トレモロ BL18禁

トレモロ50 フィズの告白とセックスの時間

「あぁ、その……聞きづらいことなんだけど」
 口ごもるカルナラに首をかしげ、フィズはふと考える。
「聞きづらい? ん〜、それは陛下とのこと?」
「陛下……まぁ、シザークにも関係はあるけど、その……」
「性的なこと?」
 ずばり聞かれ、うっと言葉を詰まらせた。
「なっ、なんで分るんだ?」
 カルナラは汗をダラダラとかいてフィズを見る。彼は反対に涼しい顔をして腕を組んでいた。
「まぁ、お前と陛下と関係あることで、悩みといえば、ずばりセックスかな、と思ってさ」
「ちょ、ちょっと待って。どういう図式で、私と陛下の悩みが、その……セックスに繋がるんだ?」
「んー、まぁいいじゃん。どういう理由でもあってたんだからさ。で、セックスの悩みで経験豊富なフィズ様に何を聞きたいんだ? ん?」
 態と茶化すような言い方で誤魔化し、フィズはカルナラの目を見た。
 なんだかフィズには敵わないな、とカルナラは呟いた。
「実はその……フィズってどうなんだ?」
「何が?」
 分るように言え、と睨むと、カルナラは思い切って言う。
「セックスの時間」
「時間、ってお前何? 早漏なの?」
「ちっちがっ……! 逆だよ、逆」
 噴出すフィズに慌てて訂正を入れ、カルナラは背もたれの上に頭を預けた。
 深く溜息を付く。
「さっきシザークに最近長すぎるって言われたんだ。それでその……」
「同じぐらいの年齢の俺に、どうなのか聞きたい、ってことか」
「相変わらず察しがよくて助かる」
 カルナラは頷いた。
 フィズは、その質問にどう答えていいものかと首を軽くかき、ゆっくりと思案した。そうして、あぁそういえばこれをカルナラに言わなくちゃ、と思い出す。
「俺さ、その質問に答える前に、一つお前に言っておくことがある」
「え? 何?」
「俺、アルトダと寝ちゃった」

「……は?」
「だ、だ〜か〜ら〜 俺、アルトダと……寝ちゃったの」
「…………」
 フィズの投下した爆弾に直撃を受け、彫像のように固まったカルナラの息が止まる。
「あ? お、おい! カルナラ、息はした方がいいよ、死ぬから」
 カルナラが、言葉を咀嚼している間、フィズはいたたまれずにポケットから出した煙草に火を点ける。

「そ、それはもちろん、本人も同意の上なんだろうな?」
 地を這う様なカルナラの言葉に、フィズが慌てる。
「もちろん! 当たり前でしょ、それは」
 フィズは強姦魔の汚名を着せられては適わないと慌てふためき、煙草を取り落としそうになった。
 その様子を見ながらカルナラが、ガラス天板のテーブルの上に置かれていた美しい模様の入った――本当に灰を落として良いのかと悩むほど高価そうな――アッシュトレイをフィズの方へ押しやる。
「あ、悪いね」
「ふぅ〜 何だか脳ミソが破裂しそうだ」
 カルナラが眉間に皺を寄せ、両手で頭を抱える。
「……」
 何ともコメントできずに、フィズが手元の煙草を見つめる。
「で?」
「え?」
「フィズはそれで、私に何を言われたいんだ?」
「え〜と」
「怒れば良いのか? それとも笑っておめでとうと言われたいのか?」
「どうかな、どっちも嫌かも知れない」
 答えて、フィズが はははと乾いた笑いを聞かせた。
 再び溜息をついて、カルナラが考え込んだ。

 暫く微動だにせず考え込んでいたカルナラが、すうっと息を吸いながら、彫像から人間に戻って言った。
「同意の上って事は、当然二人とも……その、お互いを……」
 考え込んでいた時間の長さに反比例して、頭の中の整理はまったくできていない事を暴露するように 聞きたい事を言い淀むカルナラに、フィズが先を読んで「そうなんだよね」と答えを寄越した。
「そうか。因果応報か。いや、伍長がフィズを……そういう風に好……想っているなら……」
「怒らないの?」
 眉間に皺を寄せたまま、カルナラは取り戻せない時間を思う。
「私は何か言える立場かな? 一緒に育たなかった兄弟だから、伍長が何をどう思うか、考えるかなんて、実はまだよくわからない」
 急に言われた結構深刻なセリフに、逆にフィズがうろたえる。
「え、ああ、でも一緒に育ったからって絶対理解し合えるとも限らないでしょ」

(何でこんな話になっちゃってるのかな)

 フィズは部屋の暗い雰囲気にどっと疲れを感じながら、話を戻すきっかけを探す。
「それに、もし一緒に育って趣味もそっくりな兄弟だったら、二人とも陛下の事を好きになったりしてたかも知れないし……そうだったらお前困るでしょ」
「困るね、かなり」
「……もしかして、二人とも俺を好いちゃう可能性も」
「それは無い! 絶対」
 フィズが茶化そうとしたセリフを、間髪入れずにカルナラが否定し、思い切り嫌そうに眉間に皺を寄せてみせる。
「それは俺も同感よ」
 ぎゃはははと笑ってフィズが言った。
「で、その、陛下に『長すぎる』って言われた件だけどね」



 どうにもカルナラの言動が気になり、悪い事とは思いつつも またまたドアに張り付いた国王は、カルナラの不憫さに初めて気がつき、張り付いた姿もそのままに、さめざめと泣いていた。