トレモロ23 すぐ抱くから
「いいけど、俺はそんなに飲まないよ。できなくなったら困るし」
――願ったりかもしれない。
まだ、往生際悪く、そんな事を考えるアルトダに、カウンターに向かいながらフィズが言った。
「結構、酒臭いけど、大丈夫か? 酔った上で、何も覚えてませんでした、とかは無しだぞ?」
「わかりました。じゃ、少しだけ」
「了解」
フィズはカウンター下からグラスを二つ取り出し、小さな保冷庫からボトルを取り出してカウンターに置いた。
「アルトダ、来いよ」
アルトダは、その声に何故か動揺した。平静を装って、カウンターチェアに腰掛けたが、すぐ前で作業するフィズを見る事ができない。
ボトルの栓を抜く音がした。
「あれ? ないな」
何かを探す声。
引き出しを開ける音。
カチャッという金属音までが、アルトダの心臓を跳ね上がらせた。
ずっとカウンターを見たまま固まっていると、フィズが
「どうした? できたぞ」
と、すっとグラスを指で軽く挟んでカウンターの上を滑らせてきた。
アルトダは何も言わず、目の前に置かれた透明なグラスに注がれた液体が、左右に揺れるのを目で追う。
どんどん緊張が増してきた。ここで飲んだら、きっと本当に――
手を出せずにいると、フィズがすぐ耳元に唇を近づけてきた。びくっとするアルトダの肩に手を置いて、低い声でゆっくり言った。
「飲めよ。それ飲んだら、すぐ抱くから」
恐る恐るグラスに唇を近付けた。
しかし、それを呷 る勇気がでてこない。
鼻腔に強いアルコールの香りだけが残り、それだけでも酔いそうだった。
「やめとく?」
「はい! やめます!」
「エッチのことじゃないよ?」
「あ……」
今の心境を簡単な会話で暴かれ、アルトダは笑うような、泣きそうな面白い顔をした。
アルトダの手からグラスが引き抜くと、フィズはその面白い顔をジッと見る。
そして、フッと笑ったかと思うと、フィズは勢い良くそのグラスを呷った。
(え……まさか……)
危険を察知し、身を引こうとした時にはもうフィズに押し倒されていた。頬を捕らえられ、指先に力が入ると、自然と唇が開く。そうしてフィズの唇が降りてきた。
合わさった唇から、先程の液体が流れ込んでくる。
逃げられないように益々頬を強く縛められた。
「ゲホッ……ゲホゲホッ」
「ちょっと強かった?」
飲みきれずにこぼれた酒を味わうように、舌でペロリと顎を舐める。
その行為だけでゾクゾクするということは、アルトダはもう酔っ払っているのだろうか。
フィズの舌はそのまま首筋やら耳たぶやらを這う。
体中を血液が勢い良く走り回り、体を熱くした。
「も……もうひとつだけお願いが……」
アルトダが珍しく往生際の悪さを発揮していた頃、
――願ったりかもしれない。
まだ、往生際悪く、そんな事を考えるアルトダに、カウンターに向かいながらフィズが言った。
「結構、酒臭いけど、大丈夫か? 酔った上で、何も覚えてませんでした、とかは無しだぞ?」
「わかりました。じゃ、少しだけ」
「了解」
フィズはカウンター下からグラスを二つ取り出し、小さな保冷庫からボトルを取り出してカウンターに置いた。
「アルトダ、来いよ」
アルトダは、その声に何故か動揺した。平静を装って、カウンターチェアに腰掛けたが、すぐ前で作業するフィズを見る事ができない。
ボトルの栓を抜く音がした。
「あれ? ないな」
何かを探す声。
引き出しを開ける音。
カチャッという金属音までが、アルトダの心臓を跳ね上がらせた。
ずっとカウンターを見たまま固まっていると、フィズが
「どうした? できたぞ」
と、すっとグラスを指で軽く挟んでカウンターの上を滑らせてきた。
アルトダは何も言わず、目の前に置かれた透明なグラスに注がれた液体が、左右に揺れるのを目で追う。
どんどん緊張が増してきた。ここで飲んだら、きっと本当に――
手を出せずにいると、フィズがすぐ耳元に唇を近づけてきた。びくっとするアルトダの肩に手を置いて、低い声でゆっくり言った。
「飲めよ。それ飲んだら、すぐ抱くから」
恐る恐るグラスに唇を近付けた。
しかし、それを
鼻腔に強いアルコールの香りだけが残り、それだけでも酔いそうだった。
「やめとく?」
「はい! やめます!」
「エッチのことじゃないよ?」
「あ……」
今の心境を簡単な会話で暴かれ、アルトダは笑うような、泣きそうな面白い顔をした。
アルトダの手からグラスが引き抜くと、フィズはその面白い顔をジッと見る。
そして、フッと笑ったかと思うと、フィズは勢い良くそのグラスを呷った。
(え……まさか……)
危険を察知し、身を引こうとした時にはもうフィズに押し倒されていた。頬を捕らえられ、指先に力が入ると、自然と唇が開く。そうしてフィズの唇が降りてきた。
合わさった唇から、先程の液体が流れ込んでくる。
逃げられないように益々頬を強く縛められた。
「ゲホッ……ゲホゲホッ」
「ちょっと強かった?」
飲みきれずにこぼれた酒を味わうように、舌でペロリと顎を舐める。
その行為だけでゾクゾクするということは、アルトダはもう酔っ払っているのだろうか。
フィズの舌はそのまま首筋やら耳たぶやらを這う。
体中を血液が勢い良く走り回り、体を熱くした。
「も……もうひとつだけお願いが……」
アルトダが珍しく往生際の悪さを発揮していた頃、