トレモロ24 指輪の行方
カルナラはカナデアの衣装のまま、壇上に設置された玉座のように絢爛 な椅子に座り、一人途方に暮れていた。
『なんで無くしたはずの指輪をナスタ様が持ってるんだろう……』
何度考えても理由がわからない。
そもそも無くした事さえ午後になるまで気がつかなかったのだ。
それを何故ナスタが持っているのか?
考えられる事は一つしかないが、あのナスタとはいえ、そこまでするとは思いたくない。
既に会場内は酔いに任せた人々の喧騒に支配され、まともに声も聞こえない有り様だった。
一人悶々と考え込んでいると、大勢の人の中に居ても確実にカルナラの目を惹き付ける人物ーーシザークが、パーティ会場に戻って来たのに気が付いた。
シザークも壇上のカルナラに視線を向ける。
既にウィッグは付けていないが、まだカルナラの制服を着たまま壇上に上がり、まっすぐに近づいて来た。
「カルナラ」
シザークが『玉座』に座るカルナラに顔を近づけて聞いた。
「オレのカツラ、知らない?」
「え? 無いんですか?」
「さっきの騒動で無くなってた」
「それは、なんとも……」
当事者なだけに何も言えず、カルナラが言いよどむ。
「今回のカツラさ、仮装って決まった後、ナスタ本人が人数分発注したらしいんだけど……知ってた?」
「何をです?」
「ナスタが以前からオレに変装して、城の中とか城下を歩き回ってたみたいなんだ」
「は?」
何か、聞いてはならない事を聞いた気がしてカルナラが硬直する。
「発注もどうやらオレの格好で行ったみたい。さっき廊下で、戦時中に遠征隊に居て、竜に乗って光ってたオレを見た事があるって二人組に声かけられたんだけど、どうもナスタがオレに化けて用を頼んだりしてたみたいだ」
「はぁ……」
カルナラは、指輪がナスタの元にあるのが何故なのか、わかった気がして眉間に皺を寄せる。
考えたくは無かった事実にやはり行き当たり、意識が遠くなる。
夕べはシザークの部屋で眠りについたのだ。
『そういえば今朝、夕べは閉めたはずのカーテンが、妙な開き方をしていたのを、おかしいと思ったんだっけ』
頭痛まで起こしかけ、カルナラが心で叫ぶ。
『人の寝室に入って来るなあー!!』
壊れかけた意識を何とか取り戻し、シザークに気づかれる前に指輪を取り戻したいとカルナラが切実に思った時、シザークがいぶかしむような目で自分を見つめているのに気が付いた。
「何です?」
「カルナラ、お前、オレに何か言いたい事ない?」
直球で聞かれ、内心あわあわとしつつ、けれど本当の事は言えず、まして嘘はつけずにカルナラは沈黙した。
その表情から何を読み取ったのか、シザークがすっとカルナラから離れ、
「いま話せないなら、後で。……それにとりあえず、ナスタが先だな」
後半はカルナラに聞こえない声で呟いて、シザークが壇上から降りようとし、ふと、その『香』に気が付き険悪な顔で振り返る。
「その香水! 着替える時、シャワーできっちり落とせよ! 少しでも残ってたら今夜はオレの部屋には入れないからな!」
「ええ!? そんなっ……シザーク!」
慌てるカルナラを見ながら、シザークが少し泣き笑いのような顔をしたのを、カルナラは見過ごさなかった。
そのまま、また会場を出て行くシザークを見送り、カルナラが呟いた。
「お腹空いてるんじゃ……ないんですか?」
酔っ払いのカルナラは、まだまだ酔っ払いだった。
『なんで無くしたはずの指輪をナスタ様が持ってるんだろう……』
何度考えても理由がわからない。
そもそも無くした事さえ午後になるまで気がつかなかったのだ。
それを何故ナスタが持っているのか?
考えられる事は一つしかないが、あのナスタとはいえ、そこまでするとは思いたくない。
既に会場内は酔いに任せた人々の喧騒に支配され、まともに声も聞こえない有り様だった。
一人悶々と考え込んでいると、大勢の人の中に居ても確実にカルナラの目を惹き付ける人物ーーシザークが、パーティ会場に戻って来たのに気が付いた。
シザークも壇上のカルナラに視線を向ける。
既にウィッグは付けていないが、まだカルナラの制服を着たまま壇上に上がり、まっすぐに近づいて来た。
「カルナラ」
シザークが『玉座』に座るカルナラに顔を近づけて聞いた。
「オレのカツラ、知らない?」
「え? 無いんですか?」
「さっきの騒動で無くなってた」
「それは、なんとも……」
当事者なだけに何も言えず、カルナラが言いよどむ。
「今回のカツラさ、仮装って決まった後、ナスタ本人が人数分発注したらしいんだけど……知ってた?」
「何をです?」
「ナスタが以前からオレに変装して、城の中とか城下を歩き回ってたみたいなんだ」
「は?」
何か、聞いてはならない事を聞いた気がしてカルナラが硬直する。
「発注もどうやらオレの格好で行ったみたい。さっき廊下で、戦時中に遠征隊に居て、竜に乗って光ってたオレを見た事があるって二人組に声かけられたんだけど、どうもナスタがオレに化けて用を頼んだりしてたみたいだ」
「はぁ……」
カルナラは、指輪がナスタの元にあるのが何故なのか、わかった気がして眉間に皺を寄せる。
考えたくは無かった事実にやはり行き当たり、意識が遠くなる。
夕べはシザークの部屋で眠りについたのだ。
『そういえば今朝、夕べは閉めたはずのカーテンが、妙な開き方をしていたのを、おかしいと思ったんだっけ』
頭痛まで起こしかけ、カルナラが心で叫ぶ。
『人の寝室に入って来るなあー!!』
壊れかけた意識を何とか取り戻し、シザークに気づかれる前に指輪を取り戻したいとカルナラが切実に思った時、シザークがいぶかしむような目で自分を見つめているのに気が付いた。
「何です?」
「カルナラ、お前、オレに何か言いたい事ない?」
直球で聞かれ、内心あわあわとしつつ、けれど本当の事は言えず、まして嘘はつけずにカルナラは沈黙した。
その表情から何を読み取ったのか、シザークがすっとカルナラから離れ、
「いま話せないなら、後で。……それにとりあえず、ナスタが先だな」
後半はカルナラに聞こえない声で呟いて、シザークが壇上から降りようとし、ふと、その『香』に気が付き険悪な顔で振り返る。
「その香水! 着替える時、シャワーできっちり落とせよ! 少しでも残ってたら今夜はオレの部屋には入れないからな!」
「ええ!? そんなっ……シザーク!」
慌てるカルナラを見ながら、シザークが少し泣き笑いのような顔をしたのを、カルナラは見過ごさなかった。
そのまま、また会場を出て行くシザークを見送り、カルナラが呟いた。
「お腹空いてるんじゃ……ないんですか?」
酔っ払いのカルナラは、まだまだ酔っ払いだった。