トレモロ BL18禁

トレモロ53 いそしむ

「……じゃあ、ここで」
「OK。明かり消してくるから、座って待ってろよ」
 フィズは鼻歌交じりに片っ端から明かりを消していった。
 入り口付近の二つだけ残し、それを間接照明代わりにする。
 闇の中でほんのりと浮かぶカルナラ。
 ゴクリと唾を飲み込んだ。

(なんか、カルナラがいつものカルナラに見えないんだけど……疲れかな、酒のせいかな)

 そわそわとソファで待つ姿は、連れ込み宿に始めて連れて来たヴァージンの子の様だった。
「えっと、キスはOK?」
 軽い足取りでソファに回り込み座ると、カルナラの肩を引き寄せた。
「別に。減るもんじゃないし」
「うわ、ムードないな」
「しょうがないだろう、そういう性格なんだから」
「じゃあ黙っててよ。質問には首だけ動かせばいいから」
 そう言って、フィズはカルナラに口付けした。


 二人が押し黙ったことにシザークは混乱していた。
「も、もしかしてキスしてるのか? カルナラが、フィズと? あの身長差で組み敷かれるわけ? カルナラが?」
「ふむ。面白い趣向だな」

 そこへ割って入ってきたのは、ナスタだった。
 どういう嗅覚で他人の情事を嗅ぎ分けてくるのだろうか、まったくもって不思議だ。

「なっ、ナスタ!」
「シッ! 静かにしろ。独り言も心で呟け。そんなことでは一人前のデバガメにはなれんぞ」
「そんなのなりたくないよ……ナスタ、オレどうしたらいいんだ? カルナラが……」
 こんな状況でもナスタの存在に少々ほっとしたのか、涙目で抱き付く。
「して欲しくないんだったら、突入すればいいだろ。お前はあいつの恋人なんだから、阻止する理由はある」
「で……でも、カルナラ今悩んでて……」
「だったら我慢しろ。それでどうにも出来なくなったら踏み込め。本気で気持ちを訴えるしかないだろう」
 デバガメの邪魔をする弟に、早口で言うと、ナスタは再びコップを壁に押し当てた。

「う」
 喉の奥でカルナラがうめいた。
「? ……何?」
「いや、何かすごい違和感が……」

(男でも、シザークの唇は昔からぷにぷにしていて気持ちがいいんだけど……)

 恋愛経験の少ないカルナラは、人生の中でキスした回数のほとんどがシザーク相手で、どうしてもその感触の違いに多大な違和感を感じる。

「そ? 俺は別に気にならないよ?」
 言いながら、フィズがカルナラの着ているシャツのボタンを外しにかかる。
 比翼仕立てのボタンを苦労しながら外してシャツの前をはだけ、片手でカルナラの肩を押しながらソファに横たえる。
「何だか変な感じがするな」
 眉間に皺を寄せたカルナラが、フィズの肩を掴んで動きを止める。
 果たして自分はこんな事をしてみたいのだろうかととまどっていると、フィズの手がはだけたシャツを左右に開いた。
「お前、本当によく鍛えてるよね」
「え、……あ」
 フィズがカルナラの胸に指を這わせて、その厚みのある胸板の感触を確かめる。
(兄弟でもこういトコは全然ちがうなぁ)
 心の中でアルトダと比べながら、それでもフィズの腰が熱くなる。
 滅多に無い体験とフィズの腰の熱さにつられて、カルナラも少しだけ体温が上がるのを感じ、ふと、シザークの事を考えた。

(そういえば、いつもシザークはこの辺でもう息が上がりまくってる。今の私はそうでもない。この違いは何だろう?)

 思いつきそうにない理由を考えていると、胸にフィズが唇をつけて来て、思わず身体がびくりと震えた。
 フィズの唇がそのまま胸を這うのを、体中の全神経を研ぎ澄ますようにして追う。
「う……」
 カチャリと音がして、フィズがカルナラの履いているズボンのベルトを外した。


 廊下ではナスタがドアにコップをつけて音を聞き、その隣で、飛び込むタイミングを逸したシザークが、膝を抱えて泣いていた。


「うわ、このベルト、重いね」
 王族の着用するものを傷付ける訳にはいかず、若干、現実に戻りながらフィズがカルナラの腰から、その重いベルトを苦心して抜いた。
「あっと。あれ、カルナラ、……しっかり反応してる?」
 あっけらかんと聞かれて、さすがにカルナラがほんの少し顔を赤くした。
「これだけ腰周りをごそごそされたら大抵の男は反応するだろう……うわっ」
「そりゃそうだ」
「う……」
「あ〜 あのさ、我慢する必要はないから。声」
「あ、ああ」
 フィズの言葉に頷きはしたものの、緊張のあまり、カルナラは まったく動く事ができないでいた。
 ふと気づくと、フィズがいそいそと自分の服を脱いでいる。
「ちょっとまて。何でフィズまで服を脱ぐんだ?」
「そりゃ、こういう事は雰囲気が大切でしょ」
 フィズが、にゃははと笑う。
「そうかな……」
「そうそう」
 にこにこと何の悪意もない顔で笑いながら、あわよくば、と考えている様子は冷静に見ればわかりそうなものだが、今のカルナラにそれを判別できる力は、無かった。


 コップをドアにつけたままで、
「意外とあいつも面白い」
 とナスタがこっそり呟く。
 そうしているうちに、部屋の中から妙な声が聞こえ始めた。
「おっ。どうやら興が乗ってきたようだな」