トレモロ BL18禁

トレモロ33 でこぼこ

「オレ、オレはもうカルナラにしか入れさせないって決めてるから! だから! だからオレがナスタに、入れる!」
 赤くなったり青くなったりしていたシザークが、これ以上無いほど赤面し、決意の程を叫んだ。
 ナスタは半分キレかけて、シザークを蹴り倒しそうになっていた足を絨毯のうえにそろりと戻した。

「目隠し……してもいいんだろ?」
 オズオズと聞いてくるシザークに、ナスタは「好きにしろ」と短くいって、ソファを操作した。ガクンと背もたれが倒れ、ベッドのようになる。
 その上に座り直したなおしたナスタはすでに紅い輝きを伏せていた。シザークは慌ててナスタのそれを閉じ込める。またもたついて怒らせでもしたら今度こそ犯られるか、追い出されるかしてしまう。

「痛くない?」
「大丈夫だ」
 苦手な瞳は塞いだが、この口も十分怖い。シザークは辺りを見回して、自分の洋服だった布がまだ落ちているのを見つけた。手に取ると長さも十分だ。
「ごめん、ナスタ」
 一言謝りをいれ、ぐるりと口も塞ぐ。
 見えないことで反応できなかったナスタが反抗してももう遅かった。ナスタからはくぐもった声しか聞こえない。
「んんーん! んーんーんー」(訳:シザーク! きーさーまー)
「ホント、ごめん。終わったらすぐ取るから」
 苦手なものが二つなくなり、シザークは少し落ち着きを取り戻した。
 ナスタの体に触れると大きく反応した。視覚が奪われると感覚だけで捉えるので敏感になってしまうようだ。
「んんっ」
 ナスタの手がシザークを掴む。抵抗ではなく、力の分散。
「ナスタの気持ちいいところ、良く分らないから、オレが好きなところから試してもいい?」
 聞くだけ聞いてシザークは首筋に顔を埋めた。
 カルナラの動きを思い出していた。首から顎にかけて舌を使い、首筋から鎖骨にかけて唇を滑らす。
 柔らかい耳朶を歯でコリっと甘噛みすると布越しに声が漏れる。そのまま(わざ)と唾液の音を聞かせながら耳を攻めると、ナスタは首筋を粟立たせた。
 自分の拙い愛撫でも感じていると分ると、次第に自信がついてくる。
「ぁ……んん」
 胸に色付く突起を(つね)ると足の指がキュッと丸まった。
 舌で突いたり、転がしたりすると硬くなってきて、呼吸も荒くなってくる。
 なんとなく苦しそう? と思い、口の覆いをずらしてやると、すぐに悪態が飛んでくる。
「ここまでして、私を悦くできなかったら、どうなるかわかってるんだろうな」


 シザークが股間に死ぬほどの気合を入れている頃、


 一人ひな壇に残されたカルナラはとても退屈な思いをしていた。
 飲み食いしても味も分らず、誰かと話してもまったく頭に入ってこない。
(みんなどこに行ったんだ?)
 会場を見回しても、気心を知れた人物は見当たらない。
 シザークもトイレと言って出て行ってから随分経つ。
 どこぞで悪さをしていないか、危険な目にあってないか。保護者としては大いに気になるところだ。
 ちょうどその時、悶々としたカルナラの元へ凸凹が近づいてきた。

「中尉、昇進おめでとうございます」
 そうにこやかに言うのは凹のタレンだ。タレンが凹だとすると、凸は言わずもがなオクトである。
 オクトはちらりとカルナラを見た。そのまま目線を明後日の方に向け、「おめでとうございます」とポツリと言う。
「おーまーえー。祝いの口上ぐらいまともに言えないのかっ!」
「ふん」
「まったく何しに来たんだよ!」
「シザーク陛下の警護だ」
 オクトはしれっという。
「セテ准将から頼まれたのは俺で、お前は勝手についてきただけだろう!?」
 傍から見ていると、神経の図太い羊にじゃれ付く牧羊犬のような、そんな構図だ。
「セテ准将に頼まれた? 陛下の警護を?」
「ええ。帰られるときに、『陛下はこういう場ではすぐ羽目を外すから監視しておくように』と言われまして」
 監視のところをタレンは言いづらそうにした。目が所在無さげに動いている。
「そうしたら、マイルがどこからともなく聞きつけて、勝手についてきた、と」
「こいつより、僕の方が役に立ちますから」
 嫌味もどこ吹く風、オクトは唇を嫌味なまでに捻じ曲げ、カルナラを見ていた。
「……まあいい。シザークは小一時間ほど前から行方不明だ。探してこの会場に連れて来てくれないか?」

「行方不明? コールスリ中尉とあろうお人が何をやってるんですか」
「マイル! お前このまま帰ってもいいんだぞ?」
 タレンに腕を強く掴まれオクトは溜息を吐く。ここで帰ってしまっては、ここまではるばる出張してきた意味はない。
「……まあ、この状況じゃ僕だってシザーク陛下の全てを知る無理ですけどね」
 これでいいだろ? と長身がタレンを見た。オクトの精一杯な譲歩だろうが、その棒読みな台詞、少しどうにかならないかとタレンは頭を抱えている。

(この二人なかなか……)
 カルナラは好奇の目で二人を見た。意外にお似合いだと思う。
 オクトの嫌味よりも、そっちの方が気になった。
「では、私は陛下をお探ししてきます」
「ん? ああよろしく頼むよ。マイルもタレンと一緒に行ったらどうだ? 二人の方が探しやすいだろう」
「言われなくてもそうするつもりです。ここにいると親父臭くてたまらないので」
(こっ……このクソガキは……)
 せっかく向けた笑顔を引きつらせる。
 一触即発を打破すべく、タレンが大きな声を上げて二人の間に割って入った。
「わー! わー! わー! ちゅ、中尉! 他に何か注意事項は?」
「ああ?」
 カルナラの、不機嫌そうな地を這う声にビクつく。温厚な人物が怒ったときほど、恐ろしいものはない。タレンは早くオクトを連れてこの場から去りたかった。何もなさそうですね、と乾いた笑顔で(きびす)を返す。
「ほっ…ほら、行くぞ、マイル! 陛下に危険があってからじゃ遅い」
 強引に腕を引っ張ると、のんきな声で「痛い、引っ張るな」とオクトが言う。
「あ、待って」
 騒がしく自分から離れていく凸凹コンビを、カルナラが短く制した。
「ナスタ。ナスタ様が酒を飲んでいた」
「は?」
 二人は怪訝そうに振り返った。カルナラは言いにくそうに口ごもる。
「ナスタ様はその……酒乱、なんだ」
「酒乱?」
「箍が外れると手が付けられない。ナスタ様を見掛けたら気を付けてくれ」


 その問題の酒乱らしきナスタは、恐ろしさに脅えたシザークに再び口枷を付けられていた。