トレモロ8 鉢合わせ
浅いリズミカルな唇の動きにフィズは戸惑った。
食いつくようなキスをされるのかと思っていたが、意外と優しい。
舌で唇をノックされ、受けようとしたところ、風が一気に舞い込んだ。見ると、扉から光が差し込んでいる。扉が開いたことで空気が廊下へ逃げ出したのだ。
入ってきたのはカルナラ だった。
口付けを交わす二人の姿を見てギョッとし、茹蛸のように真っ赤になる。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴメン!!」
バタンと扉が勢い良く閉まると、ガッとかドッとか鈍い音が聞こえた。
司会のお兄さんはクククっと笑う。
「いつも間の悪い坊やだな」
「配下の連中も間の悪さにかけては天下一品ですよ」
あの王にして配下有り。自分もそのうちの一人だとフィズは言った。
「あーーー! なんか酔いも醒めてきたし、会場に戻るわ。アルトダが酒乱っぽかったのも思い出したし面倒みないと」
後ろに手を振ってフィズは部屋から出た。後腐れないその姿に残された男はため息をつく。
「ジーサン、据え膳食えなかったけど、いいよね」
それでも口元はシニカルに笑んでいた。
ゴム鞠のように壁にぶち当たりながら脱兎のごとく駆け抜けるカルナラ を呼び止めるものがいた。
「シザーク?!」
全力疾走に近い速度で広間を走り抜け、その勢いのまま廊下を走り出したカルナラ は、後ろから追いついたらしい『カルナラ』の声に気づき、条件反射でいきなりそちらに身体を向けた。
「うわっ?!」
「危ない!!」
走る勢いのまま後頭部から床に着地しそうになったカルナラ に、カナデアの格好のカルナラが危うく追いつき、その鍛えた身体に物を言わせてカルナラ の頭を床から守って奇跡を起こした。
どさりと二人で床に転がる。
「うわぁ! びっくりした!」
ぜえぜえと息を上げたカルナラ が『カルナラの声』に振り向き、驚愕の表情を浮かべた。
「びっくりしたのはこっちです。怪我はありませんか? 何があったんです?」
真っ赤な顔をしたカルナラ は、床に座り込んだまま不思議そうな目でカナデア を見つめた。
「何があったんです? シザーク」
「え? あ、いや、本当に父上みたいで……じゃなくて、アルトダが……」
「アルトダ?」
「あ、違う! アルトダじゃなくて……あれはフィズか……」
「はい?」
見てはならないものを見た挙句、パニックして走った為か、カルナラの格好のままシザークは思わず素に戻っていた。
「あー、何でもない。オレのカン違い! うわ、走ったから暑い。」
そう言って頭から黒いウィッグをはずし、もとの金髪を整えながら笑う。
「それにしてもお前……それ来てよく走ったりできるな。おかげで助かったけど。」
「鍛えていますから」
カナデア が笑いながらシザークの髪に触れた。
「そういえばお前って、結構、胸板厚かったんだな。オレが着たらこの制服、なんか肩が落ちるし、こう前後がさ、余るっていうか・・・とりあえず急いでたから軽くサイズを直してもらったんだ、ごめん。新しい制服、作ってもらってくれな。」
少しすまなそうな顔でシザークが言った。
その様子をじっと見つめていたカナデア が、突然シザークの両腕を掴み立ち上がった。つられて一緒に立ち上がったシザークの顔にカナデア の影がかぶる。
食いつくようなキスをされるのかと思っていたが、意外と優しい。
舌で唇をノックされ、受けようとしたところ、風が一気に舞い込んだ。見ると、扉から光が差し込んでいる。扉が開いたことで空気が廊下へ逃げ出したのだ。
入ってきたのは
口付けを交わす二人の姿を見てギョッとし、茹蛸のように真っ赤になる。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴメン!!」
バタンと扉が勢い良く閉まると、ガッとかドッとか鈍い音が聞こえた。
司会のお兄さんはクククっと笑う。
「いつも間の悪い坊やだな」
「配下の連中も間の悪さにかけては天下一品ですよ」
あの王にして配下有り。自分もそのうちの一人だとフィズは言った。
「あーーー! なんか酔いも醒めてきたし、会場に戻るわ。アルトダが酒乱っぽかったのも思い出したし面倒みないと」
後ろに手を振ってフィズは部屋から出た。後腐れないその姿に残された男はため息をつく。
「ジーサン、据え膳食えなかったけど、いいよね」
それでも口元はシニカルに笑んでいた。
ゴム鞠のように壁にぶち当たりながら脱兎のごとく駆け抜ける
「シザーク?!」
全力疾走に近い速度で広間を走り抜け、その勢いのまま廊下を走り出した
「うわっ?!」
「危ない!!」
走る勢いのまま後頭部から床に着地しそうになった
どさりと二人で床に転がる。
「うわぁ! びっくりした!」
ぜえぜえと息を上げた
「びっくりしたのはこっちです。怪我はありませんか? 何があったんです?」
真っ赤な顔をした
「何があったんです? シザーク」
「え? あ、いや、本当に父上みたいで……じゃなくて、アルトダが……」
「アルトダ?」
「あ、違う! アルトダじゃなくて……あれはフィズか……」
「はい?」
見てはならないものを見た挙句、パニックして走った為か、カルナラの格好のままシザークは思わず素に戻っていた。
「あー、何でもない。オレのカン違い! うわ、走ったから暑い。」
そう言って頭から黒いウィッグをはずし、もとの金髪を整えながら笑う。
「それにしてもお前……それ来てよく走ったりできるな。おかげで助かったけど。」
「鍛えていますから」
「そういえばお前って、結構、胸板厚かったんだな。オレが着たらこの制服、なんか肩が落ちるし、こう前後がさ、余るっていうか・・・とりあえず急いでたから軽くサイズを直してもらったんだ、ごめん。新しい制服、作ってもらってくれな。」
少しすまなそうな顔でシザークが言った。
その様子をじっと見つめていた