トレモロ43 愛の力でなんとかなる!
「マイル!?」
カルナラが気づき、呟いた。
「中尉!!」
マイルがカルナラに気が付き、走りこんで来る。
「え!? 何? マイル!?」
シザークが慌てて廊下へ戻ろうとすると、ドアの外に立っていたカルナラに、走ってきた勢いのままマイルが飛び掛かった。
いきなりカルナラの胸倉を掴んで、叫ぶ。
「タレンをどうした!?」
「うわっ。ちょ……マイル、待てっ……」
シザークが止めようとしたが遅く、カルナラが動いた。
胸倉を掴んだマイルの手を掴み上げ、そのまま自分の身体の右横へ引いてバランスを崩したマイルの肩を反対の手で内側に押す。
更に掴んだ手を持ち替え、マイルの背にその手を捻り上げた。
「あうっ!」
「止めろ! カルナラ! 腕が折れる!!」
とっさに制止したシザークの声で、カルナラの動きが止まる。
「う……」
いきなりの痛みに耐え兼ねてマイルが唸る。
「カルナラ。放してやれよ」
シザークがカルナラの腕を、縋 るようにして止める。
「あ、すみません。とっさで我を忘れました」
カルナラが、ポイっと若干 捨てるようにマイルの身体を離し飄々として言うのを、シザークが本当かと疑う。
「うっ」
蒼白な顔でマイルが小さく唸る。
シザークは気の毒に思いながらも、走りこんで来たマイルの形相から、自分の考えは当たっていると確信して こっそりほくそ笑んだ。
「中尉、一体どういうことですか」
ギリっと歯を噛み鳴らし、オクトはカルナラに丸められたメモを投げつけた。
カルナラが答えないでいると、シザークが間に入る。
「マイル。タレンが捕まったんだ」
「――!!」
「今カルナラが助けに行こうとしていたところなんだが、カルナラはこんな格好だから動きにくくて困ってたんだ。マイル、お前変わりに行ってくれ」
シザークはまっすぐにオクトの目を見ていった。彼は黙って頷く。
「無論です」
返事をしたオクトはシザークから突入の手順を聞いた。
「わかりました。厨房の中から食品庫に入れるんですね」
「そう。オレたちはここで待機している。いつでも入り込めるように準備しているからな」
オクトはシザークに一礼して厨房に入っていった。
それを確認してからカルナラが溜息混じりに言う。
「よくもまあ、あんな適当なことを言えましたね」
「終わりよければすべてよし、だ」
「胸を張ることじゃありませんよ。まだ終わっていないし、タレンと一緒に居るのがナスタ様だなんて、マイルには一言も言わなかったじゃないですか」
シザークは、非難するような目のカルナラに背を向け、
「愛の力でなんとかなる!」
と拳を握って見せた。
厨房ではオクトが食品庫の扉の前で呼吸を整えていた。
あることを念じ、勢い良く扉を開け放つ。
「ウォレス!」
オクトはタレンを名前で呼んだ。
「マ……オクト、オクトッ!!」
薄暗い中でタレンが返事をする。
声の方を見ると、潰れたダンボールからタレンと思われる足が見え、その上を男が馬乗りになっていた。
「き、貴様……僕のウォレスを返せ!」
ガキ臭い言い方に馬乗りになっていた男――ナスタが鼻で笑う。
「返せ、か。お前は本当に面白い男だな、マイル・オクト」
「あ、なたは、ナスタ様……」
オクトは一歩たじろいだ。
タレンを拉致したのはナスタだった。
ナスタはシザークとは違い、冷徹な部分を有している。
タレンは無事なのか。
確認するように見ると、ナスタの手が何かでぬれているのが暗闇でも分る。
「そ……それはっ!」
「ん? あぁ、これか。なかなか美味だぞ。タレンも美味いと言いながら舐めてたしな」
濡れた指を舐める残酷な姿が良く似合う。
「な、んだと?」
オクトは唸る。
相手がナスタでもひるむ様子が無い。
「お前くらいだな。私をナスタと知っても食って掛かるのは」
