、その……そういう関係なのでは?」
最後の部分を小声で言う。
シザークは弾かれたようにカルナラを見た。
そういえば、と先程 悪戯されかけたタレンと、それを寸止めさせたオクトのことを思い出す。
その後のあのオクトの怒りようを考えると二人が付き合っていてもおかしくない。
「カルナラ! あの二人がデキてるかどうか試そう! オレにいい考えがある」
「拒否します」
「え!? なんで?」
「どうせいつもの様にろくでもない事を思い付いたのでしょう?」
いつもの様にろくでもない と言われてシザークは少しムッとしたものの、オクトとタレンの事に関しては好奇心が勝り、カルナラに食い下がる。
「お前は気にならない?」
「え……まあ、気にならないと言えば嘘になりますが……」
「んじゃ、協力しろよ」
侍女に言い付け、新たに持って来させたグラスになみなみと注がれた酒を、シザークが受け取る。
困り顔で言い淀むカルナラに、飲むだろう? という仕種で渡した。
「あいつ、マイルさ。びっくりするようなタイミングで現れるけど、そういえばタレン絡みだよな。見てるとさ」
「見てると? そんなにシザークはマイルをよく見てるんですか?」
「変な言い方すんなよ」
シザークがカルナラの方へ向き直ると、カルナラは怒るでも悲しむでもなく、淡々とした口調と同じ、静かな顔でシザークを見ていた。
その顔に安堵して、シザークはまた少しカルナラに身体を寄せた。
「タレンが『居る』んだよ。そうするとマイルが現れるんだ。絶対あやしい!」
「はあ」
「気になるのを放っておいたら、ずーっと気になるだろ? 解決するには」
ふと、視線を感じたシザークが見ると、マイルの膝に座ったアシュレイがこちらを見ていた。
「お前の協力が必要なんだよ。カルナラ君」
シザークは言いながらアシュレイに微笑んでみせ、自分が席を外したら、タレンを誘って外に出るよう小声で指示し、さりげなく立ち上がる。
「アーシュ。父上と一緒にデザート食べないか?」
「うん。食べる」
「お持ちします」
タレンが気にして立ち上がりかける。
「あ、いいよ。何があるか見たいしさ。二人で行くから。な?アーシュ」
「うん。二人で行く」
嬉しそうに返事をしながらアシュレイがマイルの膝から立ち上がった。
「食べたらまた遊ぼうね、オクト」
「はい。喜んで」
常日頃、ここまで笑顔を振り撒くマイルを見た事の無い一同が、無言でその奇跡のような顔を凝視する。
「よし、行こう」
シザークはアシュレイを連れて会場内のテーブルへ向かった。
こっそりと溜息をつき、渡されたグラスを一息で空にして、タレンを外へ誘い出す為にカルナラは立ち上がった。
まず最初に行ったのは、今回カルナラの世話係りの女性(フィズは相当な美人だったという)にメモを渡してもらうことだった。
カルナラが女性に、内緒話をするように耳打ちして頼むと、女性は頬を赤らめて頷いた。
笑って「よろしく」と再度言うと、女性の目にハートが出来ていたとか、出来ていなかったとか。
「あれは父上の姿だったから、カルナラじゃなくて父上に対しての態度だったんだ!」
と、後日シザークがみんなの前で、怒りあらわに言って見せたことを考えると、前者だったのかもしれない。
オクトが飲み物を取りに行った隙に、女性はタレンに近寄って行った。
「あの、これを……」
小さな声で女性が声を掛ける。
「これは?」
「あの、SPの方への内密の指示ですので、周りには知られないようにお願いします」
SPという言葉にタレンの顔が一気に緊張した。
女性が去ると、メモを開く。
「なんだ、それは」
「うわ!」
突然、オクトから声を掛けられて、緊張のボルテージが振り切れてしまった。
声を上げて驚いて、メモをぐしゃぐしゃに閉じる。
一瞬だけ読み取れたのは『緊急』『食品庫』の二文字である。
「あの女、コールスリ中尉のところにいた女だな」
「え? そうだった?」
「お前、SPだろ。もっと注意深く人物を見ていないのか? それとも宴の雰囲気に流されているのか?」
相変わらずオクトの言い方は嫌な感じで胸を抉る。
心臓に手を当てたまま上座を見ると、カルナラの姿はなく、女性は所在無さげに控えていた。
カルナラがいないとなると、ますます先程の女性の言葉に不安を覚える。
『SPの方への内密の指示ですので、周りには知られないようにお願いします』
何か事件があったのだろうか。
慌ててシザークの姿を探す。
(――いた! アシュレイ殿下もいらっしゃる)
二人は奥のテーブルでデザートを楽しそうに摘んでいる。
となるとシザーク絡みの事件ではなさそうだ。
(一体、何事だ?)
不安は募るばかりだ。
「タレン? どうした?」
「悪い、マイル! 陛下とアシュレイ殿下のことを良く見ていてくれ!」
オクトが声を掛けるや否や、タレンは走って会場を出た。
呆気に取られていたオクトは、足元に丸まっている紙を見つける。
眉間に縦皺をくっきりつけてそれを拾うと、遠慮なく開く。
『緊急。SPは一階の食品庫へ』
「……緊急? 何があった?」
オクトはタレンが出て行ったドアを見た。