トレモロ27 今 両思い
アルトダは一つだけどうしても気になる事があり、フィズに聞いた。
「どうして私としようと思ったんですか? もともと女性の方が好きでしょう?」
「え? そりゃあアルトダが好きだからでしょ。他に無いじゃん。理由なんて」
今更何言ってんの?とフィズが顔に堂々と書くのをアルトダは黙って見つめ、ああそうかと思い立つ。
人間的にも嫌いじゃ無いのは確かだし、でもそういう意味で好きかと問われれば、わからないとしか言えないが、ここまで自分が付いて来た意味を考えない訳にはいかなくなった。
予感はある。
会った事も無い「相手」に対する……これがもし嫉妬なら、自分はフィズを好きになり始めているのかも知れないと。
アルトダは、意外にさらさらしたフィズの髪が自分の胸の上で動くのを見て、その髪に触れた。
こんな事から始まる感情はどう変化していくのか?
わかってみれば案外簡単な事なのかも知れないと、とりあえず、この感情の謎を解く事に没頭していった。
だが……
フィズが自分のいたるところに口付けをしていくのを見て、没頭するどころか、逆にうろたえてしまった。
好きかもしれない人に、自分を見られるのって!!
体のすべてを暴かれていると思うと、体中の血が駆け巡り、心臓が忙しくポンプする。
全身が別の生き物になったように、覚えの無い感覚に囚われた。
「あ、あの!」
顔を真っ赤にしてアルトダは言った。
「お話しましょう!」
その突拍子も無いことに、フィズは怪訝な顔をする。
「ハァ?」
「だだだだって、恥ずかしいじゃないですか! フィズ少尉に見られてると思うと、気持ちいいっていうのより、恥ずかしい方が勝っちゃうんです!」
「さっきは感じてたじゃん。また恥ずかしくなっちゃった?」
「すみません!」
フィズはアルトダの往生際の悪さに舌打ちをした。
また一からやり直し? そう思うとうんざりしてくる。
無理やりヤるのは趣味じゃないけれど、縛り上げてでも強引にしてしまいたい気持ちが湧いてきた。
どうしようかと思い、相手を見やると、アルトダは泣きそうだった。
アルトダは、フィズの不機嫌そうな顔に泣きそうだった。
違う、そうじゃない。嫌なんじゃなくて、むしろ――
「好きなんです! 多分、フィズ少尉のこと好きなんです。だから恥ずかしいんです」
語尾と視界が涙で霞んだ。
フィズはそういうことか、と溜息を吐いた。先程湧いた狂気がすっと消えていく。
「好きな人に見られれると恥ずかしいんだ」
頷 くアルトダにフィズは言った。
「考えてみなよ。好きな人に見ていてもらえるって嬉しいことだろ? その気持ちは恥ずかしさじゃなくて、幸せっていうんだよ」
相手が男のフィズであると言うのに、そんな気持ちになるという事を他ならぬ当人に説明されて、アルトダは混乱する。
普段の自分と女性との関係に置き換える努力をしてみた。
どうだっただろう。今まで、そんな気持ちになった事があっただろうか。
ぼんやりとした感情を、あと少しの所で、未だ掴めない。
「見られて幸せなんて、わからないです。私、女性じゃないですし」
口を歪ませて、吐き出す声が震えた。
フィズはふっと笑うと、そんなアルトダを抱きしめて言った。
「だろうね。受け身になるのなんて、初めてだろうし。興味でやるのと、恋愛感情があってするのとでは、また全然違うだろうしね。じゃあ、どうする? やめる?」
それ以上、無理強いしてもいい結果になりそうにない事を察して、フィズもアルトダの判断に委ねた。
アルトダは返事をしない。フィズは言葉を足した。
「んじゃ、両方。俺に恋愛感情があって、抱かれる事に興味がある、のでは?」
「え……」
「相手が俺でも構わない? それともやっぱりカルナラじゃないとダメって事?」
「あ」
アルトダは、さっき、ほんの少しだけ浮かんだ兄の顔を思い浮かべる。そして、目の前のフィズを見た。
掴みかけた気持ちの細い糸の端が、急にそっちから伸びて近付いてきた気がした。
「好きだから、抱かれたい」
意外な程、スムーズに言葉が出る。
じっと自分を見ているフィズの目を見つめ返して、もう一度言った。
「フィズ少尉を好きです。だから、今は、抱かれたいんだと思います」
「よく言った!」
フィズはポンと手を打った。
行為は間抜けでも、顔は真面目だった。
「あのさ、俺だって男とするのに抵抗があるわけじゃないのよ? 自分と同じものが付いてるわけだしさ。体も硬くてごっついし。でもさ、アルトダだったらエッチしてもいいな、って俺は思ったわけ。なんでかなーと一応考えてたんだけど、さっき聞かれてようやく理解したんだ」
さっき?
アルトダは思い返す。
――どうして私としようと思ったんですか? もともと女性の方が好きでしょう?