「フン。僕は僕やウォレスに害を為すものであれば、王族であろうと許さない!」
啖呵を切りながら、厨房から失敬してきた木の棒を構えるオクトを見ても、ナスタは顔色一つ変えなかった。それどころか高らかに笑い出す。
「くっくっく……あーっはっはっは! 若いな、お前等は。ぷっくっくっく」
大笑いしながらナスタはタレンの上から退き、手を差し出す。
頭が"?"マークでいっぱいになりながらもタレンはその手を握った。
華奢な体に似合わず強い力で引っ張り上げられ、勢い良くタレンの体がナスタに凭 れる。
「なかなか楽しい余興だったな。舞台役者でもこうはいかん。これは詫びだ。受け取っておけ」
呆気に取られるタレンの唇を掠 め取るようなキスをし、ナスタはオクトに向く。
「あんた一体……」
「コレがこの屋敷に来てまでSP面してたから、ちょっとした悪戯をしただけだ。今日無礼講のパーティだから仕事は忘れて楽しめ。馬鹿じゃないんだから自分の身ぐらい自分で守れるだろう」
窓を見やると、シザークと目が合い、引きつった笑いをされた後、その姿がサッと消えた。
「おそらく、シザークに担がれたんだろう。もう少し精進しろよSP。なんでも一つの情報を鵜呑みにするとこういう目にあう」
ナスタは一つ説教をして、タレンの体をオクトのほうへ押した。
「……お前なにされたんだ?」
オクトは溜息を吐きつつ、指で顔の汚れを拭い、それをペロリと舐める。タレンはただ情けない顔をして俯いていた。
「トマトだ。カルナラに弁償させるから制服は洗いに出せ。遠慮することは無い」
そう言ってナスタは廊下に通じる扉をあけた。
うわ! とか、のわ! とか廊下で声がする。
「愚か者は散れ!」
ナスタの一喝が響き、ドタバタと慌しく走り去っていく音が聞こえる。
続いて窓からナスタが器用に片目を瞑り、過ぎていく姿を確認すると、タレンはへなへなと体の力が抜けた。
「こ……怖かった……」
カルナラが気づき、呟いた。
「中尉!!」
マイルがカルナラに気が付き、走りこんで来る。
「え!? 何? マイル!?」
シザークが慌てて廊下へ戻ろうとすると、ドアの外に立っていたカルナラに、走ってきた勢いのままマイルが飛び掛かった。
いきなりカルナラの胸倉を掴んで、叫ぶ。
「タレンをどうした!?」
「うわっ。ちょ……マイル、待てっ……」
シザークが止めようとしたが遅く、カルナラが動いた。
胸倉を掴んだマイルの手を掴み上げ、そのまま自分の身体の右横へ引いてバランスを崩したマイルの肩を反対の手で内側に押す。
更に掴んだ手を持ち替え、マイルの背にその手を捻り上げた。
「あうっ!」
「止めろ! カルナラ! 腕が折れる!!」
とっさに制止したシザークの声で、カルナラの動きが止まる。
「う……」
いきなりの痛みに耐え兼ねてマイルが唸る。
「カルナラ。放してやれよ」
シザークがカルナラの腕を、
「あ、すみません。とっさで我を忘れました」
カルナラが、ポイっと若干 捨てるようにマイルの身体を離し飄々として言うのを、シザークが本当かと疑う。
「うっ」
蒼白な顔でマイルが小さく唸る。
シザークは気の毒に思いながらも、走りこんで来たマイルの形相から、自分の考えは当たっていると確信して こっそりほくそ笑んだ。
「中尉、一体どういうことですか」
ギリっと歯を噛み鳴らし、オクトはカルナラに丸められたメモを投げつけた。
カルナラが答えないでいると、シザークが間に入る。
「マイル。タレンが捕まったんだ」
「――!!」
「今カルナラが助けに行こうとしていたところなんだが、カルナラはこんな格好だから動きにくくて困ってたんだ。マイル、お前変わりに行ってくれ」
シザークはまっすぐにオクトの目を見ていった。彼は黙って頷く。
