トレモロ BL18禁

トレモロ32 入れたいか、入れられたいか

 ナスタが一瞬赤い瞳をきらめかせて言うのをシザークは見つめ、何故こんな事になったのか、見失っていた理由を思い出す。
「あれ? オレ、ただ、その指輪をナスタがどうやって手に入れたのか訊きに来ただけなのに……」
 シザークがぼそぼそと一人ごちるのをナスタが咎める。
「で? お前、続きはどうした?」
「え? あ、そうか」
 ナスタに問われて我に返ったものの、されるのとするのではやはり勝手が違い、シザークが戸惑う。
「ああ? 偉そうな口を利いておきながら、まさかできないんじゃないだろうな」
「そんなことっ……ないよ」
 言ってはみたが完全に気勢で負け、さりとて、この状態を脱却するには、ナスタが納得するような結果を出すしかない。
 とりあえずいつもカルナラにされる事を思い出してみるが、相手がナスタなだけに兄弟という血の濃さがシザークを留まらせる。
 もとからそういう嗜好の人間では無いうえに、例え相手がカルナラであっても、同じ男に『する』事など、抵抗があって考えた事もなかった。
 ナスタから不機嫌なオーラを感じる。
 シザークは、ナスタの顔を見る事ができずに視線を逸らしたまま、シャツのボタンを外しにかかる。
 無言でその様子を見ているらしいナスタの視線に耐え兼ねて、緊張の為か指がぎこちなくなり、上手くボタンが外せない。
 もたもたと動く指に更に焦り、シザークが投げ出したくなるのを見計らったように、ナスタがシザーク自身にいきなり触れた。
「うわっ」
 シザークが怯んだ隙に、ナスタがシザークの身体を自分の上から蹴り落とし、一瞬にして体勢を入れ替えた。
「お前、やる気あるのか?」
 ナスタから感じる怒涛のような怒りに、シザークは短かった己の天下を恨んだ。
「や……やる気はあるよ!」
 シザークは泣きそうだった。
「ナスタがそんな怖い顔してるから緊張するんだよ!」
 原因をナスタに押し付ける。
「この顔は元からだ。私とお前はほとんど同じ顔だろう? いい加減に慣れろ」
「オレはそんなに顔が神経痛になりそうなほど険しくない」
「私だってお前のように間抜けな顔はしていない」
「ナスタが同じ顔だって言ったんだろ!?」
「同じ顔だが同じではない。中身が違うんだから全部同じとは言うまい。だから『ほとんど』と言ったんだ」
 疲れた顔でナスタが言った。
 そういえば、盗み聞きいていた時のナスタは具合が悪そうだった。
「この顔が怖いのならコレで目隠しをしてやる。そうすれば表情はわからなくなるだろう? 今は突っ込んでやる気力がない。お前が私を満足させろ」
 引きちぎられた洋服の切れ端を差し出され淡々と言うナスタに正直驚いた。
「ど……どっからそういう発想にいくわけ? 疲れたなら寝りゃいいじゃん!」
「私は疲れるとしたくなるんだ。お前があいつを追い出したんだから責任は取ってもらう」

 疲れると性欲が増す体質もよくわからないが、それで実弟に抱かれようという神経も理解できない。
「早く」
と、ナスタがだるそうに急かすが、シザークはなけなしの倫理観がひっかかって行動できずにいた。
「ったく、揃いも揃ってヘタレめ。来い」
 仕方なく前に進み出ると、ナスタはシザークの股間に手を伸ばし、シザークが腰を引く前に躊躇せず咥えた。
「ナ……っ!!」
 恐怖やら戸惑いやらこもごもの感情で全く大きくなっていないそれを、ナスタは丁寧に舐め上げる。
「ちょっと! いた……っ」
 離れようとすると、ナスタは軽く噛んだ。
「食いちぎるぞ。じっとしてろ」
 泣きそうになるのを抑え、シザークはなす術もなくナスタの舌に翻弄される。
 自分のものを咥えているのが実の兄と言う事実と、そのナスタの顔が自分に似ているという背徳的な感情が、シザークに違和感を与え続ける。
 ともすれば快感に押し流されそうなのに、ふと見下ろすと、自分に似た綺麗な形の口から出入りするのは自分の固くなっていくそのもので、どう頭で整理を付けたらいいのかわからないまま、次第にその思考も途切れてきた。
 唾液が、両者の間を伝う感覚がする。
 チュク……という湿った音が何度も響く。
 併せてシザークの吐息が洩れる。
 先端から舌がすべるように降りてきた。
 そのまま双球を転がすように(なぶ)られると、蓄積された精が活性化する。
「ハッ……」
 ゾクゾクとした快感。
 シザークは思わずナスタの髪を引く。
「カルナラにはコレはしないのか?」
 ナスタの唇は唾液と分泌液で妖しく濡れていた。
 それに一瞬見とれたシザークは、おい、と咎められ我に返る。
「え? あ、するけど……」
「途中で気持ちよくされて流されるのか」
 皆まで言わずともナスタにはその情景がすぐに察知できた。
 シザークの手を引き、ソファに座らせると、自分もその隣に腰を下ろした。
「大抵の男は、ココが弱い。お前もそうだな。ココをこうしてやれば……」
「あああっ!」
「いい声で啼く。ほらシザーク、私にもやってみろ」
 いつの間にかくつろげられた前からナスタが覗いていた。シザークはそろそろと指を絡める。
 ナスタのモノは暖かく、自分の色や形とさほど変わりなく思えた。
「んっ。そうだ……なかなか巧いぞ、シザーク」
 シザークはしてもらった時のことを思い出して、ナスタにも奉仕した。瞼が時折震えるのは感じているからだろうか。
 再びナスタの手がシザークに伸び、撫で擦り始めた。
 同じ顔同士で紡ぎ出す快楽。背徳感がさらにそれを増幅させる。
 どちらからともなく唇が合わさり、舌が乱れる。
「シザーク、出したいか?」
「ナスタは?」
 荒い息でお互いがそろそろ限界に近いことを確認する。
 シザークはこのまま出してもいいと思ったが、ナスタはそれを拒んだ。
「入れたいか、入れられたいか、お前が選べ。私はどちらでもいいぞ」
「う……」
 この国の中で 『実の兄』に こんな選択を迫られる人間は自分以外には居ないだろうと、シザークが鬱蒼(うっそう)とした気分でナスタの足元に視線を落とす。
「うー……」
「どうするんだ」
(どうしよう……相手がナスタじゃ、どっちにしても良い事無い気がする……)
 決め兼ねて、思考がぐるぐると同じ所へ廻るのを止められず、シザークが眉間に皺を寄せた。
 相手が相手なだけに、入れるには抵抗があり、けれど入れられる訳にはいかないと、カルナラを想ってこっそりと溜息をついた。
「シザーク。私は短気なんだ。今決められないなら、さっさと出て行け。」
 言いながらナスタがシザークを離して、右手をかざす。
「その代わり、これの謎も解けないぞ」
 すべてを見透かすような目をしてナスタが笑みを浮かべた。
 シザークはカルナラにすまないと思いながら、けれどこの状況を打破するには、もうこれしかないんだと自分に言い聞かせる。
 シザークは、この心身ともに切羽詰った状態に、まともな思考を取りこぼした。