――え? そりゃあアルトダが好きだからでしょ。他に無いじゃん。理由なんて
アルトダの顔がみるみる上気していく。
「俺たち、今両思いってヤツなんだよな」
ニヤリと笑ってフィズがアルトダにキスをする。
短いものだったが、たったそれだけで体に火が再び点いた。
「してもいいよね?」
「……はい」
「どうして私としようと思ったんですか? もともと女性の方が好きでしょう?」
「え? そりゃあアルトダが好きだからでしょ。他に無いじゃん。理由なんて」
今更何言ってんの?とフィズが顔に堂々と書くのをアルトダは黙って見つめ、ああそうかと思い立つ。
人間的にも嫌いじゃ無いのは確かだし、でもそういう意味で好きかと問われれば、わからないとしか言えないが、ここまで自分が付いて来た意味を考えない訳にはいかなくなった。
予感はある。
会った事も無い「相手」に対する……これがもし嫉妬なら、自分はフィズを好きになり始めているのかも知れないと。
アルトダは、意外にさらさらしたフィズの髪が自分の胸の上で動くのを見て、その髪に触れた。
こんな事から始まる感情はどう変化していくのか?
わかってみれば案外簡単な事なのかも知れないと、とりあえず、この感情の謎を解く事に没頭していった。
だが……
フィズが自分のいたるところに口付けをしていくのを見て、没頭するどころか、逆にうろたえてしまった。
好きかもしれない人に、自分を見られるのって!!
体のすべてを暴かれていると思うと、体中の血が駆け巡り、心臓が忙しくポンプする。
全身が別の生き物になったように、覚えの無い感覚に囚われた。
「あ、あの!」
顔を真っ赤にしてアルトダは言った。
「お話しましょう!」
その突拍子も無いことに、フィズは怪訝な顔をする。
「ハァ?」
「だだだだって、恥ずかしいじゃないですか! フィズ少尉に見られてると思うと、気持ちいいっていうのより、恥ずかしい方が勝っちゃうんです!」
「さっきは感じてたじゃん。また恥ずかしくなっちゃった?」
「すみません!」
フィズはアルトダの往生際の悪さに舌打ちをした。
また一からやり直し? そう思うとうんざりしてくる。
無理やりヤるのは趣味じゃないけれど、縛り上げてでも強引にしてしまいたい気持ちが湧いてきた。
どうしようかと思い、相手を見やると、アルトダは泣きそうだった。
アルトダは、フィズの不機嫌そうな顔に泣きそうだった。
違う、そうじゃない。嫌なんじゃなくて、むしろ――
「好きなんです! 多分、フィズ少尉のこと好きなんです。だから恥ずかしいんです」
語尾と視界が涙で霞んだ。
フィズはそういうことか、と溜息を吐いた。先程湧いた狂気がすっと消えていく。
「好きな人に見られれると恥ずかしいんだ」
「考えてみなよ。好きな人に見ていてもらえるって嬉しいことだろ? その気持ちは恥ずかしさじゃなくて、幸せっていうんだよ」
相手が男のフィズであると言うのに、そんな気持ちになるという事を他ならぬ当人に説明されて、アルトダは混乱する。
普段の自分と女性との関係に置き換える努力をしてみた。
どうだっただろう。今まで、そんな気持ちになった事があっただろうか。
ぼんやりとした感情を、あと少しの所で、未だ掴めない。
「見られて幸せなんて、わからないです。私、女性じゃないですし」
口を歪ませて、吐き出す声が震えた。
フィズはふっと笑うと、そんなアルトダを抱きしめて言った。
「だろうね。受け身になるのなんて、初めてだろうし。興味でやるのと、恋愛感情があってするのとでは、また全然違うだろうしね。じゃあ、どうする? やめる?」
それ以上、無理強いしてもいい結果になりそうにない事を察して、フィズもアルトダの判断に委ねた。
アルトダは返事をしない。フィズは言葉を足した。
「んじゃ、両方。俺に恋愛感情があって、抱かれる事に興味がある、のでは?」
「え……」
「相手が俺でも構わない? それともやっぱりカルナラじゃないとダメって事?」
「あ」
アルトダは、さっき、ほんの少しだけ浮かんだ兄の顔を思い浮かべる。そして、目の前のフィズを見た。
掴みかけた気持ちの細い糸の端が、急にそっちから伸びて近付いてきた気がした。
「好きだから、抱かれたい」
意外な程、スムーズに言葉が出る。
じっと自分を見ているフィズの目を見つめ返して、もう一度言った。
「フィズ少尉を好きです。だから、今は、抱かれたいんだと思います」
「よく言った!」
フィズはポンと手を打った。
行為は間抜けでも、顔は真面目だった。
「あのさ、俺だって男とするのに抵抗があるわけじゃないのよ? 自分と同じものが付いてるわけだしさ。体も硬くてごっついし。でもさ、アルトダだったらエッチしてもいいな、って俺は思ったわけ。なんでかなーと一応考えてたんだけど、さっき聞かれてようやく理解したんだ」
さっき?
アルトダは思い返す。
――どうして私としようと思ったんですか? もともと女性の方が好きでしょう?
――え? そりゃあアルトダが好きだからでしょ。他に無いじゃん。理由なんて
アルトダの顔がみるみる上気していく。
「俺たち、今両思いってヤツなんだよな」
ニヤリと笑ってフィズがアルトダにキスをする。
短いものだったが、たったそれだけで体に火が再び点いた。
「してもいいよね?」
「……はい」