トレモロ BL18禁

トレモロ13 アルトダの提案

 言葉の意味が理解できず、ブツブツと呟く声を聞き取ろうとして、カルナラがアルトダの顔を覗き込む。
「うわっ!」
 緊張感も無くすっかり油断していたカルナラは、弾みを付けて唐突に飛びついて来たアルトダを受け止めそこね、カナデアのマントの裾を(かかと)で踏んで後ろに倒れた。
 アルトダを首にぶら下げたまま、カルナラはシザークを押し倒しそこねたソファにどさりと座った。
アルトダがいきなりカルナラの首にしがみつき、噛み付いた。
「いたたた。止めないか……ガ、ガフィルダ!」
「痛くなければ罰にはならないんですよ〜」
 言いながらカナデア(カルナラ)の着ている服の胸元に手を掛けた。


「んっ」
「ふう〜」
「くっ」
控え室にアルトダの声が響く。

ドアの外を歩いて来た靴音がその声にピタリと立ち止まった。 

「アルトダ」
「くっ」
「ガフィルダ」
「むうっ」
「伍長、もういい加減に……」
「うわぁ〜! 何なんだ! この服は〜!」
 カルナラをソファに押し倒し、その胸に乗り上がってしがみついたままのアルトダが号泣した。
 『カナデアの仮装』に使った服はカナデア本人のもので、作られた当時のまま保存してあり、王族が着用する服としてはかなり華美なものであった。実用性の無い、おそらく儀式用であろうその衣装は、とても複雑で到底一人で脱ぎ着のできる代物では無かった。
「一体どうしたんだ? ガ……ガフィルダ。この仮装をするのには着付師が三人掛かりだったんだが……一体何をしたいのかな?」

「へえ。外で聞こえたのって何かと思えば、そういう事?」
ドアを背に立っていたのは、カルナラの制服を着たシザーク本人だった。

「げ、シザー……」
 さっきよりも更に悪い状況にカルナラは焦っているのに、酔っ払ったアルトダは状況の異様さに気づいてないのか平気な顔をして言う。
「あー、陛下ー。これ、外れないんですよぅ」
「……そう。ふぅん」
 シザークの冷たい視線に耐えられず、カルナラは何とか起き上がろうと努力する。
「ご、伍長! 陛下の前で……離れなさい!」
「嫌です! 折角、兄さんと仲良くしようと思ってるのにぃ。あ、そうだ、陛下」
 顔を勢いよくシザークに向け、アルトダは良い事を思いついたと言わんばかりにニコニコしながら言った。
「陛下も兄さんのコレ脱がすの、手伝ってくださいませんか?」
「え゛っ?!」
 突拍子もない提案にカルナラが目を丸くすると、シザークは表情を変えずに返事をした。
「いいよ。手伝ってやる。さっさと脱がそうぜ」