トレモロ BL18禁

トレモロ47 隣にいるヘンタイ

「ごめん! 何も聞いてないから!」

 耳に響くその心地いいトーンの声は。

「えっ? 陛下?」
「タレン、服とってくれ」
「あ」
 タレンが渡した服を振り向いてオクトが受け取る。
 コツコツと複数の靴音が近付いている間にも、オクトは慌てる風もなく服を着ていった。

「えっと、聞こうと思ったんじゃなくて」
「思ったんでしょう」

 ドアのすぐ傍に居ると思われるシザークの声に、オクトが怒ったような返事をした。
「……でも聞けなかったし」
「中尉まで、なんでこんな低レベルな遊びに付き合ってるんですか」
「それについては面目ないが、シザークを侮辱する発言は取り消せ」
「カル……」
「陛下に詫びなさい」

 声だけが聞こえて二人の顔が見えないので、タレンは異常に緊張していた。
 素直に謝れよ! オクト! と胸内で願いながらおろおろしていると、オクトが頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。自分の情事を覗かれたので、平静でいられませんでした」
「オクト!」

 なんで余計な一言付け加えるんだよ!
 本当に泣きたいような気持ちになって、タレンは駆け寄った。
 廊下に立つシザークとカルナラの表情を見て、さほど険悪ではない事にタレンはほっとする。
 それどころか、なぜかシザークが妙に嬉しそうな顔をしているのに気づいた。
 オクトも同じ事を思ったらしく、シザークに問う。
「陛下。なにか?」
「え?」
「いえ、失礼ながら、なぜかとても嬉しそうですので」
「あ、ごめん。なんでもない。邪魔したな。行こう、カルナラ」
「はい」

 二人を見送るオクトが複雑そうな顔をしたのを、タレンは見逃さなかった。

「なんだよ……」
「なにが?」
「やっぱ、気にしてるんだろ」
「え?」
「陛下だよ。お前ってホント、諦め悪いな」
「何言ってる。そんなんじゃない」
「じゃ、なんだ、その顔は」
「うるさいな。考えてたんだよ。なんで二人して僕達を覗いてたのか」
「……趣味じゃないのか」
「は?」
「あのナスタ様のご兄弟だからさ……ちょっとヘンな趣味があるのかもしれない」
「真面目に言ってるのか?」
「もう、どうでもいいよ。折角、いい気分だったのに」
「こっちこそだ。かなり久しぶりにタレンを抱けて嬉しかったのに」
「うれ……」

 予期してない所へ、そんな言葉を言われてタレンはうろたえた。

「抱けて嬉しいとか、よく言えるな」
「なんで。久しぶりだったじゃないか」
「そういう意味じゃない! もうお前ってやつは……」
 タレンは、ハアーっと溜息をついて、それでも少し気を取り直した。
「ごめん。やけに絡んでるな、俺」
「……」
 オクトは黙ってタレンの肩を抱くと、いきなり深く口付けた。
「んっ」
 勢いをつけて、二人してベッドに倒れこむ。
「オクト!」
「もう一回」
「い、いやだよ。一回が限度!」
「どうせまた、しばらく抱かせてくれないんだから、今やっておく」
「バカな事……」
「聞かせてやろう」
「え?」
 オクトはタレンに目配せして壁を見た。
「タレンって、SPには向いてないな」
「どういう意味?」
「壁に耳あり、だ」
 タレンが口を開く前に、オクトは唇で塞いで、さっき着たばかりのタレンの服をはぎとって行く。
「オクっ……」
「またいい声聞かせてやれよ。隣にいるヘンタイに」
「いぃっ?!」


「なんだ。気づいてたのか」
 隣の部屋でまさしく耳を壁に当てていたナスタが呟いた。
「相変わらず、アイツは面白い」
 ククっと笑って、壁を睨みつける。
 タレンの嫌がりながらもよがる声は止む事なく、しばらくナスタの耳を楽しませた。