「無論です」
返事をしたオクトはシザークから突入の手順を聞いた。
「わかりました。厨房の中から食品庫に入れるんですね」
「そう。オレたちはここで待機している。いつでも入り込めるように準備しているからな」
オクトはシザークに一礼して厨房に入っていった。
それを確認してからカルナラが溜息混じりに言う。
「よくもまあ、あんな適当なことを言えましたね」
「終わりよければすべてよし、だ」
「胸を張ることじゃありませんよ。まだ終わっていないし、タレンと一緒に居るのがナスタ様だなんて、マイルには一言も言わなかったじゃないですか」
シザークは、非難するような目のカルナラに背を向け、
「愛の力でなんとかなる!」
と拳を握って見せた。
厨房ではオクトが食品庫の扉の前で呼吸を整えていた。
あることを念じ、勢い良く扉を開け放つ。
「ウォレス!」
オクトはタレンを名前で呼んだ。
「マ……オクト、オクトッ!!」
薄暗い中でタレンが返事をする。
声の方を見ると、潰れたダンボールからタレンと思われる足が見え、その上を男が馬乗りになっていた。
「き、貴様……僕のウォレスを返せ!」
ガキ臭い言い方に馬乗りになっていた男――ナスタが鼻で笑う。
「返せ、か。お前は本当に面白い男だな、マイル・オクト」
「あ、なたは、ナスタ様……」
オクトは一歩たじろいだ。
タレンを拉致したのはナスタだった。
ナスタはシザークとは違い、冷徹な部分を有している。
タレンは無事なのか。
確認するように見ると、ナスタの手が何かでぬれているのが暗闇でも分る。
「そ……それはっ!」
「ん? あぁ、これか。なかなか美味だぞ。タレンも美味いと言いながら舐めてたしな」
濡れた指を舐める残酷な姿が良く似合う。
「な、んだと?」
オクトは唸る。
相手がナスタでもひるむ様子が無い。
「お前くらいだな。私をナスタと知っても食って掛かるのは」
「フン。僕は僕やウォレスに害を為すものであれば、王族であろうと許さない!」
啖呵を切りながら、厨房から失敬してきた木の棒を構えるオクトを見ても、ナスタは顔色一つ変えなかった。それどころか高らかに笑い出す。
「くっくっく……あーっはっはっは! 若いな、お前等は。ぷっくっくっく」
大笑いしながらナスタはタレンの上から退き、手を差し出す。
頭が"?"マークでいっぱいになりながらもタレンはその手を握った。
華奢な体に似合わず強い力で引っ張り上げられ、勢い良くタレンの体がナスタに
「なかなか楽しい余興だったな。舞台役者でもこうはいかん。これは詫びだ。受け取っておけ」
呆気に取られるタレンの唇を
「あんた一体……」
「コレがこの屋敷に来てまでSP面してたから、ちょっとした悪戯をしただけだ。今日無礼講のパーティだから仕事は忘れて楽しめ。馬鹿じゃないんだから自分の身ぐらい自分で守れるだろう」
窓を見やると、シザークと目が合い、引きつった笑いをされた後、その姿がサッと消えた。
「おそらく、シザークに担がれたんだろう。もう少し精進しろよSP。なんでも一つの情報を鵜呑みにするとこういう目にあう」
ナスタは一つ説教をして、タレンの体をオクトのほうへ押した。
「……お前なにされたんだ?」
オクトは溜息を吐きつつ、指で顔の汚れを拭い、それをペロリと舐める。タレンはただ情けない顔をして俯いていた。
「トマトだ。カルナラに弁償させるから制服は洗いに出せ。遠慮することは無い」
そう言ってナスタは廊下に通じる扉をあけた。
うわ! とか、のわ! とか廊下で声がする。
「愚か者は散れ!」
ナスタの一喝が響き、ドタバタと慌しく走り去っていく音が聞こえる。
続いて窓からナスタが器用に片目を瞑り、過ぎていく姿を確認すると、タレンはへなへなと体の力が抜けた。
「こ……怖かった……」